メルセデス・ベンツ Eクラスに試乗|Mercedes-Benz
Mercedes-Benz E-Class|メルセデス・ベンツ Eクラス
メルセデス・ベンツ Eクラスに試乗
OPENERSでもすでにお伝えしているように、もはやモデルチェンジといってもいいほどの惜しみないマイナーチェンジが「Eクラス」にくわえられた。この新型Eクラスに河村康彦氏が試乗。さらに、四輪駆動モデルと、性能を向上させた「S」モデルを追加した、あらたな「E 63 AMG」にも試乗する機会を得たという。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
尋常なマイナーチェンジではない
Eクラスが変わった。現行モデルが2009年のデトロイト モーターショーで発表をされて以来はや丸3年。おそらくはモデルライフ半ばと推測されるこのタイミングで、いわゆるマイナーチェンジがおこなわれたというわけだ。
マイナーチェンジといえば通常は、後に登場のライバルにたいする競争力を高め、また“最新型”である事をアピールするために快適装備の充実をはかったり、コスト面も考慮して比較的容易におこなえる前後バンパーなどの樹脂パーツのデザイン変更などで“お茶を濁す”というのがありがちなやり方。
が、今回のEクラスに施されたリファインは、とてもその程度のレベルには留まってはいないのだ。
見た目のフレッシュさを表現するべく、ルックス面にも手がくわえられているのは間違いない。Cクラスに習い、エンジンフード先端にスリーポインテッドスターのマスコットが置かれたモデルと、それを大型化してグリル中央部に内蔵する“ふたつの顔”を用意した事も、最新モデルでのトピックとなっている。
だが、そこではさらに「あたらしいデザイン言語による解釈を採用」と謳いながら、ボディパネルそのものの造形までも変更をするなど、通常のマイナーチェンジの規模を超えた相当なコストを費やしているのは間違いない。間もなく発表予定の次期型Sクラスで華々しく発表すべく準備されたはずの最新の安全ディバイスの多くを、大胆にも“先取り採用”した点も見逃せないポイントだ。
4気筒のガソリンエンジンを完全に刷新した事も大きなニュースと紹介できる。
排気エネルギーを回収するターボチャージャーと、高圧縮比化による効率向上を可能とする直噴システムの採用は、今や“定番”とも言える内容。ただし、このあたらしい4気筒エンジンでは「ターボ付き直噴ユニットとしては世界初」という希薄燃焼を可能としているのだ。
ここまで来れば、今回Eクラスのセダンとステーションワゴンに実施されたマイナーチェンジが「尋常なレベルではない」と言いたくなる事も納得いただけるだろう。
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メルセデス・ベンツ Eクラスに試乗(2)
まずは新エンジンのE 250をテスト
今回テストドライブをおこなったのは「E 250ブルーエフィシェンシー」のセダンとワゴン。ともに、前述のあたらしい4気筒エンジンを搭載する。日本導入時にも“目玉的な存在”になるであろう注目のモデルだ。
2リッターの排気量から得られる最高出力は211ps。その発生回転数が5,500rpmと低いところが、昨今の“エコ エンジン”らしいひとつのポイントだ。
しかし、「本当に驚くべき」は、350Nmという最大トルクを発する回転数にこそある。何とそれは、わずかに1,200rpmから。こうしたカタログ・スペックから推測をする限り、この新エンジンは「限りなくディーゼルに近い出力特性の持ち主」と、そう表現する事もできそうなのだ。
新エンジンの性格は?
