DESIGN /
ARCHITECTURE
2025年10月23日
グッドデザイン賞が認めた、都市で森を育てる建築プロジェクト
THE GRANDUO|ザ・グランデュオ
高級賃貸物件という、新しいラグジュアリーの形を提案し続けるフェイスネットワークから、興味深いニュースが飛び込んできた。2025年度グッドデザイン賞で8つのプロジェクトが受賞、そのなかには「都市緑化プロジェクト」なるものがあるという。1年ごとに100坪の緑を東京に生み出し、建物を立体的な森に変える。壁も屋上もバルコニーも、すべてが緑の居場所。。小さな緑を集め、やがて大きな森を作る。そんな壮大なプロジェクトが進行している。
Text by AOYAMA Tsuzumi|Photographs by THE GRANDUO(FaithNetwork)
OPENERSでもたびたび取り上げてきたフェイスネットワーク。高級賃貸「THE GRANDUO」シリーズを通じて新しい都市居住の形を提案してきた不動産デベロッパーから、また興味深いニュースが届いた。
2025年度グッドデザイン賞で、フェイスネットワークが手掛けるプロジェクトが、なんと8つも受賞したのだという。そのなかでも目をひくのが「都市緑化プロジェクト・小さな緑を集めて100坪の森を創る」だ。
緑化がデザイン賞を受賞するとはどういうことだろう、と少し考えてしまった。最近のビルなら屋上庭園を備えているのはもはや常識にも近く、壁にツタを這わせる施工の例も珍しくない。もともと、居心地の良い居住空間というものは、緑との調和が考えられている場合が多い。
そんな、建築のプロジェクトがデザイン賞を受賞するとは、どういうことだろう。
建物を森にする、という発想
審査員のコメントを読んで、ようやく腑に落ちた。
「立体的な建築化植栽は、緑化の多面的な効果を追求し、建築デザインに新たな展開を示している点が評価された。視覚的な効果にとどまらず、都市環境における治水効果やヒートアイランド抑制まで見据えた緑化は、地域社会への大きな貢献になるであろう。緑を飾りとして扱うのではなく、植栽を建築のデザインに融合させ、住人の暮らしに還元しようとする姿勢が重要な視点である」
緑化の効果を景観だけでなく地域社会への貢献へと及ぼす点が評価されているが、もっとも重要なポイントは緑を「おまけ」から「主役」に昇格させたという点にある。それはプロジェクトの詳細を深く知っていくうちに納得ができた。
建物のあらゆる面を「緑が育つ場所」として設計する。フェイスネットワークのやり方は徹底していた。床面や地面にグリーンを配するのは当然として、壁面からバルコニー、そしてもちろん屋上も。
すでに、フェイスネットワークが手掛ける「THE GRANDUO」シリーズ、「GranDuo」シリーズ、どちらも城南エリア(世田谷、目黒、渋谷あたり)でこのプロジェクトは展開中で、この立体緑化を実践している。
たとえば世田谷区にある「GranDuo上馬」の写真を見ると、建物から緑が垂れ下がり、まるで巨大な生け垣のような佇まいだ。風が吹けば植物が揺れ、朝の光に葉が輝く。季節が巡れば、建物の表情も変わっていくことだろう。
でも、ここで疑問が湧く。メンテナンスはどうする? そのコストは誰が支払う? そもそも住民や地域の隣人たちは喜ぶのか?
