アストンマーティンのビスポークとレストア部門を訪ねる|Aston Martin
Q by Aston Martin & Aston Martin Works
Q バイ アストンマーティン & アストンマーティン ワークス
新車も旧車もオーナーのおもいのままに
アストンマーティンのビスポークとレストア部門、QとWorksを訪ねる
アストンマーティンの「Q by Aston Martin」は、オリジナルを求める顧客のために特別注文に応えてくれるセクションである。そしてすでにアストンを保有しているヒストリックカーオーナーのためのセクション、「Works」がレストアをおこなう。これから購入するにも、長く所有するにも、魅力的なサービスを始めたアストンマーティン。本社工場を小川フミオ氏が訪れ、その詳細をお届けする。
Text by OGAWA Fumio
「Q」でビスポークを“仕立てる”
「Q by Aston Martin」に、クラシックモデルのレストア。名車を生み出してきたアストンマーティンは、多角的にクルマのビジネスを展開している。
アストンマーティンはご存じのように、2015年で創業102周年を迎える英国の伝統的なスポーツカーブランドだが、いま、プロダクションカーを作るいがいにも、興味ぶかいビジネスを展開している。そのひとつが「Q by Aston Martin」。ひとことでいうと、世界でたった1台のアストンマーティンを顧客の注文に応じて仕立てあげるビスポークサービスだ。
その様子を、英国はバーミンガムシャーにあるゲイドンの本社で取材した。これは2012年に正式発表されたサービスで、アストンマーティンのホームページにある言葉を借りてそのコンセプトを説明すると、「顧客の個別の要望を、我われの技と専門知識で実現する」こととなる。
「目的は、より個人的なものを求める顧客に対するサービスです」。そう語るのは、QおよびVIPセールス部門を率いるゼネラルマネジャーのマシュー・ベネット氏だ。
このプロジェクトじたい、ベネット氏のブレインチャイルドだったという。
自分だけの車両を欲しがる富裕層を対象に、特別の素材を使った内装や、専用のカラースキームをもつ車体などを手がけるビジネスが求められていると感じたからだそうだ。
「Qではとにかく手間をいとわないで、高い完成度を目指します。品質と仕上げでバリューを生み出していくのです。顧客は自国のアストンマーティンのディーラーか、あるいはここゲイドンを訪ねてきて、クルマを選び、イメージを語ります。それを、デザインチームを含めたわが社の専門チームが、現実のものとしていきます」
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アストンマーティンのビスポークとレストア部門、QとWorksを訪ねる(2)
イメージを細部に至るまで形にする
馬が好きだという顧客には、シートには馬のイメージをステッチし、レザーのパーツや特別に製作したラゲッジにサドルやサドルバッグのイメージを施す。またいっぽうで、「火山」といった抽象的なイメージで発注を受け、それを各所のカラースキームで表現することも。
「見ていただきたいのは、詳細な技術です。とりわけボンネットのグラデーション(色の濃淡)など、たいへんな手間がかかる部分は、顧客のプライドと直結すると信じています」と、ベネット氏は語る。
なかには、「これでアストンマーティンのプラックを作ってもらいたい」と、スカラブビートル(スカラベ=タマオシコガネ)を指定してきた顧客もいたそうだ。「ボンネットのウィングロゴに組み込んで美しく仕上げました。耐久性はあまり保証できないのですが」。ベネット氏はやや苦笑ぎみにそう教えてくれた。
好みのクルマが仕上がるのに要する時間は、内容によるがだいたい3-4ヵ月だそう。2013年には100台がここで特別に仕立てられ、中東や北米を中心とする顧客のもとへ届けられた。
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007のイメージをかきたてるネーミング
そういえば、Qと聞いて、『007』が好きなひとなら、ピンとくるだろう。ジェイムズ・ボンドのために新兵器を開発する諜報部の研究開発部門の名称だからだ。最新作『スカイフォール』では、若き性格俳優ボブ・ウィショーがQのトップを演じていた。Qが得意とするのはアストンマーティンの改造だ。
「Qの名称許可を(映画のプロデューサーである)ブロッコリ家に打診したかって、いや、映画とはなんの関係もないのですよ。マシンガンも装備していないし」。ベネット氏はそう笑う。なにはともあれ、いまやスカイフォールと呼ばれるボディ色の設定もあり、映画とのつながりを上手に利用しているアストンマーティンと、その顧客にとって、とてもよいイメージをもつネーミングである。
いっぽう、クラシックなモデルも、アストンマーティンにとって大事な財産だ。ゲイドンに本社と工場を移す前、「DBシリーズ」など数かずの名スポーツカーを生み出したニューポートパグネルではアストンマーティン・ワークスの名で、かつてのモデルのオーナーへのサービスがおこなわれている。
ひとつはメインテナンス。「アストンマーティン直営工場で車両のメインテナンスしていることが、クラシックカー市場での価値を高めることになると、世界中から車両が運びこまれてきます。同時に少量生産のモデルなど特別なノウハウが必要な場合でも、直営工場ならすぐ対応できるのも強みです」。アストンマーティン・ワークスで広報業務を担当するポール・スパイア氏は語る。
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アストンマーティンのビスポークとレストア部門、QとWorksを訪ねる(4)
ヒストリックカーのオーナーに心強いアフターセールス
施設は、道をはさんで旧社屋および工場の向かいがわ。ドアを開けて中に入ってみるまで、そこが古いアストンマーティンが並んだ宝の山だとは誰も考えないだろう。大きく3つのパートに分かれていて、比較的最近のクルマのサービス工場、50年代から60年代を中心としたいわゆる黄金時代の車両などのフルレストアをおこなう工場、そしてフルレストアしたちょっと昔のモデルを販売するショールームだ。
「販売した後のケアがなによりも大事だと、私たちは一貫して考えてきました。そして優秀な技術者にきちんと仕事をしてもらう。それがないメーカーはいくらすぐれた製品を作っても長続きしません。たとえば(英国のスポーツカーメーカー)ジェンセンは一時期いいクルマを作っていましたが、顧客市場を支えられずに消えてしまいました。アストンマーティンは、過去に製造したモデルの9割がいまも現役です」
ローリングマシンといって、アルミ板を圧延してボディパネルを作る英国独自の工作機械が並ぶワークショップには、1960年から63年にかけて19台製作されただけだが、最も人気の高いクラシックスポーツカーの1台となっている「DB4GTザガート」などがレストア中だった。余談だが、このクルマ、ボディにはザガートのプラックがついているが、ボディ製作は英国だったそうだ。
欧州人は、かつてレースを走っていたモデルなら、タイヤとこすれてフェンダーまわりの塗装がはげた跡なども、そのまま残すのを好む傾向にある。いっぽう、米国人は、新車のような状態にすることを求めがちだ。
スパイア氏によると、ここでは、環境負荷の点で使用量が限定されているラッカー塗料を含めて、オリジナルの状態に復元することもできるし、いっぽう、エアコンやエアサスなど、現代の技術を過去のモデルに組み込むことも可能だという。
実際にそういうオーダーは中東などからあるそうだ。
数が少ないスペシャルなモデルを、現在もバックアップしているアストンマーティンの姿勢は、オーナーでなくても、自動車好きにはたいへん心強い存在といえる。