BMWの7人乗りミニバン「2シリーズ グランツアラー」、その詳細|BMW
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
注目はオプション設定された3列シート
BMWの7人乗りミニバン「2シリーズ グランツアラー」、その詳細
BMWは自身初となったCセグメントのFFモデル「2シリーズ アクティブツアラー」をロングホイールベース化したプレミアムミニバン、「2シリーズ グランツアラー」がジュネーブ モーターショーでワールドプレミアを果たした。これまでのプレミアムブランドにはなかったファミリー向けのモデルとして、マーケットからの注目度は高い。
Text by SAKURAI Kenichi
挑戦するBMW
ジュネーブ モーターショーでBMWが発表した「2シリーズ グランツアラー」は、実にチャレンジングなモデルである。先に登場した「2シリーズ アクティブツアラー」のロングホイールベースモデルであるがゆえにマスコミ関係者の注目度は正直さほどでもないが、BMW初となったCセグメントのFFモデルであるのにくわえ、3列シートを備えているというキャラクターは、市場においてじゅうぶんなインパクトをもつ。プレミアムブランドの一角を占めるBMWのこれまでにないアプローチに、ほかのライバルブランドはその動向を注意深く見守っているという印象も否定できない。
これまでCセグメントにおける3列シートを備えたミニバンは、従来フォルクスワーゲンやフォード、ルノーやプジョーといったメーカーから大衆向けのモデルとして登場していたが、こうしたいわゆるプレミアムブランドからは、ファミリー向けを謳ったミニバンのラインナップは皆無であった。より大型のミニバンやSUVにのみ3列シートモデルがラインナップしていた現実は、高級車に生活感は不要という印象さえ漂わせる。
大きなミニバンとは一見矛盾しているようだが、ミニバン=ピープルムーバーとして現在もカテゴライズされているので、たとえ7〜8人乗りのフルサイズであっても、ミニバンと呼ぶということはまったくの余談だが、ファミリー向けにフォーカスした小型ミニバンは、より数を追求する大衆車メーカーの縄張りといったいわば不文律ができあがっていたとさえ考えられる。これは繰り返しになるが、言葉は悪いものの、プレミアムというキーワードがファミリーという生活あふれるユーザー層にマッチないと思われていた、という裏返しでもあるはずだ。
しかし、モデルレンジを広げるBMWは、果敢にもライバルのメルセデスやアウディよりもひとあし先に、このカテゴリーにチャレンジした。アウディにはグループ内にフォルクスワーゲンがあり、3列シートを備えたミニバンをラインナップしづらいという事情もある。いっぽうのメルセデスは、ミニバンの主戦場ともいえる北米市場に投入した「Rクラス」が予想通りの実績を上げることができず、プレミアム系ミニバンの後継モデル開発を事実上凍結したままだ。
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注目はオプション設定された3列シート
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ファミリー層へのアプローチ
その隙を突いて登場した 「2シリーズ グランツアラー」。このモデルの反響やセールス如何によっては、ふたたびミニバンのカテゴリーが欧州を中心にホットな市場になる可能性もある。
北米や日本では、ブームは沈静化し、すでにひとつのカテゴリーを形成したマーケットであるが、欧州や新興国市場ではそこまでポピュラーなモデルレンジではない。そうしたさまざまなメーカーの思惑が絡むように、「2シリーズ グランツアラー」が注目されているということである。
反対にユーザーの視点に立てば、こうしたプレミアムブランドのミニバンがこれまでなかったことすら不思議なほど、需用はじゅうぶん期待できると予想可能だ。
日本市場では輸入車というだけでフォルクスワーゲンも大衆車との差別化対象ブランドになっているが、よりラグジュアリーなブランドで使い勝手に優れたコンパクトなミニバンを、というニーズは少なからずあるはずだ。ベビーカーを載せても余裕ある室内や荷室は子育て世代に歓迎され、小さな子供がいるファミリーには、やはり3列シートの利便性が欠かせない。
ピンポイントな例にはなるが、少子化といわれる日本にあってもタワーマンションが建ち並ぶ東京・豊洲地区ではこのご時世に小学校を新設するなど、予想以上に人口が増えている地域例もある。少子化は紛れもない事実だが、場所によってはそれなりの世帯年収があり、これまで“差別化”や自身の“ライフスタイル”にこだわりプレミアムカーに乗っていたユーザーが子育て世代に移行したさい、一般的なファミリーカーを選ぶことに多少の抵抗を持っているという流れは簡単に想像できるはずだ。
