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アーティストが企画、運営、出品する、全く新しいスタイルのアートフェアとして、2018年に誕生した「ARTISTS’ FAIR KYOTO」。重要文化財の近代建築や街中に残る工場跡などに、国内外で活躍する旬のアーティスト、そして彼らが選ぶ注目の新進若手アーティストたちの作品を展示し、「エキセントリックな空間でアートを買う」という、刺激的な体験を提供してきた。
3回目となる2020年のメインプログラムは、新型コロナウイルスの感染症拡大防止のために中止となり、サテライトイベントの「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020:BLOWBALL」のみが開催(一部規模縮小、中止)となる異例の事態となった。展示設営が完了しながらも人の目に触れることがなかったメインプログラムと、規模縮小しながら開催したサテライトイベント「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020:BLOWBALL」の様子を、ここにレポートする。
※TOP画像:会場「庵町家ステイ 筋屋町町家」
●ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020 メインプログラム
(1)京都文化博物館 別館
京都文化博物館 別館は、日本を代表する建築家・辰野金吾とその弟子・長野宇平治が設計した明治を代表する近代建築として重要文化財に指定されている。そんな趣のある空間に建築現場さながらの足場が天井まで組まれたほかにはない空間で、現代アートを鑑賞できるのも、本フェアの見どころの一つとして人気を呼んでいる。
会場には、ディレクターの椿昇、アドバイザリーボードの加茂昂、塩田千春、田村尚子、松川朋奈、Mon Koutaro Ooyama、矢津吉隆、Yottaのほか、招待作家であるアレックス・ムートン、そしてアドバイザリーボードが推薦した新鋭作家を含め、40名以上の作家の作品が集結した。大阪の建築家ユニットdot architectsが、足場を組んで立ち上げたエキセントリックな構造物の中に、ペインティングや写真、立体などさまざまな作品が展示され、今年も迫力のある空間を作り出していた。
ちなみに、中止が決定した後も、事務局には作家や展示作品への問合せが数多くあった。「このような状況に対する若手の応援に」と、ディレクターやアドバイザリーボードの紹介を通じて数多くの作品が販売成約となったそうだ。このイベントがいかに注目されているかがうかがい知れる。
(2)京都新聞ビル 地下 1階
今回の「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020」の目玉は、間違いなく京都新聞ビル 地下 1階での展示だった。
会場奥の空間で上映されていたのは、ロンドンを拠点とする映像ディレクター・木村太一が、東京で撮りおろした新作の短編映画。「アブストラクト(抽象)とストーリーの間を表現したかった」と木村。フィルターを効果的に用いて光を捉えた絵画的な映像は、額装されて作品としての存在感を放っていた。
新たな作風に挑戦したのは、前谷開。前谷はセルフポートレートを中心に制作してきたが、本展のために制作した新作では、日本海の風景を撮影し、さらにそれを自分の体に投影した作品などを展示。写真というものに内在する「見ること、見られること」「主体、客体の入れ替わり」等の課題に挑んだ。
会場には大型作品も多く並んだ。目を引いたのは、あらゆる素材でオリジナルの楽器や彫刻を制作する黒川岳の作品。石の中に頭を入れて音を聞くものなど、発想の独自性が際立っていた。
また「合体」をモチーフに作品作りをする米村優人は、ギリシャ語で彫塑を表す「アガルマ」から、「アガルマン」と名付けられたシリーズを発表。彫刻で男性像を作るという行為を、日本人としてポップに解釈してみせた。
書家・ハシグチリンタロウは、屏風などに書いた作品とともに、日々考えたことや作品の構想のアイデアを綴っている膨大なノートを展示した。「(スマートフォンなど)様々なツールが登場し、世の中の在り方が変わるなかで、“書く”というアナログな行為の意味を改めて探求したい。完成した作品のみだけではなく、僕が日常のなかで思考し、表現するという一連の流れを“活動”として見てもらえるようにしたかった」とハシグチ。作家が在廊し、制作プロセスにも触れることもできる、本イベントならではの展示だった。
