Audiの矜持「Audi ultra」|Audi
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Audi ultra──Audiの矜持
Audi Forum Tokyoでは今月末まで「Audi A6 Avant」を天井からつるし、軽量化技術「Audi ultra(アウディ ウルトラ)」をアピールする特別展示をおこなっている。昨今、しばしば耳にする自動車の軽量化技術。それはいったいどんなものなのか。そしてAudi ultraとはいかなるものなのか? OPENERSはアウディ ジャパンに質問してみた。
Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)
Photographs by Audi Japan
クルマは重くなるもの
「『Audi ultra』っていうとなんだかかっこいいですけれど、実際は地道な積み重ねなんです」
アウディ ジャパンの天野一登氏はAudiの軽量化技術を説明するにあたって、そう切り出した。
自動車があたらしくなればなるほど、重くなるのはある意味で当然のことだ。パワーウインドウ、エアコンなど、快適装備の充実、サスペンション剛性の向上や4輪駆動システムの搭載といった高い運動性能の追求、そして事故から人間をまもる衝突安全性能の進化……かつての自動車には存在しなかったテクノロジーが発明され、あたらしいクルマに搭載される。それは自動車の商品価値を高めると同時に、時代の要請に応じるものでもある。必然性をもって、豪華に、大きくなる自動車は、結果的に重くなる。1970年ごろに登場した大衆車の子孫たちは、いまや祖先より1.5倍程度は重い。
しかし、その正常な自動車の進化は、重大な問題を提起する。重くなったクルマを動かすには、よりパワフルな、単純にいえばより重いエンジンが必要になる。つまり、無定見にクルマの性能、機能の進化をすすめていけば、やがてクルマの重量増加が文字通り重い足かせとなって運動性能を犠牲にしかねないし、なによりも、燃費、環境性能の悪化という問題が、大きな障害として立ちはだかるようになる。とりわけ現在のように、環境にたいする無責任が、もはや許されない状況においては深刻だ。
クルマの機能、性能の向上を継続しながらも、環境性能も高める。世界中の自動車メーカーがいま真剣に取り組むこの課題への、ひとつの解決策が軽量化だ。「100kg自動車が軽くなれば、それでリッターあたり1kmの燃費向上になると一般的にはいわれています」と天野氏。
しかし軽量化は市販車にとって簡単なことではない。アルミと樹脂でボディ全部をつくれれば、スチールだけの場合にたいしてクルマは4割も軽くなる。とはいえ軽量素材を使うといっても、それで十分な強度を確保し、求められる形状に加工して量産するには、技術の蓄積とおおがかりな設備が要る。だから、軽量素材の使用は、エンジンフードやドアといったいくつかの部分に限られたり、高価なスポーツカーへの利用に限定されたりしがちだ。しかし、Audiはちがう、というのが「Audi ultra」の、まずひとつのセールスポイントだ。
軽量化の歴史と地道な努力
今回、「Audi ultra」を強く打ち出したのは「Audi A6」で、このクルマは仕様によるものの、ドイツ本国仕様の3.0リッターTDIモデルで先代比80kgの軽量化に成功している。あたらしくなればクルマは重くなる、という常識的サイクルから抜けだしたのだ。もちろん、軽量化はAudi A6に限らず、Audiの全社的な取り組みである。このAudiの軽量化の成功は2つの要因に支えられている。
ひとつが歴史だ。現在のAudiの工場のひとつ、ドイツ、ネッカーズルム工場のもとになったのは、自動車やモーターサイクルを製造していた「NSU」。この「NSU」は1913年からアルミニウムでクルマを開発していたという。天野氏は「そのDNAが現在どこまで残っているのかは定かではないですけれど」と言葉をそえるが、このネッカーズルムこそはAudiのアルミニウム製スペースフレームボディのふるさとであり、つまりは1994年に登場した「Audi V8(A8の源流にあたるモデル)」の、オールアルミのスペースフレームにアルミパネルを取り付けて完成するオールアルミニウムボディのふるさとなのであり、かつ今回の「Audi A6」のふるさとでもあるのだ。
「アルミニウムを使いこなす生産ライン、技術の蓄積がAudiにはすでにあるんです」
そしてもうひとつが、地道な努力だ。「Audi ultraはアルミニウムの使用とボディシェルの軽量化というイメージが強いでしょうが、それは分かりやすくするためで、実際はグラム単位での軽量化をクルマ全体にほどこしているんです」
実際に、Audi A6の軽量化でも、ボディの積極的なアルミニウム化で大幅な軽量化に成功しており、それが一番大きな軽量化なのは確かだが、ほかにもエンジン、シャシー、液体類、電装系で……と、あらゆる部分に軽量化のメスがはいっている。さらに具体的にはエンジンならばシリンダーブロックを薄くする、電装系のケーブルを銅製からアルミニウム製に置き換え、バラバラだった鋼鉄の部品を一体のアルミニウム・ダイキャスト製のものにする、そして燃費向上分燃料タンクを小型化すればそこでも軽量化が可能……天野氏は次々と実例をあげて紹介してくれた。
なるほど、たしかにそれならば軽量化はできるだろう。しかし、これを実際に量産車でやるには、蓄積された技術の背景の上に、さらに地道で、かなり真面目な努力が必要なはずだ。なにしろ、細かい部分が変更されていけば、結局、それまであった部品が使えなくなってしまったり、絶妙なバランスの上になりたっていた機械を再設計しなければならなくなる可能性は十分に考えられることだからだ。
AudiはAudi A6において、競合車よりも、加速、出力といった性能でも優位に立ち、さらにCO2排出量ももっともすくない、と発表時からその完成度に自信をうかがわせていた。
その進歩をもたらしたひとつの大きな要因としてあげられる「Audi ultra」という言葉には、「自分たちは軽量化技術の先駆者であり、いまも一歩先んじているのだ」というAudiの矜持が込められているのだ。
Audi Forum Tokyo
所在地 |東京都渋谷区神宮前6-12-18
TEL. 03-5464-7200
FAX. 03-5464-7205