フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2016年6月1日

フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗|Ferrari

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗

手練れの名優のようなクルマ

かつてフェラーリ「カリフォルニア」に、よりパフォーマンスを重視した「ハンドリング スペチアーレ パッケージ」が追加され、人気を博した。そこでフェラーリは、ツインターボエンジンを搭載して2014年にデビューした「カリフォルニア T」にも、新たに同様のパッケージを設定。イタリアで開催された同モデルの試乗会からリポートをお送りする。

Text by YAMAGUCHI Koichi

ハンドリングやドライビングエモーションを重視した仕様

ブーツの形をしたイタリアのちょうど付け根の辺りにある同国最大の港湾都市、ジェノバから東へ約40km。イタリア語で“天国の湾”を意味するGolfo Paradisoと名づけられた小さな半島の西側に、リグリア海に面した風光明媚な港町、カモーリがある。海からの爽やかな風が春の到来を感じさせる4月初旬、筆者は“天国の湾”の名に恥じないこの絶景のシーリゾートを訪れていた。フェラーリ「カルフォルニア T」に追加されたハンドリング スペチアーレの試乗会が開催されたのだ。

ハンドリング スペチアーレと聞いて、ピンと来る人も多いだろう。従来型のカリフォルニアにも、2012年より設定されていたからだ。リトラクタブルハードトップを持つ2+2 コンバーチブルのカリフォルニアは、フェラーリが新規顧客開拓のために導入したモデルであり、実際、オーナーの70パーセントはフェラーリを初めて購入する層だったという。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

一方、ハンドリング スペチアーレは、よりハイパフォーマンスを求める新規ユーザー獲得を目的として設定されたものであり、彼らのニーズに応えるため、ノーマル比で30psのパワーアップと30kgの軽量化が果たされていた。結果的に、カリフォルニアの20パーセントのオーナーが同パッケージを導入したという。その成功をふまえ、3.8リッターV8直噴ツインターボエンジンを得て登場したカリフォルニア Tにも、今回、新たに同パッケージが追加されたわけだ。

試乗会場となった海沿いのホテルの中庭には、試乗のために用意された4台の真新しいカリフォルニア T ハンドリング スペチアーレが並べられていた。ロングノーズショートデッキのエレガントなプロポーションを持つこのオープンスポーツが、瀟洒なリゾートホテルとこれ以上ないというほどにマッチしているのがまず印象的だ。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

細かく観察すると、マットシルバーのフロントグリルやリアディフューザー、そしてブラックアウトされたテールパイプなどわずかな変更点が、ノーマルモデルとは異なることを静かにアピールしている。総じてごく控えめな演出は、このモデルの真価が、走らせて初めて実感できる類いのものであることを物語っているといってもいいだろう。

「カリフォルニア Tのユーザーにとって、主な購入動機がスタイリッシュなスタイリングやリトラクタブルハードトップであり、彼らが居住性や最高速度を評価しているのに対し、ハンドリングスペチアーレは、パフォーマンスやドライビングエモーションに重きを置き、ハンドリングや加速性能を評価する層を狙っています」

実際、マラネロから駆けつけた広報担当者は、試乗前日のプレゼンテーションの席で、そう語った。

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フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗

手練れの名優のようなクルマ(2)

足回りからエンジンサウンドまで多岐にわたる変更点

さらにプレゼンテーションに耳を傾けよう。今回のハンドリングスペチアーレでは、垂直剛性の向上を図るため、スプリングがフロントで16パーセント、リアで19パーセント強化されているという。さらに、磁性流体式ダンパーのSCMにも専用のチューニングが施され、「Sport」と「Comfort」での設定の差が明確化。結果、ロールの角度と速度について、前者で−7パーセント、後者で−8.5パーセントを実現しているのだそうだ。

また、トラクションコントロールシステムのF1-TCSは、コーナー出口におけるトラクションの強化を図るべく最適化され、ツインクラッチ式の7段トランスミッションはアップシフトで−30パーセント、ダウンシフトで−40パーセント、シフト時間が短縮されているとのこと。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

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412kW(560ps)の最高出力と755Nm(77.0kgm)の最大トルクを発生する3.8リッターV8ツインターボ エンジンに変更はないが、よりクリーンでパワフルなサウンドを生成させるべく専用設計のサイレンサーを用いたエグゾーストを採用。結果、すべての回転域で音圧レベルが高められた。それは、特に2000-4000rpmの回転域で顕著だという。

このように、控えめな変更に留められた外観とは裏腹に、ハンドリング スペチアーレは実にさまざまな箇所に手が加えられている。広報担当者は最後に、このモデルがノーマルの持つコンフォートさは犠牲にせず、より高いパフォーマンスを実現していることを強調して、プレゼンテーションを締めくくった。

フェラーリに乗るときはいつでも心が踊るものだが、カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレのドライバーズシートにおさまったときも、同様だった。ブラックの上質なレザーに赤いステッチが施され、丁寧に作り込まれたインテリアは、ラグジュアリーなGTとレーシーなスポーツカーの魅力を上手にバランスさせている。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

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ステアリングホイールに設置された真っ赤なスターターボタンを押してフロントのV8ツインターボユニットに火を入れる。「ハンドリングパッケージがターゲットとしているカスタマーは、エンジンを始動した瞬間から、エモーショナルな部分にもクルマのパフォーマンスを感じたい方々です」。フェラーリの広報担当者が語る通り、エンジンサウンドはノーマルモデルに比して、アイドリング時でも明らかに太く力強い。

