ジビエの聖地は、富士にあり! アウトドアディナーで究極のグランピング体験を満喫|TRAVEL
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2022年12月12日

ジビエの聖地は、富士にあり! アウトドアディナーで究極のグランピング体験を満喫|TRAVEL

TRAVEL|星のや富士

「知る」は、おいしい!リターンズ 星のや富士編(1)

突然ですが、ジビエは好きですか? ちなみに、鹿はいかがでしょう。私は大好きです。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

オリジナルコートと足元ほかほか”こたつテーブル”で、真冬のアウトドアもNOストレス

「ジビエって、あまり好きじゃないんだよね」という声を、ごく稀に耳にします。個人の嗜好が自由であることは大前提ですが、「美味しいジビエを食べたことないんだな……」と気の毒に思ったりもします。すみません、大きなお世話ですよね。
動物としての鹿も好きです。顔が長い動物って、愛らしくないですか? ウチにもそんな仔(ミニチュアダックス)がいるから、余計にそう思うのかも(笑)。そして鹿肉も大好きですよ。特に、2020年2月に、「星のや富士」でいただいた、猛々しさとエレガントさを併せ持つ、あの赤身、美味しかったなあ。その時の様子は、こちらの記事で紹介しています。
2022年秋、オウプナーズは、再び「星のや富士」を訪ねました。当時とは総料理長が変わり、また、今回は、「星のや富士」が鹿肉をはじめとするジビエの大部分を仕入れているという、狩猟歴40年以上のベテラン猟師・滝口雅博さんに会えるとあり、武者震いしながら、「星のや富士」へと足を運びました。
木立に囲まれた焚火スペースが目に入ると、懐かしい友人と再会したかのような感覚に(笑)。早速、マシュマロなんぞを焼いてみます。
“グランピング”という言葉がまだ市民権を得ていなかった2015年10月、真正面から“グランピング”をテーマに据え、華々しく誕生した「星のや富士」は、標高830mから930mの斜面に位置。約100mの高低差がある敷地に、客室、ダイニング、クラウドテラスなど、さまざまな施設が点在しています。
快適な居室空間を確保しつつも自然を満喫できる、これぞ、星のやグランピングの醍醐味!
全室河口湖ビューのキャビンスタイルの客室は、やはり素敵! 白を基調としたミニマムな設計が、窓の向こうに広がる景色を引き立てます。キャビンのスペースの多くの部分(目測で1/3から1/4くらいでしょうか)をテラスに割いているのも特徴的です。
フォレストキッチン
グランピングの華とも言うべきディナーは、木立に囲まれたアウトドア空間「フォレストキッチン」にて。2年前と同じ「狩猟肉ディナー」を選んだのですが、コレ、前回とは、かなり方向性が違っていました。シェフが下ごしらえしたものを最後はゲスト自身がテーブルで仕上げるというコンセプトはそのまま、さらにラグジュアリーに寄せてきた印象です。
今回いただいたメニューは、こんな感じ。当日の品書きには、素材だけが記されていましたが、ここではわかりやすく内容も添えておきますね。
アミューズ:茸と猪のタルト
冷前菜:シャルキュトリーの瞬間燻製とフルーツのサラダ
スープ:熊つみれと茸のスープ
メイン:鹿肉のブルーベリーソース煮込み
ご飯:松茸の炊き込みご飯 鹿肉の大和煮
デザート:林檎とさつまいものパイ仕立て
アミューズ:茸と猪のタルト
アミューズ、かわいいでしょ? 西麻布のフランス料理店で出てきても違和感のないくらいに洗練されています。タルトの上に猪のパンチェッタが乗っていて、トッピングには食べられる紅葉が! 
前述の伝説の猟師、滝口さんは、狩猟で山に入る際、キノコも獲っているのだとか。そうすることで、森の“今”がリアルに体感できるそうです。「狩猟肉ディナー」は、そんな猟師の生活スタイルを踏襲し、さらに、どんくりなどの木の実や山ぶどうなどのフルーツなど、ジビエたちが食べているであろうものを積極的に用いたメニュー構成にしているのだそう。
「星のや富士」総料理長 須川正大さん
さて、このあたりで、2020年12月に「星のや富士」総料理長に就任した、須川正大さんを紹介しましょう。開業から同施設で調理に関わっていた須川さんは、「私どもがオープンした頃は、まだ数えるほどだったグランピング施設が、最近はずいぶんと増えてきました」と、グランピング施設の現状を分析します。
