from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!
Lounge
2015年4月22日

from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!

from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR

ニューアルバム『コスモグランマ』リリース&来日ツアー開催

フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!

日曜の夜、上質な音楽とともにゆったりと流れる自分だけの時間は、大人たちの至福のとき。そんな豊かな時間をお届けするのは、DJ松浦俊夫によるラジオプログラム『TOKYO MOON』──。彼が世界中から選りすぐったすばらしい音楽や知的好奇心を刺激する大人のためのトピックスを、毎週日曜日Inter FM 76.1MHzにて19時からオンエア。ここでは毎週オンエアされたばかりのプログラムを松浦俊夫みずからお届けします。今週はなんと、ニューアルバム『Cosmogramma(コスモグランマ)』をリリースしたばかりのビートコンダクター Flying Lotus(フライング・ロータス)をゲストに迎え、お送りします。

Text by MATSUURA ToshioEdit by OPENERSPhoto by JAMANDFIX

フライング・ロータス来日!

ロサンゼルスを拠点に世界中を飛びまわり、先鋭的でディープな音響世界でその名を轟かせているビートコンダクター Flying Lotus(フライング・ロータス)こと、Steven Ellison(スティーブン・エリソン)。ジャズジャイアンツであるジョン・コルトレーンとアリス・コルトレーンを叔父・叔母にもち、また幼少のころから多種多様な音楽に触れてきたという彼。いまやレディオヘッド、マッシヴアタックなどのビッグアーティストがこぞって絶賛するフライング・ロータスが、最新アルバム『Cosmogramma(コスモグランマ)』を引っさげて、初の単独来日ツアーをおこないました。そして今回、多忙なスケジュールをぬって、「TOKYO MOON」のためにスタジオに来てくれました。新作から彼の音楽観まで、かなり深いトークを展開、オンエアーにはなかったインタビューの対訳がついたOPENERS特別編をお楽しみください。

『Cosmogramma』

『Cosmogramma』/Flying Lotus

REVIEW|TRACK LIST

01.Toshio Matsuura Group / Behind The Shadow (Quality Records)
02.Flying Lotus / Unexpected Delight (Plug Research)
03.Flying Lotus / Camel (Warp / Beat)
04.Flying Lotus / Arkestry (Warp / Beat)
05.Flying Lotus / Mmmhmm (Warp / Beat)
06.Flying Lotus / Do The Astral Plane (Warp / Beat)
07.Flying Lotus / Robertaflack (Warp / Beat)
08.Snoop Dogg / Doggy Dogg World (Death Row)

Keep going and Keep gettin’better

松浦 今回3度目の来日ということですが、東京、大阪、金沢とツアーでまわられて、日本のオーディエンスはいかがでしたか? 以前に比べてなにか変化はありましたか?

スティーブン とくに大阪と金沢のキッズたちは盛り上がってくれましたね。周りはよく、日本人のオーディエンスは大人しいって言うけど、僕のライブでは全然そんなことはなくて、みんなとてもハッピーに楽しんでくれていたようです。今回は前作と今作の2枚のアルバムをちゃんと聴いてきてくれたみたいで、僕がアルバムのパートをプレイするとちゃんと反応してくれました。それは前回よりも強く感じましたね。

松浦 今年の4月にニューアルバム『Cosmogramma(コスモグランマ)』がWARP Records(ワープ・レコーズ)からリリースされ、2年前におなじくワープ・レコーズから『Los Angeles(ロサンゼルス)』が、そして実質的なファーストではありませんが、2006年にPlug Research(プラグリサーチ)からスティーブンの生まれた年にちなんだタイトル、『1983』がリリースされ、現在計3枚のアルバムが発表されていますが、個人的な感想を言うと、これまでの作品は1枚1枚に進化が感じられるんですよね。

327_000

それは音が作りだす感情もふくめてですが、アルバムリリースを重ねるごとに感性が研ぎ澄まされていってることがすごく伝わってきます。ひとつひとつの音のテクスチャーがはっきりと、それは“強く”ということではなく、繊細な音のテクスチャーがちゃんと表面に抜けてでている。そして空間のなかにそれらがちゃんと点在して、整理できているところがすばらしいなと思っているのですが、本人としてはこの感想を聞いていかがですか?

スティーブン まず第一に、自分の進化を聴いてもらえること、そしてそんなふうに発見をしてもらえることをとてもうれしく思います。とにかく僕はおなじアルバムを作りたくない──おなじことを繰り返したくないというのが自分のなかの一番大きなテーマなんです。もしつぎのアルバムが『コスモグランマ 2』になってしまうようなら、もう自分は音楽を作っている意味がまったくないと思う。だから僕はつねに進化していたいし、おなじことを繰り返さないよう、つねに努力しています。

from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR

ニューアルバム『コスモグランマ』リリース&来日ツアー開催

フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!

この2年間のストーリをひとつの流れに

松浦 前作以上にフュージョンっぽい部分やロックな部分だったりというものをエレメントとしてすごく感じるんですが、なにか具体的に影響を受けたものはあるんですか?

