BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗|BMW
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
BMW初のファミリー向けMPVモデル
BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗
「2シリーズ グランツアラー」は、BMW初となるCセグメントFFモデル、「2シリーズ アクティブアラー」をロングホイールベース化し、3列シートを備えたミニバンだ。プレミアムブランドを自認するBMWはMPVをどう仕上げたのか。姉妹モデルとなるアクティブツアラーとの比較とあわせ、櫻井健一氏がリポート。
Text by SAKURAI KenichiPhotographs by HANAMURA Hidenori
サードシートをもつ7人乗りMPV
おなじ2シリーズを名のるところからもわかるように、「2シリーズ グランツアラー」は、BMW初のFFモデルである「2シリーズ アクティブツアラー」から派生したモデルだ。
両車のちがいを端的に言えば、一般的な2列シートを備えたFFコンパクトモデル「2シリーズ アクティブツアラー」のホイールベースを110mm延長し、そこにサードシートをあたえたのが「2シリーズ グランツアラー」。ホイールベースの延長に伴い、「2シリーズ グランツアラー」の4,350mmの全長は4,565mmへと215mm伸ばされ、同時に車高も95mm高くなっている。
延長分は、すべて居住空間の拡大に当てられていると考えていい。ただし、BMWではミニバンとはいわず、このクルマを7人乗りのMPVという。これまでどのシリーズであっても、まずは走りを全面に押し出してきたプレミアムブランドだけに、ファミリー向けをあからさまにウリにはしないのであろう。主観だが、斜めに見れば、FF、3列シート、7人乗りというキーワードが満載の「2シリーズ グランツアラー」であっても、決して所帯じみたイメージなどは出したくないはずである。
一般に、確かにミニバンの利便性は理解しているものの、生活臭が感じられるそのスタイリングから敬遠する層は少なくない。ベビーカーをクルマに乗せたいが、ミニバンはライフスタイルに合わないという理由からアウトドアスポーツを趣味としないはずなのにあえてSUVを選ぶユーザーや、むりやりマセラティのトランクに入るベビーカーを選ぶというセレブ奥様もいるほどだから、BMWのMPVに一定の需要はありそうだ。
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
BMW初のファミリー向けミニバン(風)モデル
BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗 (2)
3列シートとディーゼルで差別化
ライバルはズバリ、メルセデスの「Aクラス」「Bクラス」やアウディの「A3」である。
フォルクスワーゲンの「ゴルフ」とはちょっとユーザー層がちがっているのは、何となくイメージできるはずだ。フォルクスワーゲンは、日本でこそ輸入プレミアムブランドの一角を担うと世間からおもわれている節があるが、どちらかといえばファミリー向けであることを否定していない。
対するメルセデス、アウディ、BMWはドイツのプレミアム御三家といわれて久しいほどにスタイリッシュでラグジュアリーなイメージを持ち合わせている。
ただ、この両ブランドにはない武器を「2シリーズ グランツアラー」はふたつ持っている。そう、先の3列シートと2リッタークリーンディーゼルエンジンである。
クリーンディーゼルは、「218d」に搭載される排気量2リッターの直列4気筒DOHCターボで、最高出力110kW(150ps)、最大トルク330Nm(33.7kgm)という実力だ。BMW自慢の最新クリーンディーゼルでは、もはや「臭い、うるさい、遅い」というビハインドはまったく存在しない。
この2リッタークリーンディーゼルは「2シリーズ アクティブツアラー」とおなじパワーユニットで、ほぼアイドリング+αの速度域から最大トルクを発揮する。組み合わせられるトランスミッションも、おなじ8段ATである。車重は1,610kgと、こちら「2シリーズ グランツアラー」のほうが150kgも重いが、いったん走りはじめると、その数値差はさほどハンドリングに及ぼす影響は少ないとおもえた。
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
