ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!?|BENTLEY
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ
BENTLEY CONTINENTAL GT|ベントレー コンチネンタル GT
ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!? (1)
OPENERSでは、最新のベントレーの真価を探るべく、フラッグシップサルーン「ミュルザンヌ」(写真右)、ラグジュアリーGTクーペ「コンチネンタル GT」(写真左) 2台のテストドライブをおこなった。先日、そのフォトインプレッションをお届けしたが、今回は本編となるジャーナリスト 渡辺敏史氏による試乗記をお送りする。
文=渡辺敏史写真=荒川正幸
受け継がれる職人技術
ロンドンから北西に約400kmあまり。その位置をわかりやすくいえば、バーミンガムとマンチェスターのあいだあたりということになるだろうか。
ベントレーが本拠を構えるクルーという街は、仮にそれをのぞいてしまうと、さしたる産業も見当たらなさそうなふるく小さなところだ。その清閑さに紛れるように、彼らの工場はある。竣工は49年。煉瓦造りのそれを日本では瀟洒というかもしれないが、そんな建物を見慣れたイギリス人にはやや野暮ったく映るのかもしれない。
暖簾の歴史の大半をこの街で過ごしてきたベントレーは、フォルクスワーゲンの傘下となった1998年にいくつかの大きな決断を迫られていたはずだ。そのなかには、工場を核としたこの場所を離れ、行政の配慮がいき届いた、モダンで利便性の高い工業エリアに居を移すという選択肢もあったはずである。しかしベントレーはこのクルーという場所を堅持した。とりもなおさず背景にある歴史と、周辺で生活を営む職人たちこそが、自分たちの最大の財産であるという判断だろう。ベントレーのプロダクトにかならずつきまとう「ハンドクラフテッド」という言葉は、この職人たちの技能なくして語れない。いってしまえばそれは怒級の工芸・民芸品的な価値。それはカスタマーがベントレーに求めるもっとも重要なファクターでもある。
件のクルー工場は、フォルクスワーゲンの理解ある膨大な投資によって、生産プラントは唖然とするほどにモダナイズされた。小説のストーリーによく出てくる、傍目を忍んで諜報活動をおこなう秘密基地でもみせられているかのようだ。そして併設された事務方の本社は、バリバリのブリティッシュモダンに彩られてもいる。が、その敷地の半分近くを占める面積には、従業員数の半分以上であろう手練れの職人がいて、いまでも革を縫い、鉄や木を削り磨くという手作業を黙もくとこなしている。そういう姿を目にすると、できあがったものは荘厳に過ぎて身構えるという感覚を超えて、指や掌を使ってでも愛でたくなるほどの距離感になるから不思議なものだ。プライスやステイタスといった俗世の定規の斜めむこうをいくぬくもり。それは普段語られないベントレーの、はずすことのできない価値なのかもしれない。
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ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!? (2)
今後のコンチネンタルGTがもつべき普遍性を表現した新型の姿
そんなクルーの工場の傍らで、新型コンチネンタルGTをはじめてみたのは昨年の夏のことだった。いわずもがな、ベントレーの総生産台数を10倍規模で引き上げ、彼らに21世紀へのパスポートをもたらした立役者のフルモデルチェンジである。どんな驚きが待っているのか……と思いきや、そこにあらわれたのはエクステリアもインテリアも、努めて冷静に初代のイメージをブラッシュアップしたモデルの姿だった。
「顧客の8割以上はコンチネンタルGTにたいして、大胆な変化を望まなかった。それは我われの意向と一致していたわけです」
肯定的ながらも、どこか訝しげな面もちの僕を前に、新型コンチネンタルGTのマーケティングディレクターは、ポルシェ 911の事例を交えつつ、こう説明してくれた。すでにブランドとしての普遍性は誰もが認めるところだが、プロダクトとしてのコンチネンタルGTのキャリアははじまったばかりだ。ベントレーの歴史のなかでももっともスピード感のあるプロダクトをして、しかし彼らは今までの姿勢を崩すことなく接している。想像どおりではあったものの、その動じなさが心地よかった。