実は、この疑問への答えが面白かった。
秘密は「軽い土」にあった
まずメンテナンスの話から。
立体緑化の最大の課題は、重さと水やりだ。普通の土を壁面や屋上に載せると、建物への負担が大きい。水やりも、高い場所では大変だ。
これを解決したのが、パートナー企業であるイケガミという会社の「アクアソイル工法」。アクアソイルという特殊な土を使う。
この土は、手に取ると意外なほど軽い。それでいて保水力が一般の土の3倍もあるという。数字にすると440リットル/㎥前後。つまり1立方メートルの土が、ドラム缶2本分以上の水を蓄えられる。軽いのに、たっぷり水を含む。まるで高機能スポンジだ。
水やりの頻度が減れば、メンテナンスコストも下がる。建物への負担も少ない。これで立体緑化のハードルがぐっと下がった。
しかも、この土のおかげで3つの「おまけ」がついてくる。
小さなダム効果 ゲリラ豪雨のとき、排水溝から水があふれる光景、見たことあるだろう。フェイスネットワークの建物では、植栽帯が雨水を一時的に受け止める。1プロジェクトあたり600リットル。ペットボトル300本分だ。世田谷区が掲げる「世田谷ダム構想」への貢献にもなっている。(調べてみると、全世帯で13万㎥の雨水貯留を目指すらしい。壮大だ)
打ち水効果 真夏の午後3時、潅水装置が作動する。日中の気温上昇に伴い、アクアソイルに蓄えられた水がゆっくり蒸発し、気化熱で建物の表面温度が下がるのだ。
江戸時代から続く打ち水の知恵を、現代の技術で建築に組み込んだ形だ。真夏の建物表面は50度を超えることもあるが、植栽部分は5〜10度も低い。この温度差が微風を生み、建物全体を冷やしていく。エアコンの設定温度を1度上げても快適に過ごせるかもしれない。
生き物のオアシス ここは特にいい話。フェイスネットワークは武蔵野の在来種の保全にこだわっている。
コナラ、クヌギ、エゴノキ。地元の生き物たちには「懐かしい木」だ。実際、建物が完成して半年もすると蝶が飛んでくる。1年経つと、メジロやシジュウカラが巣を作り始める。
朝、鳥のさえずりで目が覚める暮らし。コンクリートジャングルと呼ばれる東京に、小さな生態系ができあがる。都会の真ん中のオアシスができるのだ。
アクアソイルがもたらす効果を確認したところで、肝心の「住民は喜ぶのか」問題にも迫りたい。
2025年度から、フェイスネットワークは入居者向けに植栽パンフレットの配布を始めたという。「この木は何?」「どう手入れすればいい?」そんな疑問に答えるものだ。実際、住民からの反応は上々らしい。緑があることで物件の価値も上がり、住む人も緑のある暮らしを楽しんでいる。
これこそ、未来のデザインだ
かかるコストについてはどうか。
このプロジェクトを推進する建築一部執行役員の久野泰浩さんに話を聞くと、興味深い答えが返ってきた。
「緑化はコストから投資へ、という発想の転換が必要です」
なるほど、と思った。
たしかに最初はお金がかかる。でも、長い目で見ればいろんなリターンがあるという。物件の価値が上がる。地域の環境がよくなる。住む人の満足度も高まる。
面白いのは、フェイスネットワークが「余分な緑」にお金を払っていることだ。
GREEN CHARITYという仕組みを作った。各自治体には緑化条例があり「これくらいは緑を植えなさい」という基準がある。フェイスネットワークはその基準を超えて緑を植えている。で、その「余分に植えた緑」1平方メートルあたり1,500円を、都市緑化団体に寄付するのだ。
2024年度は世田谷まちづくりトラストへ20万円。事業主も、設計者も、植栽施工会社も、みんなでお金を出し合って、街に恩返しをする。
「ビジネスとしては小さな金額かもしれませんが、続けることに意味があると考えています」と久野さん。
つまり、緑化を単なるコストと見るか、未来への投資と見るか。その違いが、このプロジェクトの本質なのだろう。
フェイスネットワークは年間100坪の緑を東京に増やすという。
100坪。テニスコート1.2面分。
たいしたことない? いや、毎年だとどうか。10年で1,000坪。20年で2,000坪。しかも城南3区に集中的に展開する。二子玉川、南青山、千歳船橋、学芸大学、上目黒、東が丘、下北沢、上馬、代々木……地図にプロットすると、緑の点が線になり、やがて面になっていく。
街のデザイン、未来のデザイン
久野氏は、さらに大きなビジョンを語る。
「構想力・デザイン力のある建築家とのコラボレーションを積極的に行い、短期的で効率の良い開発より、長期スパンで思考しデザインしていきたい。いまは点の開発だがやがてこれを線へ、そして面へと進化させていきます」
さらに興味深いのは、次の展開だ。
「あわせて、私達があらたに取り組むテーマである"安全、安心な街づくり"という観点から、照明に焦点を当て、"小さな緑"と一体となって風に揺らぐ、"小さな灯り"の開発も進めていきます」
緑と光。確かに、夜の緑も美しいかもしれない。
緑化はコストから投資へ。この発想の転換が、グッドデザイン賞が評価したポイントなのではないか。都市の温度を下げ、雨水を受け止め、生き物の居場所を作る。一棟の建物を超えて、街全体をデザインしていく。
これは「Biophilic Design(バイオフィリックデザイン)」と呼ばれる考え方だ。人と自然が調和し共生することで、心身の健康と豊かな暮らしを育む。維持管理の手間がかかる緑を建築と一体化させ、経済合理性の新たなバランスを構築する。簡単ではないが、だからこそ価値がある。
