祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.8 野口強さん(前編)
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スタイリストの野口強さんがディレクションする「MINEDENIM(マインデニム)」は、今秋デビューしたばかりの、大人の男女に向けたメイド・イン・ジャパンのデニムブランドだ。美しいシルエットと穿き心地の良さにこだわり、色落ちやダメージなどの加工は職人がオールハンドで行っている。その直営店「MINED(マインド)」が東京・外苑前にオープンした。それを記念して、ショップのコンセプトを聞きつつ、過去の色々な話も交えながらTシャツにデニムが定番という野口さんのデニム観を探った。
Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by TANAKA TsutomuText by ANDO Sara (OPENERS)
祝・ショップオープン! 目指すは大人のジーンズメイト!?
祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 久しぶりです。よろしくお願いします。お店、ついにできました。オープンおめでとうございます。
野口強さん(以下、野口) ありがとうございます。こないだレセプションにいらしていただきましたが、オープン日いつだったっけ?
祐真 自分の店!知らんのかいな。あれがオープンの日? 確か8月5日でした。
野口 じゃあ8月6日オープンです、はい。
祐真 お店の名前は?
野口 「MINED(マインド)」。単純にデニムの逆さ読みよ。
祐真 あ~……なるほど。ブランド名は「MINEDENIM(マインデニム)」ですね。
野口 山本山※1みたいなもんよ。
祐真 ホンマや。いいですね、わかりやすくて。どうですか、自分の店というのは?
野口 もっと色々徐々にやっていきたいね。
祐真 あまり商品は売っていませんね。
野口 そう。基本的にデニムしかやらないって決めてるから。Tシャツとかジャケットなどもデニム素材で。しばらくそのコンセプトでやろうと思っています。目指してるのは、大人のジーンズメイト※2(笑)。
祐真 一見わかりやすいたとえだけど、ジーンズメイトのように安くないでしょ。
野口 セレクトみたいな形にしたい、ホンマは。でもいきなりは無理なので。色んなブランドのデニムを扱っていきたい。だからジーンズメイト的なね(笑)。
祐真 デザイナーズブランドも必ずジーンズを出していますが、そういうのも並べていく予定?
野口 はい。できれば置かせてもらいたいですね。
祐真 面白いですね。アイデアはいつ頃浮かんだんですか?
野口 前から店やるならデニム屋かなと思ってて。
祐真 結局自分が一番好きなのがデニムだからということですか?
野口 そうですね。基本的に自分がいつも穿いたり着たりしているから。
祐真 変人以外の何者でもない数のジーンズ持ってますもんね。
野口 尋常じゃない数ね。こないだ勘定したら480本ぐらいあった。どうすんだっつー感じですよ。
祐真 何でもええから480本じゃなく、こだわり倒して480本なわけでしょ?
野口 まぁね。
祐真 うち100本ぐらいは一度も穿いてなかったりして?
野口 半分以上じゃない?1回も穿いてないのもある。
祐真 でも200本ぐらいは、この辺にあるだろうなってわかるんでしょ?
野口 わかるわかる。だいたいは自分で把握しているけど、まったく穿かないだろうなっていうのは畳んでパッキンにしまってある。
祐真 ホンマにいらんものは売ったり捨てたりするわけですから、残しておこうって思ってる480本なわけですよね。
野口 そうですね。それでも処分したほうがいいものもあるなと思いつつ……。
祐真 男前な考え方ですね。潔い。僕みたいに残さないわけですね。
野口 自分は残しすぎや!昔ガレージセールやった時も、売れ残ったもの持って帰るのよね。もったいない、持って帰ろって(笑)。普通、手ぶらで帰りたいやん!
祐真 その話は第二章で(笑)。お店の話を。数が一番揃っているのは、オリジナルのジーンズですね?
野口 それと、いわゆるリーバイスの加工のものです。元々のリーバイスをばらしてリメイクしたもの。リーバイスは古着を買ってリメイク。だから一本ずつ表情が違う。基本501です。
祐真 色が綺麗ですね。デザインは基本一緒にしているんですね。
野口 そうそう。今回はこのバージョンで。
祐真 面白いですね。型は一緒でも一本ずつ違うわけですね。
野口 例えばステッチを残してはいけないので、パッチポケットはほかのボディのものをつけているとか。膝抜く時に余った生地をほかのボディにつけたり。
祐真 かなり手、込んでますね。
野口 職人さんたちが頑張ってくれてますね。
祐真 いいですね、シックで。このパターンに至ったのはなぜ?
