今森光彦×幅允孝Talk Show|New BMW GRAN TURISMO@BMW Studio ONE 02
Chapter 10 Talk Show “Nature”
第4回トークショウ 「カルチャー」 今森光彦×幅允孝 02
──なるほど。それでは幅さん、アシスタントはひと休みして、ブックディレクターのお仕事についてご説明いただけますか。
幅 僕は小っちゃなころから本を読むのが大好きで、一番最初に就職したのも本屋さんでした。でも当時からネットで本を買うのが主流になって、ひとが本屋さんに来なくなってきてしまったんですね。だったらひとがいる場所に本を持っていこうと、いろいろな場所に本棚をつくる仕事をはじめました。あるときは小売店だったり、病院だったり、予備校にライブラリーをつくったり。本はまだまだ情報のツールとて使えるものですし、何より身体が本をめくるという行為を忘れていってしまうのがとても怖いなと思います。だから本を開いてもらえるような機会をいろいろな場所につくっていきたいと思っています。
幅 最近では六本木にある商業施設の裏手にある芝生スペースで、パーク・ライブラリーという貸し本屋さんをやりました。バスケットの中に本3冊と敷物を入れて貸し出したんですが、なかには敷物目当てで借りていくひともいたり。でも近くに出ている屋台のランチを食べて、寝転がってビールを飲んだりして、目の前に本があると自然とパラパラめくりますよね。そういう本に興味がないひとたちに本を読んでもらう機会をつくれてとてもよかったなと思います。あとは気持ち良くビールを飲みながら本を読める場所があったらなぁということで、去年新宿にBrooklyn Parlorというレストランの3分の1が本屋さんになっているお店をつくりました。本と言うとどうしても堅苦しいイメージと言うか、アカデミックで背筋をシャンと伸ばして読まなければならないようなイメージがあるかもしれませんが、もっと本を読む環境を自分たちの自由にしたいという気持ちがあります。
はじめて選書をさせていただいたのは六本木ヒルズのTSUTAYAだったんですが、それがいまの仕事に就くきっかけでした。「ライフスタイルの提案」というコンセプトで、旅、食、デザイン、アートを4つの柱にして、それぞれのジャンルを深く掘り下げた本屋さんをつくりました。僕はコロンビア人作家のガルシア・マルケスの『百年の孤独』が大好きで、自分が最初に作る本屋さんには是非おきたいと思っていたんですが、世界文学のコーナーがないので旅コーナーの『地球の歩き方 南米』の横に置いてみたり。そういう「本棚の編集」をはじめて試みたわけです。
今森 僕も写真を撮りにコロンビアに数カ月滞在したことがあって、マルケスの本を読むと情景がぱーっと広がりますね。
幅 僕はコロンビアに行ったことはないんですが、物語を読むことでその地に照りつける太陽の光だとか土地に染みついている血とか、そういうものがわかるような気がします。電話のかけ方とか現地の通貨といったガイドブック的ではないインフォメーションが得られる。だから意外とガイドブックの横に置いておいたら役立つんじゃないかと思ったんです。
今森 幅さんの仕事楽しそうでいいなぁ。僕は作り手の側ですが、まったくおなじ意見ですね。本屋さんは本の並べ方が下手だなと感じることが多いです。もちろんジャンルもありますが、もっと作家性を見るべきだと思いますね。僕は大人向けの写真集から子ども向けの本までいろいろ出していますけど、例えば『里山物語』は写真集ですが、子どもにとっては絵本になるんですよ。僕のことを理解してくれている本屋さんは、『里山物語』と僕の絵本をおなじコーナーに置いてくれるんです。
幅 写真集と名づけられた途端に変に崇高なものになってしまうんですね。あとよく絵本の後ろに「0歳~3歳向け」とか書かれていますよね。僕はあれ一番やめたほうがいいと思うんです。僕のラゲッジのなかにアンリ・マティスの『JAZZ』という切り絵の画集があるんですが、うちの息子は本の中にある色を指さして遊んだり、こともあろうにその上から自分のクレヨンでぐちゃぐちゃに絵を描いたりする。「結構高いスケッチブックだぞ」なんて言いながらもこれを大人側の都合でやめさせてはいかんと好きにさせてます(笑)。こういう根源的な表現には誰が見てもはっとするものがあるはずだから、そういう可能性を排除してしまうのはもったいないなと思うんです。
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