MOVIE|家族の絆を取り戻す旅『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
MOVIE|人生の豊かさを謳いあげるアレキサンダー・ペイン監督の真骨頂
家族の絆を取り戻すロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(1)
100万ドルが当選したと頑なに信じる父親と、そんな頑固な父と距離を置いてきた息子が旅をつうじて親子の絆を取り戻すロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』。このアレキサンダー・ペイン監督の最新作が2月28日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかで全国公開される。
Text by YANAKA Tomomi
おかしみと刹那さを見事に体現したブルース・ダーン
『アバウト・シュミット』や『ファミリー・ツリー』など珠玉のヒューマンドラマを送り出してきた、アレクサンダー・ペイン監督。彼の最新作もまた、ひととの繋がりのなかで人生の素晴らしさ、しみじみとした幸せが心を満たすような作品となった。
配役もまた秀逸。老いによる混乱のなかを漂うウディ役にはブルース・ダーン。これまで反逆者や殺し屋など邪悪で強烈なキャラクターを演じてきた彼が一転、100万ドルが当たったと信じ込む男のおかしみと刹那さをひょうひょうと演じ、カンヌ国際映画祭では76歳にして主演男優賞を獲得している。
息子役にはコメディアンとして高い人気を誇り、『ロック・オブ・エイジス』のウィル・フォーテが出演。妻ケイトは『アバウト・シュミット』につづき、ジューン・スキップ、さらにアメリカのテレビドラマ『私立探偵マイク・ハマー』でマイク・ハマー役を演じたステイシー・キーチら味わい深い演技派俳優が登場する。
100万ドルが当選したと信じ込む、年老いたウディ
“100万ドルが当選した”という明らかに胡散臭い通知が大酒飲みで、頑固で、近年思い込みが激しくなってきたウディのもとに届いた。そして、彼はすっかり信じてしまい、はるかかなたのネブラスカ州リンカーンまで歩いてでも賞金を取りに行くという。
そんなウディと距離を置いていた息子のデイビッドは、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見かね、骨折り損だとわかりながらも彼を車に乗せて4州にわたる旅に出かけるのだった。
行く先々で騒動を起こすウディ。おかげで旅は回り道ばかり。途中に立ち寄ったウディの故郷で、賞金をめぐる騒動に巻き込まれながらも、デイビッドは想像すらしなかった彼の両親の過去と出合うこととなる。
不格好だけど人間味あふれるキャラクターたちが人生と向き合い、家族とのつながりを戻す様子を、ときにチクリと鋭く、そして温かく描き出した本作。些細な日常とひとびとの感情のひだを捉え、人生の豊かさを謳いあげるペイン監督の真骨頂ともいえる作品だ。
MOVIE|人生の豊かさを謳いあげるアレキサンダー・ペイン監督の真骨頂
家族の絆を取り戻すロードムービー『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2)
ここからはアレキサンダー・ペイン監督のインタビューをお届けする。世界中で人気を博した『サイドウェイ』で知られる彼が、再びロードムービーを撮ろうと思ったワケ、そして生まれ故郷、ネブラスカ州への思いを語ってくれた。
「これこそが現代の“憂鬱な時代”を描いた物語」
──ボブ・ネルソンが執筆した脚本を、はじめて読んだときの感想を教えてください。
この美しい脚本を最初に受け取ったのは、2004年のことだった。ユーモラスで哀愁が漂っていて、まるで人生そのものだと思ったね。それにボブ・ネルソン自身の体験も織り交ぜてあったから、脚本家が物語の世界に実際に暮らしているようで、とてもパーソナルに感じられるところも気に入った。だけど、ちょうど『サイドウェイ』が完成間近だったから、つづけてロードムービーを撮るつもりはなかったんだ。それで、この脚本をしばらく寝かせることにした。
──2011年に『ファミリー・ツリー』で成功を収めたあと、いよいよ本作に取り組むことになったのですね。
9年の歳月が経っていたけれど、この脚本に対するぼくの愛情は、決して消えることはなかった。それに非感傷的で成熟したこの物語を映画化するのは、むしろいまこそベストなタイミングだと気がついたんだ。ぼくたちがこの作品に取り掛かるまでに、世界ではさまざまなことが起きた。これこそが現代の“憂鬱な時代”を描いた物語だと感じたんだ。どんな映画も、作られた時代の空気を帯びると思う。時代の風というのは、意識的であれ無意識的であれ、作品のなかを流れているものなんだ。
──なぜモノクロ映像を選んだのですか?
