人間的な温かみ

2014年12月に設立100周年を迎える、マセラティ。「クアトロポルテ」は、乗ると、マセラティがクルマづくりを続けていてよかったなあとおもわせる出来だ。

ここに至る道は、オルシ家に買収されたり、シトロエン傘下と思いきや、デトマゾ傘下に入ったたり、と紆余曲折の連続であった。フィアットグループの下、フェラーリとともに建て直しをはかったのは幸いだった。

最初の果実は先代クアトロポルテで、いまの新型クアトロポルテに乗ると、その路線が正しかったことがよくわかる。マセラティはこうでなくては、正道に戻った、という感がひとしおだ。

クアトロポルテにライバルは多い。3.8リッターエンジンのGTS（1769万円）を例にとっても、安全装備充実によって全方位で完成度があがったメルセデス・ベンツ「S550 long」（1590万円）や、「アクティブハイブリッド7」（1234万円）を持つBMW7シリーズや、マトリックスLEDヘッドランプを与えられるなど商品力が強化されたアウディ「A8」（1080万円）など、ドイツを中心にライバルがひしめきあう市場だ。

そこにあって、クアトロポルテは、しっかりしたキャラクターを持っている。スムーズで、洗練されていて、かつ、たんなる機械でない、人間的な温かみを感じさせる。そこがすばらしい。トルクの出かたや、ハンドルを切ったときのクルマの動きなど、言葉にして書くのはむずかしいが、操縦していてどんどん好きになる。

クアトロポルテがクアトロポルテたるゆえん

3,170mmのロングホイールベースに、5,270mmの大柄な4ドアボディを持つゆえ、ベネツィア国際映画祭で俳優の送迎に使われるなどの活躍も納得できるのだが、ドライバーは意外にもその大きさを意識しない。ハンドルへの入力への車体の反応のよさや、アクセルペダルの微妙な踏み込みへの加速のよさなど、スポーティなコンパクトカーを操縦している感覚なのだ。

ドイツ車が完璧ともいえるクルマづくりを続けるなかで、その対抗軸を打ち出していくのは大変なことだ。マセラティは正解をわかっていたといえる。それは、機械でなく、人間のよきパートナーを作ることだ。

クアトロポルテは、いまメインストリームになってきた感のある、自律走行に向けてのデバイスはあまり充実していないが、それこそ、じつはクアトロポルテがクアトロポルテたるゆえんのようにも思う（まあ、そのうち、アダプティブクルーズコントロールも、歩行者検知機能付きブレーキも、アダプティブヘッドライトも、レーンデパーチャープリベンションも装備されるかもしれないが）。

そんなわけで、僕はマセラティ・クアトロポルテがとても好きなのである。心があるクルマだ。

九島辰也氏篇はこちら

OGAWA Fumio｜小川フミオ
1959年生まれ。慶應義塾大学文学部英米文学科卒業。株式会社二玄社で自動車とカルチャーを融合させた「NAVI」の編集に携わる。1999－2001年、編集長。翌02年より、日本で最も歴史ある自動車誌「モーターマガジン」（モーターマガジン社）の編集長に。そして同年秋よりグルメ誌「アリガット」（IMAGICAパブリッシング）の編集長に就任した。2004年よりフリーランス。

Maserati Quattroporte S｜マセラティ クアトロポルテ S
ボディサイズ｜全長 5,270 × 全幅 1,950 × 全高 1,470 mm
ホイールベース｜3,170 mm
トレッド 前/後｜1,635 / 1,645 mm
トランク容量（VDA値）｜530 リットル
重量｜1,860 kg
エンジン｜2,979 cc 60度 V型6気筒 直噴DOHC ターボ
圧縮比｜9.7 : 1
ボア×ストローク｜86.5×84.5 mm
最高出力｜ 301 kW（410 ps）/ 5,500 rpm
最大トルク｜550 Nm/ 1,750-5,000 rpm
トランスミッション｜8段オートマチック
駆動方式｜FR
タイヤ 前/後｜245/40R19 / 275/40R19
最高速度｜285 km/h
0-100km/h加速｜5.1 秒
燃費（欧州値）｜10.4 ℓ/100km
CO2排出量｜242 g/km
価格｜1,195万円

マセラティ コールセンター
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