隅ずみまで手をくわえられたメカニズム
無論、そのぶんを補ってあまりあるほどの変化はドライバビリティにある。シャシーもエンジンもガラリと刷新されたわけではないが、周囲の進化をキャッチアップし、さらなるアドバンテージを築くための手段は八方尽くされた。
同一形式にしてわざわざ設計をあらためたサスペンション、ムービングパーツの隅ずみに手を入れられたW12エンジン、そして進められた軽量化と、それらの熟成によって新型コンチネンタルGTは、ハイエンドクーペにおけるベンチマークの座をふたたび確たるものにした。
新型コンチネンタルGTの乗り味には圧倒的な物量が放つ荘厳さとともに、良い意味での軽さや緻密さがくわわったといえるだろう。初代登場時にはさすがにもてあまし気味にも思えた車体のマスは、リファインを繰り返すごとにクルマが引き締まっていくかのごとく一体感を高めていった。その最たるグレードが、おそらくベントレー史上でもっともスパルタンな味つけがほどこされたコンチネンタル スーパースポーツだったわけだ。
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ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!? (3)
ブリティッシュ・コンテンポラリーのあるべき姿
新型コンチネンタルGTはこのスーパースポーツのドライバビリティを根底にもつと思ってもらって差しつかえはない。つまり、ドライバーの操作とクルマの動きの同調感、伝わり来る情報の濃度、振る舞いの軽さなどにおいて、初代のそれを大きく上まわっている。そのドライバビリティをベースに、ラグジュアリークーペにふさわしい据わりの良さや乗り心地のしなやかさがくわわったと、そんな印象だ。
200km/h級の超高速域をそうとも思わせずに保持しつづけることも、体躯に見あわぬ敏捷さでタイトなワインディングを駆けまわることも、新型コンチネンタルGTにとってはまるで赤子を捻るかのごとし。自由なステージが与えられたオマーンでの試乗で、僕はクルマの可能性にたいする認識をまたひとつあらためさせられた。いっぽうで、そう想いながら自分が座る車内には、イギリスの自動車づくりにまつわる、気高き伝統を感じさせずにはいられないほどこしがこれでもかとなされている。
究極の工業製品を目指すドイツのエンジニアリングと、究極の工芸品を死守するイギリスのマニファクチャリング。現在のベントレー コンチネンタルには一見相反するかのようなそのふたつが違和感なく同居している。それは世界の距離が急速に縮まったこの時世に適合した、ブリティッシュ・コンテンポラリーのあるべき姿なのだろう。
そのコンチネンタルGTをコンテンポラリーラインとするならば、だれもが認めるヘリテイジラインがミュルザンヌ。ながらく1エンジン・1シャシーを貫いてきたベントレーにとっての、アルナージの正統後継であるこのクルマは、イメージ的には豪華絢爛なショーファードリブンだと思われていることだろう。
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BENTLEY CONTINENTAL GT|ベントレー コンチネンタル GT
ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!? (4)
完全にハンドメイドで仕上げられたボディ
ミュルザンヌのシェイプは、2008年に550台の限定数を完売した巨大な2ドアクーペ ブルックランズのそれを範にしている。丸目二灯のフロントフェイスは50年代のそれを思わせるが、使われるエレメントにLEDなどの最新技術を用いることであたらしさを表現、その灯火類をひとつつみするフロントフェンダーは、スーパーフォーミングという空圧プレス技術を用いてアルミの一枚板を仕立ててある。小さめに仕立てられたグラスエリアや短いフロントオーバーハングなど、モダンなフォルムがクラシックなディテールと絶妙に融合するボディは完全なハンドメイドによって仕上げられ、おなじく手作業による水研磨工程を経て仕上げられる塗装は、晴天であっても濡れたような艶めかしさを流麗なプレスラインに添えている。