他にも、日常にノイズをもたらすような映像を制作するトモトシや、看板がもつ新たな可能性を探る廣田碧など、興味深い作品が多く見られた。相磯桃花、柄澤健介、木村翔馬、山城優摩、またアドバイザリーボードの名和晃平とのWネームでの発表となった白木良、この会場で展示するために制作された新作も多く、どれも目をみはるクオリティの高さで非公開となったことが惜しまれる。


●サテライトイベント「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2020 :BLOWBALL」
ここからは、サテライトイベント「BLOWBALL」の紹介をしたい。「ARTISTS' FAIR K YOTO 2020」と連動して、京都府内のホテルや飲食店、町家、アートスペースなどを展示会場にアートが展示されるサテライトイベント「ARTISTS’ FAIR K YOTO 2020: BLOWBALL」は、過去最大規模に拡大し開催された。
※写真左から)会場「GOOD NATURE STATION 4F Gallery」、会場「KYOTO ART HOSTEL kumagusuku」
■「GOLD, WHITE, AND BLACK」
日程:2020 年2 月29 日( 土)・3 月1 日( 日)
会場:AIR 賀茂なす
京都五条大宮の町家の2Fに、この春オープンしたばかりのレジデンス・スペース「AIR賀茂なす」では、品川亮の個展が行われた。「日本の絵画とはいったいどんなものなのか?」ということを一貫して追求してきた品川。今回の新作でも、今までの作風を踏襲しつつも、ブラシストローク(筆跡、滲み後)を残した表現が試みられている。
「日本の “ローカル” な絵画を、 “単純化” などローカルな技法でアップデートしてきました。そこに “ブラシストローク” のような欧米の特権的な技法を取り入れることで、“現代のローカル”としてのローカルのアップデートを試みています。」と品川。品川は、2018年にスタートしたARTISTS' FAIR KYOTO 第1回のメインプログラムに出展してから、年々ファンを増やし、今回の新作も開催前より注目を集め、人気の展覧会となった。
■「スーパーマーケット “ アルター” 市場」
日程:2020 年2 月22 日(土)-3 月8 日(日)
会場:BnA Alter Museum 1F + 2F
URL:https://bnaaltermuseum.com/
3人の若手ディレクター、黒田純平、渡邊賢太郎、筒井一隆がキュレーションしたこちらの展覧会も話題を呼んだ。展示されたのは、関西を中心に活動する彼らの同世代(20〜30代)の作家たちの作品である。「アートの展示を見に来た人たちの多くは、 “作品が買える”ということを知らなかったりする。今回は、 “マーケット”というタイトルをつけて、初めてアートを買う人にも、買いやすいと思ってもらえるような展示構成を心がけました」と筒井。会場は、昨年オープンした宿泊型ミュージアム「BnA Alter Museum」。若いアートファンが集まる客層や会場の雰囲気に合う展示内容となっていた。
■「表層と深層」
日程:2020 年2 月21 日(金)- 3 月8 日(日)
会場:Gallery PARC
URL:http://galleryparc.com/
デニッシュ専門店「GRAND MARBLE」が運営する「Gallery PARC」に展示されたのは、京都造形芸術大学で写真、映像を学んだ3人の作品。
志村茉那美は、横浜近郊の川のリサーチを元にCGで作成したアニメーションを発表。
白井茜は、2ヵ月にわたり高校の恩師を密着取材したドキュメンタリー映像を発表した。
大河原光は、自身の皮膚をモチーフとした写真作品を展示した。「展示後に気づいたのが、3人の作品のカメラの位置や視点の在り方が、それぞれ違っているということ。CGで作られた志村さんの作品では、神のような視点から物語が語られるのに対し、白井さんは “自身の目線=カメラの目線” となっている。セルフポートレートである僕の作品は、自分に向けられた視点が主になっている」と大河原。三者の作品から写真、映像というメディアによる表現の多様性が浮き彫りとなった。
■「Wunderkammer」
日程:2020 年2 月15 日(土)-3 月22 日(日)
会場:GOOD NATURE STATION 4F Gallery
URL:https://goodnaturestation.com/
昨年12月にオープンしたばかりの複合商業施設「GOOD NATURE STATION」も、サテライトイベントの会場に。16世紀頃のヨーロッパで流行した、世界中の珍しいものを収集・展示した空間「Wunderkammer (ヴンダーカンマー/驚異の部屋)」をテーマに、展覧会を開催した。女性アーティスト7名の共同アトリエ「punto」より、絵画や立体などそれぞれの作家の個性あふれる作品を展示。さらに、アーティストのアトリエから出る廃材を”副産物”と呼び、資材循環させるプロジェクト「副産物産店」と、アクセサリー作家・仲地志保美ともコラボレーションした。「punto」から発生した”副産物”を用いたアクセサリーも展示販売し、こちらも好評を得ていた。