野口 いきなりハードル高いところいくのもどうかなと思って。買う人の立場もあるし、膝はいじりやすいっていうのもある。
祐真 いいリメイクですね。ほかにないもんね。
野口 レディスは結構あるけどね。
祐真 選ぶの大変やけど、これちょっと欲しいな。
野口 是非。言っていただければ裾の加工もしますんで。アタリ出したりとか、お好みに合わせた始末をしますんで。ブラックもあります。生地はオリジナル。横糸縦糸黒のジーンズってあまりないのよね。
祐真 あ、そうなの?つまりどっちかの糸が黒じゃないってこと?
野口 そう、どっちかに白糸が入っていたりする。黒くない。あってもレディスのお座敷デニム※3 みたいな。あれだとデニムじゃないでしょ。
祐真 ストレッチ効いたレギンスね。忍者みたいだよね。
野口 うちのブラックジーンズ、かなり伸びるよ。いけまっせ、お座敷でも(笑)。ラグジュアリーブランドのデニムとか、膝の裏が痛くなるの多いじゃん。
祐真 なるね。これは黒がずしっと、綺麗ですね。洗うと落ちてはくるんでしょ。
野口 でも普通のより落ちにくいと思うよ。
祐真 長年の経験を踏まえて、ね。
野口 そうですね。結局オリジナルで見立ててもらわないと自分好みにはならないってことですね。
Page02. 長年の経験を生かしたこだわりのデニムの数々
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長年の経験を生かしたこだわりのデニムの数々
祐真 (ウェストのアイコンを差して)これはなんですか?
野口 アイコンがないと寂しいなと思ってつけた。内側をレザーにして。
祐真 いいですね。印象残りますね。
野口 最近の子はベルトをせぇへんから。
祐真 しないね。なんでなんですかね?
野口 昔よりパンツの股上深いし、ジャストで穿いてTシャツインでしょ。ベルト必要ないでしょってことかな。確かに気持ちはわかるけどね……。
祐真 ベルトをしないというのはジーパンに限らず、『GQ』とか海外誌では多いかもね。スーツもベルトなしが多かったりね。(デニムを差して)これは?
野口 それは生デニム。じゃっかん伸びる。縦横黒糸。これは細身のストレート。
祐真 ちょっと501の雰囲気出てますね。だいたい細い印象ですね。
野口 そうですね。黒デニムしか売れへん言うから。一時あれだけリジッド※4売れてたのに、落ち着いた。
祐真 飽きたんかな。気持ちわかるわ。でも、また来るよ。
野口 ね。次の春夏はじゃっかんフレアで太いのを作っている。
祐真 (別のデニムを差して)これはこれで売ってるの?
野口 それぐらいの加工に見立ててる。自分が穿いていたデニムを加工屋に持ち込んで。今工場にサンプル行ってるんだけど、2年間水洗いせず、ドライクリーニングだけに出していた私物のA.P.C.(アーペーセー)のデニムがあって。それとおんなじ表情にして欲しいって頼んだんやけど、全然できなくて。10回以上やり直して、ようやくほぼほぼ近いものができた。今それを製品化してるところ。
祐真 そのA.P.C.のデニムは何回クリーニングに出したの?
野口 1ヵ月半か2ヵ月半に1回で、計10回ぐらい。
祐真 何が一番違うの?
野口 水を通さないから。で、熱だから、ちょっとテカりというか照りがでる。アタリの部分だけが色落ちしてて、ちょっと油がのったというか、熱がのっかった状態になっていく。だから、水で洗ったデニムとは全然表情が違う。
祐真 堅いまま残っているということ?ドライだけでそんなキープできる?
野口 うん、できるできる。意外とね。もちろん新品同様ではないよ。ヒゲも出てるし、破れもあるし。
祐真 この加工がいい、これやなって思ったのはなぜ?