それでもミュルザンヌの工芸品たる真骨頂はインテリアにあるといえるだろう。立ち上がり時よりも圧縮されたといえ、じつに350時間という全製造工程にはそもそもタクトタイムなど存在しないが、そのうちの半分、170時間もの労力は内装の仕立てに注がれる。室内をぐるりと包み込むウッドパネルはその乾燥や裁断、磨き、仕立てに約1カ月を要し、ミシンや手縫いを使いわけながら用いられる本革の量は牛15頭分。もちろん光り輝く部位にはすべて本物の金属が使われ、削りや磨きも職人が担当し……と、その圧倒的な人足や物量は、正直に車内のただならぬ豪奢さとして反映される。ベントレーが歴史あるクルーの地を離れないひとつの理由は、このハンドビルド・クオリティを支えつづけてきた職人や工房を守るため。ミュルザンヌのなかに居れば、それは嫌でも納得させられるだろう。
それほどの調度がなされた巨大な4ドアサルーンが、山に入れば体躯をまったく思わせないシュアなハンドリングを披露する。ステアリングを握るオーナーに待っているのは、その狐に摘まれたかのような体験だ。
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ベントレー 最新サルーン&クーペの真価とは!? (5)
継続的な熟成がもたらしたスポーティさ
アルミ材による軽量化や最新世代のサスペンションテクノロジー、8段ATの採用など、ミュルザンヌは時代にそくしたリファインを受けてはいるものの、その基本構成にあたらしさはない。搭載されるエンジンもヘッドまわりを中心に大きく手がくわえられ、気筒休止などの環境技術を搭載するものの、原型は半世紀の歴史をもつOHVの6.75リッターV8だ。つまり、ミュルザンヌのスポーティさというのは、革新的なあたらしさからではなく、継続的な熟成がもたらしたものといえる。
1020Nmという溢れんばかりのトルクをアクセルペダルでなみなみと後輪に注ぎ込むと、トーンの変わらぬ低音の唸りとともに、張りのあるシートに体がグーッと押しこまれていく。どんなクルマともちがうミュルザンヌの速さの質感は、たんに暴力的でなく、適切に重く柔らかいつつまれ感がつきまとう。
それはコーナリングにおいてもしかりで、バキバキとからだを揺すられるゲインが際だつものではなく、前後左右に移動する重力をやんわりといなしてコーナーの出口にすうっと車体を向けていく弾力的なものだ。
みずからをスポーツカーブランドと言い切るベントレー。しかしそのアプローチは、数多のそれとは大きくちがう。絶対的な瞬発力やコーナリングスピードではなく、AからBへの道程すべてにおいて、クルマとの適切な距離感を保ちながら、いかに満ち足りた運転体験をもたらすのか。彼らはそれを長年にわたり磨きつづけてきた。ミュルザンヌはその積み重ねを純然と現代に提示した、熟成の極みともいえるスポーツサルーンである。そして技術で時は埋められないとするならば、この唯我独尊の存在は今後も保ちつづけられていくことだろう。
BENTLEY Continental GT Coupe|ベントレー コンチネンタル GT クーペ
ボディサイズ|全長4,806×全幅1,944×全高1,404mm
ホイールベース|2,746mm
車輌重量|2,320kg
エンジン|6.0リッター W型12気筒+ツインターボチャージャー
最高出力|423kW(575ps)/6,000rpm
最大トルク|700Nm/1,700rpm
トランスミッション|6段AT
燃費|16.5ℓ/100km
CO2排出量|384g/km
駆動方式|四輪駆動
価格|2415万円
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ
ボディサイズ|全長5,575×全幅1,926×全高1,521mm
エンジン|6.75リッターV型8気筒DOHC+ターボチャージャー
最高出力|377kW(512ps)/4,200rpm
最大トルク|1,020Nm/1,750rpm
燃費|16.9ℓ/100km
CO2排出量|393g/km
駆動方式|後輪駆動
トランスミッション|8段AT
価格|3380万円