東京モーターショー2011に未来はあったか? (後篇)
第42回東京モーターショー2011|The 42nd TOKYO MOTOR SHOW
島下泰久、渡辺敏史、清水草一が斬る
東京モーターショー2011に未来はあったか? (後篇)(1)
東京ビックサイトで11月30日から12月11日まで開催された東京モーターショー。ついに一般公開となったトヨタ86の人気などもあり、累計で84万2,600人と予想を上まわる来場者数を記録した。イタリア、アメリカ勢の参加こそなかったものの、海外メーカーも数多く復帰したことも集客効果に大きく影響したことだろう。若者の深刻なクルマ離れ、都市部の渋滞問題、燃料の枯渇に環境問題など、自動車をとりまく状況はけっして芳しくない。そんな状況において、今回の東京モーターショーは明るい未来を提示できたのか? 3人の論客に語ってもらった。
Text by MATSUO DaiPhoto by ARAKAWA Masayuki
ママチャリ的なクルマしかなかった
──日本の各メーカーが提案している2人乗りコミューターは移動の道具としては機能的だと思いますが、クルマとしての魅力はあまり感じられないように思います。いっぽう、smartが発表したfor visionなどは、同様のコンセプトながら、クルマ好きにもアピールする魅力があると思いました。そのあたりはどうでしょう?
渡辺 たしかにコンセプトやパッケージは似ていますが、各国産メーカーが出展していたコミューターとsmartは両極に位置していると思います。いわば、前者は去勢されていると思います。
──つまり、私たちが欲しいとか、そのクルマに乗ってどこかに行ってみたいとか、そういう欲望の対象となるクルマではないということでしょうか?
清水 それはやっぱり日本の風土から生まれてきたものですから。言ってみれば、徒然草であり、方丈記であるわけです。方丈、つまり約3メートル四方の狭い空間で暮らして、それで十分だという価値感。静かに動いていれば、外の川のせせらぎを感じられたりして、それはそれで楽しい。日本人が生み出すクルマと、狩猟民族である欧米人が生み出すクルマとでは、そもそもバックグラウンドがちがう。
──たとえば、ミニマルな移動装置として自転車がありますね。で、おなじ自転車でも目を輝かせて選びたくなるものもあれば、単なる移動の道具でしかないものもある。
島下 そういう意味では、日本の自動車メーカー全体が、しばらくママチャリ的なクルマしか作ってこなかったのに、「なんで魅力を感じてくれないんだ」と言われても……という感じですね。ママチャリしかない状態にやっと気づいて、たとえばトヨタはFJクルーザーや86みたいなクルマを出した。今回各メーカーから出展されていたEVコミューターもいまはママチャリだけど、今後はもっとちがうものも出るかもしれない。
──ところで今回のモーターショーでは、スマートモビリティというテーマもあって、人びとの暮らしとモビリティの関係性なども提案されていました。積水ハウスのような住宅メーカーが参加していたのも印象的でした。
渡辺 自動車メーカーにとっても住宅メーカーにとっても、いまこそ勝負の時期です。巷で言われスマートグリッドや、スマートコミュニティは、自動車メーカーや住宅メーカーの垣根を取り払って取り組んでいかないと普及させるのはそうとう難しいですね。
清水 日産リーフも発表された当初は予約が殺到したけど、震災の影響もあってトーンダウンしてしまいました。現状は、予定販売台数の7割くらいしか売れていない。けれど、日産自動車が謳うところの「LEAF to Home」、つまりリーフのようなEVの蓄電池から家庭に電気を供給する仕組みが一般化すれば、俄然輝きだすんじゃないでしょうか
島下 ある住宅メーカーのひとに話を聞くと、いま家を建てるひとでガレージに給電設備をつけるひとがものすごく増えているそうです。現状はEVに乗ってなくても、次はEVだと思っている。日本が進んでいるとあらためて思うのは、EVの量販車があるのが日本のリーフとi-MiEVくらいです。ヨーロッパでCHAdeMoではない規格をドイツ連合がつくっているけど、いま給電スタンドを立てならばCHAdeMoにするしかない。早いぶんの利益はあります。
──プロダクトはディフェクトスタンダードにするしかないんですよね。
島下 追従する陣営は利便を考えるとCHAdeMoを使うしかなくなる。それだけ進んでいて、みんなが家に給電システムをつけているという状況。三菱のひとも、いつ頃どうなるか、ロードマップを作っている。i-MiEV のV2H(ヴィークル トゥ ホーム)のキットもそろそろ出る。超強力な既成事実になるんでしょう。
清水 いずれそっちに行くと、みんなが思っているわけです。いまは、短期的に電気が足りないからようす見だということもある。
第42回東京モーターショー2011|The 42nd TOKYO MOTOR SHOW
島下泰久、渡辺敏史、清水草一が斬る
東京モーターショー2011に未来はあったか? (後篇)(2)
カー・オブ・ザ・東京モーターショーは!?
