BMW M3 Coupe M DCT |上品さと逞しさと
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2015年3月19日

BMW M3 Coupe M DCT |上品さと逞しさと

BMW M3 Coupe M DCT Drivelogic

上品さと逞しさと

BMWの人気モデル「3シリーズ」のスポーツモデルとして、街を、そしてサーキットを駆け抜ける「M3」。最新のダブルクラッチ・トランスミッション「M DCT Drivelogic」を加え、スポーツ走行派から街乗り派まで、より幅広いドライバーにアピールできるようになった。M DCT搭載のクーペに試乗し、その乗り味をたしかめてみた。

文=生方 聡写真=荒川正幸

BMW対メルセデス

M3の心臓、4リッターV8エンジンは、
スポーツモデルを手がけるM社によるチューンで、
420psと400Nmを発生。

BMW対メルセデス

ことあるごとにライバルとして引き合いに出されるのが、「BMW 3シリーズ」と「メルセデス・ベンツCクラス」の2台。
この競合関係はいまにはじまったわけではないが、スポーティなキャラクターが自慢の3シリーズの牙城を崩すべく、スポーツ性を前面に押し出した現行Cクラスが登場したことで競争が激化、真っ向から勝負する構図に発展している。
それだけに、両陣営の頂点、つまり、「BMW M3」と「メルセデス・ベンツC63 AMG」(1044万円)のキャラクターにどんな違いがあるのか気になっていた。

ミディアムサイズのボディにパワー漲るV8を積むこの2台、自分ならどちらを選ぶのか? そんなことを考えていた矢先、M3クーペを試乗する機会が巡ってきた。C63 AMGの感触を覚えているだけに、違いを見いだすには絶好のタイミングである。

あまりに違うM3とC63

結論から先にいってしまえば、M3クーペとC63 AMGはあまりに違っていた。たとえていうと、同じスポーツモデルでも、M3クーペはクール、C63 AMGはパッショネート(情熱的)。いずれも、ここぞ、というときに発揮するパフォーマンスは並はずれたものがあるのだが、M3クーペはふだんはまるでノーマルの3シリーズのように落ち着いた振る舞いをするのに対し、C63 AMGは走り出した瞬間から感じるカタめの乗り味など、常日頃からスポーツカーを意識させる。

どちらが魅力的かは、正直なところ甲乙つけがたく、最終的には乗り手の好みや置かれている状況により、選ぶクルマが決まってくるのだと思う。もしも、複数台所有することができて、たまの休みに引っ張り出すという使い方なら、見かけ、乗り心地すべてがスポーティなC63 AMGもいいが、個人的には、一台ですべてのシーンをそつなくこなすM3クーペを選びたい。

では、M3クーペのオールマイティぶりとはどんなものか? もう少し詳しく見ていくことにしよう。

左|メルセデス・ベンツC63AMG 「Cクラス」ベースのコンパクトなボディに大排気量エンジンを搭載したAMGラインナップの末っ子。迫力あるエクステリアデザインは過剰な性能のあらわれといえる。6.2リッターV8エンジン(457ps、600Nm)、7段AT、1044万円
右|BMW M3クーペ M DCT Drivelogic 「3シリーズ」の高性能版としてクーペ、セダン、カブリオ(未導入)を展開。AMGに比べると見かけ、乗り心地は落ち着いており、しかしパフォーマンスは互角かそれ以上。4リッターV8エンジン(420ps、400Nm)、6段MT/7段 M DCT Drivelogic、1010万円(MT)/1060万円(DCT)

隠される爪

現代のスポーツモデルには、圧倒的な速さやキレのあるハンドリングを備えながら、快適さを失わない、実にバランスの高いタイプが増えている。
M3クーペはその典型といえるクルマで、カーボン製のルーフこそただならぬオーラを放っているが、能ある鷹のごとく、ふだんは爪を隠している。
たとえば、走り出して驚くのが、乗り心地のよさだ。弟分の「BMW 335iクーペ」よりも、むしろM3クーペのほうが快適なほどなのだ。これに貢献している機構としてまず思い浮かぶのがEDC(エレクトロニック・ダンパー・コントロール)という電子制御のダンパーだが、それ以上に、徹底した軽量化が効いているのは想像に難くない。

BMW対メルセデス

「M3クーペ」のハイライトのひとつが、
軽量化と剛性アップをはかるカーボンファイバー製のルーフ。
セダンでは採用されない。

デュアルクラッチタイプのトランスミッション「M DCT」も、呆れるほどに洗練されている。ドライブモードで5段階、マニュアルモードで6段階あるシフトプログラムは、もっともスポーティなプログラムを選んだところでシフトショックはキツいわけではなく、一方、ドライブモードで一番“ソフト”なプログラムなら、セカンドギアからのんびり発進する上品さを備えている。
これならふだんのアシとして楽に使えてしまいそうだ。セダンだったら、ファミリーカーになりすますのも簡単だろう。

硬派な6段マニュアルもあるが、追加設定されたダブルクラッチ・トランスミッション「M DCT」の評判は上々。左足でクラッチペダルを踏む必要なく、シフターかステアリング裏のパドルでアクティブにシフト操作できる。

BMW対メルセデス

ギャップを愉しむ

一方、スポーティに走らせたいときにも、ドライバーの期待を裏切らないのがM3クーペである。
自然吸気の4リッターV8 DOHCエンジンはレブリミットが8400rpmという高回転型で、すでに2000rpmくらいからポテンシャルの高さを示しはじめ、そこからはレブリミットまでの実に広範囲で、スムーズかつ怒濤の加速を見せてくれる。
クロスレシオの7段ギアボックスのおかげで、レブカンターの針を常に高回転域に釘付けにできるのと、ほとんど間断を感じさせないM DCTのおかげで、加速Gの途切れにイラつくこともなかった。

ハンドリングは、ほぼ50:50の前後重量配分と、旧M3のストレート6よりも15kgの軽量化を果たしたV8のおかげでノーズの重さが気になることもなく、素直で軽快な動きについついペースが上がってしまう。ブレーキの効きも申しぶんなく、オーナーならサーキットでその実力を見極めたいと思うに違いない。

ふだんの上品さとスイッチが入ったときの逞しさのギャップ。それがなんとも愉しいM3クーペ。毎日乗りたいスポーツモデルである。

           
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