MOVIE|宮崎あおい、高良健吾 主演作『ソラニン』 監督 三木孝浩インタビュー
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2015年2月27日

MOVIE|宮崎あおい、高良健吾 主演作『ソラニン』 監督 三木孝浩インタビュー

MOVIE|宮崎あおい、高良健吾 主演作『ソラニン』

監督 三木孝浩インタビュー(1)

青春の光と影を詩的な言葉で繊細に描きだす人気漫画家 浅野いにおの傑作コミック『ソラニン』。累計70万部を突破し、いまなお性別、世代を超えて読み継がれる名作が、宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太、人気ロックバンド「サンボマスター」の近藤洋一など、世代を問わず絶大な支持をあつめる豪華キャストによって映画化、4月3日(土)より全国でロードショーされる。
監督をつとめたのは映像ディレクター三木孝浩。これまで、FUNKY MONKEY BABYS、木村カエラ、いきものがかり、YUIなど、数かずのヒット曲のミュージックビデオを手がけてきた彼が挑んだ初映画監督作品『ソラニン』。長年の夢であったという映画監督デビューをはたした彼に、その想いを聞いた。

セリフなり、その時どきの想いなり、キャラクターなり、誰かにシンクロできる物語

──初の映画作品だそうですが、もともと映画監督という道は考えていたんですか?

中学生のころから言ってましたね、「映画監督になりたい」って。というのも、そのころはまだ“映像を作る仕事=映画監督”程度の単純な発想しかなかったんです(笑)。大学に進学してからは自主映画作品を作ったりして、“映像を仕事にできればいいな”なんて思っていました。そこで1年間休学して映像の専門学校に通うことにしたんです。そのときミュージックビデオ制作実習があって、“こういう仕事もあるんだな”と、いまの仕事と出会いました。その後ソニー・ミュージックで多くのプロモーションビデオを制作してきましたが、“映画をやりたい”という思いがずっと心のなかにありました。

©2010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会 写真:太田好治

──念願の映画作品、感想は?大変でした(笑)。長さもありますし、使う頭の筋肉がちがうんです。どちらかというと、ミュージックビデオは瞬発力で作っていくイメージなんですが、映画は2時間という長い尺をいかに構成していくか、撮影を終えてからが大変ですね(笑)。

僕のなかでこのふたつは短距離走とフルマラソンぐらいの差がありました。それは自分にとってチャレンジでしたし、すごくむずかしい部分ではありました。

──もともと原作のファンだったんですか?

僕はもともと浅野さんの作品が好きで、『素晴らしい世界』『ひかりのまち』など、ほかの作品は読んでいたのですが、じつは『ソラニン』だけ読んだことがなかったんです。今回お話をいただいてから読んだのですが、すごく自分が共感できるというか、いままでいろんなバンドを見てきたなかで感じたものが物語のなかにいっぱいあったんです。それで、これはぜひやりたいと思い引き受けました。

©2010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会 写真:太田好治

──メッセージ性の強い作品ですよね。

教訓めいたものを表現したいとは全然思っていませんでした。自分の行く末というか、迷ったり不安に思ったりする時期って誰にでもあると思うんです。それが苦しいのは、選択肢がたくさんあるなかでひとつを選ばなければいけない、そしてそこに向かって前へ進むということが、じつはもっとも痛みをともなう時間だと思うんです。

会社を選ぶにしても、辞める、辞めないにしても、“選択する”ということを誰しも経験することだと思うので、世代を問わず共感できる物語だと思ったんです。“前に進むことが大事”ではないですけど、その一歩を踏みだすために、そのひとがどんな想いでそこにいたるかということが、人生において大事なポイントだと思うんですよね。

「特別なひと」の話じゃない、誰もが経験しうるシチュエーションの話というところがこの作品のキモかなと思っています。迷いや不安に対してひとがどう対処していくか、それってキャラクターによって全然ちがうんですよね。種田はどうか、芽衣子はどうか、加藤は、ビリーはアイちゃんは──? みんな誰かしらにシンクロできると思います。いろんな立場があって、それに対する立ち向かい方もちがう。そのなかでセリフなり、その時どきの想いなり、キャラクターなり、誰かにシンクロできる物語なんじゃないかなと思います。

MOVIE|宮崎あおい、高良健吾 主演作『ソラニン』

監督 三木孝浩インタビュー(2)

「それでもやれよ。やりつづければ、そのうちなんか見えてくんだろ」

──言葉がとても印象的な作品ですよね。監督が印象に残っている言葉は?