ホテルから最寄りのアウトストラーダのインターチェンジまでは、狭く曲がりくねった道が続く。ここをATモードで走る。もはやこのトランスアクスルのツインクラッチトランスミッションは、オートマッチック車と遜色ないほどスムーズに最適なギアへとバトンタッチを繰り返す。

一方、エンジンは低回転域でも低音の効いたサウンドでドライバーの耳を刺激するが、オーバー500psのハイパワーユニットであることが嘘であるかのごとく扱いやすい。低速域でも、ドライバーの右足の動きに忠実に、滑らかに加減速しれくれる。アクセルのコントロール性に優れているのだ。

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フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗

手練れの名優のようなクルマ (3)

ワインディングロードではまさに水を得た魚

タウンスピードでの乗り心地は、ノーマルモデルに比して確かにソリッドな印象だ。前後ともに締め上げられたサスペンションにより、不整路ではコンフォートモードでも輪郭のはっきりとした突き上げを伝える。しかし、オープンボディにしては望外にボディ剛性が高いからだろう、ハーシュネスや振動が増幅されることがないから不快じゃない。むしろ、スポーツカーとして好ましいソリッド感だといっていいかもしれない。

カモーリのとなり街、レッコのインターチェンジよりアウトストラーダに入る。2速ギアの状態で、合流車線からアクセルペダルを深々と踏み込むと、一瞬の間もおかずに流麗なオープンボディは強力な磁場に引き寄せられるかのように加速した。タコメーターの針はあっという間にレッドゾーンの始まる7500rpmに達し、ステアリングホイール上部に設置された5つの赤いLEDに促され、あわてて3速へシフトアップする。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

前述のとおりエンジンには手が加えられていないが、そもそも7500rpmで最高出力を発生する高回転型のセッティングゆえ、回して楽しい。さすがにレッドゾーン付近ではNAのごとく突き抜けるような感覚に乏しいが、基本的に回転数の上昇とトルクの盛り上がりがリンクした自然なフィールが好印象だ。また、エグゾーストサウンドは、NAユニットのように甲高くはないが、特に中高回転域で、迫力のある刺激的なサウンドを聞かせてくれる。

アウトストラーダを巡航していて感心したのは、快適性だ。ルーフを開けた状態で制限速度の150km/h付近で走行しても、サイドウィンドウを上げていれば風の巻き込みがほとんどない。パッセンジャーとの会話を楽しめるほど、である。一方、固められた足回りは、高速域ではむしろ安心感につながるし、直進性も悪くない。これならば、たとえば1日500キロ以上のドライブも難なくこなせると思った。

フェラーリが用意したマップに従いアウトストラーダを降りると、試乗の舞台は急峻なワインディングロードへ移った。右へ左へと小さなコーナーがこれでもかとばかりに続く。ここでのカリフォルニアT ハンドリング スペチアーレは、まさに水を得た魚である。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

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ハンドリングはノーマルより明らかにシャープだ。ドライバーがイメージする以上にクルマの動きが俊敏で、ステアリングを切りこむと、鼻先がコーナーへ吸い込まれるように気持ちよく向きを変える。ロールやピッチングといったボディの動きも丁寧に抑えられているから、自信をもってコーナーへ入れるのだ。

前後タイヤの接地性も充分。強化スプリングが採用されたとはいえ、スポーツモードでもサスペンションがきれいにストロークして路面を追随する。トラクションのかかり具合も力強く、コーナー出口でアクセルペダルを踏み込むと、リアタイヤが強烈な勢いで路面を蹴り上げる様子がシートを通してありありと感じられる。

コーナーの進入から脱出まで、クルマの動きがとにかく軽快で、ボディが小さくなったかのような一体感に、思わず笑みがこぼれてしまう。その感覚を助長しているのが、専用チューニングが施されたツインクラッチ式7段トランスミッションだ。シフトアップ、ダウンのいずれもが迅速化されているが、特にダウンシフト時の速さが印象的。パドル操作に対し、それこそ瞬時にギアシフトを完了させるから、ドライビングをリズムに乗せやすい。とにかくこのクルマでワインディングロードを走る行為は、陳腐な表現だが切れ味の鋭いナイフを扱うような悦楽に満ちている。

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フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレにイタリアで試乗

手練れの名優のようなクルマ(4)

ワインディングロードから高級リゾートまで

試乗の途中、“天国の湾”の東側に位置する高級リゾート、ポルトフィーノで小休止をとった。いにしえより世界中のセレブリティを魅了してきたこの麗しい海辺の保養地に、これほど似合うクルマはなかなかない。ポルトフィーノの深い入り江に面した広場で、強い日差しを受けてたたずむ真っ赤なオープンボディを見て、そう思った。

Ferrari California T Handling Speciale|フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレ

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ワインディングロードから、国境を越えるような長距離ドライブ、そして高級リゾートまで舞台を選ばない。つまり、フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレは、ピュアなスポーツカーとグランドツアラー、そしてグラマラスなオープンカーの3役を見事に演じきる懐の深さを備えた、まさに手練れの名優のようなクルマだ。

「その手に魂を込められなければ、芸術は生まれない」。これは、イタリアのルネサンス期を代表する芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉だが、マラネロの技術者たちもまた、魂を込めてクルマをつくっている。今回、フェラーリ カリフォルニア T ハンドリング スペチアーレに乗って、あらためてそう思った。

ちなみに、「ハンドリング スペチアーレ パッケージ」のイタリアでの価格は7,076ユーロで、デリバリー開始は6月。日本への導入は秋ごろの予定とのこと。

           
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