祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.20 民間人宇宙飛行士 高松聡さん(前編)
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2017年7月7日

祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.20 民間人宇宙飛行士 高松聡さん(前編)

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今回のゲストは、日本人初の民間人宇宙飛行士としてISS(国際宇宙ステーション)に旅立つ予定の高松聡さん。広告代理店の大手、電通勤務時代には世界初の宇宙ロケで制作したCMで注目を集めるなど、幼い頃から宇宙への憧れを持ち続けてきたという。宇宙飛行士になるための試験や訓練から、高松さんの宇宙への熱い思いまで話を聞いた。

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Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by SATO YukiText by ANDO Sara (OPENERS)

元電通マンが叶えた宇宙飛行士になるという夢

祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 高松さんは民間人宇宙飛行士ということですが、ヴァージン・ギャラクティックなどで日帰りの宇宙旅行へ行く宇宙観光客とはどう違うのですか?宇宙飛行士と宇宙観光客とを分ける定義のようなものはありますか?

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民間人宇宙飛行士 高松聡さん(以下、高松) 宇宙飛行士とは何かの定義は実は一定していないのです。色々な定義や解釈がありますが、大きく分けると2つの考え方があります。宇宙へ一度でも行ったことがある人を宇宙飛行士とする考え方と、国家宇宙機関で有人宇宙飛行プログラムの訓練を受けたクルー(乗組員)を宇宙飛行士とするという考え方です。

前者の考え方でいうと日帰り宇宙旅行の宇宙観光客も宇宙飛行士ということになりますね。宇宙旅行の契約者を「未来の宇宙飛行士」“フューチャーアストロノーツ”と呼ぶこともあります。しかし現実には日帰り宇宙旅行から帰ってきた方が私は宇宙飛行士だと言うことはあまりないと思います。

祐真 アストロノートというと響きがいいし、そう呼ばれたら嬉しいですもんね。同じように宇宙へ行くとはいえ、宇宙飛行士が行う一連の訓練は受けないですよね?

高松 飛行行程のレクチャーや非常時の対策や避難方法などを学んだりと、訓練というよりも、2日程度の講習があります。

祐真 なるほど。飛行機でも非常通路横の人は形式的ではあっても、CAに「いざとなったらここを空けてください」などと言われますね。

高松 そうですね。宇宙旅行客は乗客として乗船することになります。操船には責任がないわけです。そういった意味では先ほどの二つ目の考え方、有人宇宙飛行プログラムに沿った訓練を受けたクルーを宇宙飛行士とする考え方がやはり自然なのかなと思います。これは簡単に言うとコクピットに座り宇宙船の操船やミッションに関わるクルーと、客室に座るパッセンジャーの違いと言うことですね。前者は政府系であろうと民間であろうと訓練を受けたクルーですから宇宙飛行士と呼んでもいいかと思います。

祐真 高松さんはクルーとしての訓練をロシアで受けたわけですね。

高松 僕が訓練をしたロシアのソユーズ宇宙船のコクピットは3人乗りで、真ん中に機長、左側にフライトエンジニア1と呼ばれる副操縦士、そして右側に僕が座り訓練しました。時々船長役やフライトエンジニア1役もシミュレーションさせてもらいましたが、パイロット出身でない限りプロの宇宙飛行士も打上げ時は右に座ります。この席に座る人をライトシーターとかフライトエンジニア2と呼びます。3人しか座れないコクピットに座る限り民間人と言えども操船の一部を担当しなくてはならないんですね。一番右の僕じゃないと届かないボタンやレバーがあるからです。ですから、NASAやJAXAの宇宙飛行士と同じように、ロケットの打ち上げから帰還するまでの全行程と操船や計器の読み方、トラブル対応について勉強し、実践し、試験があるわけです。船長に「聡、あのレバーを引いてくれ」と言われた時に「どれだっけ?」というわけにはいかないので(笑)。操船のほとんどの部分を船長とフライトエンジニア1の二人がやるのですが、僕の役割がまわってくると船長が目配せしてくるので「はいわかってますよ、ポチ!」という具合です。

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高松さんのFacebook (https://www.facebook.com/Cosmo.Takamatsu/)より

祐真 JAXAの宇宙飛行士もソユーズでISSに行きますね。高松さんの役割とどう違うのでしょう?

