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2019年11月4日
[短期連載2] 建築と芸術とエンターテインメントと美食の都、シカゴへ──建築編|TRAVEL
建築と芸術とエンターテインメントとグルメの都、シカゴへ──建築編
街そのものが建築の博物館
ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ北米第3の都市、シカゴ。摩天楼発祥の地であるここは、どことなく街の雰囲気がニューヨークに似ている。人口や面積がニューヨークの数分の一に過ぎないコンパクトなこの街は、アートや建築、エンターテインメントや美食など、ニューヨークに引けをとらない魅力的なコンテンツがギュッと凝縮されているのだ。そんなシカゴの魅力を、テーマ別に紹介していく短期連載。第2回は、建築という側面からシカゴの魅力をひも解く。
Text by YAMAGUCHI Koichi
リバークルーズで建築の街シカゴを堪能する
建築が好きな人にとって、シカゴは一生に一度は訪れたい都市の一つだろう。モダニズム建築の巨匠であるミース・ファン・デル・ローエやフランク・ロイド・ライト、そしてルイス・サリヴァンやダニエル・バーナムといった伝説的な建築家たちが手掛けたさまざまな様式の建築物が林立しているからだ。
なぜ、シカゴが世界的にも類を見ない建築都市となったのか。それには、19世紀に起きたある不幸な歴史を振り返る必要がある。アメリカの産業化に伴い、急速な発展を遂げていた19世紀後半のシカゴ。しかし、1871年に発生した大火により、街は3日間も炎に包まれほとんどの建物が焼失してしまう。そこで、再建のために国内外から建築家が集結し、区画整理が行われ復興へと突き進むこの地に、数多の名建築を生み出していったのだ。
そうした名建築たちを楽しみたい人にお薦めなのが、シカゴ建築財団が企画しているリバークルーズだ。クルーズ船に乗って、シカゴ川沿いに立つ新旧さまざまな様式の建築を、ガイドによる解説を聞きながら観察できるからだ。ここでは、リバークルーズで楽しむことができる代表的な建築について紹介したい。
まず参加者は、クルーズの出発点となるミシガン通り橋のたもとで向かい合うようにたたずむ2つの歴史的建造物に目を奪われることになる。向かって右側が、ネオゴシック様式の重々しいファサードが特徴の「シカゴ・トリビューン・タワー」(1925年)。一方、チューイングガムメーカー、リグレー社の旧本社ビル(1924年)は、中央に時計台を擁し、白いテラコッタが施されたルネサンス調の優雅なデザインが印象的だ。
クルーズ船がスタートしてすぐ、シカゴ川を上流方面に目をやると見えてくるのが、トウモロコシのような斬新なファサードが特徴的な円柱のツインタワー「マリーナシティ」(1967年)だ。シカゴにおけるモダニズム建築の代表作と評される同タワー。建築設計を手掛けたのは、独・バウハウスで学んだ地元シカゴ出身の建築家、バードランド・ゴーロドバーグである。
建物自体は、オフィス、アパートメント、レストランなどからなる複合ビルで、下層階が自走式の駐車場、最下層はボート乗り場となっている。スティーブ・マックイーン主演の映画「ハンター」では、駐車場のスロープでカーチェイスを繰り広げた末に、シカゴ川にクルマが落下するシーンが描かれている。まさに“映画映え”する建築である。
一方、マリーナシティの右手に立つ黒いファサードの高層ビルは、バウハウスの学長であったミース・ファン・デル・ローエが設計した「IBMプラザ(現AMA プラザ)」(1972年)である。バウハウスがナチスによって閉校された後、彼はシカゴに移り、数々の名建築を手掛けるようになる。奇しくも、バウハウスの教師と生徒が手掛けたモダニズム建築が、シカゴ川沿いに並んで立っているという事実は興味深い。
シカゴ川の本流をミシガン湖を背にして西方へ進むと、ノースブランチとサウスブランチという2つの支流に分かれる。その合流点に立つのが、「150 ノースリバーサイド」「リバーポイント」と名付けられた、いずれも2017年に竣工したばかりの最新の高層ビルだ。