浅野さんの作品は本当にすてきな言葉がいっぱいあって、『ソラニン』でもカットするのが心苦しかったです(笑)。好きな言葉をあげたらキリがないんですが、加藤(近藤洋一)が何気なく言う「それでもやれよ。やりつづければ、そのうちなんか見えてくんだろ」っていうフレーズは自分の人生にすごくシンクロする言葉だったので強く心に残っています。

あのころ“映画をやりたい”と思っていてもそこに道が見えていたわけではなくて、“でもやりたい!”って、その想いだけで僕は映像の仕事に就いたので、自分のなかでしがみついている感じがしていたんです。でも今回、監督ができたことはひとつ辿りつけたんじゃないかなって思うんです。加藤のあの言葉は真実だなって、そう思っています。

©2010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会 写真:太田好治

みんなやりたいことなんてないように見せて、じつは心の奥底にもっていたりすると思うんです。ただ、それを表面にださないんですよね。たとえばハリウッドスターになりたいとか、ミュージシャンとして武道館をいっぱいにするとか、なんでもいいんですが、夢を声にだすのが照れくさかったり恥ずかしかったりすると思うのですが、僕は映画監督になりたいって、道筋もわからぬまま言いつづけたことで今回ひとつ夢をかなえることができました。100人に言ったらひとりくらいは覚えていてくれたりして、「そういえばやりたいって言ってたから声かけてみるか」なんて具合でチャンスが舞い込んでくることもあると思うんです。

でもそれは伝えつづけていなければそういうチャンスは巡ってこないので、ひとつでもなにかやりたいことなり自分の想いがあるのであれば、それを表にだしつづけることはすごく大事なことなんじゃないかなって思います。加藤のセリフにも通じますが、やりつづける、言いつづけることで見えてくるものがあるんじゃないかって、僕は思っています。

──この作品を通して伝えたかったこととは?

自分はこの先どこへ向かえばいいんだろうと迷っているひとや、無限にある選択肢のなかからひとつを選択しなければならない状況に立たされているひとはいっぱいいると思いますし、どれを選んだらいいかわからないひともいるでしょう。でも選ばなければいけない、選ぶときには痛みを感じる……だけどそこでひとつ殻をぶち破らないと先へは進めない。そういった時期に直面しているひとにぜひ見ていただきたいですね。
もちろん映画のなかに答えがあるわけではないんですが、どうやったら前に一歩進めるのかというヒントにしてもらえればと思います。監督としてはもちろんいろんなひとに観てもらいたいのですが(笑)。4月ですから、迷っている方も多い時期なのではないかと思うので、そんなときはぜひ『ソラニン』を観ていただければと思います(笑)。

©2010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会 写真:太田好治

──ありがとうございました。

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©20102010 浅野いにお・小学館/「ソラニン」製作委員会 写真:太田好治

4月3日(土)全国ロードショー!
『ソラニン』

原作|浅野いにお 『ソラニン』
(小学館ヤングサンデーコミックス刊)
脚本|高橋 泉 『むすんでひらいて』『ある朝 スウプは』
監督|三木孝浩 (第一回監督作品)
出演|宮崎あおい、高良健吾
桐谷健太、近藤洋一(サンボマスター)、伊藤 歩
製作|『ソラニン』製作委員会
企画|アスミック・エース エンタテインメント、IMJエンタテインメント
制作|IMJエンタテインメント
2010年日本/カラー/2時間6分/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル
配給|アスミック・エース

ソラニン|solanin
ジャガイモの芽などにふくまれる毒の一種。
多く摂取すれば中毒症状を起こすが、その植物が成長するために必要不可欠な成分でもある。

ストーリー|OL2年目で仕事に嫌気がさし、自由を求めて会社を辞めた芽衣子(宮崎あおい)。音楽への夢をあきらめきれず、フリーターをしながらバンド活動をつづける種田(高良健吾)。未来に確信がもてず、互いに寄り添いながら東京の片隅で暮らすふたり。だが、芽衣子のひと言で種田はあきらめかけた想いをつなぐ。“これでだめならバンドは解散”と覚悟を決め、大学時代からバンドを組んできたビリー(桐谷健太)、加藤(近藤洋一)らとともに『ソラニン』という曲をレコード会社に持ち込んだ。しかし、反応のないまま日々が過ぎていく……。そんなある日、種田がバイクで事故にあってしまう。この悲しみの果てから、どうしたら這い上がれるのだろう? ひとり遺された芽衣子が選んだ“再生”への道、それは種田が残した『ソラニン』を歌うこと──。

           
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