特集|「ピルエット」のつくりかた|Chapter 1 パリにあって、いまの日本にないもの。
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2015年5月28日

特集|「ピルエット」のつくりかた|Chapter 1 パリにあって、いまの日本にないもの。

特集|「ピルエット」のつくりかた

食を通じて描くあたらしい東京の未来

Chapter 1|本物を気軽に、日常に。パリにあって、いまの日本にないもの。

「虎ノ門ヒルズ」の誕生を受けて、劇的な変容の過渡にある虎ノ門。スーツ姿の人びとで溢れる平日に反比例して、週末に漂うのはのどかな雰囲気。絵に描いたようなオフィス街だった虎ノ門は、驚くほどの変化を遂げた。その核となる、あらたな東京のランドマーク「虎ノ門ヒルズ」は今秋、食の未来を作り出そうという、強い意志をもった一つの場所を備えることになる。

Text by MONZEN NaokoPhotographs by CONTRAIL

テーマは「カジュアルシック」

食を未来へ繋ぐその場所とは「ピルエット」。バレエやジャズダンスで片足のつま先を軸にして行う回転を表す。クルクルと回るたびにあらたな空気を生み、周囲を巻き込みながら場を変容させていく旋回。そんなイメージを想起させる名をもつピルエットは、ビストロ、カフェ、エピスリーを兼ね備えた食の複合スペースである。

すべての要素を貫くテーマはカジュアルシック。気軽で心地よく、毎日通える場所。そして、食材、料理、内装、サービスと、そこにあるものは、すべて上質で本物であること。食をとおして、本物をぐっと身近に、毎日触れられるものにすることを目指す。では、具体的にはなにをどのように形にしていくのだろうか? それにはまず、ピルエットを展開する「コントレイル」から話をはじめなければならない。

銀座に3つの飲食店と1室の完全予約制スペースを経営するほか、ラグジュアリーブランドへのケータリングなどをおこなう「グローヴディッシュ」の森健一氏を筆頭に、ウェブを中心とした企業のプロモーション活動を、ビジュアル面から支援するデザインスタジオの「くしなだ」、ファッションを中心としたライフスタイル全般のコンサルティング、コミュニケーション戦略を行う斎藤美奈子氏など、それぞれ専門分野をもつスペシャリストが集まって結成されたのがコントレイルである。

森健一氏が経営するレストランの一つ「en terrible(アン テリブル)」。くしなだのアートディレクター、伊藤洋氏と森氏の感性が出合った場所だ

皆30~40代の同世代。別のフィールドで活躍しながら、おなじ価値観と目的をもつメンバーが集まって、自分たちがいまほしいと思うもの、行きたい場所を作ろうとスタートした集団だ。おなじ価値観をもつ大人たちが体現しようとする本質的な提案こそ、コントレイルの核をなす。

くしなだのアートディレクター、伊藤洋氏は、森氏が経営するレストランにたまたまふらりと入ったとき、その内装や雰囲気から「この店のオーナーは、本物を知っている人だ」と直感的に感じたという。一方、くしなだの制作したウェブサイトを見た森氏も、一緒におもしろいことができそうだと即座に思ったそうだ。

「グローヴディッシュ」代表取締役の森健一氏

人生経験を積んできた“大人”の直感は強く鋭い。「自身の会社で飲食業に携わっているからこそ、おなじ価値観をもつ異業種の人たちと、プロジェクトを達成させてみたい」という森氏の思いは、そこに共感する同志を次々と呼び寄せ、業種を超えた複合体(コンプレックス)としてコントレイルがスタートした。

コントレイル第一弾のプロジェクトが「ピルエット」に決まったのは、タイミングだったと森氏は言う。ピルエットのアドバイザリーシェフを務める、M.O.F.(国家最優秀職人)受賞のエリック・トロション氏との出会い、パリでの「こんな場所が作りたい」というレストランやエピスリー、マルシェとの出合い、舞台となる「虎ノ門ヒルズ」との出合い。

