Chapter 3 ドラピエ|柔らかくてきれいな味は唯一無二の個性
LOUNGE / EAT
2015年3月23日

Chapter 3 ドラピエ|柔らかくてきれいな味は唯一無二の個性

Drappier|ドラピエ

柔らかくてきれいな味は唯一無二の個性

ルチアーノ・パヴァロッティ。その天高く魂をゆさぶる声で世界中を魅了した偉大な歌手が「ノドにいい」とうがい薬のように好んだと言われるドラピエのシャンパーニュ。そうしたセレブリティにまつわる逸話はシャンパーニュにはあまた存在するが、「なるほど」と思わせるのが、SO2(二酸化硫黄/酸化防止の亜硫酸)をほとんど入れない(キュヴェによってはゼロもある)製法にある。
よくワインを飲んで頭が痛くなるのはこの亜硫酸のせいだと悪者にされているが、ワインの品質を維持するために添加の必要性を否定できないのも事実で、これをなくしてなお高品質のシャンパーニュを維持するには、ぶどう栽培から醸造プロセスにおいて数々の条件を満たす事が必要になってくる。

Photo&Cooperation by Kenichi SaitoEdit&Text by Yumiko Akita

SO2を極力排し“自然”であることを追求する気概

ぶどうの風味を損なわない為にSO2を最小限に抑える取り組みは、数年前より開始した。「毎年10%を目安に少しづつSO2の量を下げていきました。当初1リットルにつき100mgだったのが今では35mgになっています。またSO2ゼロのキュヴェをつくることを5年継続し、2007年にはSO2無添加を始めて公式に出し、2008年に販売を開始しました」と語るのは現当主のミッシェル・ドラピエ氏。彼自身もSO2添加のワインを飲んでひどい頭痛になった経験の持ち主だという。

細かいことになるが、ほかにも、ぶどう栽培地から醸造所が近いため収穫したぶどうを短時間で運んでできるだけフレッシュなまま圧搾できるというメリットや、発酵タンクの上に圧搾機を設けてぶどうジュースをポンプで流さず重力でタンクに流し込む、門出のリキュール(ドザージュ用のリザーブワイン)は25年熟成の味に丸みがでてきたリキュールを使うなど、高品質を維持するには、通常ではやらないこと、できないことの多くをしなければならないのだ。

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古代品種を復活させた“キャトゥール”

さて、ほかにもドラピエが取り組んでいることが他にもある。1615年より葡萄栽培を開始し、1808年に創立したドラピエは、現当主の父が1947年からシャンパーニュをつくり始め1951年より自社で瓶詰めを開始した、7世代続く独立した家族経営の企業である。有機栽培のぶどうを使い、53haの自社畑、45haを契約栽培農家から買うネゴシアンで畑の70%にピノ・ノワールを植え、15%にシャルドネ、13%にピノ・ムニエ、残りの2%はアルバンヌ、プティ・メリエ、ブラン・ブライといった2000年前からこの地で栽培されていたローカル品種を3種植えている。5〜6年前より開発した“キャトゥール”は、ローカル3品種にシャルドネ25%を加えた白ぶどうだけを使用したブラン・ド・ブランで、現在では数百のぶどう樹しか存在していないと言われる古代品種を復活させた貴重なシャンパーニュであることは間違いない。

日系エアラインのアッパークラスにも採用

SO2無添加への取り組み、古代品種への挑戦など、テロワールに忠実なシャンパーニュづくりは、まだ知る人も飲んだことのある人も少ないが、ANAのビジネスクラスではカルト・ブランシュ・ブリュットNVが、JALのファーストクラスでは、グラン・サンドレ2002が採用された。
「ランスに拠点を持たず、シャブリから丘ひとつ超えたシャンパーニュの南端、ウルヴィルに拠点をもつドラピエは、中堅規模のシャンパーニュ・メゾンの中で特別な個性を放っています。高品質を保つ栽培、醸造、SO2を最低限にする、セニエ法でつくるロゼ、黒ぶどうを主体とした商品のポートフォリオ等、ランスの大手メゾンが意識していなかった部分にいち早く取り組み、まるみのある優しくて穏やかな味わいが特徴的なメゾンです」と語るのはワインジャーナリストの斉藤氏。まだ知られていない今こそ味わっておきたいメゾンのひとつといえるだろう。