高松 JAXAの油井(亀美也)宇宙飛行士は元自衛隊のパイロットでしたし、大西(卓哉)宇宙飛行士は元ANAのパイロットです。ですから、機長の左側に座るフライトエンジニア1という役割になります。元パイロットではないJAXA宇宙飛行士は私が学んだライトシーターとして搭乗します。といってもJAXAの宇宙飛行士は習熟のレベルも能力も何もかも私とは比べるのが失礼なくらいプロフェッショナルですけどね。ただ同じ席で同じ期待役割を学び、訓練を受けられたというのは光栄なことです。

祐真 まさに、本物の宇宙飛行士訓練ですものね。民間人用のカリキュラムがあるというわけではないんですね。

高松 はい。僕がロシアで受けた試験や訓練、実技、シミュレーションなどはすべて一般の宇宙飛行士が受けるものと一緒です。数年に一度しか民間人は訓練に来ないので、民間人用のカリキュラムというのはないんですね。

祐真 宇宙飛行士の定義はよくわかりました。ところで高松さんは“民間人宇宙飛行士”と言われていますが、この意味はどういうことになりますか?

高松 一般的な意味でのアストロノート/宇宙飛行士とは国家宇宙機関の宇宙飛行士“ガバメンタルアストロノート”です。つまりJAXAやNASAの宇宙飛行士のことですね。“政府の”という意味の“ガバメンタル”です。一方“コマーシャルアストロノート”がこれからは増えて行くかもしれません。コマーシャルとは“商業的”という意味です。現在、イーロン・マスクCEO率いるスペースエックスや、飛行機で有名なボーイングといった民間企業がISSに有人ロケットを飛ばす計画を進行させているのですが、そういった企業に所属する宇宙飛行士をコマーシャルアストロノートと呼ぶんですね。僕の場合は政府機関と民間企業のいずれにも所属していない一民間人ということで、民間“人”宇宙飛行士、と説明することにしています。私費で個人目的で搭乗するので、英語ではセルフファウンディングアストロノート、あるいはプライベートアストロノートと呼ぶ場合もありますね。単純にスペーストラベラーと呼ぶ人もいますしね。

祐真 そもそも日本には前例がないですもんね。宇宙飛行士訓練を完了して、私費で行くんだという意味ですよね。

高松 そうですね。世界では既に7人の民間人がロシアでの訓練を完了してISSに行きましたが、日本ではまだ例がありません。この7人の方のNASAにおける正式な呼称はスペースフライトパティシパント(宇宙飛行参加者)です。ですからNASA的に厳密に言えば私は「スペースフライトパティシパントに挑戦中の人」ということになります。やや味気ない呼称ですが厳しい選抜と訓練を受けた国家宇宙機関の宇宙飛行士と民間人の線引きをするのは当然なことだと思います。職業としてのアストロノートという意味では民間のスペースフライトパティシパントはアストロノートにはなり得ないのです。一方で「スペースフライトパティシパントに挑戦中の人」という言葉では宇宙業界以外では全く理解してもらえないので、先ほどの「有人宇宙飛行訓練を受けて搭乗予定のクルー」が宇宙飛行士という定義に沿って、そして自己目的で訓練をし、私費で飛ぶということから民間人宇宙飛行士と呼ぶことにしたわけです。後でお話しようと思いますが、私の目的は宇宙飛行士になることではなく、宇宙に言って自分にしかできないプロジェクトを実施することですから、呼称や肩書きは何であっても構わないと思っています。ですから宇宙飛行士という呼称にはこだわっていません。むしろ宇宙飛行士にはできないことを宇宙ですることが自分の役目だと思っています。いまは便宜上、民間人宇宙飛行士という呼称を使わせていただいていることです。日本の民間人として初めてソユーズ宇宙船とISSロシアモジュールの全訓練を終了し、全ての試験に合格したことは事実ですから、民間人宇宙飛行士ということでよいのかなと思っています。まだ宇宙へ行っていないからこう名乗るのは少し恥ずかしいんですけどね(笑)。

祐真 建築家にも、実際には建物を建てたことがない人もいますからね。選抜に合格して訓練を修了したら宇宙飛行士ですよね。

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Page02. 過酷な適正試験をクリアして訓練へ

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過酷な適正試験をクリアして訓練へ

祐真 その宇宙飛行士訓練はいつ行われたのですか?