そんななか、須川さんをはじめスタッフたちは、今の時代、ゲストが「星のや富士」に何を求めているのかを再考したと言います。
「グランピングというと、多くの方はドーム型のテントやバーベキューを想像すると思うのですが、我々、『星のや富士』に置き換えた時に、もっと『星のや富士』でしか味わえない、ラグジュアリーなグランピング体験があるべきだと思い至ったんです。そこで、よりグランピングリゾートらしく、料理はより美食の要素を追求するべく、再構築を図りました」
冷前菜:シャルキュトリーの瞬間燻製とフルーツのサラダ
話をコースに戻しましょう。
続いて登場した冷前菜はシャルキュトリー。季節や仕入れによって内容は変わるそうですが、私たちは鹿のパストラミ、イノシシと鹿を使ったビアシンケンというハムをいただきました。パストラミは瞬間燻製しているんですって。
柿やピオーネなど、秋を感じさせるフルーツで彩られ、まるで印象派が描いた絵画のような、華やかなプレゼンテーションに心を奪われます。ビーツを使った赤いソースで紅葉を表現しているのもお見事。フルーツたちの自然の甘味がシャルキュトリーの塩味をやさしく包み込みます。
スープ:熊つみれと茸のスープ
スープも笑っちゃうくらい美味しかった(笑)。ベースとなるコンソメスープは、「命をすべて美味しくいただこうという思いから、鹿の骨など、ふだん調理には使わない部分を使っています」(須川さん)とのこと。
テーブル上で、その“命のスープ”を火にかけ、ぐつぐつしてきたら、猪と熊の合いびき肉で作るつみれを投入。まいたけ、ジャンボマッシュルーム、きくらげ、足つきなめこといったキノコたちも決して脇役に甘んじていません。その土地の息吹を感じるスケールの大きさを感じつつも、セクシーで滋味深い味わいに、全私が泣きました。
メイン:鹿肉のブルーベリーソース煮込み
でもって、ジャーン、お待ちかねのメインの鹿肉です。言わずもがなですが、今回の旅の目的は、地元で獲れたこの仔です。前回同様、すでに下ごしらえしてあるものを、テーブルでもう一度、火にかけ、仕上げるスタイル。
しばらくするとスタッフから「ダッチオーブンにソースを入れてください」と声がかかります。ピオーネとブルーベリーを煮込んで作るソースは、果実のつぶつぶ感も残っていて、ジューシーで濃厚。手を付けるのを躊躇してしまうほどの、とても美しい赤身をたたえる鹿ちゃんも、期待に違わぬ美味しさでした。ていうか、なんでこんなにじゅわっと焼けるんですかね?
「鹿肉のロースはほとんどが赤身です。普通に焼くとパサパサになってしまうので、低温でじっくりと火入れをし、最後に表面だけ焼き色を付けます。それ以前に、ジビエ、特に鹿は、猟師さんの腕によってクオリティが変わってきます。だからこそ、信頼できる猟師との関係を築くことが大切です」(須川さん)
ご飯:松茸の炊き込みご飯 鹿肉の大和煮
食事は松茸の炊き込みご飯。ジビエのコンソメで炊いて、さらにバターを加えてコクを出しているのだとか。
まずは普通にいただき、最後は、鹿肉の大和煮を乗せ、スープをかけてお茶漬けスタイルで。こういうエンターテインメント性の高い味変はもはや正義です。
デザート:林檎とさつまいものパイ仕立て
デザートの林檎とさつまいものパイ仕立ては、「アップルパイの材料を使って、再構築したもの。口に入れるとアップルパイになります(笑)」。なるほど、そう来たか! グランピングスタイルの、おしゃれなアップルパイ、存分に楽しませていただきました。
「まだまだやりたいことはたくさんあります。私どもの施設は屋外のスペースに恵まれているので、もっと活用したいし、焚き火をテーマにした料理も展開していきたいですね。サステナブルな視点や、命を大切にいただくというテーマもこれまで以上に追求していきたいと思っています」と、果てしない未来を語る須川さんが森の妖精に見えたのは、お腹も心も満たされた私が少し夢見心地だったからでしょうか。
それとも森の魔法に、すっかりやられてしまったからかもしれません。どこからか鹿の鳴き声も聞こえてきました。
「ここの森は特にこれから冬に向かっていく季節がすばらしいんです。凛とした空気、シーンと静まり返った夜に瞬く星、なによりうっすらと見える富士山の輪郭には感動すら覚えました」。そんな須山さんの話を、幸福感に満たされながら聞いているうちに、夜は更けていきます。
※次ページからは、狩猟シーンの画像があります。ご注意ください。

