岐路に立つ、アストンマーティンの行方|Aston Martin
Aston Martin|アストンマーティン
アストンマーティンのデザインディレクター、マレック・ライヒマンにきく
岐路に立つ、アストンマーティンの行方
イギリス車に漂う独自の魅力を放ちつづけるブランド、アストンマーティン。メルセデスとの提携や、ブランド再興に尽力した経営者が会社を去るなど、大きな岐路に立っている。これからのアストンマーティンはどこへ向かっているのか。デザインディレクター、マレック・ライヒマンに小川フミオ氏がたずねた。
Text by OGAWA Fumio
あらためてアストンマーティンとは?
アストンマーティンが、AMGからV8エンジンと電子回路を購入すると発表したのは2013年。その年の暮に、現在のアストンマーティンの名声を築いてきた立役者、ドクター・ウルリッヒ・ベッツがCEOを引退。新CEOはこの原稿の時点ではまだ発表されていない。アストンマーティンとメルセデスの関係は? アストンマーティンは自分たちでクルマを作るのはあきらめるのか? さまざまな疑問を、デザインの分野から同社を牽引するマレック・ライヒマンになげかける機会があった。
――口の悪いひとは、車名に伝統的につけられる「DB」がもはや「デイビッド・ブラウン」でなく、「ダイムラーベンツ」の頭文字だと言いますが、現在のAMGとの関係を確認させてください。
マレック・ライヒマン(以下 MR) 発表のとおりです。AMGから彼らのV8エンジンと、開発にものすごくお金がかかる電子回路を購入するということです。でもそこまで。それをどう活かしていくかは、アストンマーティンの重要な仕事です。AMGのパーツは、市場における競争力をつけるのに役立ちますが、それでアストンマーティンがAMGになってしまうわけではありません。
――では、あらためてアストンマーティンとはなにかを定義していただけますか。
MR 大事なのはピュアなフィーリングだ、と私たちは社内でつねに確認しあっています。エンジンのフィールにも自然吸気のもつ滑らかなトルクの出方が大事ですし、サウンドだって音楽と同じで、アストンマーティン独自のものを守っていくべきなのです。AMGから購入するのはブロウンエンジン(ターボチャージャー付き)ですが、そこに私たちはチューニングを施してアストンマーティンらしさを守っていくことになるでしょう。
――約13年にわたりアストンマーティン ラゴンダ(正式社名)のCEOを務めてきたドクター・ベッツは大きな足跡を残しています。すぐれたエンジニアであると同時に、各国から投資を引き出したり、ディーラー網を新興国に構築したり、いっぽうでアートをブランドに結びつけたり、コーポレートアイデンティティを統一したりと、八面六臂の活躍だったとおもいます。
後任の発表がなかなかなされないのは、同じような活躍が期待できる人選に苦労しているからかなとおもってしまいます。あるいは、もっと別の理由があるのでしょうか?
MR なかなか発表できませんが、我われはけっして悪い状態でないと理解していただきたいとおもいます。先日は、将来のモデル開発などを含めて資金調達に成功していますし、エンジンもAMGのV8という話と並行して、自製のものを開発中です。投資家や株主ともいい関係を保っていますし、我われにはいまなにをすればいいか、明瞭に見えています。
――そのことについて、具体的に教えていただけますか。
MR 現在、私たちは工場設備を新しくしているところです。さらに、エンジニアリング、マーケティング、セールス、デザインという各部門で、雇用を拡大しています。ディーラーシップも拡大しています。もちろん、彼らに会うと、アストンマーティンのこれからに全幅の信頼を置いてくれているのがわかります。
――アストンマーティンの未来は、自分たちの手で切り開いていくということですか。
MR これからあたらしいパートナーが出てきても、アストンマーティンらしさを守っていきます。我われは年産7,000台程度の生産量をむしろ大事にする、希少価値のあるスポーツカーメーカーだと自己規定していますから。
Aston Martin|アストンマーティン
アストンマーティンのデザインディレクター、マレック・ライヒマンにきく
岐路に立つ、アストンマーティンの行方(2)
次の100年に向けて
――いまのアストンマーティンに欠けているものはあるとおもいますか。
MR いいえ、繰り返しになるかもしれませんが、現在、我われはけっして悪い状態にあるわけではありません。V8とV12という2つのエンジンを持ち、エレガントな4ドアがあるいっぽう、究極のGTも、というモデルミックスも完璧です。
――意地の悪い見方をすれば、大排気量のエンジンだけに頼っていて、二酸化炭素税などは大丈夫でしょうか。
MR そのために、2014年夏に、V12に改良を施して、燃費を向上させました。それをヴァンキッシュとラピードSに搭載したのです。同時にギアボックスも8段にして、燃料消費を向上させています。このように、現行モデルへ施す改良をつねに継続させているのも、アストンマーティンが今後も利益を生み出すことを、投資家にもわかってもらうよう努力しています。
――SUVを持たない、あるいは持つ計画を発表していない高級ブランドとして、アストンマーティンは貴重な存在になってしまいました。予定はありませんか。
MR たしかに、ランボルギーニやマセラティまでがSUVのプロジェクトを発表しています。市場で生き残るためには、こういうモデルも必要なのかもしれません。ライバルたちも含め、SUVと無縁でいるのは、フェラーリとアストンマーティンだけになってしまった感があります。現在、(SUVのための)プラットフォームの検討をしていると申し上げておきましょう。
――メルセデスベンツとの提携がこのあとも進むとして、同社にはSUVがたくさんありますね。
MR メルセデスとはたんなる技術提携なので、SUVの共同開発といった話まで進んでいません。ただ、利益のためには、「Q」というビスポークサービスをはじめていますし、ラゴンダの名を復活させた4ドアサルーンを中東という限られたマーケット向けですが発売します。
――アストンマーティンの名が消えてしまうことを、不安症のファンは心配しています。
MR いま我われは、次の100年に向けての計画をいろいろ練っているところです。これからを楽しみにしていていただきたいです。