東京を大きく変えていくであろう、あらたなランドマークのなかにあって「やるならある程度の規模で、かつ1階にオープンさせたい」という希望の叶う場所が見つかった。このタイミングはけして運ではない。仲間も場所もタイミングも、人がもつ強い意志とパワーが引き寄せるものだ。

コントレイルの強い意志が今回目指すのは、視察に訪問したパリで森氏と伊藤氏が見た、日々の暮らしに溶け込んだ本物の食文化。パリの人びとの食材との関わり方、味わい方、楽しみ方を東京で提案するに当たって、彼らが描くのは次のような場所である。

食を軸に人と人が楽しく自然に繋がる場所

視察に訪れたパリで見かけたのは、日々の暮らしに溶け込んだ食文化。人びとが「食事を心から楽しんでいる」光景だった

顔の見える生産者から届いた食材が並ぶエピスリーが併設されていて、そこにある食材を料理人が目の前で調理する。レストランとカフェを備え、両者の間にはフルオープンキッチンが鎮座する。どこからもシェフの様子がうかがえて、ゲストは作り手の説明を聞きながら料理を楽しみ、気になる食材があれば購入して帰ることもできる。レストランとカフェがあるので、記念日の特別なディナーも、ふらっと一人で立ち寄ってお茶やワインを一杯も、ゲスト次第で自由自在。もちろん、食材をちょっと購入するだけでも大歓迎だ。

また、子どもたちに健やかで良質な食に触れてもらうため、食育のためのワークショップを主としたクッキングクラスも、今後開催していく予定だ。生産者、料理人、ゲストの距離が文字通り近く、堅苦しさは皆無。近いのは提供する側と消費する側の距離だけではない。ゲストとゲストも、食を軸に楽しく自然に繋がるような場所=コミュニティスペースを目指すのがピルエット。パリにあって東京にないもの。「食におけるカジュアルシック」というテーマを具現化した形だ。

シンプルで飾らないデザイン

森氏が描く東京の、ひいては日本の食の未来を変化させるきっかけとなる場所を、くしなだはどうデザインに落としこむか。

「企画の段階からこの場所の魅力が分かっていたので、変に着色したくなかったんです。さらりと自然にオープンして、当然のようにおいしい料理が味わえて、必然的にその魅力が分かる人たちが集う――そんな場所になるのではないかと。であれば、極めて自然体なその場所は飾る必要がない。

ロゴも手書きした筆記体のような、シンプルで飾らないものに落ち着きました。そのほかのデザインにも、森さんと一緒に行ったパリで感じた、食を心から楽しむ彼らの暮らしに根付いた文化を投影しました。見せかけだけの偽物のパリではなく、パリに学んだ精神の本質をいかに自然に提案するか。森さんの掲げるカジュアルシックについて、逐一言葉で説明を受けたわけではないですが、その解釈や目指すものは通じ合っていると思います」(伊藤氏)

「くしなだ」のアートディレクター、伊藤洋氏

自分たちがいまほしいと思う場所。それはパリにあって、いまの東京にはないもの。コントレイルのメンバーの意志と目的は、多くの言葉を介せずとも皮膚感覚のように共通している。それは、森氏とトロション氏、さらにはシェフとして腕を奮う小林直矢氏にも言えることだ。

Chapter 2では、具体的にピルエットが目指す料理について、トロション氏と小林氏の話を交えながら紹介したいと思う。9月のオープンまであと約1カ月。今回お話したのは、ピルエットのこれまで。次回は現在進行形のピルエットをお届けする。

Pirouette|ピルエット
住所|東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズ ガーデンハウス 1階
Tel. 03-6206-6927
営業時間|[ビストロ] ランチ 11:30~14:30(LO)、ディナー 18:00~21:30(LO) ※土曜・日曜・祝日は17:30~21:00(LO)
[カフェ] ランチ 11:00~15:00、ティー 15:00~17:00、ディナー 17:30~22:00(LO) ※土曜・日曜・祝日は21:00(LO)まで
[エピスリー] 11:00~23:00 ※土曜・日曜・祝日は22:00まで
オープン日|9月3日(水)
http://www.pirouette.jp
http://contrail.cc/
https://www.facebook.com/contrail.cc

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