まさかBMWが豊洲のキャナリーゼにリーチするようわざわざ開発したわけではないが、これは小さな子供がいる層が、すなわち大衆的なファミリーカーブランド(を好む)ユーザーではないという一例である。
それなりの所得を持つユーザーに選ばれるマルチパーパスカーが、これまで市場にほとんど存在していなかったということ。そうした意味で、このモデルは単に「2シリーズ アクティブツアラー」のロングホイールベースモデルであるという以上に、存在意義が大きいともいえそうだ。
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じゅうぶんな居住性と荷室容量
いささか前置きが長くなってしまったが、「2シリーズ グランツアラー」の紹介に移ろう。全長4,556×全幅1,800×全高1,641 mmのボディサイズは、全長4,342×全幅1,800×全高1,586 mmの「2シリーズ アクティブツアラー」よりも214mm長いボディサイズ。ホイールベースは2,780mmの「2シリーズ グランツアラー」が、「2シリーズ アクティブツアラー」よりも110mm長い。この余裕は、すべて室内の余裕に割り当てられている。
オプションとして用意される2名分の3列目シートは、不要の際はラゲッジフロアに収納することができ、これはすなわち3列目シートを持っていても荷室容量の点ではビハインドとなっていないことを意味している。5人乗りモデルの荷室容量は645-805リットル、40:20:40の分割式となるリアシート(電動可倒式)を倒した状態では最大1,905リットルにまで拡大する。3列目シートを備えたモデルでは、560-1,820リットルのキャパシティを得ている。両シートタイプとも、シート収納時は床面がほぼフラットになり、大きな荷物も簡単に飲み込んでくれる。
この3列目シートは座面のクッションが薄く、使用時には座面下が空きちょっとした小物スペースとしても活用できる。座面から天井までは900mmの高さを確保。大人では少々厳しいかもしれないが、子供用のスペースとしてはじゅうぶんな居住性を確保しているといえそうだ。
ちなみにそれぞれ座面から天井までの高さは、1列目シートが1,078mm、2列目が1,003mm。奥にゆくに従って高くなるいわゆるスタジアムシート設計となり、後席のゲストの前方視界確保にも役立ちそうな形状だ。2列目シートは前後にスライドもするので、3列目シートの居住性を向上させるポジションも選ぶことができ、また2列目シートにのみ折りたたみ式のテーブルも備わっている(1列目シートのシートバックに装備)。
また、3列目シートへの乗り降りも考慮し、リアドアのDピラー部分が、「2シリーズ アクティブツアラー」よりも垂直に立ったデザインとなっている点も見逃せない変更点だ。こうした外板パーツのオリジナル化はコストアップに繋がるが、利便性を優先し、流用パーツとしなかった点はおおいに評価すべきポイントといえるだろう。
リアクォーターウィンドウは「2シリーズ アクティブツアラー」よりも面積が大きく取られ、ボディに内蔵されたCピラーとより後方にあるDピラーの存在で、サイドからは両車を容易に識別できる。このDピラーが立っているデザインのおかげで、スポーティな印象をもたらす「2シリーズ アクティブツアラー」とことなった落ち着きあるアピアランスをもたらすのも特徴といえるだろう。
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最新のパワートレーン
フロントフェイスは、キドニーグリル下部にあるエアインテークのデザインが「2シリーズ アクティブツアラー」と若干ことなる以外は横長のヘッドライトを採用し、スポーティなBMWのフロントフェイスそのものだ。LED式のデイタイムランニングライトも標準装備され、大幅なマイナーチェンジを受けた「1シリーズ」同様オプションでバイLEDライト(フルLEDライト)の装備も可能になっている。
L字型のいかにもBMWらしいリアコンビネーションライトもLEDライトで、これは「2シリーズ アクティブツアラー」と共通するパーツ。ハッチゲートやバンパーデザインも同一で、真後ろから両車の識別がおこなえるのは、唯一エンブレムのみということになる。
エンジンは、すべて最新世代のガソリンとディーゼルエンジン。ガソリンエンジン搭載モデルは最高出力141kW(192ps)、最大トルク280Nm(28.6kgm)の2リッター4気筒ターボエンジンを採用する「220i」と最高出力100kW(136ps)、最大トルク220Nm(22.5kgm)の1.5リッター3気筒ターボエンジンを採用する「218i」をラインナップ。