スティーブン いつもどおりと言えばいつもどおりなんですが、今回はかなりソフトマシーンにインスパイアされたということもありますし、George Duke(ジョージ・デューク)、Alice Coltrane(アリス・コルトレーン)という、いつもの自分のフェイバリット、プラス、ウェザーリポートにとても影響を受けています。

松浦 いま答えにあったところはアルバムでいうとM.8、M.9、M.10あたりになるのでしょうか。僕としては「Arkestry」「Mmmhmm/ft.Thundercat」からのくだりがちょうど、Max Roach(マックス・ローチ)からジョージ・デュークへと時間軸によって変わっていくようなストーリー性を感じていて、曲のパートごとに情景をつなげていくといいますか、情景をカットアップやフェードイン/アウトさせているように見えるのですが、それは意図してやってきたことですか?

スティーブン この2年間で自分が体験してきたことや、語りたいと思うストーリーがたくさんあって、それを語るにはその都度情景が必要になります。そのいくつものシーンを1枚のアルバムにするためには、あらゆる “流れ”というものをひとつの流れにまとめ上げる作業が必要でした。先ほどおっしゃられたように、このアルバムはまさしく“いろんな情景をひとつの流れにする”ということがそもそもの狙いだったんです。この2年間の自分のストーリーをひとつにまとめた、という感じですね。

327_1_0613

松浦 音楽活動をスタートしたきっかけとは?

スティーブン 従兄がミュージシャンなんですが、彼は当時としてはわりと前衛的なエレクトロニクスを使ったロックサウンドを作っていて、幼いころ僕は彼の家に遊びに行ってはそういった機材で遊ばせてもらっていました。それがきっかけでのめり込んでいったら、彼が僕のためにリズムマシーンを買ってくれたんです。それまではずっとテレビゲームばかりやっているような子どもだったんですが、はじめて自分の手になじむ楽器といいますか、“音楽のツール”のようなものを手に入れて、それからは取り憑かれたようにその機械を使ってエレクトロニックのビートを作ったりしていました。僕にとってはそれが任天堂のマシーン代わりというか、“やっとおもしろいおもちゃを手に入れることができた”という感じでした。でも、夢中で曲を作ってはいたけど、まさかそれを自分のキャリアにするとは夢にも思わなかった。あくまで遊びの延長線上というか、純粋な“Hobby”だったんですけど、それがいつの間にか……というわけです。

665_191_3_0613

松浦 先ほど紹介した3枚のアルバムより以前に、あらゆるビートだけを収めた“ビート集”のようなものを作られていたかと思うのですが、それはリズムマシーンによって構築されたような作品集だったんでしょうか?

スティーブン しばらくのあいだはたしかにそういうことをしていました。学校の友達や、クラブに行ってDJたちにわたしたりしていました。とにかく自分の作ったビートをたくさんのひとに聴いてもらいたくて、自分でCDを焼いて、自分のビート集を毎月みんなに配っていたんです。当時は当然のことながらmy spaceというものもなかったわけですから、そんなふうにして自分の音楽をみんなに聴かせること以外方法はなかったんです。そうすることで自分の音楽を追求していたということはもちろんですが、それよりもただみんなに聴いてもらいたくていっぱいわたしていました。

from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR

ニューアルバム『コスモグランマ』リリース&来日ツアー開催

フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!

ロサンゼルスはいま、大きな変化を遂げる

松浦 とくにここ最近、ロサンゼルスにミュージシャンたち──DJやプロデューサーもふくめて──が集まっている傾向にありますよね。僕もDJのツアーで2回ロスにおとずれたことがありますが、ここ10年ほどでロスのシーンが大きく変化しているんじゃないかと感じています。実際にベースをロスに置いて活動されるなかで、ここ10年くらいの変化についてどう感じていますか?

327_5_0613

スティーブン まちがいなくこの10年で変化はあったと思いますが、じつはまだ変化の途中なんじゃないかという気もします。まだこのLAのシーンのムーブメントはピークには達していない──もうかなり近いところまで来てはいるんだけど、これからピークを迎えるんじゃないかって思うんです。コミュニティが一体となって、まるで軍隊のようにひとつの方向に向かって突き進んでいるような実感はあるけど、どこへ向かっているのかは自分でも具体的にはわからない、それが逆に楽しいですね。

いま若い世代がどんどんこのコミュニティのなかに入ってきていますが、彼らがどんなふうにこのシーンを次の世代につなげていくのか、見ていて興味があります。この時代に自分がLAにいて、このコミュニティのなかにいるのは非常に幸運ですし、僕らがこれからどこに向かうのかすごく楽しみ。自分はとてもラッキーな立場にいると思っています。

松浦 僕自身が感じるのは、もともと強く根づいているヒップホップやジャズ、そしてロックというものが、いい具合にまじりあっているということ。無理にぶつけあって、“ジャズ・ヒップホップ”とか、“ジャズ・ロック”とかっていっしょくたになるのではなく、作り手なり、演奏する側なりがちゃんと自分が吸収したもののなかでそれぞれのアウトプットを模索している最中なのかなって感じているんです。それが、いまスティーブンの言った“まだピークに達していない”ということなんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう?

