MOVIE|『ファミリー・ツリー』ジョージ・クルーニー インタビュー
MOVIE|『ファミリー・ツリー』
ジョージ・クルーニー インタビュー
現在公開中の本年度アカデミー賞脚色賞受賞、ジョージ・クルーニー主演『ファミリー・ツリー』。本国でメガヒットを記録し、賞レースを沸かせた話題作の公開を機に、マット・キング役のジョージ・クルーニーにインタビューをおこなった。『ファミリー・ツリー』は、TOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー中だ。
Text by KAJII Makoto (OPENERS)
なにしろこの映画は子どもたちが素敵だった!
──映画を作るのにもっとも重要なことは?
まず、よくできた脚本が必要だ。脚本はいろいろな面で決め手になるものだからね。それに、脚本を手がけたのが現在活躍する一流の監督の一人、アレクサンダー・ペインだ。となったら、すべてを監督の手にゆだねて、「やりすぎかな? 実存的リアリズムを15%減らすか?」と聞けばいいだけだ。サポートしてくれるからね。監督が全部、面倒をみてくれるんだよ。でもとにかく僕は映画を作ることが好きなんだ。
──父親の役を演じるのは珍しいですよね?
じつは、父親役は前にもやったことがあるんだ。過去に数本の映画で父親役を演じているし、夫を演じた作品も数本ある。でも、『ファミリー・ツリー』は今までの役とはちがうんだ。もっとずっと感情が絡んでいるし、家族とのつながりが強い作品だからね。この作品で唯一苦労したのは、素材をうまく活かしたいと思ったところだ。クセのある作品だからね。映画は、要するに、妻が昏睡状態になったところからはじまる。これはいわば、ひとが“一人前になる”成長のストーリーみたいなものだけど、なんと、その一人前になるのが50歳の男なんだよ(笑)。だから、この役を適切に演じる方法を会得するにはコツがある。でも、繰り返しになるけれど、とにかくよくできた脚本だった。良い脚本を手にしたら、なにも……ね? 脚本が良いものだったら、役者の仕事はずっと楽になるものなんだよ。
──今までの父親役とこの映画の役のちがう点は?
僕は、『素晴らしき日』(1996年)で父親を演じたし、『オー・ブラザー!』(2000年)、『シリアナ』(05年)でも、『ファンタスティックMr.FOX』(09年)でも演じている。何回か演じた経験があるけど、でも……『ファミリー・ツリー』は子どもたちが素敵だったんだ(笑)。ちなみに、次女役のアマラははじめての映画だったから、いくつものカットを撮ることを知らなくて、あたえられたアイスクリームをずっと食べつづけていたんだ。7カット撮り終わったときには、7個のアイスを食べちゃっていたんだよ!
──ジョージは現場でよく冗談を言っていますね。
つねになにかをしていることが好きなんだ。僕はテレビシリーズの『ER緊急救命室』に何年も出演していて、子どもとも一緒に撮影をしたから、どうやって撮影現場を盛り上げるかがわかるんだよ。
僕が演じたマット・キングには、ひとを見抜く力がないんだ
──この映画に出演した経緯を教えてください。
良い脚本からダメな映画を作ることは可能だが、ダメな脚本から良い映画を作ることはできない。だから、まず良くできた脚本からことをはじめることが肝心なんだ。でもこの映画の場合は、僕がアレクサンダー・ペイン監督と仕事がしたいとかなり前から思っていた。機会があって監督とトロントで夕食を一緒にしたとき、彼が僕に脚本を送ってくれると言ったんだ。じつを言えば、僕はどんな脚本だろうと関係なく出演しようと思っていたんだよね。フィルムメイカーとして彼は今まで一度もミスをしたことがないひとだからね。脚本を読んでみて、自分はとても運がいいと思ったよ。僕が判断を下すときのポイントはふたつだけなんだ。監督と脚本。このふたつさ。
──今回の役柄とキャラクターは?