野口 いわゆるオーセンティックなデニムの加工モノはあっても、自分がドライクリーニングだけ出して2年穿いていたA.P.C.のデニムのような加工のものって見たことないなと思っていて。で、加工やってる男の子に「これやりたいねんけど」って言ったら「強さん、無理ですよ」って即答。いやいや、無理を承知でって何遍も頼んで。
祐真 無理っていうのはどうして?
野口 水を通さないでやるというのがなかなか大変で。
祐真 ドライクリーニングって結局なんなの?何をどう綺麗にしている?
野口 わからん。詳しいことは聞いて、白洋舎さんに(笑)。
祐真 汚れを落とすなら水洗いって言われてるよね。
野口 有機溶剤を使って洗うんじゃないの?
祐真 強さんが頼んだその職人さんは若い人なんですか?
野口 30代半ばぐらいかな?
祐真 A.P.C.のを2年もそういう状態にしていたのを見せて、強さんが意図したそのフィーリングというのは彼にスルッと伝わった?
野口 そうですね。彼も好きなんだよね。10回以上やり直して、1年以上かかったけど、ようやく納得のいくものになった。
祐真 2年間穿いたA.P.C.が1年間かかってやっとできたってわけか。すごいストーリーですね。
野口 だいぶね。
祐真 この店、1階はレディメイドの売場ですね。で、2階部分は?
野口 オーダーのお客さん専用。
祐真 ビスポーク。
野口 そうそう。例えばスポーツやってたりして太ももが太い人だと、太ももに合わせて買うしかないからウェストがガバガバだったりするでしょ。でもスキニーが穿きたいなら、オーダーだとぴったりのが作れる。お金に余裕のある人って往々にして体型がちょっと変だったりするでしょ(笑)。
祐真 その言い方止めて。なんでなんだろ?
野口 お腹出てるのに細いパンツ穿きたいっていう人があまりにも多いので、じゃあやる?と。レングスに合わせるとシルエットも変わるじゃん。そういう人のためにフルオーダー。
祐真 レングスの問題なんですよね。
野口 昔みたいに1インチ刻みってないじゃないですか。
祐真 だからぴったり穿いてたんかなぁ。
野口 大人になってからはあんまり見ぃひんくなった。
祐真 ちゃんと売ってたよね。
野口 売ってた売ってた。
祐真 まぁ、それにしてもレングス合わないとシルエットがちゃんと出ない。
野口 ボタンもシルバー、14金だとか18金だとかを作ったの。まぁ、そんなのつける人いないかなと思ってたの。意外や意外、多いのね。
祐真 こういうところにこだわりたいんじゃない?
野口 びっくりしたわ。
祐真 純金とかさ、そういうところで本人的にも差がつくんじゃない?一時ドルチェ&ガッバーナのジーパンとかすっごい高いの出てて売れてたけど、パーツや刺繍へのこだわりがすごかった。
野口 グッチもやってんじゃん。刺繍だの絵柄選べますだのね。
祐真 ミラノでね。行きましたけどね。
野口 あ、行ったの?
Page03. デニムへのあくなき追求はまだまだ続く
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デニムへのあくなき追求はまだまだ続く
祐真 なんか欲しいなと思って。スーツもいいんですけど、スーツじゃ面白くないでしょ。春にブルーのブラウス買ってすごく気に入ったのね。素材も形も良くって「ああ、こういうのいいな」と思ってたら、なんとミラノの店にはオーダーのコーナーがあった。型と生地が20種類近くあるんだよね。僕は前もフロントもボタンなしの完璧なチュニックみたいな形でお城の柄のをオーダーしました。6週間かかりますって言われた。
野口 高そう。
祐真 20万ちょっと。
野口 ウソやん。20で無理やろ。
祐真 30万ぐらい。6週間で届きます言われたんやけど、すでに6週間目突入してますね。
野口 イタリア人まだ休みでしょ。
祐真 まぁ今届いても着ないからいいんですけどね。でもそのサービス、いいよね。
野口 そこで差別化したいというお客さんがいるからね。
祐真 確かにね。増えているのかな。
野口 いやー少ないんじゃない?
祐真 あれはいいよね。しかもミラノしかできないと言われると行くよね。
野口 うん。
祐真 2階はそいういうお客さんは来てる?