327_3_0613

スティーブン そのとおりだと思います。一緒に作業している友人たちも、まだまだ可能性を感じていますし、いろんなことができるのではないかと模索している段階でもあります。僕が思うにこのムーブメントはいま、ただ音楽、ただビートっていうだけじゃない、それ以上のものを追及していて、それはビジュアルアートかもしれないし、ほかのなにかかもしれないけど、とにかく音を超えたいろんなものにまで波及していっているようなんです。おそらく音だけじゃないものにいたるまで、このムーブメントは自分たちの予想よりもはるかにうえのものを作ろうと動いているんじゃないかと思います。

from TOKYO MOON|6月13日 ON AIR

ニューアルバム『コスモグランマ』リリース&来日ツアー開催

フライング・ロータス×松浦俊夫スペシャル対談!

No genre , No Limit

松浦 こういった動きが現代のアメリカで起きていることはとても興味深いですよね。そんなLAで起きているムーブメントに対してもそうですが、世界中を旅するなかで、いろんな国のさまざまなカルチャーや音楽シーン、たとえばUKのダブステップやロックだったりといった“あたらしいフィーリング”に出会うことが多いと思います。それに対してバリアを張らず、素直に入っていって吸収する姿勢がすばらしいなと感じているのですが、その“気持ちの開き方”というものの源はなんだと思いますか?

スティーブン すべての源は自分があらゆる音楽を愛していて、あらゆる音楽に触れていたいという想いだと思います。たとえばスタジオで作業をしているとき、最初はとてもゆっくりなビートからはじまって、それがだんだんダブル(倍速)になって、気がついたらハウスミュージックになったとします。そうしたらあるとき自分はハウスミュージックのプロデューサーになっているかもしれない。そんなふうに僕は意図してやったことではない、その場で起きた自然な流れに身をまかせるところがあるんです。

327_2_0613

そんな自分にとって弊害なのは細かいジャンル分けであって、僕はとにかく“音楽”であればいいんです。すべての音楽は自分を愛してると思うし、僕はあらゆる音楽をやりたい。それがなんと呼ばれようとかまわないけど、僕はすべてのジャンルの音楽に無限の可能性を感じるし、すべて“音楽”だと思っています。それが僕の原動力になっている。とにかく音楽を愛してるってことに尽きると思います。

松浦 スティーブンはいま26歳で、僕は43歳ですが、こういった意思をもった20代の若いプロデューサーDJがこの世のなかにいるということだけでもすごく誇りに感じますし、個人的にはもっとすごいことをやってくれるんじゃないかって予感のつまった今回の『コスモグランマ』ですが、もうすでに次に向かって歩きはじめているのではないでしょうか? 次回作がどんなものになるのか、ここで少しだけ教えてくれませんか?

665_191_2_0613

スティーブン 僕の場合、アルバムは時間をかけて作るものですから、はやくとも2012年まではつぎのアルバムは出ないということをあらかじめ言っておきます。そのうえで、次のアルバムはおそらく今回のアルバムに比べ、よりそぎ落とされたもの……あまり重ねない、音の層の薄いものをイメージしています。どちらかというと今作よりもっと僕を身近に、たとえるなら僕が音を作っている部屋に一緒いるような感覚にさせるようなもの。もっとリスナーと自分がつながっているような、そんなシンプルな作品を作ろうと思っています。

松浦 この番組のコンセプトのひとつでもありますが、たまたま出会ったことで自分の人生に大きな影響をあたえてくれるのが音楽なんじゃないかと思っていて、僕なんかは若いときに聴いたKenny Dorham(ケニー・ドーハム)の「APHRODESIA」という楽曲がこの世界に入るきっかけを作ってくれました。最後の質問になりますが、たくさんあるとは思うけど、これまでの人生で大きく影響を与えてくれた楽曲をここで一曲だけ紹介してくれるとしたらなんですか?

スティーブン こういうことを話すのはすごくはずかしいんですが(笑)、おそらくどれかひとつということであれば、僕が10歳のときにはじめて聴いたSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)の『DOGGY DOGG WORLD (ドギー・ドッグ・ワールド)』というアルバムでしょうか。ヒップホップとしてはすごく音楽的だったし、これだったらいずれ、もしかしたら自分も作れるんじゃないかと、いつか自分もDR.ドレーになれるんじゃないかって気持ちにさせてくれたアルバムです。

327_4_0613

いまでもたびたび聴きますが、10歳のころはこれを何度も何度も繰り返し聴いては感動していましたし、いまでも感動します。もしかしたら「感動する」って言うと変に思われてしまうかもしれないけど、まちがいなくあのアルバムが自分にとって大きな影響を与えた1枚だと思います。

松浦 thank you very much!

スティーブン アリガトウ。

松浦俊夫『TOKYO MOON』

毎週日曜日24:00~24:30 ON AIR
Inter FM 76.1MHz

『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp

Inter FM 76.1MHz
www.interfm.co.jp

           
Photo Gallery