911の弟分にしてライバル!?─ケイマンのトップモデル「ケイマン R」に試乗!|Porsche
Porsche Cayman R|ポルシェ ケイマンR
911の弟分にしてライバル!?
ケイマンのトップモデル「ケイマン R」に試乗!(1)
ケイマンRは、従来のケイマンの走りをさらに研ぎ澄ませたモデル。スポーツカーの本質とはなにか? それは軽快な走りにある、とするポルシェが、従来のケイマンSをベースに、エンジンをチューンナップにして10psアップするとともに、55kgも軽量化。操縦する楽しさを追求したモデルだ。
文=小川フミオ写真=高橋信宏
スポーツカー開発におけるベーシックを追求
ケイマンは、3.4リッター6気筒水平対向エンジンをミッドシップしたふたり乗りのスポーツカー。911が「進化」していくと、ひょっとしたらここにたどりついたのでは、と思わせる、俊敏な走行性能でファンを獲得してきたのがよくわかる。
265psのケイマン、320psのケイマンSというラインナップに追加されたケイマンR。「すでに確立されているスポーツカーコンセプトを磨き上げるにはどうしたらいいでしょう」とポルシェは提言し、それにたいして「よりダイナミックで俊敏な走りを発揮させるために、必要なものを最小限に抑える。これが私たちのアイデアでした」とみずから答えている。
軽量化のためにドアはアルミニウム製が採用され、同時にオーディオとエアコンはオプションで用意されるようになった。
パワー・トゥ・ウェイト・レシオ、軽量化と高出力化のバランスという、スポーツカーの教科書があったら1ページめに出てきそうな、もっともベーシックなコンセプトの重要性を、大排気量化と安全装備と快適装備による重量増がセットで進んでいるスポーツカーの世界にあって、あらためて教えてくれている。それがケイマンRだ。
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ケイマンのトップモデル「ケイマン R」に試乗!(2)
人間の感性を刺激する精密なエンジニアリング
ケイマンRの魅力は、ドアを開けるときにすぐ感じる。軽いドア。そしてバケットシートにからだをいれ、ドアを閉めるとき、やはり軽く、かつ作りのよさがよくわかる乾いた音を立てる。これだけでも、ポルシェの精密なエンジニアリングが背景にあるのを感じ、うれしくなる。
排気音は専用チューニングされている模様で、ケイマンSより存在感を感じさせる。2,000rpmを超えるとすでに、低音を中心としたエグゾーストノートが車内にも聞こえてくる。これは演出なのだが、ケイマンRにわざわざ乗るひとで静粛性を求めるひとはいないだろう。しばしスポーツカー操縦を楽しみたいとき、ぐいぐいと独特の世界に引き込んでくれる、上手な演出だ。
出足は軽快、さらに加速性はすばらしく、背中がシートバックに押しつけられるような加速をしなくても、楽しさを感じさせてくれる。
官能評価という言葉が自動車の世界にはある。“どうしたらドライバーが気持ちよく乗っていられるか”という人間の感性を中心に、操作系の過渡特性(たとえばハンドルをまわしていくときの重さや車体の反応速度の設定)や、加速性などを決めていくものだ。ケイマンRでは、それがじつによく煮詰められている。
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ケイマンのトップモデル「ケイマン R」に試乗!(3)
低重心、ミッドシップレイアウトにより味わえるスポーツドライビングの醍醐味
試乗したケイマンRの変速機はマニュアル6段。フェラーリがオートマチック(デュアルクラッチ)に移行している昨今、ポルシェは新型911でもマニュアルギアボックスを残してくれているのがうれしい。たしかに、ケイマンRにもPDK仕様が設定されているように、デュアルクラッチでクルマは速く走らせられるが、ギアを操作するのは、とりわけスポーツカーを好むドライバーにとって大きなよろこびだ。
ケイマンRのシフトフィールは、どういうわけかかつてのポルシェ製FRスポーツ 968を連想させた。911よりダイレクト感が足りない。もちろん、それでも充分フィールはよく、1速で発進、すぐに2速にあげてそこでぐいぐいと加速して、トルクのピークが出る4,700rpmあたりの、脳天を直撃するようなパワー感に酔いしれることができる。これこそ、マニュアルギアボックスのケイマンRの大きな魅力だ。
乗り心地は、スポーツシャシーということもあり、やや硬め。同乗者が不愉快になるほどではない。Rがついていても、メインは公道での走行だからだ。ただしワインディングロードでは、水平対向エンジンによる重心高の低さ(くわえてケイマンRはケイマンSより20mm車高が低い)と、ミッドシップレイアウトによるナチュラルな挙動の恩恵で、スポーツドライビングの醍醐味が味わえるのはたしかだ。
ハンドルは正確で、車体の動きはドライバーの考えるとおり。330psのエンジンは、コーナーからの立ち上がりで、強力に車体を押し出す。ワインディングロードに入った瞬間、このクルマを選んだのが正解だったことを納得するだろう。
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ケイマンのトップモデル「ケイマン R」に試乗!(4)
ケイマンRはつぎの911がもつべき姿だった(?)
ケイマンRは6段MTモデルが980万円。ケイマンSが754万円なので、226万円高い。さらにセラミックブレーキをはじめ、オプションがいくつも用意されている。それらを選択していくと、かつての911をしのぐ価格になりかねない。
この価格が安いか高いかは、買うひとの価値基準なので、どうこう言う余地はない(高級車の価格について語るのは、つねにむずかしい)。ただしケイマンのほかのシリーズより明らかに、もともと小型ミッドシップスポーツにポルシェが込めたかった思いが、強烈に出ているのがケイマンRであるのはまちがいない。
現行の911には、かつて993の時代まであった“軽い”という印象はない。パワフルだが発進のときには、ごく一瞬だが「遅れ」が感じられる。それは目をつぶってもいいレベルなのだが、スポーツカーのありかたとして納得いかないというユーザーも世のなかにいる。
ケイマンRは、安全性などの要件で大きくなり、快適性もライバルに伍して追求していかなくてはならない911が置いていかなくてはならなかった、ある種の「性能」を有している。
繰り返しになるが、実現しなかった未来の話しとして、ひょっとしたら911が進んだかもしれない方向の、行く先にあるのではと想像すると楽しいケイマンR。俊敏で、ハンドリングがよく、スポーツドライビングのひとつの極を楽しませてくれる。その意味で、ポルシェにとって、なくてはならないモデルなのかもしれないと感じた。
Porsche Cayman R|ポルシェ ケイマンR
ボディサイズ|全長4,345×全幅1,800×全高1,285mm
車輌重量|1,340kg
エンジン|3.4リッター水平対向6気筒
最高出力|330ps(243kW)
最大トルク|370Nm/4,750rpm
トランスミッション|6段MT
価格|980万円