シャンパーニュで温暖化の影響を考える

「シャンパーニュ地方では、昔は10月中旬に収穫することが多く、私が結婚した頃は雪の降ることもありましたが、昨年、ドラピエでは8月に収穫しました。引退した私のいちばんの危惧は温暖化の影響です」と語るのは6代当主ドラピエ氏。饒舌に女性の好みやシャンパーニュ哲学を披露してくれた氏が静かに語ったこの言葉には、気候変動や環境破壊に対して、もはやだれも背を向ける事はできないのだ、という事実を考えさせられた。続く試飲でスタンダード・キュヴェであるブリュット・ナチュールを飲んだ時、そのボリューム感もさることながら身体に自然にしみ込むあまりのきれいな美味しさに、シャンパーニュの“自然”を味わうことはこういうこと、と改めて理解したのであった。

デギュスタシオン記録

Brut Nature ブリュット・ナチュール NV
ぶどう品種|ピノ・ノワール100%
参考価格|5900円

醸造時SO2無添加、ドザージュ(門出のリキュール/澱抜きをした後の捕酒)ゼロ!を実現したシャンパーニュ。ルビーがかった色味、細かな泡が口の中でまるくはじける。黒ぶどう、ピノ・ノワールのみを使用したボーリューミーでふくよかな味わい。

Carte d’Or Brut カルト・ドール ・ブリュットNV
ぶどう品種|ピノ・ノワール80%、シャルドネ15%、ピノ・ムニエ5%
参考価格|5300円

ドラピエのスタンダード・キュヴェで総生産量の75%にあたる。通常ノン・ヴィンテージは15ヶ月の熟成期間を定められているが、ドラピエでは最低3年は熟成させる。トースト香、りんごや洋梨のアロマなど風味豊か。

Millesime Exception 2002ミレジム・エクセプション
ぶどう品種|ピノ・ノワール60%、シャルドネ40%
日本取り扱い未定

ミレジム(ヴィンテージ)、キュヴェ・プレステージは、大樽で発酵させた後1~12ヶ月樽におき、細長いサークルと呼ばれる樽で5~6年の熟成の後、100%手作業でルミュアージュ、デゴルジュマンを経て出荷される。酵母の香りや果実や花など複雑な香りと味わい。料理に合わせて飲みたいやさしいコクが特徴。

Rosé Brut ロゼ・ブリュット NV
ぶどう品種|ピノ・ノワール100%
参考価格|6500円

シャンパーニュでは、ロゼは白ワインと赤ワインを混ぜる事や捕酒時に赤ワインのリキュールを入れてつくることを許され、この方法をとる生産者がほとんどだが、ドラピエでは黒ぶどうを醸し(マセラシオン)て途中で液を抜き取るセニエ法でつくられている。チェリー色をした濃い色調、いちご、ラズベリーの香りにうっとり。

Grand Sendrée 2004 グラン・サンドレ
ぶどう品種|ピノ・ノワール55%、シャルドネ45%
参考価格|1万円 (日本取り扱いは2002)

13世紀の形をそのまま受け継いだボトル、全行程手作業のオートクチュール的シャンパーニュ。エレガンスを表現するため同メゾンの中ではシャルドネ比率は高い。柑橘系の果物、花の香り、はちみつなどふくよかな香りと酸味、キメ細かく舌に溶けていきそうな、まるで羽のような繊細さ。

取材協力|

Drappier
www.champagne-drappier.com
サロン・ド・ヴィノフル
Tel. 03-5795-2553

日本問い合わせ先|
テラヴェール
Tel. 03-3568-2415

           
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