──そもそもスマートグリッドという概念は、電力供給が不安定で停電の多いアメリカで考え出されたものですよね。日本発ではないのに、震災があったこともあって昨今では日本の関係各メーカーが積極的に取り組んでいる。日産自動車CEOのカルロス・ゴーン氏も「自動車メーカーが自動車だけ作っていればいい時代は終わった」とプレスカンファレンスでスピーチしていましたね。
渡辺 V2Hを一般化させるためには、自動車メーカーが異業種の企業とどうコラボレーションするかが重要なんです。日産はリーフを開発する早い時点からそれを見切れていたから、積水ハウスや大京とも一緒に動けた。
──トヨタや日産は、経済産業省が進めている実証実験プロジェクトにも、電力メーカーや住宅メーカー、家電メーカーなどとともに名を連ねていますね。
島下 経産省がV2Hの規格を策定するにしても、自動車メーカーがいないとはじまらない。だから、たとえば三菱自動車でも開発チームにはハードウェア担当と渉外担当の二人の主査がいるんです。いまは、その渉外担当者が世界中でi-MiEVが欲しいという国を訪れては、インフラをどうするか、法律をこうするかということに尽力している。日産もおなじように動いている。だから、かなりの先行者利益が得られることになると思います。
清水 生活者の視点からいえば、まずはLEAF to Homeだけでも魅力的ですよね。スマートグリッドのようにネットワーク化されていなくても。
島下 みんな、あわよくばなにかあってもうちだけは電気が欲しいと。
渡辺 ただ、相当膨大な投資だし、解決しければいけない話はかなりある。震災はトリガーになりましたね。
島下 政治などの動き以前に消費者側のトリガーを引いた。みんな震災直後のようなおもいはしたくないし、なにかあったときに自分でどうサバイバルするか考えているから、いかにライフラインを確保するかに世間の意識が向くのは自然なことです。みんなが家にV2Hのシステムを備えて、EVを買うようになるとムーブメントになって、世の中や政治が動く。政治が働かずとも、経済が牽引していくということに期待したいです。
──では最後に、今回の東京モーターショーをふまえて、現状におけるクルマ選びの指針を教えていただけますか?
清水 用途で分かれると思うんです。年に2万km乗るならクリーンディーゼルといった具合で。月に2、3回しか乗らないなら、レンタカーやカーシェアリングでもいい。日本にはみなさんのライフスタイルに合ったクルマが基本的に揃っている。ちなみに私は先日、街乗り用にトヨタ アクアを予約しました。アクアの車重は1,080kgです。シティコミューターは小さければ小さいほどいい。長距離用はシトロエンC5、趣味として乗るのはフェラーリ512TR。自分で言うのもなんですが、最高のカーライフです。
渡辺 トヨタ86はそれなりにいいと思う。
清水 多様性としてはああいうクルマはあったほうがいい。日本の自動車産業の根性を見た気がします。
島下 僕は、そんなもの必要じゃないのに、実はプリウスPHVに萌えています。僕自身のライフスタイルにはいらないのに、いいなと思ってしまった。というのも、クルマとしてあたらしいおもしろさがあるからなんです。みなさんも、理屈じゃなくいいと思えば買えばいいんじゃないでしょうか。
清水 欲しければ買えばいい。
島下 消費者の多くは情報に頼りすぎているんじゃないかな。乗ってもいないのに、「どうせ」とか言わず、とりあえずディーラーに行って試乗させてもらうとか。今回印象的だったのは、新型911のジャパンプレミアだというのに、ポルシェのブースに思ったよりも人がいなかった。誰かの記事を読んだり、写真を見たりするだけでなく、自分で体験したほうがいい。
清水 モーターショー会場のなかではシトロエンDS5はいいと思いましたね。欲を言えば、ハイドロ(ニューマチックサスペンション)でディーゼルエンジンが選べたらならさらによかった。
渡辺 僕はランドローバー・イヴォークがいいと思いました。まず、想像していたよりも価格が安かった。450万円というのは、他ブランドのライバルを鑑みても安いと思います。
島下 イヴォークは見慣れてしまったと思ったけど、実車を見るとやっぱりスタイリッシュですね。実際に乗っても良かった。
渡辺 価格的にコンペティターを考えると、フォルクスワーゲン ティグアンやアウディQ3、BMW X1になる。強豪ひしめくマーケットにさし込んできました。僕は、そのほかにショーで印象に残ったのはスズキ レジーナくらいですね。将来のクルマってこのくらいのパッケージでいいのではないかなとおもいます。軽自動車はどうすれば国際商品になるのかといつも考えているんですが、軽自動車の規格サイズ内で、欧州車にも負けないデザインをつくり上げるスズキの力を感じます。
清水 とっても普通ですが、アウディA1スポーツバックですかね。コンパクトクラスでは、たとえばフォルクスワーゲン ポロにくらべてお洒落だし、使い勝手もよさそうですね。
島下 いま名前のあがったモデルは、いずれもそれぞれ魅力的でしたね。