あらたなる価値を得た日産GT-R 2014年モデルに試乗|Nissan
Nissan GT-R 2014 model|日産GT-R 2014年モデル
分化することで進化する和製スーパースポーツ
あらたなる価値を得た日産GT-R 2014年モデルに試乗
スーパースポーツカー界に衝撃を与えた「GT-R」が登場してから7年。2014年型として登場したアップデートモデルは、しかし、これまでとは趣のことなる仕上がりで既存オーナーやファンを戸惑わせた。GT-Rの開発からずっと見てきたモータージャーナリストの渡辺敏史氏が、その最新モデルに試乗して感じたこととは──
Text by WATANABE ToshifumiPhotographs by ARAKAWA Masayuki
GT-Rはスーパーカーの世界を変えたのか
第3世代となる日産「GT-R」の登場は2007年の冬のこと。早いもので7年が経とうとしている。通常のクルマのモデルサイクルでいえば、ゆうに一世代ぶんは超えていることになる計算だ。昨今はスポーツカーセグメントの代替も早く、その当時にライバルと目されていたポルシェやフェラーリ、ランボルギーニなどは軒並みフルモデルチェンジを受けている。
そんな状況にあって、ことパフォーマンスにおいて一線級を維持し続けることはさすがに並大抵のことではない。それはさながら、幾年かごとの大舞台で世界の衆目の中、容赦のない効果測定が下されるトップアスリートの世界にも相通じる厳しいものだ。
GT-Rの開発環境はデビュー前から幾度か目にしたことがあるが、それは市販車というよりむしろレーシングカーを磨き上げるかのごとく毅然としたものだった。あらゆる結果は数値で管理され、達しないものは有無をも言わさず弾かれる。メカゴジラどころかデジタルゴジラが生まれゆく瞬間に、世界一のパフォーマンスを三桁万円で日産自動車が供するという野望に対する最短の道はこれしかないのかと妙に納得させられた。
いっぽうで、歴史や伝統といった浮動的な価値観を対価とすることを是としてきたスーパースポーツの世界に、空気も読まず斬り込んでいくその姿に、もしや日産は大きな覚悟もなく、自らパンドラの箱を開きにいってしまったのではないかという不安を感じたのもまた事実だ。
結果として、スーパースポーツにおけるパラダイムは変わったのか。
答えはどちらともいえない。カテゴリーの動的性能を示す数値が一気に引き上げられたのは紛れもない事実であり、その点においてGT-Rは重大な影響を及ぼしている。
が、ついこの間までは東洋の神秘だった、GT-Rという名にまつわる総合的な価値がライバルと肩を並べるに至ったと考えるのは早計だ。たとえ圧倒的な速さでその存在が一夜にして知れ渡ったとしても、時間の積み重ねによって得られた他所の名声とは一夜にして並ぶことはない。みるからにラジカルでもその実、超コンサバティブなのがスーパースポーツの市場でもある。
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7年めの変化
いま、GT-Rがなすべきことは、その最大の存在意義であるレコードブレーカー的なパフォーマンスをエクストリームモデルに託する一方に、ニュルブルクリンクとは縁のないユーザーに向けてあたらしい価値を提供する標準モデルを他方に据えて、双方向からシンパの満足度を高める、あるいは新規ユーザーの訴求機会を増やすこと──。
あくまで全量同性能に拘った水野和敏氏の退職後、あらたな開発責任者はそう考えたのだろう。周囲のライバルたちがさながらスポーツセダンのような快適性を身につけている昨今の状況からみれば、それは至って自然の成り行きだ。
どの要因によって副次的にもたらされるところが大きかった。硬いけど減衰感がすっきりした、或いは動作部の摺動感が減少したことによるいいもの感の向上が、上質さの向上と捉えられていたともいえるだろう。
2014年型のGT-Rは、そのモデルライフ上で初めて足回りを乗り心地のために手を入れた。
具体的にいえばバネレートを落とし、ダンピングを微小領域からよりしっかり効かせる側に設定を変えている。そのぶんロール量は増え、車体がブレークする絶対速度は下がることになるわけで、14年型のGT-Rはニュルブルクリンクを走れば若干ながらもまちがいなく2013年型より遅いはずだ。開発側もそれは認めていて、標準車ではタイムを計測するつもりはないという。
とはいえそれは、日常は無論、サーキットでも我々が容易に到達できない超高次元領域での挙動変化の話だ。そこを譲ったぶん、得られた乗り心地面での変貌は劇的と称してもいいだろう。
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変化したことで得たものは多い
