アウディは未来の都市へ向かう|Audi
Audi Urban Future Award|アウディ アーバン フューチャー アワード
アウディは未来の都市へ向かう
人口過密化が進むという大都市の諸問題を解決するために、自動車メーカーはなにができるか? アウディA.G.は、将来におけるモビリティと都市の未来像を考える、「アウディ アーバンフューチャー イニシアチブ」というプロジェクトを展開している。このプロジェクトの中にあって、都市と建築と都市計画のビジョンを開発するという「アウディ アーバン フューチャー アワード」は、ドイツ国内の建築賞としては最高額の賞金が用意されるもので、2年に1回、表彰がおこなわれる。今回は、その「アウディ アーバン フューチャー アワード」のプレゼンテーションに参加した小川フミオ氏が、このプロジェクトをリポートする。
Text by OGAWA Fumio
2030年の都市の姿とは?
さきごろ、アウディ ジャパンはジャーナリストを招いて、アウディジャパンとドイツのアウディ本社とをオンラインでつないだプレゼンテーションをおこなった。テーマは、2012年10月に予定されている「アウディ アーバン フューチャー アワード」の経過報告。
「アウディ アーバン フューチャー アワード」とは、「未来のモビリティにかんするソリューションのため」(ルパート シュタートラー取締役会会長)にアウディが創設した賞。2010年につづき、2回目になる2012年においては、世界の5つの建築事務所が選ばれて、競い合うことになる。
各建築事務所に与えられたテーマは、自分たちの国の大都市、具体的にはボストン/ワシントン、イスタンブール、ムンバイ、珠江デルタ、サンパウロに焦点をあて、都市構造の最適化と再開発のためのロードマップを提案すること。
想定される年は、2030年。
その背景として、「アウディは都市から学び、都市の未来を形成することに貢献しつづけたい」という考えが紹介されている。
1800年には、人口100万超の都市は、ロンドン、北京、東京だけだったが、現在は442にものぼるという。さらに2030年には世界人口の70パーセントが人口800万以上のメガシティに住んでいるという予測をアウディでは紹介し、そういう都市のモビリティはどうあるべきかを考えていきたいとしている。
Audi Urban Future Award|アウディ アーバン フューチャー アワード
アウディは未来の都市へ向かう(2)
1平方キロメートルに2万8千人がいかに住むか
「アウディ アーバン フューチャー アワード」で対象となる地域の詳細と、担当する建築事務所は以下となる。
ムンバイ(インド)は「CRIT」。1平方キロメートルに28,000人が住むムンバイでは、横方向への拡張の余地はなく、垂直方向へ建物を延ばすしか選択肢がないといわれている。これほど狭い地域に住むひとに向いている移動手段はあるのだろうか。CRITはムンバイをベースに活動。めまぐるしい変化を繰り返す都市の抱える諸問題を解決するには、たんに建築家としてだけでなく、複眼的なアプローチが必要、とする姿勢で評価されている。
ボストン/ワシントン(アメリカ合衆国)は「へベラー &ユーン アーキテクチャー」。略してBos/Wash(ボス ウォッシュ)と呼ばれることもあるこの地域は、第二次大戦後、急速に発展。郊外部の人口はかつての600万人から3,000万人に膨張し、都心部への通勤者の流れが肥大化して輸送交通システムへの負担が増大。ボストンをベースにする、へベラ−&ユーン アーキテクチャーは、建築とランドスケープとアートを統合しながら、そういった問題の解決にあたる、というのをポリシーにしている。
珠江デルタ(中国)は「NODEアーキテクチャー&アーバニズム」。遠くない将来、人口8,000万人を超えるとみられる珠江デルタ(珠江河口の広州、香港、マカオを結ぶ三角地帯)では、人口の80パーセントが移住者とみられ、都市としてのアイデンティティが必要とされている。また、自動車道の建設が進められているが、自転車道や歩道のスペースはなく、都市の姿は曖昧模糊としている。
NODEアーキテクチャー&アーバニズムは、香港で設立され、現在は珠江河口の南沙区にオフィスを持つ建築事務所。建築にとどまらず、都市計画から照明まで、多岐にわたるプロジェクトを手がける。
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アウディは未来の都市へ向かう(3)
モビリティから見た、建築の重要性
イスタンブール(トルコ)からは「スーパープール」。イスタンブールは、ボスポラス海峡に面し、水路が入り組んだ都市だ。つねに地震の危険にさらされているため、地下鉄の延長で道路の負担を軽減することが難しい。将来も自動車に依存することになるこの都市で、交通渋滞を緩和するには? イスタンブールで活動するスーパープールは、整然とした都市計画より速く複雑に拡張するこの都市にあって、建築に重要性をもたせるべく活動をつづけている。
サンパウロ(ブラジル)は「アーバンシンクタンク」。ブラジルの人口の約10パーセントを擁する産業メトロポリスに取り囲まれた都市、サンパウロは、将来的にはリオデジャネイロとの合併も言われている。その際に必要とされる、あたらしい交通システムを含んだ都市計画は、正式にはなにひとつ進んでいない。
サンパウロのアーバンシンクタンクは、広範囲の都市計画を立案・設計するのを得意とする事務所。建築はフォルムでなく、合目的的に設計されるべきだし、都市計画はトップダウンでなく、現場のニーズをすくいあげるところからはじまると主張する。
当初は東京からも、「石上純也設計事務所」が参画を予定していたが、8月に入って多忙を理由に、急きょプロジェクトから外れることに。
東京の、公共交通システムと個人のモビリティとの相互作用および補完作用をテーマとしていた、その問題提起は興味を惹くものだっただけに残念だ。
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アウディは未来の都市へ向かう(4)
じつは世界的に都市の問題を解決する手立てになるのでは?
2012年10月にイスタンブールで最終的な発表が予定されている、5つの都市の未来(2030年)にたいする、5つのローカルな建築事務所の提案。
「それぞれにことなった様相を呈する都市だが、固有の問題の解決策は、じつは世界規模で各都市が抱えている問題の解決策たりうると私たちは考えています」とは、このプロジェクトの推進役であるドミニク・シュタンファーの弁。彼はインゴルシュタットのアウディ本社の会議室で、カメラを使い、東京にいる我われへリアルタイムに話しかけてくれた。
都市の変化が、自動車メーカーにいかなる影響を与えるか。シュタンファーはひとつの例をあげてくれた。
「今回は辞退されてしまったが、石上純也氏と話をしていたとき、彼が、東京では毎年、小さくない面積の土地が、再生あるいは改造計画の対象となっている、と教えてくれました。ということは、クルマを売るがわも、その変化にフレキシブルに対応する態勢を考えるべきかもしれない」
しかし、このプロジェクトは、クルマの販売台数を増やすためのものではない、と言う。
「9人の審査員のうち、アウディからはたった1名。あとは多岐にわたる分野で活躍する専門家です。彼らは、応募者が都市内のモビリティの未来形をどう考えたか、を掘り下げて評価します。アワードと銘打っていますが、勝ち負けでなく、アイディア交換の場と考えています」
アウディはこれらのプロジェクトに積極的にかかわり、排斥的な態度に遭遇しないかぎり、各都市で将来に向けた変革に、力を貸していくことを考えているそうだ。