高松 一昨年の2015年1月に訓練のためロシアに入りました。その前年の7月8月には同じくロシアでかなり本格的な適性試験がありました。

祐真 どんな試験でしたか?

高松 まず血液検査、尿検査、CTスキャンなどのいわゆる人間ドックです。全ての数値が正常でなくてはダメなんですね、50歳を過ぎているからこれはかなり難しい。実際毎年やっている人間ドックではいくつかの数値が正常値に入っていませんでした。メディカルチェックを受けるだいぶ前に厳しい食事制限を始め、パーソナルトレーナーを付けてストイックなフィジカルトレーニングもして、体中がクリーンになるように持ち込みました。そういう意味では2014年の始め頃からが戦いでしたね。努力の甲斐あってロシアで検査をした時は全ての数値が正常という状態に持ち込めました。それから虫歯がちょっとでもあるとだめなんですよ。低気圧の状態で歯に空洞があると、その中の空気が膨らんで痛みが生じるんです。だから、大嫌いで20年は行っていなかった歯医者にも集中的に通って虫歯を徹底的に治し、インプラントも何本もしました。歯医者さんに行くのは本当に気が重かったなぁ(笑)。準備のしようがないものもいくつかあって、脳波検査や心理学的検査というのもありましたね。

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祐真 ほかにはどんな試験があったのですか?

高松 カプセルの中に座らされて、標高7000メートルの山と同じ気圧ぐらいまで空気を抜かれます。事故が起きた時に低気圧になっても大丈夫かという試験ですね。閉所恐怖症でないことの確認にもなります。これは計器が壊れているのではないかと疑われるくらい心電図、脈拍共に安定していたそうで合格しました。それから回転椅子という非常にしんどい試験がありました。目を瞑って椅子に固定されたまま右回転、左回転とぐるぐる回転させられるんです。これは本当にもう気持ち悪さとの戦いです。三半規管が大混乱します。フィギュアスケートの選手や戦闘機パイロットにとっては楽勝なのでしょうが、私は普通の人間なので1分で気持ち悪くなり、全身から脂汗が吹き出し、最後は吐き気との戦いになります。4分以上耐えなくては合格しないのですが、正直吐瀉物が口まできて、それを一旦飲みこんで何とか合格しました。これはしんどかったです。二度とやりたくないです(笑)。これら全てに合格して最終日に行われたのが、大型のセントリフュージ(回転加速器)での8Gまでの加速度試験ですね。

祐真 8Gとはどのような状態なのでしょうか?

高松 70kgの体重の人が、8Gでは8倍の560kgの体重になったかのような力で座席に押し付けられるという状態です。そうなると体液が引いていくような感覚とともに胸が押しつぶされて呼吸が非常に難しくなります。酸欠して、意識が遠のいて……失神する人も多いと思います。遊園地の垂直フリーフォールも落ちていく時の加速感が怖いですが、あれで1Gの加速です。しかも10秒もその状態は続かない。それが試験では5分くらい続き、フリーフォールの8倍の加速度に達するわけですから尋常ではありません。でも、カプセルに座って脈拍や心電図のケーブルをつないで加速器が回転し始めてしばらくはあまりの加速に驚きはしますが、5Gぐらいまでは「これ、いけるな」と思ったんですね。ところが、6Gぐらいで視界がかすんできて、7Gでは何も見えなくなりました。そして残酷なことに8Gになった時に視力検査があるんです。「一番左側のCの字はどっち向きですか?」って言われても……。意識はありましたが視覚がゼロでしたから。

祐真 想像を絶しますね。それでパスできたのですか?

高松 全く見えていないわけですからもちろん不合格です。ですが、3週間後の8月31日に一回だけ追試をできることになり、そこから日本に帰国してボクサーが受けるようなトレーニングに励みました。この試験に受からないと訓練入りは諦めなくてはいけなかったので必死でしたね。

祐真 プレッシャーとの戦いですね。今度はどんなトレーニングをして備えたのですか?

