PORSCHE BOXSTER SPYDER(後編)|究極のライフスタイルカー
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2015年3月17日

PORSCHE BOXSTER SPYDER(後編)|究極のライフスタイルカー

PORSCHE BOXSTER SPYDER|ポルシェ・ボクスター・スパイダー(後編)

究極のライフスタイルカー

かねてより噂されていたボクスターの高性能モデルが、「ボクスター・スパイダー」としてデビュー。後編では業界きってのポルシェフリーク・島下泰久がその走りの魅力に迫る。

文=島下泰久写真=ポルシェジャパン

ケイマンSから移植されたパワーユニット

ボクスター・スパイダーの心臓、3.4リッター直噴フラット6は、ボクスターS用と較べて10ps、10Nm増しとなる最高出力320ps、最大トルク370Nmを発生する。じつはコレはケイマンS用そのもの。かつて開発陣に聞いたところでは、ボクスターはオープンスポーツらしく、最高出力の代わりに低中速域の扱いやすさを重視したとのことだった。しかしピュアスポーツのボクスター・スパイダーには、高回転高出力型の特性こそふさわしいと判断されたわけだ。それでも実用域でか弱さを感じさせないのは、言うまでもなく車体の軽さのおかげである。

アクセルを踏めば即座に車体が前に出て、離せばスッと減速する。ステアリングを切り込むと同時にノーズが左右に動く。あらゆる操作に対する反応はボクスターSより明らかに引き締まっていてクルマとの一体感に胸が躍る。それこそ交差点を曲がるだけでも実感できる軽さがうれしい。

減衰力可変ダンパーのPASMは装備せず、より硬めにセットされたサスペンションや、車高ダウンととくに車体上部の軽量化によって25mm下がった重心も、動きの軽さに大きく貢献している。反面、乗り心地は相応にハード。試乗したカリフォルニア・カーメル近郊の一般道の路面は決して平滑とは言えない状況だったが、ボディのガッチリした剛性感のおかげでたとえ不快に思うことはなかった。ボディはとくに強化されていはいないが、軽量化によって実質的な剛性は高まっているのだ。

そうなればコーナリングがおもしろくないわけがない。ターンインはきわめて鋭敏。ロールをほとんど感じさせることなく、まるで平行移動するかのようにノーズがインへと切れ込む。そして一旦曲がりはじめれば、そこはミッドシップらしくまるで自分がコマの中心にいるかのようにキレイに向きが変わっていく。そして出口が見えたらアクセルオン。ボクスターSではオプションの機械式LSDが標準装備とされたことで、ここでも抜群のトラクションでクルマをグイグイ前へと押し出してくれる。

とにかく、すべての動きに無駄がなくバランス感覚に秀でている。そのフットワークは、月並みだがまるで鍛え抜かれたアスリートのようと言える。

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気持ち良く汗をかけるという意味でポルシェ最強の1台

こうやって鞭を入れているときにはエンジンフィールもまた痛快だ。まわしていくと4000rpm辺りから一段とレスポンスが冴え、しかもそのまま踏みつづけているとトップエンド直前の数百rpmで最後のひと伸びまで楽しませてくれる。回転上昇に応じて変化するサウンドも、よりダイレクトに耳に届く。こうなると踏まないわけにはいかないというものだ。

そんなわけでこの日は1日中、貪るように走りまわってしまった。公道で気持ち良く汗をかけるという意味では、これぞポルシェ最強の1台だと断言したい。

冷静に考えれば、この走りと引き換えにボクスターの長所である実用性あるいは日常性が犠牲になっているのは確かだ。トップの脱着はひとりでも可能とはいえ5分以上は必要。突然の雨には難儀するだろうし、同乗者に愛想尽かされても無理はない。そもそもエアコンなしでは日本の夏を過ごすのは厳しいだろう。

けれど、もしその姿に惹かれたならば、それぐらいで諦めるのはつまらないというものだろう。要は考え方を変えて、トップを脱着する作業すらも楽しむくらいの余裕をもって付き合えばいいのだ。いつも週末の天気予報を気にして、いざ走るぞというときにはガレージでゆっくりトップを外して颯爽と出かけていく。日常の喧騒の合間に訪れるそんな時間は、このうえなく充実感に満ちたものになるだろう。

ストイックでスパルタン。ボクスター・スパイダーはハードウェアとしては確かにそんなモデルだが、そうやって考えてみると、じつは究極のライフスタイルカーと言ってもいいのかもしれない。

ポルシェジャパン
http://www.porsche.com/japan/

BRAND HISTORY

ドイツを代表するスポーツカーブランドとして世界中の腕利きから圧倒的な支持を得ているのがPORSCHE(ポルシェ)である。はじまりは1931年。20代の頃から自動車エンジニアとして頭角をあらわした奇才・フェルディナンド・ポルシェは、ダイムラー社の技術部長を経験したあと、ドイツのシュトゥットガルトに「ポルシェ設計事務所」を設立して独立。以後、自動車メーカーからさまざまなクルマの開発を託されることになる。なかでも有名なのが、ドイツの「国民車」としてモータリゼーションに大きく貢献した「フォルクスワーゲン・ビートル」だ。

自動車メーカーとして、自らの名を初めて冠したのは、1948年に登場した「356」であった。それからポルシェは「911」「924」「928」といったスポーツカーを世に送り出すとともに、モータースポーツに力を注ぐ。たとえば、世界でもっとも苛酷なレースといわれるルマン24時間で16回の優勝を手に入れたほか、F1でもエンジンサプライヤーとして3度のシリーズ優勝に貢献するなど、輝かしい戦績を収めたのだった。その技術力と走りへのこだわりがいまなお彼らの製品に息づいているのはいうまでもない。

現在は、デビューから45年が経ったいまでもスポーツカーのトップランナーとして高い評価を得る「911」をはじめ、オープンスポーツの「ボクスター」、ボクスターのクーペ版の「ケイマン」、そして、プレミアムスポーツSUVの「カイエン」と、ラインナップすべてが高い人気を誇る。

           
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