もっとも変わったのは、路面の状況変化に対する寛容さかもしれない。大きなうねりや鋭利な凹凸を通過したさいの突き上げ感や、轍に対しての反応は、これまでのGT-Rでも少しずつ洗練されてはいた。が、ライバルの進化が長足ななか、つねに車体やステアリングを揺すられながらの日常走行がこのクルマに低級感を印象づけていたのも事実だ。
14年型ではこの辺りの過敏なキックバックが綺麗に取れ、クルマなりに任せてもしなやかに真っ直ぐ転がっていくほどに足回りの印象が丸く変化している。いっぽうで、我々が遭遇するあらかたのシチュエーションで痛痒な思いをするわけでもない。
走りの変化を体感しやすい首都高や都市高速のような、交通量の多い有料・幹線道路では、轍やジョイント段差は無論、滑りやすい白線の敷設や逆カント──と、あらゆる不快要素が満載のそこを、姿勢変化や路面のフィードバックを感じながら気持よく走れるようになった。
GT-Rの法外な基本性能を極力活かしながら、GTとしての性能を俄然引き上げたという印象だ。過去のテストデータと開発陣の経験則とをすり合わせて、実質3~4ヵ月で決定したというそのアシの設定を知ると、もう少し早くブレークスルーしていてもよかったのではないかという残念な想いも頭をよぎる。
常速域での路面追従性の向上──つまり上屋の動きがフラットになり、走らせやすくなったということは、さもすれば燃費にも好影響をもたらすのかもしれない。60-80km/hを制限速度とする首都高での試乗では時折敢えてレスポンスや接地感を確かめるなど、さほどアクセル操作に神経をすり減らした覚えはないが、車載計は12-13km/!あたりの値を示していた。
もともとパフォーマンス比の燃料消費率は悪くないクルマだが、車体の動きが穏やかになったぶん、推進力のための無駄踏みが減ったという印象だ。
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もうひとつの進化―GT-Rニスモ
日常的なステージにおける魅力を一気に高め、ライバルに比するアベレージに達した基準車に対し、数的性能値を担うモデルとしてあらたに設定されたのが「GT-Rニスモ」だ。
日産のモータースポーツ ディビジョンであるニスモの名を世界的なブランドへと高めるという日産のストラテジーにおいて、このモデルは市販車側の核となるもの。それがゆえ、こちらはサスセッティングやエアロパーツ、タイヤに至るまでがサーキットスペックで仕立てられ、更なるエフェクトパーツの付加によりニュルブルクリンクを7分8秒台という前代未聞のタイムで駆けぬけるポテンシャルを有している。
さらにこの上には、サーキット専用車としてFIA-GT3レギュレーションに準じたモデルを置くなど、ここにきてGT-Rはハイアマチュアから完全なプロユースまでのモータースポーツを全網羅するという布陣を完成させた。中軸にある標準車の間口を広げつつ、スキルに応じた奥行きをもたせる、このモデル展開はポルシェ「911」のそれに準じた考え方とみることもできる。
とはいえ、そこはナンバー付のモデルである。GT-Rニスモの公道走行は苦行の連続──というほどに絞り抜かれているわけではない。が、タイムを削り取ることが目的ではない多くの人々にとっては、それが宝の持ち腐れとなるのもまた確かだ。
いっぽうで、ニスモの存在によってコンマ一秒でも速く──という縛りから開放された標準車は、これまでではうかがえなかったGT-Rの公道適性を非常にクリアに示している。ともあれ健康的なあり方になったのは、我々ユーザー側にとってまちがいなく朗報だろう。
Nissan GT-R 2014 model|日産 GT-R 2014年モデル
ボディ|全長 4,670 × 全幅 1,895 × 全高 1,370 mm
ホイールベース|2,780 mm
トレッド 前/後|1,590 / 1,600 mm
車輛重量|1,740 kg
エンジン|3,799cc V型6気筒ツインターボ
ボア×ストローク|95.5 × 88.4 mm
最高出力| 404 kW(550 ps)/6,400 rpm
最大トルク|632 Nm(64.5 kgm)/3,200-5,800 rpm
トランスミッション|6段デュアルクラッチ トランスミッション
駆動方式|4WD
サスペンション 前/後|独立懸架ダブルウィッシュボーン式 / 独立懸架マルチリンク式
タイヤ 前|255/40ZR20
タイヤ 後|265/35ZR20
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク φ390mm
ブレーキ 前|ベンチレーテッドディスク φ380mm
燃費|8.7 km/!
価格(消費税込み)|
(ピュアエディション)930万9,600円
(ブラックエディション)1,021万6,800円
(プレミアムエディション)1,040万400円