Leica|ライカ社社主に訊く、いま求められるモノクロームという力
Leica|ライカ
ライカ社社主に訊く、
いま求められるモノクロームという力
5月10日、ベルリンのギャラリーC/Oで発表された「ライカ M モノクローム」。
翌11日朝には、ライカ社・社主のアンドレアス・カウフマン氏が、世界中から集まったマスコミ各社のインタビューに答えた。世界的な写真家集団マグナムフォト準会員のヤコブ・アウ・ソボル氏が撮影した作例とともに、その模様をお届けする。
Text by SHIBUYA Yasuhito
「モノクローム写真には、写真という芸術の本質がある」
「モノクローム写真専用のM型をこの時期に発表したのは、モノクローム写真はカラー写真以上に純粋に“写真の本質”を体現するものだからだ。歴史的に見ても、ライカで撮影された傑作写真を振り返っても、時代のアイコンとなっている写真はモノクローム写真。実際に撮影する場合でも、モノクローム写真では純粋に『構図とバランス』が評価のポイントになる」
モノクローム写真には、写真というアートの本質が凝縮されている。それが、デジタル写真全盛の今、あえてモノクローム専用機を世に出した理由だとライカ社を率いるアンドレアス・カウフマン氏は語る。
「ドイツでの話だが、あるメジャーなデジタルカメラブランド主催のフォトコンテストに参加した作品の約40%がモノクローム写真だったという。世界的に見ても、モノクローム写真は再評価され、人気が高まっている。人々のモノクローム写真への関心と撮影ニーズは、かつてないほど高い。そして、モノクローム写真にこだわる人のこだわり方には徹底したものがある。そのこだわりに応えたい、というのがこのモデルの原点だ」
ではなぜ9月のフォトキナではなく、5月にベルリンでの発表を行ったのだろうか。
「モノクローム専用機というアイデアは2006年、モノクローム専用センサーというアイデアも含めて、初のデジタルモデルM8を発表したころからずっと暖めてきたお気に入りのアイデア。すでに完成の目処が立っていたので、9月まで待ってフォトキナでほかのモデルのなかに埋もれてしまうのは忍びない」
ライカとして、使命感を持って作った製品かと質問すると、カウフマン氏は微笑んだ。
まさにライカ社の姿勢を体現するユニークなカメラ
「他社でも技術的にはできるかもしれないが、採算を考えたら製品化は決断できないだろう。だが、ライカのよいところは会社の規模が小さく、またユーザーからのフィードバックが直接届くところ。トップダウンで製品化が決断できるから、このモデルも実現できた」
想定ユーザーとしては、すでにライカM型を所有するユーザーに加えて、マニュアルカメラでフィルムを使いモノクローム写真を撮影している若い人々もターゲットだという。価格は現時点で未定だが、ボディだけで約90万円程度とされており、けっして手が届きやすいものではない。しかし、モノクローム写真という芸術に真剣に取り組む道具と考えれば、決して高価ではないだろう。今後、世界中で発表される撮影作品がその魅力を伝えてくれるだろうが、何しろカメラとしてのスペック、魅力には際だったものがある。
35mmフルサイズセンサーの画素数は約1800万画素。
しかし、明暗差のみを記録するモノクロ専用にすることでセンサーのフィルターを省くことができ、解像度は約2倍の3600万画素に、またISO感度も約1.5倍から約2倍に向上するという。当然、カラー撮影で起きるような偽色の問題もない。このカメラが、プロフェッショナルカメラマンやカメラ愛好家のあいだで、モノクローム写真撮影の決定版的な道具となることは、間違いないだろう。
写真とは何かについて、あらためて考えさせられる。まさにライカという、現代写真の誕生と発展に関わってきた、特別なブランドならではのデジタルカメラである。