全高228メートル、54階建ての150 ノースリバーサイドは、下層部分がオノで削られた大木のごとくすぼまっているのが印象的だ。この物理の法則に反するかのような斬新なデザインは、西側にシカゴ川とリバーウォーク(遊歩道)、西側に線路が走るという敷地の都合によるものだそうだ。
一方、全高223メートル、52階建てのリバーポイントは、曲面が美しいガラス張りのファサードと、そのトップとボトム部分に施されたアーチ型のアクセントに目を引きつけられる。このアーチは、一説によるとセント・ルイスにあるジェファーソン・ナショナル・エクスパンション・メモリアル公園にあるゲートウェイアーチという建物へのオマージュだそうだ。ちなみに、ゲートウェイアーチの設計を手掛けたのは、モダニズム建築の巨匠の一人であり、ニューヨークTWAターミナルなどの作品で知られるエーロ・サーリネンだ。
シカゴ川の本流からサウスブランチを南下すると左手に一際高くそびえるビルが視界に入る。「ウィリスタワー(元シアーズタワー)」(1971年)だ。摩天楼発祥の地ともいわれるシカゴを象徴するこの超高層ビルは、地上110階建て、高さは442メートルにおよび、2013年にニューヨークのワールドトレードセンターが竣工するまでは全米一高いビルであった。
ウィリスタワーについては、たもとから眺めるだけではなく、103階にある展望室「スカイデッキ」を訪れることをお薦めしたい。同展望室には、窓から飛び出すような形で設置された奥行き1.3メートルほどガラス張りのボックスがあり、その中に身を置くと、地上約412メートルの高さで空中に浮いているかのような体験ができるからだ。「ザ・レッジ」と名付けられたそのガラスボックスからは、最大約80km先まで見渡せ、4つの州の景色を楽しめるという。
リバークルーズ終盤、スタート地点へ戻った船がさらにミシガン湖方面へ進むと、右手に姿を現すのが「アクア」(2010年)だ。波のようなさまざまな曲線で象られた白いボードを幾重にも重ねたかのようなファサードが印象的なこのビルは、建築設計はシカゴをベースとするアメリカ人女性建築家、ジーン・ギャングによるもの。262メートル、87階を誇るこの超高層ビルは、現在、女性建築家が手掛けた建築のなかで最も高いのだそうだ。
リバークルーズのトリをとるのが、ミシガン湖畔にたたずむ高層マンション「レイク・ポイント・タワー」(1968年)だ。中心から3方向に曲面の建物を配したかのようなユニークなフォルムは、ミース・ファン・デル・ローエが原案をデザインし、彼の教え子である建築家、George Schipporeitと John C. Heinrichが設計を手掛けたもの。黒く輝くこの優美な高層ビルは、まさにシカゴを代表するモダニズム建築といえるだろう。
リバークルーズで楽しめるもの以外にも、シカゴには数多の注目すべき建築物がある。たとえば、シカゴの金融街の中心に立つ「ルッカリービル」(1888年)。御影石を積み上げる組積造と鉄骨構造を組み合わるという当時ならではの工法が採られたこの11階のオフィスビルは、シカゴ派を代表する建築家であったニエル・バーナムとジョンウェル・ボーンによるもので、竣工時、世界で最も高い建物の一つだったという。いわば、高層ビルの礎なのだ。
1905年には、フランク・ライド・ライトがロビーの改修を手掛ける。ガラスの屋根から自然光が降り注ぐこの2階建ての吹き抜けのロビーは、螺旋階段の手すりや屋根の鉄骨に施された繊細な装飾と相まって、ため息が出るほどエレガントな空間に仕上げられている。
今回、駆け足で筆者が興味を引かれた建築物を紹介してきたが、シカゴには他にも、さまざまな時代、さまざまな様式の名建築が数多く存在する。それこそ、シカゴの街そのものが建築の博物館であると言われるゆえんなのである。
問い合わせ先
シカゴ市観光局
https://www.choosechicago.com/