BMW初のファミリー向けミニバン(風)モデル
BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗 (3)
BMWブランドがもつ魔力
そういいたくなるのは、そもそもこの両「2シリーズ」はほかのBMWモデルにくらべ、とりわけおなじ「2シリーズ」を名のるFRモデルよりも軽快感が希薄だからである。
だが、これはネガティブなコメントではない。確かに誰もが知るBMWの走りよりスポーティ度合いは薄いが、とはいえ重いディーゼルエンジンをフロントに置きながらも、路面を確実にドライバーに伝えるステアリングフィールや、コーナーの立ち上がりからストレートでフル加速に移るその姿勢は、まさにBMWブランドのもつ走りの延長線上にある。
かつてFFのローバー「75」をはじめてドライブして、「BMWがFFを造ったのならこんな感じだろうな」とおもった記憶が蘇ってくる。フロントタイヤに舵を切る作業とトラクションを掛けてクルマを前面に押し出す作業をさせながら、リアタイヤはきっちりと路面を捉え安定した姿勢を作り出す。ミニバンという出で立ちから想像するよりも、それはやはりずっとスポーティな走りなのである。少し軽快感という味付けが薄めなだけで、そう、BMWらしさはじゅうぶんに伝わってくる。
ワインディングを攻めて走りを楽しむようなモデルでないことは理解していたが、ついついノーズが山道に向かうのもBMWブランドがもつ魔力――と言い訳をしながら、試しに勾配のきつい富士山スカイライン(有料道路)に向かう。
タイトコーナーでも素直に鼻先をコーナーの内側に向けるハンドリングは、「FRの2シリーズとはことなるFFではあるものの」という前提付きながら、じゅうぶんに楽しめるものだった。トルクフルなディーゼルエンジンと8段ATのマッチングもいい。それは、パドルシフトが未装備だったのが残念なほど、である。
ただし、Aピラーとドアミラーを備えるドア前方のピラーが太く、視界をかなり妨げることにも気づいた。ともすれば右コーナーでは、一瞬だが対向車がこの両ピラーに隠れてしまうほどに右斜め前の視界は悪い。唯一ここは、運転していてBMWらしくないと感じてしまったネガ要素である。
比較試乗のために乗った2列シートの「2シリーズ アクティブツアラー」でも、これはおなじである。
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
BMW初のファミリー向けミニバン(風)モデル
BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗 (4)
「グランツアラー」と「アクティブツアラー」のちがい
いっぽうこの両車で明らかにことなるのが、乗り心地だ。ホイールベースの延長が効いているのだろう、重量増もあって、「2シリーズ グランツアラー」のほうが明確に乗り心地はいい。シャシーの動きにより安定感があり、アンジュレーションのいなし方もいささか上等。ひとことでいえば、収まりがよく落ち着きを感じられるのだ。
比較すれば、おなじパワーのディーゼルエンジンを搭載していても、やはり「2シリーズ アクティブツアラー」は“快速”ハッチバック、こちらは少し大人向けの走りができる“快適”ハッチバックとちがいをいいあらわすことができそうだ。
肝心の居住性は、セカンドシートまでであれば、両車はまるで変わらない。座面から天井までは、1列目シートが1,078mm、2列目が1,003mmの高さで、奥にいくに従って高くなるいわゆるスタジアムシート設計だ。後席からの前方視界確保にもじゅうぶんな配慮がなされた室内デザインである。40:20:40の分割可倒式シートバックをもつセカンドシートが、130mmの前後スライド機構をもつ点も、両車でおなじだ。
ことなるのはやはり3列目のシートの有無だが、その格納式サードシートは、足下のスペースが少なく、さらに床面が高いので、子供用と割り切るべきだろう。試しに大人が乗ると、いわゆる体育座りの姿勢を余儀なくされる。ここはあくまでも子供用もしくはショートレンジの緊急用と割りきるべきだ。
しかし、このサードシートはワンタッチで床面とフラットになるよう折りたため、荷室容量を確保したい際にはかなり役に立つ。セカンドシートの背もたれも、レバーの操作ひとつ、ワンタッチで前に倒れてフラットな荷室スペースを作り出す。
たとえ日常の使用ではサードシートに用がないユーザーでも、より広い荷室容量を求めて「2シリーズ グランツアラー」を選ぶという決断はありそうだ。キャパシティは560-1,820リットルに及ぶ(欧州値)のだ。ちなみに助手席の背もたれも完全に前方に倒れるので、長尺モノの収納などにはとても便利。最大で2,600mmの長さまで収容可能だ。