高松 全身の筋力アップと腹式呼吸の習得がメインです。例えばトレーナーが胸とお腹の上に乗っかった上での呼吸トレーニングなどです。胸とお腹を押え付けられていると、胸を膨らませられないので、横隔膜を上下することで息をする腹式呼吸の訓練になります。酸素を運ぶ力を高めるために鉄分等を多めに摂取する栄養面での特殊メニューもありました。航空自衛隊の戦闘機パイロットの呼吸法というのも参考にさせてもらいました。筋トレは8Gでも筋肉のバリアで肺が潰されないようにする必要があるので徹底的にやりました。そうして迎えた試験当日は、朝からヘッドホンをして集中力を高め、誰とも会話もせず試験カプセルに入りました。幸い努力が実って2回目の試験で合格することができました。

祐真 それでパスできたのはすごいですね。

高松 はい、おかげさまで。そして翌年2015年の1月に記者発表をして、その数日後にはロシアのモスクワから車で1時間半のところにあるスターシティ=星の街に入りました。ガガーリンも訓練した伝統ある宇宙飛行士訓練センターです。

祐真 寮生活での部屋は1人部屋ですか?

高松 はい。僕のように自ら志願して宇宙飛行士になろうとしているというと、さぞかしラグジュアリーなことをしているんじゃないかと思われるのですが、六畳もないんじゃないかというミニマルな部屋でした(笑)。これから変わっていくとは思いますが、ロシアには民間人プログラムも施設もないので、ロシアの宇宙飛行士と同じように学び、生活するんです。部屋にテレビもありましたが、一度も映りませんでした(笑)。でも僕はその素朴な生活が結構気に入ったんですけどね。

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高松さんのFacebook (https://www.facebook.com/Cosmo.Takamatsu/)より

祐真 訓練はロシアでしか受けられないんですか?

高松 アメリカにはISSに民間人を打ち上げるというプログラムがそもそもありません。第二に、2011年を最後にスペースシャトル計画が中止して以降NASAには人間が乗るロケット自体が存在していないんです。なのでISSに行くにはロシアのソユーズロケットしか手段がない状況が続いていて、NASAの宇宙飛行士もJAXAの宇宙飛行士もロシアで訓練してロシアのロケットで宇宙に行っているのが実情です。

祐真 アメリカがロケットを持っていない理由は?

高松 スペースシャトルは、20世紀に人類が造り得た、ある種、最大かつ最も高度で複雑で美しい工業製品ですよね。20世紀の遺産といっていいでしょう。でも、あまりにも複雑でメンテナンスが大変なのでお金がかかるんです。そして、二度も全員死亡事故を起こしてしまったことが大きいですね。次世代スペースシャトルを造る計画もなくなってしまった。

祐真 開発中のアメリカのロケットはないんですか?

高松 もちろん今の状態は異常事態なので次期ロケットの開発が進められています。今度はNASAが開発するのではなく、NASAの予算で民間企業を競争させながらロケットを開発するというスキームです。ボーイングとスペースエックスの二社が受注していて、まさに開発の追い込みをしています。来年には人を乗せたフライトが実現すると言われています。NASA、JAXAの宇宙飛行士がロシアのソユーズロケットに搭乗するのはあと数年で終わるのかもしれません。

Page03. つらかったトレーニングも終われば良い思い出

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つらかったトレーニングも終われば良い思い出

祐真 そんなレアケースな時期に高松さんはロシアのソユーズロケットの宇宙飛行士訓練を受けられたわけですね。

高松 それは本当にそう思います。民間人として宇宙飛行士訓練を端から端まで受けられるラストチャンスに近いタイミングでした。アメリカの2社のロケットがISSヘ飛ぶようになると民間人も数年後には搭乗できようになるでしょう。ただアメリカで宇宙飛行士と同じ訓練を受けられるかというとそうはならないと思います。

祐真 数年後にはアメリカから国際宇宙ステーションへ行くことも可能になるけれども、民間人の訓練はプロとは全く違うものになるだろうということですね。

高松 そうです。開発されるロケットは七人乗りの予定です。1列目は操船などやることがたくさんはあるけれど、2列目に座る民間人がやることはほぼないと思います。1年近く訓練するとか、本当の宇宙飛行士と同じように全プロセスを勉強をする必要がなくなるんです。

祐真 なるほど。

高松 ですから、アメリカで訓練ができるようになってしまうと、民間人なのに宇宙飛行士と同じ訓練ができるというのも終わってしまうかもしれません。訓練は本当にきつかったけど、終わってみると素晴らしい思い出なのでいい時代に訓練できてよかったなとつくづく思いますね。

祐真 聞いているだけでもつらそうなものばかりですが、一番つらかった訓練はなんですか?