「知る」は、おいしい!リターンズ 星のや富士編(2)

伝説の猟師が説く、命をいただくありがたさ

そして翌朝。私たちは、伝説の猟師と名高い、滝口さんとついに邂逅を果たすことになります。「星のや富士」では、2017年から毎年、秋から冬にかけて、「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」というアクティビティを実施しています。滝口さんと共に、滝口さんが猟場としている本栖湖エリアの森へ入り、狩猟や仕留めた獣の解体を間近で見学するという、ワイルドなアクティビティです。
聞けば、毎年、参加するリピーターもいるとか。「星のや富士」がジビエに力を入れているのは滝口さんとの出会いがあったから、なんて話を耳にしたこともあり、ジビエ好きの一人として、いつかは参加したいと思っていたのですが、ついにその日がやってきました!
古屋永輔さん。手にしているのは、出来たばかりの鹿肉の自家製スモーク。
「星のや富士」までは、滝口さんの一番弟子である古屋永輔さんが迎えに来てくれました。夏場はダイビングのインストラクターをしているという古屋さんが運転する車で、滝口さんが猟場としている本栖湖方面へと向かいます。
わな猟の道具。これを落ち葉などで隠して仕掛ける。
滝口さんらが行っているのはわな猟。獣道にわなを仕掛け、翌朝、獲物が掛かっていれば、その場で止めを刺して、放血。滝口さんが所長を務める「ジビエ食肉加工施設」へと運び、さらに細かく解体していくというのが一連の流れです。ランチには、滝口さんが経営する食堂「松風」のジビエ料理が振舞われます。まあ、要するに、ジビエ三昧のツアーというわけです。
※狩猟シーンの画像があります。ご注意ください。
「俺を食いに来た」(滝口さん)熊を仕留めた話など、のっけから先制パンチを受けまくったあとは、いざ、滝口さん、古屋さんの先導のもと、わなが仕掛けられている、青木ヶ原樹海に隣接する林の中へ──。
鹿ちゃん、掛かってるかな、掛かってないといいな、でもここまで来たからには狩猟の様子をぜひ見学したいぞと、さまざまな思いが交錯するなか、い、いたー! 早速、罠に掛かった鹿ちゃんに遭遇。「去年の春に生まれた、2歳の雌だな」と、滝口さんはすかさず断言します。
滝口さんは、まず鹿に挨拶をします。「鹿! お前の命をいただくけれど、ちゃんと美味しく食べるからな」。そして、鹿の頭をたたき、脳震盪を起こさせた後、止めを刺します(具体的には首にナイフを刺します)。その後、心臓マッサージを施して放血、さらに、腿からも血を抜きます。
ジビエの味は、個体差や仕留め方、解体技術はもちろん、血抜きによって大きく変わってくると言われています。うまく血抜きができないと、臭みが残ってしまうのだとか。今回は狩猟体験ツアーなので、特別に捌く所も間近で見学することができます。
「ここまでやれば、大丈夫」と滝口さん。艶やかなナイフ裁きで、ほんの数分前まで愛玩動物にしか見えなかった2歳(推定)の鹿は、瞬く間に肉塊へと姿を変えていきます。その様子を、私は口をあんぐりとあけて見ていることしかできず、「こうやって命をいただいているんだ」と実感するまでには少し時間を要しました。
背ロース、内ロース、前脚、後足とみるみるうちに解体作業は進みました。
「まだ肉が脈打っているでしょう? これが、きちんと処理ができている証拠であり、また、生きている肉をいただくということでもあります」