実際、いざテストドライブへとスタートをしてみれば、そうした推察が「当たらずといえど遠からず」である事をすぐに実感できた。
アクセルペダルをごくわずかしか踏み込まない、日常多く遭遇をする緩加速のシーンでも、スタート直後からググッとトルクが盛り上がるのが印象的。いわゆる“ターボラグ”を意識させられる事は皆無で、なるほどそれは、ある意味「良くできたディーゼルエンジン」のような感覚なのだ。
残念ながら、国際試乗会の場では正確な燃費計測の機会は得られなかった。が、そんな日常シーンで必要となるアクセル踏み込み量の少なさから、「なるほどこれなら実用燃費も優れているにちがいない」とおもわせてもくれるのだ。
しかしながら、それではこのモデルの動力性能が“鈍”なのかといえば、決してそんな事はない。何となれば0-100km/h加速タイムはセダンが7.4秒、ワゴンでも7.8秒と発表されているし、最高速もそれぞれ243km/hと233km/hだから、その実力はむしろ“俊足”と表現しても良いもの。
街乗りシーンではとことん扱いやすく、しかしいざアクセルを深く踏み込めば軽々と周囲の流れをリードできる──E 250の動力性能は、そんなポテンシャルを秘めているという事だ。
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メルセデス・ベンツ Eクラスに試乗(3)
つづいてE 63 AMGへ
いっぽう、すべてのEクラスの頂点に立つトップパフォーマンスモデル「E 63 AMG」にも、今回強力なカンフル剤が注入をされた。
専用チューニングを施したより高出力なエンジンを筆頭とした従来モデルでのセットオプション“パフォーマンスパッケージ”を、あらたに「S」モデルとしてグレード化。同時に“4MATIC”を謳う4WDシャシーが新設定されたのだ。
ちなみに、標準仕様のエンジンも従来の525ps/700Nmから、557ps/720Nmへと最高出力/最大トルクをアップ。専用のエンジン制御プログラムを採用の上で最大ターボブースト圧を0.9barから1.0barへと引き上げた前出「S」モデルでは、585ps/800Nmという強大な出力を誇っている。
すべてがそんな強心臓を搭載する「S」モデルとして用意される4WDモデルでテストドライブへと出発すると、まず、それがとてつもない動力性能の持ち主である事をすぐに教えられる。
もちろん、混雑した街中をジェントルに走る事が苦になるわけではない。1リッター当たり出力が100psを軽く超えるハイチューンエンジンを搭載とは言っても、こうしたシーンで扱い辛さを伴うわけでは決してないのだ。
しかし、前方が開け、アクセルペダルを踏む右足に軽く力を増してやると、まるでライオンが唸り声を上げたかのような迫力ある咆哮が耳に届いたその瞬間には、すでに自らの位置は空間をワープしたかのごとく、遥か前方へと移動しているといった感覚だ。
4MATICのセッティング
テストドライブ中には、軽く湿ったワインディングロードにも遭遇をしたが、そうしたシーンでの安心感は、同様のアクセルワークをおこなえば、たちまちトラクションコンロールが作動し、それをしめすワーニングランプがメーターパネル内で激しく点滅するにちがいない2WDモデルとは、正直「段違い」と言って良い。
いっぽうで興味深いのは、そんな4WDモデルのハンドリング感覚そのものは、後輪駆動モデルにごく近い印象であったという事。
実はこのモデルの4WDシステムは、33:67とエンジントルクを後輪側により多く伝える“FR寄り”の設定が施されている。
その上で、3ステージESPを“スポーツハンドリングモード”に設定すると、ブレーキ介入によるトルクベクタリング効果も発揮。2WDモデルにくらべるとトータルで70kgほど重量が増し、その多くがあらたにくわえられた前輪駆動系に集中したはずにもかかわらず、たとえタイトなターンを追い込むようなシーンでも、多くの4WDモデルに見られるような強いアンダーステア傾向をしめしたりはしないのである。
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メルセデス・ベンツ Eクラスに試乗(4)
Sクラスを先取りする装備
ところで、そんなAMGモデルもふくめ、今回リファインを施されたEクラスに設定の様々なドライバー支援ディバイスは、ここには簡単に紹介仕切れないほどの極めて多岐に及んでいる。
「インテリジェントドライブ」と総称されるその中から、目だった新機能だけを採り上げても、前方を横切る歩行者や車両を感知して、ブレーキ踏み込み時に通常よりも強い制動力を発する“クロストラフィックアシスト”機能を搭載のブレーキアシストや、対向車も含めた隣車線を走行する車両を検知し、車線逸脱を防止する“アクティブ レーンキーピング アシスト”、50km/h以下であれば歩行者も含めた障害物との衝突を回避すべく自動ブレーキングをおこなう“プレセーフ ブレーキ”などがその一例となる。