高松 楽しいことも結構ありますよ(笑)。でも一番つらかったのは、ウォーターサバイバル訓練ですね。海に不時着したことを想定した訓練です。軌道を逸れて海に落ちてしまったが、どこに落ちたか見つけてもらえなかった。さぁ、自力で48時間生き抜けというものです。

祐真 海の上で漂流するのが大変だったのですか?

高松 大変なのは水上ではないんです。水上に出るまでなんです。カプセルって想像以上にとてもとても狭いんですよ。3人の大人が肩を寄せ合って座ってギリギリの上下左右の空間なんですね。そんなぎゅうぎゅう詰めの中で宇宙服を脱ぎ水上用の防水服に着替えないといけない。これが大変なんです。コインロッカーの中に籠って着替えるような感じです。不時着しているからもちろんエアコンは効きません。

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高松さんのFacebook (https://www.facebook.com/Cosmo.Takamatsu/)より

気温がどんどん上がって温度30度、湿度100%になっていきます。汗をかきすぎて脱水症状になったら終わりなので早くしないと、と焦るんです。「そんなに?」と思うかもしれませんが、休みなく着替え作業をして1時間くらいかかるんですね。隣の人に引っ張ってもらったり、男同士でやりたくないようなアクロバティックな体勢で接触しながら(笑)、少しずつ少しずつ脱いでいく。宇宙服を脱いだ後がさらにしんどくて、今度は海上服を着ていくわけですが、そのレイヤーが何層もあって船内は酷暑なのにニットやダウンをどんどん着ていくわけです。非常用に置いてある青いつなぎを探してまず着なければならない。さらに靴下を探して履いて、その上からダウンのつなぎを着て、ダウンの靴を履いて、毛糸の帽子をかぶり、最後にオレンジ色のゴム製の完全防水ハイドロスーツを着る。3人が終わる頃には一時間弱経過しているので、全員汗みどろになりながらカプセルを開けて、非常用の飲料水や、釣り道具なんかを持ち出して水上で浮き具を膨らませて救助を待つ。とにかく出るまでが大変で、これが一番つらかったですね。事前に大量の水を飲めば脱水症状は心配ないでしょうが、今度はトイレに行きたくなった時の対処に困ります。事前に飲む水分の量にもすごくデリケートになりました。

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高松さんのFacebook (https://www.facebook.com/Cosmo.Takamatsu/)より

祐真 その時一緒に訓練を行った2人とは今でも連絡を取っていたりするのですか?

高松 当然仲良くなりますよね。同じ釜の飯を食った仲じゃないですけど、パンツを脱がし合って、汚いところを見せ合った仲ですから。木を割ったり、コーヒーと称して内緒でウォッカを飲んだりもした戦友です。

祐真 彼らはロシア人ですか?

高松 訓練内容によって異なるのでアメリカ人もいましたが、ウォーターサバイバルのときはロシア人でした。

祐真 では会話もロシア語だったのですか?

高松 そうなんですよ。英語は片言の方もいるので、通じるのはオーケーとカモンとドントストップ、あと僕のハラショーとダーです(笑)。

祐真 修羅場ですね。

高松 はい。ロシア語の授業も難しくてつらかったです。

祐真 日本にいたら使わないですものね。ロシア語には英語のような親しみはないですからね。

高松 ほかにも記憶科目があって、毎週毎週期末テスト前の一夜漬けみたいな状態だったのがとにかく大変でした。

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高松聡|TAKAMATSU Satoshi
1963年栃木県生まれ。86年筑波大学基礎工学類を卒業後、電通入社。営業として10年以上勤務した後、2002年にクリエイティブ分野へ。05年電通を退社し、クリエイティブエージェンシーground、宇宙映像制作会社SPACE FILMSを設立。主な作品に、スカイパーフェクTV!、アディダス、NTTレゾナント「goo」、日清カップヌードル「NO BORDER」「FREEDOM」など。大塚製薬ポカリスエット「宇宙CM」で世界初となる宇宙ステーションでのCM撮影を敢行した。


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