本作を作るにあたって、モノクロで撮ることは真っ先に決めたこと。最初に脚本を読んだときから、ずっとモノクロをイメージしていたから、この作品にとっては、それが正しい選択に思えたんだ。控え目で飾り気のない物語と、登場人物たちの人生を描くには、荒涼として平坦で、直接的なビジュアル・スタイルがうってつけなんだ。それに以前からずっと、モノクロ作品を作りたいと考えていた。モノクロ映画は実に美しい形式だと思う。
──監督の故郷であるネブラスカ州での撮影はどうでしたか。
ネブラスカ州で撮ることで、より一層深く物語に踏み込むことができた。いろいろな意味で、アメリカのどの場所で撮影しても物語は成り立つけれど、ぼくがよく知っている場所を選んだことで、映画に微妙なディテールを持ち込むチャンスができた。ぼくはネブラスカ州のオマハ出身だけれど、グラント一家の出身地よりはずっと都会だから、ネブラスカ州の田舎を探索するのは、とてもエキゾチックで楽しい体験だったよ。
──ウディ役のキャスティングは、一筋縄ではいかなかったそうですね。
最初にブルース・ダーンと決めたあと、あらゆる可能性を考え直した。その間ずっと、娘のローラがぼくに電話してきて、「パパをキャスティングして!」ってうるさかった。それで決めたわけじゃないよ(笑)。最終的にやっぱりブルースだと確信したあとは、決して後戻りはしなかった。
──撮影前に、ダーンとはどんな話をされたのですか?
ぼくとブルースとの仕事の仕方は、早いうちから信頼関係を築くという、とてもシンプルなものだった。撮影がはじまる何週間も前から、ぼくたちは一緒にブラブラしながらいろいろなことを話し合った。ただ、この映画についての話はのぞいてね。撮影がはじまるころには、なにもかも自然に流れていったよ。
──彼の役作りについてはいかがですか。
これまでの経験で培われた独創性を生かしつつ、そこからさらに踏み込んで、人間臭い面と人並み外れた面の両方を持って、楽しそうに役にのめり込んでいくブルースを目撃したよ。俳優としてどのようにウディにアプローチするかは、すべてブルース次第だった。彼はぼくが求めていた、相反する資質のすべてを、ウディに持ち込んでくれたよ。
ブルースは気難しいかと思うと、同時に軽妙さも表現できるんだ。なによりも感謝しているのは、彼がぼくを信頼してくれたことだ。どんな監督にとっても、それはなによりの贈り物だ。どんなリクエストにでも答えてくれたしね。あるとき、車のなかのシーンで、ぼくはただ「痛ましいボロ雑巾みたいな感じでいてください」と言っただけだったけれど、ブルースはまさにそのとおりにやってくれたんだ。
──息子のデイビッド役のキャスティングはいかがでしたか。
デイビッドもぼくにとって、大切なキャラクターだった。ぼく自身、ふたりの老いた両親がいるから、デイビッドの気持ちに寄り添うことができた。もちろんデイビッドとまったくおなじ境遇、というわけではないけれど、同様の感情は理解できる。この物語でぼくが気に入ったことのひとつは、デイビッドが父親に威厳を持たせようとしているところだ。このテーマはぼくにとって重要だし、パーソナルなものでもあった。
デイビッド役はオーディションで選んだけれど、ウィル・フォーテの演技にはだれよりも説得力があった。信じさせてくれたんだ。ウィルは誠実さと優しさを持ち合わせているけれど、同時にダメな感じもある。ぼくたちは彼の演技を見て、ブルース・ダーンとジューン・スキッブから、こういう人間が生まれただろうと心底感じることができたんだ。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
2月28日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー
監督│アレクサンダー・ペイン
出演│ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク
配給│ロングライド
2013年/アメリカ/115分
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