どくどくどく……と動き続けるその肉の塊は、カット面が黄金色に輝いていました。これが、「美味しい証拠!」(滝口さん)。正しく処理が施された内ロースは、肉自身、自分が死んだことに気付かず、7~10分、動き続けるのだとか。
「雪の上に肉塊を置くと、ヘビのように動いたりしますよ」
えー、それはさすがにジョークでしょ? と思ったのですが、これもどうやら本当のハナシらしいです。……失礼しました。
止めを刺される前に、命乞いした鹿の表情は今も脳裏に焼き付いています。それでも、私は、昼食に供された、鹿肉(この仔じゃないです!)や猪肉を美味しくいただきました(個人的には鹿カレーがおすすめ)。
私の生活は、なんら変わりません。これからも肉を食べ続けていきます。それは、ジビエに限ったことではなく。
それでもあの日、鹿が肉塊になる瞬間を間近で見てから、肉料理をいただくときに、せっかくいただいた命、美味しく、できるだけ余すところなくいただこうと、より強く思うようになりました。何より食いしん坊の私としては、「美味しいジビエの作り方」を、リアルに見学できたのはとても貴重な体験でした。
そもそも、大自然に育まれた餌を食べ、大自然を駆け巡って育ったジビエたちが、美味しくないわけないんです。それに、確かな腕を持つ猟師による、血抜きをはじめとする処理も完璧なのですから。
ああ、これ、ジビエが苦手という人に、ぜひ食べてもらいたい……。
その日、私は、ジビエの伝道師(自称)になりました。
星のや富士
住所|山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
アクセス|河口湖ICからクルマで約20分
客室数|40室
料金|1泊10万1000円〜(1室あたり、税・サービス料込、食事別)
※仕入れ状況により、食材・メニューが変更になる場合があります。
「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」概要
期間|2022年10月7日~12月16日の毎週金曜日限定
料金|1名 72,600円(税・サービス料込)*宿泊料別
定員|1日1組(2~4名) *中学生以上
時間|8:30~
予約|公式サイト(https://hoshinoya.com/fuji/)にて2週間前まで受付
服装/持ち物|動きやすい服装・靴
含まれるもの|狩猟への同行、鹿の解体作業の見学・体験、昼食、長靴レンタル、
夕食「狩猟肉ディナー」
備考|星のや富士の到着日と出発日を除いた日程での参加となります。
状況により、猟の方法は変更になる場合があります。
悪天候の場合は、内容を一部変更、中止する可能性があります。
仕入れ状況により、料理内容が変更になる場合があります。


スケジュール例
08:30 星のや富士を出発
09:00 本栖湖に到着、オリエンテーション
09:30 狩猟体験ツアーに出発
12:00 本栖湖畔の屋内にて昼食
13:30 鹿の解体作業の見学・体験
16:00 星のや富士に到着
18:30 夕食「狩猟肉ディナー」で狩猟肉を味わう
問い合わせ先

星のや総合予約
Tel.050-3134-8091
https://hoshinoya.com

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