SPECIAL COLUMN|音楽ライター、島田奈央子が綴る朝ジャズコラム
LOUNGE / FEATURES
2014年12月16日

SPECIAL COLUMN|音楽ライター、島田奈央子が綴る朝ジャズコラム

1日のはじまりにジャズのスパイスを

SPECIAL COLUMN|音楽ライター、島田奈央子が綴る朝ジャズコラム

「Vol.1 わたしの朝を彩る音楽たち」

“書きもの”の仕事をはじめるようになってから、昼夜逆転の生活が続いている。物思いに耽るには、どうしても静寂な“月の力”が必要なわけで…。そうこうしていくうちに朝がどんどん遅くなってしまう。そんな朝の遅いわたしでも、その日の1番最初に聴く音楽はとっても大切。その日1日の気分を決めてしまいそうだから。

そういえば、高校1年生の時にCDコンポの中に入れて、毎朝タイマーに入れていたのは、トランペッターでヴォーカリスト、チェット・ベイカーの『チェット・ベイカー・シングス』。いま聴くと、全然朝向きではないのだけど、チェットの甘い歌声とトランペットで目覚め、憧れのけだるい朝でちょっとだけ大人気分に浸りたかったんだとおもう。

チェット・ベイカー 「ザット・オールド・フィーリング」
『チェット・ベイカー・シングス』収録
チェット・ベイカー
「ザット・オールド・フィーリング」

Triosence 「Distance Means Nothing」
『When You Come Home』収録
Triosence
「Distance Means Nothing」

あっという間に大人になったいまのわたしは、それこそ音楽に手伝ってもらい、とにかく早く眠気から解放されて、清々しい気分で1日を送りたいとおもう。そういう意味で音楽選びはとっても重要。サックスの音色で一気に気分をアップさせるのもよし、雨の朝ならボサノヴァ+コーヒーで優しい朝を迎えるのもよし。

これまでの人生のなかで朝ソングは色々と変化していったけれど、最近の傾向としては、朝はどうもヨーロッパ発のピアノトリオが多い。木漏れ日からキラキラと光りが舞い降りるような美しいピアノの旋律と、木々の香りがするような深いベースの音、森の中に響きわたるような爽快なドラムの音。そんな音のシャワーが全身を駆け抜け、徐々に目覚めさせてくれる。「今日は最高の1日にしよう」。そう毎日おもえるのは、朝ジャズのお陰だとおもう。

「Vol.2 休日の朝に楽しみたい映画ジャズ」

印象的な映画の名場面では、必ず音楽が流れているような気がします。バックに音楽が流れているだけで、台詞が胸に染みたり、映像がより壮大な景色に見えたり。その効果は絶大。

何度も見たいとおもう映画に『マーサの幸せレシピ』というドイツ映画があります。フレンチレストランで働く一流の女性シェフが、仕事と恋愛にまつわるさまざまな困難を乗り越え、自分にとって最高に幸せな時間を見つけていく、そんな心温まるストーリー。まさに女性好みの内容で、わたしのお気に入り映画のひとつ。なによりも、この映画を魅力的にしているのは、次つぎと現れる、見た目にも美しいフランス料理の数かず。そして流れてくる流麗な音楽。

キース・ジャレット・クァルテット 「クウェスター」
『マイ・ソング』収録
キース・ジャレット・クァルテット
「クウェスター」

ミシェル・ペトルチアーニ 「ルッキング・アップ」
『MUSIC』収録
ミシェル・ペトルチアーニ
「ルッキング・アップ」

何を隠そう、それは孤高のピアニスト、キース・ジャレットの1977年に発売された名盤『マイ・ソング』に収録されているエレガントな曲たち。映画のために作られたわけじゃないのに、こんなにもストーリーと映像にピッタリと合うのは、不思議なくらい。さらに叙情的なヤン・ガルバレクのソプラノサックスが流れることで、色鮮やかな野菜の映像さえも心に留まるシーンになっています。

