祐真朋樹対談|Vol.1  「ケアレーベル」デザイナー、レオポルド・ドゥランテさん
Fashion
2015年4月2日

祐真朋樹対談|Vol.1 「ケアレーベル」デザイナー、レオポルド・ドゥランテさん

新連載「祐真朋樹対談」がスタート

第1回目のゲストは「Care Label」デザイナー、レオポルド・ドゥランテさん

「Care Label(ケアレーベル)」は、FIATの元会長ジャンニ・G・アニェッリの孫であり、「イタリア・インディペンデント」社のCEO、ラポ・エルカーンがディレクションするブランド。そしてそのケアレーベルのクリエイティブディレクターを務めるのがカリスマデニムデザイナー、レオポルド・ドゥランテさんだ。子供のころからデニムが大好き。それが昂じてデニムに係わるようになったというレオポルドさん。なんと、およそ4000本のデニムを所蔵していると言う。そんな正真正銘のデニムマニアである彼が、今回初来日。日本の誇るデニムの産地、岡山を訪ねた。

Interview & Text by SUKEZANE Tomoki

レオポルドがデニムを好きになった理由

祐真朋樹(以下、祐真) 今回が初来日ということですが、「Care Label(ケアレーベル)」というブランドはいつスタートしたのでしょうか?

レオポルド・ドゥランテ(以下、レオ) 2007年です。このケアレーベルを立ち上げたのは2007年ですが、それまでの25年間もずっといろいろなブランドでデニムの仕事をしていました。

祐真 お~、満を持してのブランド立ち上げだったわけですね。その前の25年間は、どんなところで働いていたのですか?

レオ ブランドは申し上げられませんが(笑)、ドイツやベルギーでもデニム製品を作る仕事をしていました。ショップで働いたこともありますよ。

祐真 じゃあ、学校を出てからずっとデニムに係わる仕事をしていたということですか? ところでいま、何歳なのかな?

レオ 45歳です。学生時代はテキスタイルを専攻していました。

祐真 なるほど。そのころにはもう、自分の進む道は決まっていたということですね。でも、そもそもどうしてデニムに興味をもったのですか?

レオ 僕には兄がいるのですが、子どものころは兄のお下がりの洋服を貰ってよく着ていました。

祐真 ああ、僕にも兄がいるのでよくわかります。僕も兄のお下がりを着せられていました。

レオ 12歳のころ、はじめて自分でジーンズを買ったんです。そのとき、「新品のジーンズはなぜ兄のお下がりのジーンズとこんなにちがうんだろう」と思いました。兄がくれたジーンズは色が落ちていたけれど、新品はくっきりきれいなインディゴブルーです。「なんでこんなに素材が変化するんだろう」、そう思ったのがジーンズに興味をもったきっかけでした。

祐真 たしかに。全然別ものになりますからね、ジーンズは。

レオ 不思議に思った僕は、買ったばかりのジーンズをバスタブに浸けてブリーチしたりしてみました。それでどうなるのか、知りたかったんです。母には「なぜ買ったばかりのものをこんなふうにしちゃうの?!!」とこっぴどく怒られましたがね(笑)。

祐真 あははは。僕たち兄弟も、おなじようなことをしてましたよ(笑)。あたらしいジーンズをバスタブでブリーチして、もちろん両親に怒られました。日本の昔の家のバスタブは木製ですからね。そのなかでジーンズをブリーチしたら、当然の如くバスタブは真っ青になりますから(苦笑)、まあ怒られて当然です。

レオ 僕は1969生まれ、祐真さんは1965年生まれ。祐真さんと僕の兄はおなじ歳ですよ。僕たちは“そういうことをやってしまう年代”ということですね。

祐真 仕事として、デニムと係わりたいと思ったのはいつごろですか?

レオ 17歳のときにデザイナーを志しました。でもその前に、マテリアルのことをちゃんと理解したいと思い、フィレンツェの隣にあるプラートという街の学校で、生地のテクノロジーを学びました。もちろんデニムだけでなく、あらゆるファブリックのことを学びました。

祐真 とくに、デニムに興味をもった理由は何だったのでしょう。子どものころに身近にあったということも理由のひとつでしょうが。

レオ さまざまな生地のなかで、デニムがもっとも“生き物”っぽい感じがしたんですよね。デニムは、穿く人の歴史を刻みながら、時とともに変化してゆく素材です。そこがまず面白いと思いました。

それに、デニムってとても“デモクラティック”な素材ですよね。誰でも穿けるし、ワークウェアにもなればモードなアイテムにもなる。幅広い用途に使える素材なわけです。デニムをみれば、それを穿いている人の、人となりがわかる、そんなファブリックはそうそうありません。

祐真 なるほど。「デモクラティック」という視点は面白いですね。

SUKEZANE Tomoki|祐真朋樹

「Care Label」デザイナー、レオポルド・ドゥランテさんと対談

「ケアレーベル」のヒストリー

レオポルド、デニムへのこだわりを語る

祐真 「ケアレーベル」というブランド名の由来を教えていただけますか?

