プジョー3008 GTでパリ─ジュネーブ間をロングツーリング|Peugeot
Peugeot 3008 GT|プジョー3008 GT
プジョー3008 GTで1000km超を走る!
SUVは「GT」の名に値するか?
2016年5月に欧州で発表され、日本では今年3月より1.6リッターガソリン搭載モデルが販売されている、プジョーの最新SUV「3008」。日本への導入をひかえた2リッター ディーゼル版「3008 GT」で、パリージュネーブ間の往復1,200kmを走る機会を得た。ステアリングを握った南陽一浩氏によるリポートをお送りする。
Photographs by MOCHIZUKI HirohikoText by NANYO Kazuhiro
1.6リッターガソリンモデルとはまったく別物
すでに日本でも3月の発売から、デビュー エディションと呼ばれるファースト ロットが売り切れるほど人気を博しているプジョー「3008」。現在展開されているのはTHP165と呼ばれるガソリンの1.6リッター ターボ搭載モデルだが、続いてBlueHDi 180の2リッター ディーゼル版が夏から本格導入されることが決まっている。その名も「3008 GT」で、ハッチバックの「308」やステーションワゴンの「308SW」と同様、「GT」のペットネームが与えられたパワフルなスポーティグレードと位置づけられる。
その昔、「GT」といえばSUVとは程遠い、スポーツカーの延長にあるジャンルだった。スポーツカーに比肩する運動性能を誇りつつも耐候性を強化し、乗員の旅行鞄を積めるラゲッジスペースと同時に、長距離でも快適な乗り心地と十分な速さを備えたクルマ、それがGTだったはずだ。
鼻先の軽いガソリンエンジンの3008は、SUV離れした軽快なハンドリングによって、すでに日本の路上でも高い評価を得ている。だが、もっとパワーがあって前車軸重量もかさむディーゼルエンジンは、クルマとしてまったく別物といえる。果たしてそれはGTの名に値する内容なのか?
今回は左ハンドルの本国仕様で、パリからジュネーブへとジュラ山脈の峠と国境を越え、往復1,200kmを走破する、文字通りのグランドツーリングをとおして試乗することができた。テップレザーとアルカンターラというコンビネーションの内装と6段AT、そしてオプションのパノラミックサンルーフなど基本的には日本仕様に準じるモデルだ。
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SUVは「GT」の名に値するか? (2)
パリの風景に埋もれないカッパーとブラックのツートーン
3008 GTの外観上の特徴は、ボディ3分の2ほど後端側で斜めに裁ち落としたようなツートーンカラー。フランス語で「スパッとぶった切り」を意味する「クープ フランシュ」という名前が与えられたこのカラーリングは、308でもGTiやGTにしか与えられていないスポーティな仕様だ。試乗車はメタリック コッパーという銅色とブラックのツートーンで、派手過ぎず地味でもない、地味ハデのお手本と思えた。
こういう自己主張は強いのに、控えめにしていると強弁も可能そうな寸止めの美学は、なぜかパリの街並によく似合う。傘が要るほどの雨なのに、わざわざ振り返る人がちょくちょくいるのは、3008 GTにそういうアイキャッチ力が備わっている証左にほかならない。
凱旋門の裏手にあるプジョー本社を出発して、まずはパリ市内を縦断して高速道路の入口を目指す。街で運転すると、SUVならではの高い視線による見渡しのよさ、操作すべきボタンの数が少なく洗練されたエルゴノミー、そしてその気になれば信号ダッシュで他車を悠々と引き離す400Nmの大トルクが、すべて心地いい。これらは街を走る時に特有の、圧迫感やストレスを、いきおい軽減するファクターなのだ。じつは3008 GTの全幅は1,860mmと、ガソリン仕様の3008の1,840mmより2cmほど、フェンダーで広がっているが、取り回しで気になるほどではない。
ところが、相変わらず渋滞のひどいポルト・ドルレアン付近で高速道路に合流した時には気づかなかったが、料金所からフル加速してみたら、BlueHDi180はようやくその片鱗を覗かせた。いい意味で、このエンジンはディーゼル離れしているのだ。
BlueHDi180の最大トルク発生域は2,000rpmと、ディーゼルエンジンにしては高めだ。それ以下の回転数でも十分なトルクがあるものの、2,000rpm以上にのせてからの伸び、パンチ力とレスポンスに優れる。フランスの法定制限速度である130km/h巡航では6段2,000rpm弱、110km/hなら同1,700rpm。黒子仕事に徹することもできるので、車内で声の通りもよく会話もしやすい。