その他にも、音楽と一緒に楽しめるのは、日本でも現在公開している、伝説のフランス人ピアニスト、ミッシェル・ペトルチアーニのドキュメンタリー映画『情熱のピアニズム』。彼の音楽なくして、この映画は語れません。

映画やビデオは夜に見て楽しむイメージがありますが、この2本は休日の朝から、音楽も合わせてゆっくり楽しみたい、そうおもわせる作品です。

「Vol.3 生で楽しむ朝ジャズ」

わたしがジャズを好きになるまでに、何度もチャンスの波がやってきたように思います。父が毎年クリスマスになると聴いていたレコードのビング・クロスビー、友達から借りたチェット・ベイカー、1990年代初頭にブームがきたアシッドジャズの流れ。そのたびに「ジャズっていいかも!」と気分を盛り上げます。ただその先に進もうとすると、自身の容量不足なのか、難しく感じるのか、「やっぱりわからないかも」とすぐにジャズを聴くのを諦めていたような気がします。ところが、その壁を突き破ったのは生演奏。ジャズのライブでした。

Gary Burton 「The Chief」
『Reunion』収録
Gary Burton
「The Chief」

Eliane Elias 「Paulistana」
『Paulistana』収録
Eliane Elias
「Paulistana」

それぞれの楽器から飛んでくる音のシャワー。そしてすべての音が合わさった時の爽快さ。演奏が目の前で繰り広げられると、現実から離れ、夢中で聴き入ってしまいます。ライブの楽しさは、もちろんほかにもまだまだあります。

有名な曲でも楽器の編成や演奏者によって変わったり、オリジナル曲もライブを重ねるごとに曲が進化していく、その過程を一緒に味わったり。演奏中のハプニングもスリリングに感じられるようになったら、しめたもの。演奏者同士のアイコンタクトが見えたら、自分までステージに立っているような気分になります。ライブの楽しさを知ってからは、「ジャズって面白い」「ジャズって楽しい」とおもい知らされ、寝ても覚めてもジャズ時間に。いまやCDは部屋に山積み状態です(笑)。

ケイト・フラー 「恋はくせもの」
『ギグ・アンド・ドーン』
ケイト・フラー
「恋はくせもの」

また、最近、女性1人で気軽に入れる店も多くなってきて、これもまたうれしい現象。仕事帰りに寄って、気分をリフレッシュして家に帰る女性も多いようですね。

「朝ジャズ」コラムも、いよいよこれが最終稿。朝=ライブハウスというイメージではないですが、朝に合うジャズを聴いて、お部屋をライブのように、ちょっぴり贅沢な空間にしてみてください。きっとその日の1日が変わるはずです。

島田奈央子(音楽ライター)

音楽ライターとして『ジャズ・ジャパン』『CDジャーナル』などで、ジャズを中心にレビューやインタビュー記事を執筆するほか、CDのライナーノーツを数多く手がける。クラブDJとしても都内各所のイベントに参加し、ジャズ、ボサノヴァなどを中心に活動。スペースシャワーや日テレG+、ミュージックエアなどTVでもレギュラー出演し、活動の幅を広げている。

また、自らプロデュースするジャズ・イベント「Something Jazzy」をとおして、新しいジャズの聴き方や楽しみ方を提案。2010年には著書『Something Jazzy女子のための新しいジャズ・ガイド』を発行し注目を集め、EMIミュージックからコンピCD『Something Jazzy 毎日、女子ジャズ』をリリース。昨年12月には、著書第2弾『Something Jazzy 女子ジャズスタイルブック』(CD付録)を発売した。11月12日(月)には、銀座・ソニービル1階 パブ・カーディナルにて「Something Jazzy ~秋から始める、ちょっとリッチな私のジャズ時間~」を、12月1日(土)には、長野・まつもと市民芸術館 小ホールにて「Something Jazzy 信州ジャズの夜 Produced by Naoko Shimada」を開催。

http://naoko-shimada.net/
http://something-jazzy.net/


           
Photo Gallery