Patek Philippe|レトログラード日付表示付永久カレンダー機構を搭載した懐中時計
Patek Philippe|パテック フィリップ
Antoine Marie Philippe Louis d'Orleans
アントワーヌ・ドルレアンの懐中時計
19世紀中ごろ、スイスからスペインに届けられたのは、グランド・コンプリケーション機構を搭載した懐中時計だった。
Text by KOIZUMI Yoko
レトログラード日付表示付永久カレンダー機構を搭載した懐中時計
王侯貴族たちがパテック フィリップの時計を求めたいと思った場合、活躍するのが王族の御用達商人である。ここで紹介する懐中時計がつくられた1865年当時、スペイン王妃イザベラ2世付きおよびスペイン王室御用達商人は、マドリッドの時計師フェルナンド・デ・ラ・ペーニャであった。
彼は1860年代、グランド・コンプリケーションをはじめとする、当時のパテック フィリップの重要なタイムピースを多数買い上げており、これも購入したグランド・コンプリケーションのうちのひとつである。
持ち主はフランスの王族であるアントワーヌ・マリー・フィリップ・ルイ・ドルレアン(モンパンシエ公)。フランス王ルイ・フィリップ1世の末子である。彼はスペイン王妃イザベラ2世の妹、ルイーサ・フェルナンダ・ド・ブルボンと結婚しており、この結婚によりスペイン王子アントニオの称号も得ている。
こうした姻戚関係によって、スペイン王族付きのペーニャが、フランス王族ドルレアンの時計を注文したのだ。ケースにはアントワーヌと妻であるルイーサを統合した紋章冠が彫られている。
アントワーヌ・ドルレアンの懐中時計は、超複雑機構のひとつである永久カレンダー機構を搭載している。永久カレンダーとは、月の日数や4年ごとの閏年も計算に入れて、時計がグレゴリオ暦に基づくカレンダーを、自動的に修正して表示するというもの。
日付は中央に扇状(レトログラード)に表示され、7-8時位置に月表示、6時位置に曜日表示を装備する。またカレンダー表示に加えて、12時位置にムーンフェイズ、4-5時位置にスモールセコンドを装備し、これらをシンメトリーを基本にした配置にしているのも特徴といえるだろう。
さらに、このモデルで驚くべきは日付表示が瞬時日送り式ということ。これは31日(もしくは30日)の12時を過ぎると、1日へ瞬時に針が飛ぶことを意味する。180度の瞬時の針移動を実現するのは、高い技術が必要であり、当時の技術力の証左といえるだろう。
イエローゴールド・ケース、竜頭巻上げ・プッシュピースによる時刻合わせ式
高さ72.7mm、直径49.6mm、厚さ17.1mm