レオ たとえば僕は子どものころ、新品のジーンズをブリーチしたりダメージ加工したりして穿いていました。そういう“ケア”を、あらかじめほどこしたジーンズを作ろうと思ったのです。買った人が自分で熱心に加工をほどこして、世界で1本だけの自分のジーンズを作る。それとおなじ情熱をもって、あらかじめ僕が加工、つまり“ケア”をほどこして世に出す。それがケアレーベルのコンセプトだったのです。

祐真 かなりハンドメイド感が強い加工ですよね。

レオ 世界有数のテクニックをもった加工会社と組んでいますからね。

祐真 ロゴや裏面にほどこされたグラフィックもコンテンポラリーで可愛いと思いました。

レオ うれしいですね。ブランドのロゴやグラフィックにも、コットンの花や選択表示のマークを使っているんです。「DO NOT BLEACH」マークも使ってますよ(笑)。

祐真 ケアレーベルというと、かのラポ・エルカーン(※)との関係が話題に上りますが、ラポとはどういう経緯で知り合ったのですか?

※ラポ・エルカーン:イタリアのアパレルメーカー「イタリア・インディペンデント」の社長。世界的な名声を誇るファッションアイコン

レオ そもそもこのブランドは、純粋に僕個人のニーズからスタートしたものです。つまり、自分が欲しいものを作る、というものです。スタート後、ミラノのショールームにサンプルを置くようになったのですが、そのおなじショールームにラポも「イタリア・インディペンデント」のアイウェアを置いていました。

そこで僕のジーンズを見つけたラポがいたく気に入ってくれまして、ショールームに出るとすぐに自分用に購入してしまう、という事態がつづきました。サンプルを出したと思ったら、次に行くともうショールームにはない。

「なんでもう置いてないんだ?」と訊くと、「出すとすぐにラポが買ってしまうからだよ」という答え(笑)。それを聞いた僕もラポに興味がわいてきて、会ってみたいと思うようになりました。

実際に会って話をするとすぐに意気投合。「一緒になにかをやろう」ということになったのです。

祐真 へ~。

レオ ラポは、ケアレーベルのコンセプトを気に入ってくれました。ケアレーベルは最初はブランドではなく、言ってみれば単にひとつのプロジェクトでした。僕の理想とするメイド・イン・イタリーのジーンズを作るプロジェクトであり、それが実現した段階で解散しようと考えていたのです。しかし、ラポと出逢い、会社を作ろうと思いました。

祐真 イタリアを愛するふたりのイタリア男の出会いこそが、このレーベルを生んだわけですね。ところで、今回日本に来た目的は?

レオ 僕は日本人が世界でもっともデニムについての造詣が深いと思っています。ごく普通の人びとが、まるで専門家のようにデニムのことを理解している。世界的に見ても、非常にユニークなデニム文化をもっていると思いますし、僕のデニムがその日本で受け入れられれば、こんなにうれしく誇らしいことはありません。その野望を胸に、日本にやってきました。

祐真 日本のデニムの聖地、岡山にも行かれたそうですね。

レオ とても楽しかったです。夢が叶いました! 非常に魅力的な場所でしたし、たくさんの素敵な人たちに会うことができました。

祐真 僕は日本に住んでいながら、岡山には行ったことがないんです。羨ましい。僕も近々ぜひ行ってみたいと思っています。

レオ 児島ジーンズストリートというところは、道路の端がセルビッジになっているんですよ! 驚きました。

祐真 道路がセルビッジ?? それはぜひ僕も見てみたいですね。イタリアと岡山の工場のようすに、ちがいはありましたか?

レオ 日本では、トラディショナルな部分を保ちつつ、自分たちのやり方も貫くという姿勢に感銘を受けました。そしてその姿勢こそが、常にユニークでいられる秘訣だと思いました。日本のマテリアルを使って、イタリアでテイラーメイドのデニムを作ったらどんなに素晴らしいものができだろうと思うと、わくわくします。

祐真 同感です。それはすごくいいバランスになると思いますね。日本には、眼鏡フレームの産地として有名な鯖江というところがあり、そこにはいい工場がたくさんあります。もちろんそこからたくさんの素晴らしい眼鏡が生産されているわけですが、たとえばアメリカ人のデザイナーがそこを訪れて眼鏡を作ると、とてつもなく“いい眼鏡”が出来上がるわけです。

そんなふうに、ちょっとちがう血を入れるということも、この世界には必要なことなんじゃないかと思います。これはデニムにも通じることかもしれませんね。

レオ 今回の岡山は、非常に勉強になりました。またぜひ戻って来たいと思っています。そうそう、岡山には『ドラえもん』に出てくる、のび太の家とそっくりの家もありましたよ!

祐真 えっ?! 『ドラえもん』知ってるの?

レオ もちろんですよ。日本のアニメはイタリアでも大人気です。僕も『ドラえもん』や『マジンガーZ』を観て育ったんです。

祐真 いやはや、参りましたね。それではもっともっと日本通になれるように、またぜひ日本に来て下さい。お待ちしています!

栄進物産
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