BMW 2 Series Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 2シリーズ グランツアラー
BMW初のファミリー向けミニバン(風)モデル
BMW 2シリーズ グランツアラーに試乗 (5)
BMWの血統が息づくモデル
細かな点をいえば、リアドアのDピラー部分が「2シリーズ アクティブアラー」よりも立った垂直に近いデザインとなっているのも「2シリーズ グランツアラー」の特徴である。これは3列目シートへの乗り降りを考慮した結果もたらされたデザインのちがいで、こうした車種による個別の対応はさすがプレミアムブランドのBMWといいたくなるところ。コスト優先を正義のごとく唱え、安易にパーツ(ドア)の流用で片付けてしまうメーカーには見習って欲しいところである。
「2シリーズ グランツアラー」には、今回紹介したディーゼルエンジン以外に、1.5リッター3気筒と、2リッター4気筒のガソリンエンジンがあるのだが、クリーンディーゼル推しの価格戦略を展開しているために、クリーンディーゼル搭載車の価格は379万円からとなっている。1.5リッター3気筒ガソリンを積む218iは358万円から、218dはわずかその21万円アップに抑えられている点も見逃せない。これは「2シリーズ アクティブアラー」も同様で、218iが332万円から、218dが353万円からとこちらも21万円の差に留まる。
FFであることと背の高いミニバン(風)のBMWに違和感はあるかもしれないが、乗って触れてみれば、この「2シリーズ」も確かにBMWの血統が息づくモデルであることがわかるはずだ。
欧州Cセグメントモデルをターゲットにしているユーザーにとって、選択肢が増えたのは大歓迎であるはず。コンパクトモデルにまで容赦なくディーゼルエンジンを拡大し、全ラインナップディーゼル推しを進めるBMWに対して、いち早く日本にディーゼルエンジンを導入し、ディーゼルエンジンをプレミアムな価値をもつパワーユニットとして売り出してきたメルセデスはどう立ち向かうのか。この両ブランドの戦いもまた同時に見物である。
BMW 218d Gran Tourer|ビー・エム・ダブリュー 218d グラン ツアラー
ボディサイズ|全長 4,565 × 全幅 1,800 × 全高 1,645 mm
重量|1,610 kg
エンジン|1,995 cc 直列4気筒ツインパワー ターボ ディーゼル エンジン
最高出力| 110 kW(150 ps)/ 4,000 rpm
最大トルク|330 Nm(33.7 kgm)/ 1,750-2,750 rpm
トランスミッション|8段AT
駆動方式|FF
サスペンション 前|シングルジョイント スプリングストラット
サスペンション 後|マルチリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッド ディスク
ブレーキ 後|ディスク
燃費(JC08モード)|21.3 km/ℓ
定員|7名
トランク容量|145(3列目折りたたみ時 360)(2列目および3列目折りたたみ時 1,820)ℓ
価格│379万円(Standard)、432万円(Luxury)、426万円(M Sport)
BMW 218d Active Tourer|ビー・エム・ダブリュー 218d アクティブ ツアラー
ボディサイズ|全長 4,350 × 全幅 1,800 × 全高 1,550 mm
重量|1,500 kg
エンジン|1,995 cc 直列4気筒ツインパワー ターボ ディーゼル エンジン
最高出力| 110 kW(150 ps)/ 4,000 rpm
最大トルク|330 Nm(33.7 kgm)/ 1,750-2,750 rpm
トランスミッション|8段AT
駆動方式|FF
サスペンション 前|シングルジョイント スプリングストラット
サスペンション 後|マルチリンク
ブレーキ 前|ベンチレーテッド ディスク
ブレーキ 後|ディスク
燃費(JC08モード)|22.2 km/ℓ
定員|5名
トランク容量|3列目折りたたみ時 468(後席折りたたみ時1,510)ℓ
価格│353万円(Standard)、402万円(Luxury)、389万円(M Sport)
BMWカスタマーインストラクションセンター
0120-269-437
(平日 9:00-19:00 土日祝 9:00-18:00)