野口 基本的に今は知り合いだけでやっている。まったく知らない人までは、ちょっとそこまでの余裕はないから。
祐真 生産が追いつくわけでもない?
野口 うん。
祐真 そういうお悩みの知り合いが多い?
野口 いらっしゃいますね。自分だけの知り合いじゃないけどね。
祐真 強さんもこういうデニムの店オープンして、それだけ長らくジーパンを穿き続けてきているわけですが、ジーパンの魅力っていうのは何ですか?
野口 女の子と違ってボトムのチョイス、バリエーションがないやんか。スーツか、デニムか、チノパンか、みたいな感じでしょ、基本。で、自分がほら、スーツ着ぃひんし。なんやろ。ずーっと穿いてるもんやから。
祐真 スーツを着ぃひんやんか、っていう、そのスーツを着ないでここまできているこの価値観っちゅうのは何やったんですかね?つまりは嫌なんでしょ?着たくないの?
野口 なんやろ、自分の中でスーツっていうと、髪の毛もショートに刈ってて、タイドアップしてたらカッコええなぁって思うんやけど、自分がなんせロン毛やし(笑)。ロン毛のスーツ、チャラいなって感じやん(笑)。それはあかんと思っているわけ、自分の中で。でもデニム穿いてアウター、革ジャンでも何でもいいんだけど、着てる時に、たまに港区とかでクロムハーツとかつけてブーツインしてるロン毛のおっさん見ると、知らない人から見たらあのおっさんとおんなじカテゴリーにおんねんな、って思うわけ(笑)。あかんあかん、やめなあかんって思うわ。ひくわ。たまにクロムハーツの前とかでもおるのよ。
祐真 そういう人にとって、強さんは目指す例なんでしょうね(笑)。
野口 あかんねんて。考え直さなあかんねんて。それを見ると、髪の毛切って、イメチェンでもしよっかなとかさ(笑)。
祐真 強さんの短髪、この30年で1回も見たことないけどね。1回切られて怒ってる時あったよね。
野口 あったあった。
祐真 勝手に切りおって!
野口 そう。ごっつ切られて。どんだけ切ってんねんって。
祐真 その事件覚えてるわ。スタジオから帰ってきてえらい怒ってて。どうした?って言ったら勝手に切られてん!って。
野口 そうやん!
祐真 女の子と写ってたよね。
野口 そうそうそう。
祐真 懐かしい。
野口 そういう頭があるからスーツとかはちょっと。だからついデニムにいってしまうっていう。
祐真 正しいですね。ロン毛でスーツってのはかなり際どいし。僕はやってましたけど。ロン毛でスーツは確かに際どい。
野口 デニムの中でもチョイスの幅があるでしょ。リジッドみたいなのも表情もそれぞれ違って。マスターベーションなんですけどね。振り幅があるというのが楽しい。
祐真 そうですよね。そこってすごい繊細な話じゃない?細やかな違い。そういうところに、こっちのがカッコええなとか出てくるわけだよね。
野口 そう。第三者から見たら同じようなパンツでしょ?って言われるけど、自分の中では微妙に違うんですよっていうのがあって。
祐真 でもその違いが大事なんじゃないんですか?ジーパンにおける魅力というか、そこの審美眼が価値を上げるよね。
野口 同じリジッドデニムを3本買って、1年間交互に穿き続けたとしても、全て違うものになる。
祐真 それ前言ってましたね。A.P.C.を3本買って。
野口 そうそう。そういうのもまた面白いなと。
祐真 同じ時に買ったものでも扱い方ひとつで表情が違ってくる。それはすごく面白いですね。そういう楽しみ方もある。
野口 完全マスターベーションですけどね。
祐真 いやいやいや。ファッションですから。それ以外の何者でもないよね。ジーパンの追求はますますこれからも深みにはまっていくというわけですね。こうやって店までできちゃって。
野口 そうだね(笑)。
祐真 デニムとの付き合いは、いくんじゃないですかこれは、生涯。なんとなくゴールはないんじゃないですか?デニムの墓にしてください。
野口 加工入れようかな(笑)。
祐真 あ、でもリジッドの印象ないよね、強さんってね。黒の印象しかないね。
野口 最近特にね。
祐真 その辺の好みはどうなんですか?
