(4)バカラ パシフィック 小川 博さん「B barで語らう」
Fashion
2015年5月14日

(4)バカラ パシフィック 小川 博さん「B barで語らう」

バカラ パシフィック社長 小川 博さんと語る

(4) B barで語らう

さて、小川さんとの最終回、4回目は、場所を移してバカラショップ 丸の内の地下にある“B bar”にお邪魔しました。
この “B bar” は小川さんの創案により設立されたバカラ世界初の直営バーです。では、美味しいシャンパンをいただきながら。

edit by Daisuke Hata (City Writes)photo by jamandfix

B bar Marunouchi (バカラショップ 丸の内地下) にて

歓びのかたち、歓びのときを歓びの空間で

松田智沖 まるで異空間に来たかのような素晴らしいバーですね。どんなコンセプトでつくられたんですか?

小川 博 このバーはお酒を売るための店ではなくて、バカラの文化、世界観をここから発信しようというバーなんです。ご覧になるとわかるように、バーでありながら一本もお酒のボトルを陳列していない。もちろん最高のお酒をお出ししますけれどね。
バカラは単なるクリスタルの塊でも、オブジェでもありません。私は 「バカラは歓びのかたちです」 という言い方をします。人生のあらゆる大切なひとときに、バカラを側に置いて使っていただきたいというのが私たちの夢であり、役割であると思っています。ですから “B bar” は、歓びのかたち、歓びのときを歓びの空間で過ごしていただく場なんです。
以前、“B bar”へ新卒生らしいお客さまが6人くらいでみえたことがあったんですよ。そのうちひとりの男性が地方へ行かれるらしく、その送迎お祝いとしてバカラショップで5000円のグラスを買ってくださっていた。各自1000円ずつお金を出されて買ってくださったんでしょう。彼らはまさに歓びのかたち、歓びのときをこの場で表現してくださっているわけじゃないですか。本当に、嬉しかったですよ。
また、先日はこんなこともありました。女性の方がグラスを買ってくださって 「彼のイニシャルを彫ってください」 と言うんです。それでいついつにバーを予約するので、そのグラスを用意しておいてください、と。で、彼がお酒を注文するとそのグラスで出てくる。

松田 粋ですね。それを女性がするというのがまた凄い(笑)。

松田 社長としてはグラスを実際に使っていただきたいという想いがあるんですよね。

小川 ええ、バー設立のもうひとつの思惑としては、ギフトとしてバカラを買ってくださる5割から6割のお客さまに対して、ご自分が使って楽しんでいただき、ご自分のために買っていただきたいというのがあるんです。
それにバカラの製品は、ショップに飾ってあるときはどんなに綺麗に飾っていても商品でしかないんですよ。でもこうして液体を注ぐと命を吹き込まれたように美しさを増す。それを体験していただきたい。

松田 われわれ日本人は、いいグラスや器をいただくと飾ってしまう傾向があります。それだと本来の物の価値や良さも見出せませんよね。
実は靴の世界でも、飾っておきたいからとまったく同じ靴を2足買われるお客さまもいらっしゃるんです。私どもとしてはありがたくもあるのですが、やはり靴は実用品ですから履いていただきたいですね。
仕事や旅の伴侶として履いていただくうちに、細かな傷がついて、そのひとつひとつが思い出にもなって……。そうして愛着の湧いた一足を修理しながら使い続けていただく、というのがジョン ロブの想いです。

小川さんお気に入りのタンブラー 『ネプチューン オールドファッション』 2万8350円(税込)

松田 小川社長がバーで過ごされるとき、大切にしていることはありますか。

小川 ひとつは人との語らいというのがありますね。ひとりで来たときは、仕事のことを考えようとかそういうつもりじゃないんだけど、シガーを燻 (くゆ) らせているといい発想が湧く。だからそういう思考の時を大切にしていますね。
それと、シガーを吸いきるには大体40分以上かかるものなのですが、シガー仲間と来たときにシガーへ火を着けると 「今日はゆっくり語らおうよ」 という合図になるんですね。それで誰かが早く吸い終わってしまうと 「じゃあもう一本着けてしまおうかな」 「じゃあ俺ももう一本」 となる。こういうのって粋だし楽しいじゃないですか。

松田 話は変わりますが、バカラには職人さんは何人くらいいらっしゃるんですか。

小川 今は650人ほどですね。最優秀職人 (MOF) の称号をもった職人も25人います。これまでに55人輩出していますから、一企業としては考えられない素晴らしい業績だと自負していますよ。そういうルーツがブレることはないですから強いですよ。思うにバブル以降いくつものブランドが消えていってしまいましたが、そうしたところはルーツがない。

松田 おっしゃるとおりですね。靴も一緒だと思うんですよ。腕のいい職人がいれば精度の高いものはつくれますが、いいものが生まれるとは限らない。一級の腕をもつ職人を引き抜いたからって、ブランドが培ってきた魂までは込められません。やはりそこにある企業文化が職人とマッチして初めていい物が生み出せるのではないかと私は思います。

アクセサリーラインより 『トリバル チョーカー』 3万3600円(税込)

松田 最後に、これからのビジネスの展望をお聞かせいただけますか。

小川 可能性を言えば “sky high” ですね。それだけの魅力があるブランドだと思っていますから。ジョン ロブと同じで、私たちはいいプロダクトを確実にもっているんです。幸い日本にはいいモノが受け入れられる土壌がありますから、それをいかに丁寧にコンシューマーへ伝えていくかが役割だと思うんですよ。

松田 アンバサダー(大使)ですね、同感です。本日はありがとうございました。

小川さんとの対談を終えて ──松田智沖

いつも時代の先を見つめながら、つねに新しいことに向かってチャレンジし続ける小川 博社長。その姿勢にあらためて感銘を受けるとともに、日本のマーケットにおいて伝統あるブランドビジネスをともに営む者として、また経営者としてたいへん参考になりました。
また一方で非常に多趣味で人生を愉しんでいらっしゃることに、先達として尊敬しています。
バカラには野球チームがあるとのこと。エルメスにも野球チームがあるので、ぜひ今度は、グラウンドで対戦したいですね! (笑)

Profile

バカラ パシフィック株式会社 代表取締役社長
小川 博さん

1948年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。'70年エッソ石油(現エクソン) 入社。'83年バカラ パシフィック設立に参加し、代表取締役常務などを経て'94年から現職へ就任。シンガポール法人の代表、米国法人の取締役も兼務する。
'97年にはフランス政府より、国家功労賞シュバリエを受賞。

Baccarat Shop Marunouchi バカラショップ 丸の内
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B bar Marunouchi
(バカラショップ 丸の内地下)
Tel.03-5223-8871
平日・土16:00~翌4:00 日祝休

           
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