小さな緑を集めて100坪の森を創る。
壮大なようで、着実な一歩。そんなプロジェクトが、いま東京で進行中だ。
受賞者のコメント
Producer 久野 泰浩さん(株式会社フェイスネットワーク 建築一部 執行役員)
グッドデザイン賞の受賞は、これまでの挑戦の成果であり、次へのスタートでもあります。社会課題にどう寄与できるかを模索し続けてきた中で、緑ある街づくりというテーマを共有し、多くの仲間と議論を重ねながら形にできたことを嬉しく思います。このプロジェクトが、他の企業や地域へ波及していく兆しも見え始めており、今後もより良い都市環境の実現に向けて、発展的に取り組みを続けていきたいと感じています。
グッドデザイン賞の受賞は、これまでの挑戦の成果であり、次へのスタートでもあります。社会課題にどう寄与できるかを模索し続けてきた中で、緑ある街づくりというテーマを共有し、多くの仲間と議論を重ねながら形にできたことを嬉しく思います。このプロジェクトが、他の企業や地域へ波及していく兆しも見え始めており、今後もより良い都市環境の実現に向けて、発展的に取り組みを続けていきたいと感じています。
Designer 矢野 聖玲菜さん(株式会社フェイスネットワーク 建築一部)
緑化への取り組みがグッドデザイン賞として評価されたことを心から嬉しく思います。限られた空間で質と量の両立を図るには多くの調整が必要でしたが、設計と現場が粘り強く対話を重ねた結果、都市の中で生きる「緑の機能」を実現できたと感じています。都市環境に寄与する仕組みとしての緑をどう成立させるか、その試行錯誤の積み重ねが、今回の受賞につながったと考えています。
緑化への取り組みがグッドデザイン賞として評価されたことを心から嬉しく思います。限られた空間で質と量の両立を図るには多くの調整が必要でしたが、設計と現場が粘り強く対話を重ねた結果、都市の中で生きる「緑の機能」を実現できたと感じています。都市環境に寄与する仕組みとしての緑をどう成立させるか、その試行錯誤の積み重ねが、今回の受賞につながったと考えています。
Partner 池上 靖幸さん(株式会社イケガミ 代表取締役)
今回の受賞を心から嬉しく思うとともに、ご支援くださったすべての皆様に深く感謝申し上げます。フェイスネットワーク様との協業は、建築物に緑化が標準的に備わる時代の幕開けであり、暮らしや環境、そして経済面にも確かな価値をもたらすことを示す第一歩です。この新たな挑戦に私たちの技術を活かせたことは、大きな学びと成長の機会でもあります。気候変動がもはや遠い出来事ではなく、私たちの暮らしに直接影響を及ぼす現実となった今、都市緑化の重要性はますます高まっています。技術と経験、そして長年培ってきたノウハウを活かし、持続可能な都市環境の実現に貢献できるよう、これからも進化と挑戦を続けてまいります。
今回の受賞を心から嬉しく思うとともに、ご支援くださったすべての皆様に深く感謝申し上げます。フェイスネットワーク様との協業は、建築物に緑化が標準的に備わる時代の幕開けであり、暮らしや環境、そして経済面にも確かな価値をもたらすことを示す第一歩です。この新たな挑戦に私たちの技術を活かせたことは、大きな学びと成長の機会でもあります。気候変動がもはや遠い出来事ではなく、私たちの暮らしに直接影響を及ぼす現実となった今、都市緑化の重要性はますます高まっています。技術と経験、そして長年培ってきたノウハウを活かし、持続可能な都市環境の実現に貢献できるよう、これからも進化と挑戦を続けてまいります。
Partner 中西 研大郎さん(株式会社イケガミ)
緑化の取り組みに携わることができたこと、そしてその成果がグッドデザイン賞という形で評価されたことを、素直に嬉しく思います。限られたスペースの中で緑化の質と量をどう両立させるかが大きな課題でした。特に、現場とのすり合わせでは、植栽の選定や維持管理の方法など、設計上の理想と施工現場の現実との間で細かな調整が必要となり、何度も対話を重ねました。設計・施工・運用に関わる多くの方々の尽力があってこその受賞だと感じています。
緑化の取り組みに携わることができたこと、そしてその成果がグッドデザイン賞という形で評価されたことを、素直に嬉しく思います。限られたスペースの中で緑化の質と量をどう両立させるかが大きな課題でした。特に、現場とのすり合わせでは、植栽の選定や維持管理の方法など、設計上の理想と施工現場の現実との間で細かな調整が必要となり、何度も対話を重ねました。設計・施工・運用に関わる多くの方々の尽力があってこその受賞だと感じています。
『小さな緑を集めて100坪の森を創る』
2025年度 グッドデザイン賞 受賞
参考サイト
プレスリリース(IR情報ページ)
グッドデザイン賞 特設サイト
https://faithnetwork.co.jp/gooddesign/
グッドデザイン賞 受賞ギャラリー
https://www.g-mark.org/gallery/winners/29512
2025年度 グッドデザイン賞 受賞
参考サイト
プレスリリース(IR情報ページ)
グッドデザイン賞 特設サイト
https://faithnetwork.co.jp/gooddesign/
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