野口 定期的にくるのよね。ちょっとリジッドでずっと穿いてみようかなとか、加工したいわゆるリーバイス穿こうかな、とか。ここ最近は黒が多いけど。
祐真 みんな知らんかもしれんけど、真っ白の穿いてはった時代なんかもね。
野口 あったあった。
祐真 最近はああいう、爽やかな感じはないの?
野口 まったくないね(笑)!ホワイトデニムね、501の。穿いてた穿いてた。
祐真 「ヘルムート ラング」の真っ白のデニム穿いてミラノの空港で会ったな。頻繁項目には入らないの?
野口 全然入らないね(笑)。
祐真 あれは何だったんですか?
野口 穿いてみたかったんやろね。なんか爽やかな感じ?
祐真 15年ぐらい前かな。
野口 ポパイの頃にさ、一回501の仕事が入って穿いてた時もあった。
祐真 90年代後半から2000年頭ぐらいですか?白穿いてた。
野口 ラングは濁ったベージュのも好きだった。
祐真 覚えてるわ~似合ってましたよね。
Page04. いわゆる“デニム屋”ではない、白い壁と寄せ木のフロアがモダンな店内
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いわゆる“デニム屋”ではない、白い壁と寄せ木のフロアがモダンな店内
祐真 この店の雰囲気、僕好きです。海外というか、例えばLAにあってもいい内装ですよね。
野口 そうかも。なんか、デニム屋ってオイルくさいというか、作業場的な、ああいう感じが多いじゃない?あれにはしたくなかった。どっちかというとウッド使っててもちょっとモダンに見えるのが良くて。商品が見やすいように白壁がいいなって。
祐真 空間、とてもモダンですよね。それがまたすごく新鮮で意外性があっていい。
野口 床だけ、ちょっとぬくもりと、味をね。
祐真 この床もウッドだけどモダンですよね。
野口 ジーンズのポケットモチーフの型にしたの。
祐真 ギミックが効いていて面白いですよね。木の色もうまいことポイントポイントで濃くしてて、いい具合になってますね。
野口 オークと三種類ぐらい使ってる。ポケットのコンセプトで、ここからインテリアデザイナーと一緒に考えていった。組み木にして考えていって。高かった~。
祐真 高いでしょ。見たことないもん。いいですね。ジュエリーも置いていくんですか?
野口 多少ね。余りに何もないと寂しいので。
祐真 長年強さんはシルバーつけてるもんね。
野口 うん。ほかにいいものいっぱいあるじゃない。いわゆるシルバーの1ドルコイン何かできないかなとずっと思ってたから、あれでバングル作った。
祐真 オリジナルなの?
野口 エンドっていうアクセの加工やってくれるとこに渡して、こういう感じにしたいって頼んで。
祐真 綺麗ですね。今日はめてる時計は、トキオクマガイ※5ですけどね。
野口 懐かしの。
祐真 カッコいいよね。
野口 やっぱカッコいい。古く見えない。
祐真 トキオクマガイのベストセラーじゃないかな。それをまだ持ってたというのがさすが。30年以上前か。強さんデビューしてそのショーに出た時ぐらいに買ったんじゃ?
野口 そうそう。でもこれは清永君※6から頂いたものでベルトを変えて新しくなった。
祐真 昔からアクセサリーはシルバーだよね。クロムからガボール※7から。
野口 いや、クロムハーツは手つけへんかったよ。リングくらいかな?
祐真 そっか。じゃあレナードとガボールか。こないだ部屋片付けてたら出てきたな、レナード。ものすごく大げさなやつ。強さんにとってシルバーとデニムの関係は?革パンとシルバーが合うとして、じゃあデニムとシルバーはちょっと違うとかあるんですか?
野口 なんやろ、昔ガボールは元々ほら真野※8とかが知り合いで、頼まれて紹介したりつけたりしてたけど。それとはまた別にエルメスのシルバーをよく買っていたな。
祐真 買ってたね!