『アラバマ物語』でシングルファーザーを演じたグレゴリー・ペックの演技と原作の役柄のすばらしさは、彼が見てすぐわかるようなヒーローではないところだ。彼が、黒人弁護という役目に乗り気ではないからこそ、あの役は引き立つ。彼は大義を掲げることには気が進まず、あのような行動をとるのは彼には辛いことだった。彼が役になりきるところには感服している。あのグレゴリー・ペックは、人びとがよく知っているような彼ではない。眼鏡をかけていて、いつもの>──『ローマの休日』(53年)のような格好いい彼ではない。だからこそ、僕はあの映画のグレゴリーがとても好きなんだ。
でも、この映画の僕の役は簡単に入りこめる。彼(マット・キング)はナイスガイで、仕事熱心だ。彼自身は家族によく尽くしていると思っている。彼は何もかも適切にやっていると思っているんだ。こういうひとは理解しやすい。レッドフォードが『普通の人々』(80年)について話したことを覚えているんだが、あの作品の登場人物たち、あの家族は何事もなくうまくいっていたと言うんだ。夫婦の間は冷え切っているとはいえ、表面上はなにもかも順調だったはずが、途中で悲惨な出来事が起こる。こういう考えが好きなんだ。というのは、『ファミリー・ツリー』では人生の過程として、子どもたちは失敗し、妻が煙草を吸って酒を飲み浮気をしていたとしても、彼はそんなことになっているとはまったく気づいていない。でも、ある事件が起きて、この男は自分が今まで主張してきたものを全部失ったことを認めざるをえなくなる。彼にはひとを見抜く力がないんだ。これは面白いキャラクターだと思う。というのは、僕がいつも演じるキャラクターはしっかりした人物で、徐々に心を失っていることに気づく。今回の役は心を失ってはいないが、優しい男だ。ただ認識が甘い。監督とずいぶん話し合ったんだが、必要なのは許すこと、受け入れることだ。妻を許すとか彼女がやったことを許すというだけではなくてね。いわば、ひととしての失敗を許すことだ。こういう考えがあるから、この役は面白いと思ったんだよ。
>──では、アレクサンダー・ペイン監督について。
アレクサンダーは物語をとても早く変化させることができるんだ。面白くなったと思ったら、悲しくなったり、それでまた面白くなったりってね。これは彼に備わっている天性の才能で、勉強して得られるようなものじゃないんだ。彼のような才能をもっているひとはなかなかいないよ。アレクサンダーほどのレベルの人だと、“面白い”から“悲しい”への切り替えをみごとに捉えることができる。この切り替えをうまくやるのはとっても難しいことだ。彼ほど上手にやれるひとはそれほどいないよ。たとえばラストの方のシーンでそれがうまく効果をあげている。(自分の妻の不倫相手の妻を演じた)ジュリーがあの場面ではとても面白い。ジュリーが面白いところを見せている。ひどく悲しいのに、おかしいんだ。ジュリーはまさに渾身の演技を見せた。あれは監督の演出力の賜物だよ。僕の役目は、あのシーンをダメにしないように気をつけることだった。これは本当の話だ。彼はとても賢くて、才能があって……もっと活躍するべき人物だね。
<ストーリー>
マット・キング(ジョージ・クルーニー)は突然の悲劇に見舞われる。ボートの事故で、最愛の妻エリザベスがこん睡状態に陥ってしまったのだ。さらに、妻には恋人がいて離婚を考えていたことまでが発覚する。友人だけでなく、長女までがその事実を知っていたことに愕然としたマットは、いやおうなしに自分の家族と人生をもう一度見つめ直し、向き合うことになる。その一方で彼は、祖先より受け継いだハワイの広大な土地を売却するか否かという重大な決断にも迫られており、親族らの家族会議が開かれているさなかでもあった……。全編を彩るハワイアン音楽、悠々たるハワイの絶景を背景に、自身のルーツ、人生の選択、家族の再生に向き合う男を、ジョージ・クルーニーが絶妙に演じ、圧倒的な感動で満たす。
『ファミリー・ツリー』
監督|アレクサンダー・ペイン(『サイドウェイ』(アカデミー賞脚色賞受賞)、『アバウト・シュミット』)
脚本|アレクサンダー・ペイン、ナット・ファクソン、ジム・ラッシュ
キャスト|ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー(長女アレクサンドラ)、アマラ・ミラー(次女スコッティ)
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