加えて頼もしいのは、1.6リッター版より一段と落ち着きを増した乗り心地と、どっしりした直進安定性だ。継ぎ目を乗り越えた時の足回りの収束も穏やかで速く、アルカンターラ張りのダッシュボードの高級感と相まって、サルーン顔負けの上質なクルーズ感を醸し出す。視点こそSUVのそれだが、長距離をひと飲みにこなしてしまうような、GTに求められる「アシの長い速さ」が確かにあるのだ。
だが、このままジュネーブまで高速道路で行くのも味気ない。ブルゴーニュ地方を過ぎてドールという田舎町から、ジュラ山脈を越えてスイスに入ることにした。じつはプジョー創業の地であるモンベリヤールの街もジュラ山脈沿いの谷にある。プジョーと名のつくクルマにとってホームグラウンドのような峠を、みすみす通り過ぎるわけにはいかない。
プジョーの最新解のひとつである3008 GTは、さすが申し分なく、地元のワインディングをそれこそ歌うように走り抜ける。アルプスほどの高低差はないとはいえ、無数の丘や谷に沿った中高速コーナーが連続するワインディングでは、ステアリングの正確さとトレース性の高さだけでなく、時に荒れた路面をいなせる柔らかなロードホールディングが必須なのだ。
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SUVは「GT」の名に値するか? (3)
プジョーが3008をAWDにしなかった理由
それでもロコの人々が駆る旧プジョーが、ちょっと驚くような速度ですっ飛んで行くのには舌を巻いた。冬に路面は凍結する地方だが、あれだけ飛ばすのが彼らの一般的なドライビングスタイルだとしたら、ほかの3シーズンのあいだ、重たい4WDは足枷にしかならない。プジョーが3008で路面に合わせて駆動を電子制御するアドバンス グリップ コントロールのような、重量増のないソリューションにこだわったのは、日常での軽快さと経済性を、どれだけ重視しているかの表れといえる。こう考えていくと3008 GT、ひいてはプジョーのハンドリングが育った「テロワール(土壌、風土)」を思い知らされる。実用車ながら意のままに操れる粘り強いロードホールディング性は、ぜいたく品ではなく必需品として実証主義的に育ったものなのだ。
3008 GTの1.6トン強という重量は、CセグメントのSUVとして標準的だが、ディーゼル搭載車としては重いほうではない。裏を返せば1.5トンを切る3008のガソリン1.6リッター版がそれだけ軽いということだが。
ただしその分、コーナー出口での加速の鋭さは別モノだ。トルキーなFFにつきもののトルクステアはほぼ感じさせず、次のコーナーまで明らかに速度が一段高くまで伸びる。ブレーキングから曲げるまでの動きに体躯の大きさを感じることはあるが、旋回に入ってしまえば重心の低さと足まわりの粘りが堪能できる。いわば1.6リッター版の軽快さに対して、2リッターBlueHDi 180版の3008 GTは「豪快さ」が持ち味といえる。
峠を越えると、明らかに舗装の質がよくなり、コーナーのRも緩んだ。スイス、ヴォー州に入ったのだ。非EU加盟国ながら今やシェンゲン協定下のスイス国境は、税関こそ残されているがパスポートコントロールはない。峠の麓から広がる平原の斜面はレマン湖まで続いており、その向こうにはアルプスの峰々が、雲の合間にところどころ覗く。遠くには湖の上で、かの有名な噴水が風に少しなびいている。ジュネーブはもう目の前だ。
スイスのようにガソリンと軽油の価格差のない国ではディーゼルの経済的メリットを享受しづらい。3008 GTのタンク容量は52リッター、満タンにすると現地では5,000円弱の感覚だ。今回の往復では、峠を含む下道でやや負荷が大きい走りをしたものの、平均して15km/ℓの燃費を記録した。もう少し速度域の低い日本でなら、一度給油すれば800km弱のアシの長さは望めるだろう。
総合的に見ても、3008 GTの「GT」としての資質は満足できるものだった。しかしハッチバックの308 BlueHDi 120、つまり1.6リッター ディーゼルなら通常使いでも20km/ℓ前後、一度の満タンで約1,000kmというアシの長さがあることを考えると、やはりSUVの3008にも1.6リッター ディーゼルのモデルを望まずにいられない。
308、3008とEMP2プラットフォーム以降のプジョーは確実にプレミアム感を増し、フォードやオペルといった欧州の総合メーカーからアタマひとつ抜きん出て、ドイツ車の牙城を切り崩せる存在になりつつある。だからこそ、2リッターのGTという最上級機種のみならず、クリーンディーゼルの旗手として1.6リッター ディーゼルをも日本で展開すべきではないかと思うし、期待したくなるのだ。