野口 どっちかというとエルメスが好きだった。
祐真 確かに確かに。エルメスつけてましたね。
野口 ちょこまか買ってました。
祐真 エルメスの時計をパリのサントノーレの店で買うてきて、言うて強さんに頼んだことありましたね。
野口 そうですよ、ホンマ。だからシェーヌダンクル※9とか、今流行ってるけど昔ごっつ安かったからさ。
祐真 強さんはエルメスコレクターでもありましたね。
野口 そうだったね。ブルゾン持ってくればよかった。忘れてたわー。
祐真 エルメスといえば、でしたね。エルメスのブルゾン着てポパイに出てたわ。楽なスタイリングでした。私物で来てー!って。
Page05. 積み上げてきたものが結集することの面白さと素晴らしさ
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積み上げてきたものが結集することの面白さと素晴らしさ
祐真 じゃあお店について、あと何か言っておきたいことは?
野口 もう十分ですよ。
祐真 写真もいいですね。スティーブン・クライン※10の馬ちゃん。馬とデニム、合いますね。
野口 そうなんですよ。ホンマはレジの裏にも棚があって、横位置の写真置きたいなって思ったんだけど間に合わなくて。だからサム・ハスキンスのカウボーイケイトを馬がらみで無理矢理置いた(笑)。
祐真 スティーブン・クラインが代官山で写真展をした時、僕、トム・フォードのアテンドをして連れてった、っていうの思い出したわ。
野口 懐かしいな。
祐真 そういう背景が見えてくるというか、積み上げてきたものってええなって感じた。こういうところで結集するものなんだな。それにしてもあの時のスティーブン・クラインのイケてなさ。
野口 なぁ(笑)。
祐真 ただのイケてないやつが痩せてカッコよくなって大ブレイクして。
野口 10年前?
祐真 もっと前ちゃう?90年代ちゃう?
野口 そうやろな。
祐真 2000年か99年かその辺ちゃうかな。ああいうのってトム・フォードのひとつ、目利きな部分があるんだろうね。
野口 うん。
祐真 絶対あるよね。クライン、有名ではあったけどまさかここまで飛躍するっていう感じでもなかったよね。
野口 そうそうそう。
祐真 あの時太ってたよね。
野口 太ってたよ、普通に。
祐真 そうだよね。あのあとパリで朝まで飲んだ時あったじゃない?
野口 あったあった。
祐真 別人のように痩せてたよね。
野口 全然変わってたな。
祐真 不思議やなー。
<注釈>
※1 山本山
海苔とお茶を製造している食品メーカー。「上から読んでも山本山。下から読んでも山本山」というキャッチフレーズで広く知られる
※2 ジーンズメイト
ジーンズを中心に販売する衣料品チェーン店を展開する企業
※3 お座敷デニム
和室やお座敷など、畳の上に長時間座っていても膝が痛くなりにくいストレッチの効いたデニムのこと
※4 リジッド
生デニムやノンウォッシュとも呼ばれる。未洗いのノリがついた状態で出荷されるデニムのこと
※5 トキオクマガイ
ファッションデザイナー故・熊谷登喜夫氏によるブランド。パリで初めて成功を収めた日本人靴デザイナーとしても知られる。「時を忘れる時計」と名付けられたデザインの腕時計をSEIKOから発表。1987年没
※6 清永君
アパレルブランド「SOPHNET.(ソフネット)」設立者の清永浩文氏
※7 ガボール
今は亡き天才彫金師ガボール・ナギー氏によるシルバーアクセサリーブランド。クロムハーツに匹敵する地位と価格といわれ、有名人の愛好家も多い
※8 真野
2004年、Tシャツのグラフィックを中心としてスタートしたストリートブランド「RATS(ラッツ)」のオーナー
※9 シェーヌダンクル
「HERMES(エルメス)」のブレスレットの中では、定番かつメジャーなアイテムといわれる。シェーヌダンクルとは「錨の鎖」という意味で、固く結ばれた絆を象徴している
※10 スティーブン・クライン
アメリカのロードアイランド出身の写真家。ダークトーンのドラマティックな構図が特徴で、数々のファッション誌のエディトリアルのほか、ドルチェ&ガッバーナやルイ・ヴィトンなど多くのハイブランドのキャンペーンヴィジュアルも手掛ける