リビングの隣にあるギャラリーのようなガレージハウス。クルマと暮らす新しい空間設計を建築家・小川達也が語る
DESIGN / ARCHITECTURE
2025年8月4日

リビングの隣にあるギャラリーのようなガレージハウス。クルマと暮らす新しい空間設計を建築家・小川達也が語る

THE GRANDUO |ザ・グランデュオ

車好きの理想である、クルマを愛でる暮らし。そんなガレージハウスをつくるには、どんな条件が必要なのか? 高級賃貸物件であるTHE GRANDUOシリーズなどを手がける建築家・小川達也さんが、設計の勘所から空調・照明・防火法規まで、プロの視点で語った。

Text by AOYAMA Tsuzumi|Photographs by TAKAYANAGI Ken, THE GRANDUO (FaithNetwork)

「ガレージハウス」。この響きに、あなたはどんな光景を思い浮かべるだろう。スポットライトに照らされた愛車、静けさに包まれた夜のリビング、その向こうにちらりと覗くフォルム。あるいは、休日の朝、窓を開けた先に広がる、小さな個展のような風景かもしれない。
「実際、そんな“ちょっといい空間”をつくるには、思いのほか緻密な設計と美意識が必要です」。東京都内を中心に富裕層向けの住宅や施設を数多く手がけてきた建築家・小川達也さん(16Architects)は、ガレージハウスの本質をこう語る。
小川さんは、会員制サーキット「THE MAGARIGAWA CLUB」のクラブハウスをはじめとしたラグジュアリー層向けの大規模施設から、都市部の限られた敷地を活かした住宅まで、多様なスケールで設計を行ってきた経験を持つ。
そんな小川さんが語る、都市部での設計における難題は「限られたスペースに2台分の駐車+人がくつろげる空間をどう確保するか」。たとえばガレージの広さは最低でも3メートル×6メートルを確保したいところだし、車種によってはファサードの傾斜角度にまで配慮が必要になる。
スーパーカーのような車高が低いモデルでは、バンパーのクリアランスをシビアに計算しないと出入りのたびに擦ってしまう。にもかかわらず、メーカー側が細かなデータを開示していない実情から、設計者の経験値と現場での調整力が問われるのだという。

空間の魅せ方と、暮らしとのつながり

加えて、ガレージをどう“空間として編み込むか”も重要な視点になる。小川さんが重視するのは「視覚的なつながり」。リビングとガレージの間を仕切るのは壁ではなくガラスがベスト。視線が抜け、空間同士が自然につながっていく構成が、小川さんの設計でも頻出する。
最近手掛けた千歳船橋の集合住宅、THE GRANDUO CHITOFUNAでは、白壁と白床、素材や光の扱いで空間に“余白”をつくり、ガレージというよりギャラリーのような表情を与えている。
THE GRANDUO CHITOFUNAの106号室。ガレージとリビングを壁で隔てず、ガラスを配置したところに、小川さんならではの美意識と知見が活かされている。
そこにクルマが置かれることで、生活空間は一変する。愛車の佇まいが、暮らしに差し込まれる。
こうした構成において、小川さんは抜け感だけでなく、光の当たり方や動線の導き方、さらには構造的な分断のバランスも意識している。ガレージが孤立するのではなく、生活空間に寄り添うように配置されることが、美的にも実用的にも求められているのだ。
「たとえば夜に友人を自宅に招いて語るようなとき、家族がいるリビングを経由するよりもガレージに隣接したセカンドリビングに直接招き入れたほうがお互いにとって気軽ですよね。でもセカンドハウスとして使うのであればそこは考えなくていい。家族とクルマとの関係まで入念に考慮する必要があります」
ビルトインガレージ付きの家で空調設計を甘く見て、梅雨どきに車が結露してしまった、という話もしばしば耳にする。車は意外にデリケートで、特に皮シートなどは湿気に弱い。小川さんも、空調と湿度管理は「軽視されがちだけれど、ガレージ設計で最も重要なポイントの一つ」と語る。
「通気性の確保と適切な空調の設計は欠かせません。ガレージを自分と愛車が過ごす場所だと考えると、空気環境が大切なことは言うまでもありませんよね。加えて、愛車との付き合い方によっても情感は全く異なります。長期保管なのか頻繁に乗るのかによっても設計方針や仕様が変わりますから」
EV時代を見据えるなら、「静かなガレージ」という新たな美学も出てくるのかもしれない。エンジン音ではなく、光と空気で車を魅せる空間。排気臭や騒音の課題が減った分、よりパブリックな「魅せる場」へと進化する可能性がある。

都市で建てるための実践的ヒント

THE GRANDUO CHITOFUNAの106号室。右がガレージ。天井にはクルマを照らすライトのためのレールが設置されている。
THE GRANDUO CHITOFUNAのガレージで印象的なのは、クルマをアート作品のように眺められる、床までの大きなガラスを使ったデザインだ。
小川さんは「実は、あのガラスも防火の法規に対応したものなんです。特定防火設備の要件を満たすために、かなり特殊な仕様でコストもかかるガラスを使いました。でも、このガラスでないとこの空間の美しさは成り立たなかったんです」と語る。
一見するとデザイン上のこだわりに見えるディテールの背後には、構造や法規に精通した建築家だからこそ実現できる選択がある。とくに大きな車両と住宅空間を同居させるには、構造設計や安全性の観点から専門的な視点が欠かせない。
また、音やにおい、防火への配慮も忘れてはならない。ガレージと住居が近接する構成では、排気や音の抜け方や素材の選定、防音性、防火区画の設定などが暮らしの快適さを左右する。設計段階でどれだけ将来を見据えた設備を組み込めるかが鍵となる。
さらに、照明の工夫も空間性を左右する要素だ。「赤い車には暖色系、黄色い車には白色系のライトがクルマをきれいに見せるんですよ」と小川さん。
工具やタイヤの置き場、メンテナンス用の電源設置、洗車や充電設備の取り回し。都市部のガレージハウスでは、設備計画の巧拙が使い勝手に直結する。THE GRANDUO CHITOFUNAでは、床と天井の素材選びに加えて、空間を一体的に見せるための照明や換気、配線までが計算されていた。
小川さんが語るご自身の理想のガレージハウスは、「最低でも2台がおける広さがほしいですね」。1台は日常使い、もう1台は週末用やバイクなど。そして、ガレージと生活空間が切り離されず、ひとつながりの構成になっていること。ガレージから入る家という発想も小川さんの理想のひとつ。
ガレージは、趣味と暮らしの境界をやさしくまたぐ場だ。ひとつの「ライフスタイルのあらわれ。週末の朝、コーヒーを淹れながら、あるいは夜にグラスを傾けながら。贅沢な時間は綿密な計画と経験が必要なようだ。
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