自動運転と自由運転への意思
こうした機能を集約していくと、その先に見えて来るのは「完全な自動運転」だ。しかし今回のテストドライブではそうした制御を、「自由に走らせたい」というドライバーの意思といかに融合させていくのかという難しい課題を、改めて教えられた気もしたものだ。
たとえば、従来からの前車追従機能にくわえ、車線維持をおこなう“ステアリングアシスト”の機能もくわえられた“ディストロニック プラス”は、実際に用いると「車線内の中央を走ろう」と常に微妙なステアリング反力を感じさせられるのがとても鬱陶しく、ほどなくこの機能はカットして使う結果へと至ったりもしたのだ。
理屈の上では、車線内の中央をターゲットにして走行するのは、確かに正しい。
しかし、たとえば隣の車線を併走するトラックが不意にこちらの車線に寄って来たりした場合、そこで横方向の車間を保とうとするドライバーの意志に反して「車線の中央に引き戻そう」という挙動が発生するのは、やはり大きな違和感と受け取れるものだ。
コーナーのRを緩和すべく、わずかに“アウト・イン・アウト”のラインを取りたいような場合も、意図的にそうした操作をおこなったにもかかわらず、ドライバーの意思に反したステアリング反力が伝わるのは、やはり心地良くおもえるものではないだろう。
ましてや、今回当方が実行をしてしまったように、そうした違和感からシステムをカットするような事態になってしまえば、それはまさに本末転倒という事になる。“人間を信頼しない”システムがおこなう制御と、それを違和感と受け取ってしまうドライバー……ここをどうすり合わせていくかは、今後のこうした技術開発の過程では、つねに付きまとう問題となるはずだ。
恐らく、世界の自動車メーカーの中でもっとも“自動運転”にたいして強い興味を持ち、実際にその研究を行っているのはメルセデスであるはず。そんな彼らも今、理屈のみでは解決のできない人間の感性と開発された技術との融合には、大いに悩んでいるところにちがいない。次期Sクラスから先取り採用の新機能を満載した最新Eクラスには、そんな事も大いに考えさせられた。
それも含めて、このモデルがおこなったのは、やはり「尋常ならざるマイナーチェンジ」だったのである。
Mercedes-Benz E 250|メルセデス・ベンツ E 250
ボディサイズ|全長4,879×全幅1,854×全高1,474 mm(4.905×1,854×1,507 mm)
ホイールベース|2,874 mm
トレッド 前/後|1,598 / 1,614 mm(1,583 / 1,604 mm)
重量|1,680 kg(1,785 kg) 運転手および荷物の重量 75kgと燃料90パーセントを含む
エンジン|1,991cc 直列4気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力| 155 kW(211ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|350 Nm / 1,200-4,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(7G-TRONIC PLUS)
駆動方式|FR
タイヤ|225/55R16
0-100km/h加速|7.4 秒(7.8秒)
燃費|6.1-5.8 ℓ/100km(6.3-6.1 ℓ/100km)
CO2排出量|142-135 g/km(147-141 g/km)
*カッコ内はエステートの数値
Mercedes-Benz E 63 AMG S 4MATIC|メルセデス・ベンツ E 63 AMG S 4マチック
ボディサイズ|全長4,892×全幅1,873×全高1,466 mm(4.904×1,873×1,522 mm)
ホイールベース|2,874 mm
トレッド 前/後|1,625 / 1,597 mm
重量|1,940 kg(2,045 kg) 運転手および荷物の重量 75kgと燃料90パーセントを含む
エンジン|5,461 cc V型8気筒 直噴DOHC ツインターボ
最高出力| 430 kW(585 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|800 Nm / 1,759-5,000 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(AMG SPEEDSHIFT MCT)
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|255/35ZR19 / 285/30ZR19
0-100km/h加速|3.6 秒(3.7秒)
燃費|10.3 ℓ/100km(10.5 ℓ/100km)
CO2排出量|242 g/km(246 g/km)
*カッコ内はエステートの数値