第1回 葉巻との出会い
第1回 葉巻との出会い
コロンブスが見つけた「タバコ」
1492年10月12日、クリストファー・コロンブスは、インド、中国、日本といった未知の世界を目指した記念すべき第1回目の大航海で、カリブ海に浮かぶ島を発見した。コロンブスは、これまでに見たこともないような異文化に遭遇するが、そこで目にしたもののひとつに「タバコ」があった。
それからちょうど514年。タバコはさまざまな形態をとって全世界に普及した。葉巻、パイプタバコ、嗅ぎタバコ、噛みタバコ、紙巻きタバコ・・・。しかし、同じタバコ製品とはいえ、葉巻はまったくの別物であると私は思う。良い葉巻を一度でも口にした人であればわかるであろうが、これほど至福の喜びを与えてくれるものは、他に見当たらないのである。
私と葉巻との出会いは、今から17年ほど前、私が22歳のときにさかのぼる。当時、私が勤めるフランス料理店では、わずかではあったがお客様の食後用にと葉巻が揃えられていた。恰幅のいい紳士や、スマートに遊ぶことを知っている粋な大人達は、食後にいかにも満足そうに葉巻を愉しんだ。
その洗練された光景を目にした私は、持ち前の探求心から、その未知なる物体、葉巻についてもっと知りたくなった。しかし、いざ勉強しようと思っても、日本に葉巻に関する本はなかった。
葉巻と言えば、やはりキューバだ!
そこでまずは、葉巻に関する洋書を入手して翻訳にとりかかった。いちばん初めに手にしたのは、ジーノ・ダヴィドフの『THE CONNOISSEUR’S BOOK OF THE CIGAR』という本であった。ジーノ・ダヴィドフは、言わずと知れたDavidoffブランドの創始者である。この本に感銘を受けた私は、思いを行動に移す決心をした。
葉巻と言えば、やはりキューバだ!
さっそくキューバ大使館に問い合わせてみたところ、私が提出したさまざまな疑問に対して丁寧な返答をいただくと同時に、通商部の方がキューバという国について熱心に教えてくれた。
さらに、当時キューバとの貿易を一手に引き受けているヤマル貿易というキューバ関連の会社も紹介してくれた。「キューバの首都ラ・ハバナに行けば、葉巻工場を見学できる」という話を聞いて、居ても立ってもいられなくなった私のために、国営のクーバタバコ公社と連絡をとってくれたのが、そのヤマル貿易であった。
多くの方々のご協力を得て、私はキューバに向かった。ジーノ・ダヴィドフが言うところの、“ギリシャへ向かう若い考古学者か、ローマに向かう神学生のような気持ち”で。そこで目にしたものは、人々の手によってひとつひとつ丁寧に作られるハバナシガーのすべてだったのである。以来、5回ほどキューバに渡ったが、行けば行くほど葉巻への思いは強くなっていく。そして、いつのまにか私は葉巻の世界にのめり込み、熱心な葉巻愛好家の一員となってしまったのである。
もっと多くの人に、
葉巻の素晴らしさを知ってもらいたい
アメリカでは、コロンブスの新大陸発見500周年を機に、葉巻ブームのリバイバルに火がついた。紙巻きタバコが、嫌悪ムードの中ですっかり悪者扱いされているのとは対照的に、全米の葉巻愛好家はその数を増やし、葉巻専用のバーや専門誌の創刊もめじろ押しである。
それはなぜか?製造過程でニコチンやタールを低減させてしまう葉巻は、紙巻きタバコに比べてずっと害が少ないことが認識されているからだろう。きちんとしたマナーさえわきまえていれば、葉巻は決してダーティーなものではない。
アメリカの葉巻ブームの波が徐々に日本にも押し寄せているとはいえ、日本では葉巻愛好家はまだまだ少数派である。「もっと多くの人に、葉巻の素晴らしさを知ってもらいたい」「葉巻と共に時間を過ごす喜びを、できるだけたくさんの人と分かち合いたい」、そんな気持ちで私は日本で初めての葉巻の本『葉巻の世界~贅沢な時間の過ごし方~』(日東書院)を1997年12月に上梓したのである。
葉巻は、もっとも充実した時を演出してくれる人生のよきパートナーである。葉巻には、人を夢中にさせる不思議な魅力がある。
このウェブサイト『The Cigar Museum』で葉巻の魅力に触れ、少しでも葉巻への理解を、そして葉巻の世界について回る、「マナー」への理解を深めて下さることを私は願う。
ほんの1本の良質の葉巻が、あなたに最高の充足感を与えてくれることを、私はここでお約束しよう。