ディーゼルエンジン搭載モデルは、最高出力85kW(116ps)、最大トルク270Nm(27.5kgm)の1.5リッターの直列3気筒ターボディーゼルエンジンを持つ「116d」と、最高出力110kW(150ps)、最大トルク330Nm(33.6kgm)の2リッター直列4気筒ターボディーゼルエンジン、そしておなじく2リッター直列4気筒ターボディーゼルエンジンながら最高出力140kW(190ps)、最大トルク400Nm(40.8kgm)に向上させた「220d xDrive」の計5モデルをラインナップ。車名からもわかるように、FFがメインで、4WDはディーゼルエンジンを搭載する「220d xDrive」のみだ。
「220d xDrive」が最新の8段ATとの組み合わせのみの設定となる以外は、全車6段MTがスタンダードで、ガソリン/ディーゼルエンジンとも4気筒はおなじ8段ATをオプション設定している。3気筒エンジンはガソリン/ディーゼルエンジンともに6段ATと組み合わせられる。
こうした最新型のパワートレインとともに、Cd値0.28という優れた空力特性が、欧州値16.1-16.9km/リッター(220i)という優れた燃費性能をもたらすのも「2シリーズ グランツアラー」の魅力。全車に「エコプロ モード」を搭載し、従来モデル比で20パーセント燃費を向上させているのだという。参考までに、もっとも燃費に優れたディーゼルエンジン搭載車の「216d」の6段MT車では、欧州値23.8-25.6km/リッターという低燃費を叩き出す。
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子供を飽きさせない充実装備
車内装備の充実も、2シリーズ グランツアラーを語る上で欠かせない要素のひとつ。BMWコネクティッドドライブは、最新のエンターテイメント機能や高度なドライビングアシスタンスもたらすほか、さらに「2シリーズ グランツアラー」では、現状“ドイツのみ”という注釈付きにはなるが、後席に乗る子供向けに映像や音楽を提供する「myKIDIO」というあらたなエンターテイメントシステムアプリも採用されている。
「myKIDIO 」アプリは、例えば長編映画、やTVシリーズ、オーディオブックとオーディオの再生などが、アップルの社製iPadなどのタブレットとiDriveコントローラーが連動するシステムで、「2シリーズ グランツアラー」のコントロールディスプレイを介して視聴が可能になっている。
アプリは簡単にモバイルデバイスと接続されるうえ、視聴途中でエンジンを切っても再始動時には引きつづき途中再生をおこなうなど、かなり実用的で便利に使えそうだ。長距離移動のさいに、子供達を飽きさせることなくドライブが楽しめる装備といえるだろう。
2シリーズ グランツアラーのモデルバリエーションは、標準モデルのほかに2ゾーンオートエアコン、パークディスタンスコントロール、自動ブレーキ付のクルーズコントロール、マルチファンクションスボタン付きのステアリングホイールなどが搭載された「Advantage」、エクスクルーシブエクステリアと呼ばれるクロームの装飾や軽量アルミホイール、レザーのアクセントを施した「Luxury」、それらをベースに、専用アロイホイールやスポーツシートなどを採用したスポーティな内外装を持つ「Sport Line」、そしてMレザーステアリングホイールやMスポーツシート、Mエアロダイナミクスパッケージを装着した「M Sport」の計4バリエーションが用意される。
欧州にミニバンブーム到来なるか
2シリーズ グランツアラーのことを、先に登場した2シリーズ アクティブツアラーの3列シート化したロングホイールベース版と単純に見がちだが、実用面でのアドバンテージは計り知れない。「果たして本当に3列シートを使うかどうか」と、ついそうした評価を下しがちだが、おそらくポイントはそこではない。
使わないであろうオフロード性能や、いつどこで出すのかわからないオーバー300km/hのパフォーマンスといった「無駄」ともいえるポテンシャルにこそ魅了を感じるのがクルマという商材。「いざとなれば」や「もしもの際に」という余裕が、「2シリーズ グランツアラー」をより魅力的に見せてくれるという想像は簡単に成り立つのである。
おなじくジュネーブ モーターショーで登場したフォルクスワーゲン「シャラン」のマイナーチェンジ版は安全装備の充実や低燃費に磨きをかけるブラッシュアップを実施。利便性を前面に押し出したリアスライドドアを採用している。対してこちらはオーソドックスなヒンジ付きのリアドアを採用。ホンダの「オデッセイ」がかたくなに守り通したヒンジ付きドアを捨て、スライドドア化したところにおなじホンダから都市型ミニバンを謳い車高の低い「ジェイド」が登場したように、このミニバンセグメントも多様化の一途をたどっている。
そういった観点からも、乗って楽しい「駆け抜ける歓び」を標榜するBMWというブランドからミニバンが登場した意義は大きい。欧州のミニバンブームの本格的な到来の鍵を、この2シリーズ グランツアラーが握っているといっても過言ではないのだ。