PATEK PHILIPPE|パテック フィリップ|ノーチラス 5711/1A
PATEK PHILIPPE|パテック フィリップ
ノーチラス 5711/1A
Text by OPENERS
1970年代はスイス時計業界にとって受難の時期だった。1969年末に登場したクォーツ式腕時計が時計界を席巻し、スイスの名門メーカーは軒並み大打撃を受けた。操業停止や海外資本への売却、あるいは機械式からクォーツへの転向……。時計のデザインも、薄型、近未来的なフォルムで画一化・陳腐化への道をたどっていた。そんななかで、76年に「ノーチラス」は誕生した。
このモデルの画期性はなにより、世界最高峰の時計ブランドであるパテック フィリップが、SSケースのスポーツモデルを製造したという点にあった。貴金属ケースをまとったドレス系、あるいは複雑系モデルこそ、同社を代表する時計のイメージだ。だが、「ノーチラス」はその既成概念を軽々と破ってみせた。船窓をモチーフとする八角ベゼルを装備しており、パテック フィリップとしては異例の大型ケースを採用。ストライプ装飾を彫り込んだ文字盤からは、カジュアル性も見て取れる。一方でケースは薄く、上品なイメージも併せ持つ。スイス製腕時計の低迷期である70年代に切り開かれた、ラグジュアリースポーツを代表するモデルである。
ケース構造も独創的で、ベゼルはガスケットを挟んでケースに圧着させ、ケースサイドとベゼルサイドの張り出し部分を組み合わせてネジ留めにしている。そして、現代にいたるまでマイナーチェンジを繰り返し、ムーンフェイズ搭載機やクロノグラフもリリースされるほどラインナップは多彩に。シースルーバックからは美麗なゴールド製ローターを装備した定番ムーブメント「Cal.315 SC」がその姿をのぞかせている。今や「ノーチラス」はパテック フィリップに欠くことのできないモデルのひとつに数え上げられるほどになった。それだけデザインに普遍性が備わっていたという証拠であり、時代を超える名機と言えるのだ。
自動巻き。毎時2万1600振動。48時間パワーリザーブ。ケース径40.0mm。ケース厚8.52mm。SSケース。SSブレス。12気圧防水。224万7000円。
BRAND HISTORY
19世紀半ばより常に時計界のトップに君臨し続ける別格ブランド、パテック フィリップ。時計フリークが最後に行き着く高みと、崇敬の念を込めて呼ばれるこの世界最高峰のウオッチブランドは、時計に情熱を注いだ2人の人物によって創設された。
最初に礎を築いたのはボーランドからの亡命貴族、アントワーヌ・ド・パテック。彼は、帝政ロシアの圧制下にあった祖国ポーランドから、スイス時計産業の中心地であるジュネーブへと逃れる。そこで遭遇した地場産業の時計に興味を持ち、また時計師のフランソワ・チャペックとの出会いをきっかけにして、1839年に時計会社を設立する。
同社は順調に業績を伸ばしていくのだが、アントワーヌ・ド・パテックは、時計製造に対してさらなる可能性を求めていた。ちょうどその頃、フランスのパリで開かれていた万国博覧会を訪れた彼は、世界初のリューズ巻き式懐中時計を見つけて、大きな衝撃を受ける。
この時計を製作した人物こそ、時計師のジャン-アドレアン・フィリップ。アントワーヌ・ド・パテックは、フランソワ・チャペックの後任に彼を迎え入れる。この2人の出会いこそが、’46年の独立分針、’48年のフリーゼンマイなどの新機構開発に繋がっていくのだった。そして、ロンドン万博で金メダル受賞した1851年、現在の「パテック フィリップ」へと社名を変更したのである。
その後、パテック フィリップ社は、’89年に初の永久カレンダー機構を開発してから、複雑機構にも積極的に取り組み、なかでも1927年の「グレーブス・ウォッチ」は、24もの複雑機構を搭載する歴史的なコンプリケーションウォッチとして高い評価を得る。さらに、1932年には現代もなお「ドレスウオッチのお手本」と称される、カラトラバを発表。腕時計の分野においても、確固たる地位を築き上げた。
こうして時計界を牽引する立場に立ったパテック フィリップは、21世紀に入ってからもシンプルウォッチからコンプリケーションまで数多くの佳作を手掛け続ける。スイス時計界の遺産を後世に伝えるべく伝統技術を継承するほか、さらに新たな可能性を自ら切り開くべく新技術・新素材の開発にも積極的にチェレンジしている。
【創業年】1839年
【創業地】スイス、ジュネーブ
【主なシリーズ名】カラトラバ、ゴンドーロ、グランド・コンプリケーション、ノーチラス
【問い合わせ先】パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 03-3255-8109
公式サイト:http://www.patek.com/