■「From one stroke 2」
日程:2020 年2 月29 日( 土)・3 月1 日( 日)
会場:庵町家ステイ 筋屋町町家
URL:https://kyoto-machiya.com/machiya/sujiya.html
築約140年の町家空間「庵町家ステイ 筋屋町町家」の中で、只ならぬオーラを放っていたのが、青色の「一筆書き(one stroke)」を描く香月美菜の大作である。京都での初個展である今回は、これまで制作してきた作品のなかで最大サイズとなる「2m50cm」に及ぶ、大作に挑戦した。会場には、アーティストとしてデビューする前に制作した「one stroke」のアイデア源となった小作品、作品の青色を構成している233色の絵具を並べたドローイングも展示。精神統一させて一筆書きする様子を捉えたドキュメンタリー映像とともに、制作の過程にも触れられる展覧会となっていた。
■「知らないかたち」
日程:2020 年2 月22 日(土)-3 月8 日(日)
会場:KYOTO ART HOSTEL kumagusuku
URL:URL:https://kumagusuku.info
アートホテル「KYOTO ART HOSTEL kumagusuku」では、横浜美術大学を卒業した高橋美衣の作品が展示された。高橋は元々、乾漆の技術を用いて作品を制作していたが、だんだんと漆の素材感よりも、造形的な方向へと興味のベクトルが向いていく。漆以外の素材にも触れるようになり、今回の展示では主にテラコッタや石膏を用いた新作が並んだ。スペースのオーナーである矢津吉隆は、高橋についてこう語る。「形に対するこだわりがとにかくすごい。絵に描いて形を決めて、そこに向かってつくるのではなく、触ってつくっていく中で形を追求していく。そうして、抽象的でユニークなフォルムを生み出しています」。
■「Allscape in a Hall」
日程:2020 年2 月28 日(金)-3 月1日(日)※会期を変更して開催。
会場:スプリングバレーブルワリー京都 洋館
URL:https://www.springvalleybrewery.jp/pub/kyoto/
文化財級の貴重な築約100年の洋館で、通常非公開となっている「スプリングバレーブルワリー京都 洋館」。この場所では、髙木遊がキュレーターとなり、人工知能を用いた作品を制作するアーティスト立石従寛と、サウンドアーティスト小松千倫、三者の協同により作品がつくり上げられた。制作にあたっては、ギリシャ神話や、ビールの原料となる大麦麦芽の生産地・亀岡をリサーチしたという。
この亀岡の麦畑の土で天井までの巨大な柱を立ち上げ、その中から音を発生させたり、ハッシュタグ#nightclubに集まった映像を人工知能を用いて編集した作品に、SVB京都のブルワーとの共同開発で生まれた展覧会オリジナルのアメジスト色のお酒が加わり、様々な要素と物語が重なり合う、サイトスペシフィックで土着的なインスタレーションを構成していた。
■「fond de robe- 内にある装飾-」
日程:2020 年2 月7 日(金)-3 月28 日(土)※日、月、祝は休館。
会場:ワコールスタディホール京都 ギャラリー
URL:https://www.wacoal.jp/studyhall/
インナーウェアメーカーである「ワコール」のギャラリーで展示していたのは、下着のレースをモチーフにした芳木麻里絵の作品。芳木はこれまでも、アクリル板にシルクスクリーン印刷を何度も重ねてインクを盛り上げていくことにより、平面的なイメージを物質性を伴った奥行きのあるものとして表現する手法をとってきた。今回は、現在の女性の下着の原型と言われている1920年代の下着や、2020年のワコールの最新コレクションなどをモチーフに、新作を制作。レースの繊細な柄や透け感、下着独特の立体感が、芳木の作風と絶妙にマッチして、女性の下着の美しさを改めて認識する、作家にとっても、企業にとっても有意義なコラボレーションが実現していた。
今回は予期せぬ事態によりメインプログラムは中止となってしまったが、京都の街中のホテル、飲食店、町家、アートスペースでは、メインプログラムのスピリットを受け継ぎ若手作家たちとの出会いの場として賑わいをみせていた。
新型コロナウイルスの感染症拡大防止のために中止となった、京都文化博物館 別館の会場の様子
テキスト:木藪愛
撮影:前端紗季

ARTISTS’ FAIR KYOTO 実行委員会