1杯のジュースの深みと奥行を追い求める|SUNSHINE JUICE
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2022年7月20日

1杯のジュースの深みと奥行を追い求める|SUNSHINE JUICE

SUNSHINE JUICE|サンシャインジュース

サンシャインジュース代表 コウノリさんインタビュー

コウノリさんが友人に連れられて、ある日ニューヨークで出合ったのは“身体が目覚めるジュース”だった。「こんな美味しいものが東京でも飲めたらいいな……」という気持ちで始めたのが日本初となるコールドジュース専門店「サンシャインジュース」だ。最初に思いついてから今年で10年目。一杯のジュースの価値をどう高めていくのかを探る日々が重ねられている。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by KOIZUMI Yoko|Edit by TSUCHIDA Takashi

ジュース屋がないから、ジュース屋さん

コウノリさんが、ニューヨークで友人に連れられて訪れたのが、できたばかりだったという「JUICE PRESS」。当時の彼はヴィーガンで、トライアスロンやランニングのレースに参加するなど、ストイックな日々を送っており、自分としては“かなり調子がいい状態”だったそうだ。そんな彼がJUICE PRESSを飲み、全身にエネルギーが沁みる、細胞が目覚める感覚を味わうことになる。
「ものすごいインパクトで、あの感覚が忘れられなかった。当時住んでいた台湾から、そろそろ日本に戻ろうと考えていたタイミングだったこともあって、『これ、東京でやりたいな』と思うようになったんです」
まだ日本にはコールドプレスジュース専門店はなく、認知度も低かった。
「食品を扱った経験もなく、ただジュースが好きで、でもジュース屋さんがないから、ジュース屋さんをやる、というレベルとノリ。ですからスタート当初は自分がここまでジュースを掘るようになるとは思っていませんでしたね」
その後、日本に戻り、家で搾ったジュースをイベントにケータリングしたりする日々を経て、2014年に日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」を設立。現在はサンシャインジュースから多くの人々へメッセージを送っている。
「サンシャインジュースを通して心身が“いい状態”であることが大切だということを伝えたい。心身がいい状態であれば、人とのコミュニケーションや仕事をするうえでの思考も良好になっていく。そして、その中心にあるのが食であり、きちんと生きているものを身体に摂り入れていくことが重要だと考えているんです」

つねに“体感”を行動の中心に置く

コールドプレスジュースとは、素材(野菜、果物)を生のまま(コールド)、強い圧力をかけて(プレス)、素材が持っている栄養と水分を絞り出すジュースのことをいう。一般的なジューサーでは、高速回転する刃の摩擦熱と空気に触れることによる酸化で、酵素やビタミンといった熱に弱い栄養素が損なわれてしまう。
サンシャインジュースではボトル1本(400ml)に対して、約1~1.5㎏もの野菜と果物を使い、専用のマシンで5トンの圧力をかけてプレスする。
「酸素と触れ合う時間が長ければその栄養素は酸化してしまうし、熱が加わるほど自然界にある状態とは乖離していってしまいます。僕たちは、自然の状態に対して極力手を加えずに、いかにすべての栄養素と水分を圧搾できるかを追求しています」
コウノリさんは、最初に体感した“自然の持っているエネルギーが細胞レベルに染みわたり、覚醒する感覚”をよりシャープにしたいと思い、そのためにはエネルギーの高い素材を使うべきであると考えている。だからこそ日本各地の生産者を巡り、現在、北海道から沖縄まで50を超える農家から、その時期に最良の状態の素材を仕入れている。
「ジュースを始めるまで、農家さんに行ったこともなければ、野菜のことも知らなかった。ですがこれまで農家さんを一軒ずつ訪ねて、話を聞いて、畑を見て、味わってきました。そのおかげでいろんなことを知ることができたし、その強い“体感”があったからこそ、その行為を大切にしようと思い、続けられた」
開店当初から物議を醸したというユニークなロゴを手掛けたのはニューヨーク出身のアーティストで友人の、マイク・ミン。彼自身も「身体にいいものを摂った方が動きやすい」という感覚の持ち主だという。
「ロゴを変えたほうがいいと言われたり、もっと色々な商品を出した方がいいと言われたこともありました。でも僕は自分が体感したことをベースにやってきて、今がある。体験していないことを知った気になってやることはどうもうまくいかないんです。だから時間はかかりましたが、一つひとつ自分が体験して感じた感覚を大切にして今があるんです」
“周囲に物議を醸した”ロゴは、マイク・ミン氏と相談しながらつくった。「せっかく俺たちがやるんだったら、オーガニックジュースっぽいノリでやるの、違うよね」と話したそう。シンプルなロゴが多いなかで、忘れがたいクセのあるデザインが誕生した。

野菜を考えると、環境にたどり着く

サンシャインジュースでは、ジュースの搾りかすを再利用している。ビーガンスープやビーガンカレーの出汁として、また染料として活用してきたのだ。そして近年、力を入れているのが良質な植物性肥料(堆肥)にすること。
特筆すべきはSDGsやエシカルといった環境保全へのムーブメントが起こる前に、これらのことを行ってきたところにある。彼に時代を先取りしようという思いはまったくなく、結果的にうまくいったプロジェクトが残っただけですよ、と笑う。そして、コウノリさんはこう続ける。
「楽しいじゃないですか。ジュースの搾りかすを微生物たちが良質な植物性肥料に生まれ変わらせてくれて、ジュースの搾りかすで染めたエプロンをして、植物性肥料で育った野菜を調理したり、ご自宅の植物の土を元気にしてくれたり――すべてがつながり合っていくなんて」
発想のスタートは、「いかに美味しいジュースをつくるか」にあると、コウノリさん。
「最終的に飲んでもらった人に『へぇ』だったり『ワオ!』って感じてもらえるように意識してます。頭で考えさせるような難しいことを言うのも大切ですけど、わかりやすく体感してもらうほうが楽しいし、伝わる。もちろん、僕自身にも社会に対して声を大にして言いたいことはあります。でも僕らはあくまでもジュース屋さんであって、シンプルに僕らのジュースを通して多くの人が、体も精神も健康になってもらうことがしたい」
コロナ禍を経て、やりたいことはさらに明確になり、事業も起業当時の身の丈サイズに戻したという。せっかくジュース屋さんをやらせてもらっているのだから、ほかに新しいものを追うのではなく、いま手にしているものの価値を深めたいと考えたのだ。
「このジュースが纏っているものを、しっかりとつくりたいんです」
サンシャインジュースのコールドプレスジュース(左)と、コンポスト(右)。コンポストとは、土に還してできる肥料。詳細は下記URLへ。https://sunshinejuice.jp/blogs/news/cosmiccompost-compost-juicepulp-arrived
コウノリさんは敢えてジュースづくりのノウハウを開放しているそうだ。
「農家さんの情報も、店で使っている瓶や機械のこと、コンポストのやりかた、一切秘密はありません。ただし、まったく同じものを使ったとしても、同じものはできない。そこが面白いところだと思っています」
その発言は、先駆者としての矜持が垣間見えた瞬間だった。そしてこれからの目標は、野菜の育つ様子を、子どもたちが体感できる場をつくること。
その思いを抱くきっかけが、友人が主催した畑でのワークショップでの光景だ。
「野菜が苦手だという子どもが『美味しい! 美味しい!』って畑を走り回って野菜を食べていて、それを見てお母さんがビックリしてて。野菜や果物は生(な)っている状態でかぶりつくのが一番おいしいんですが、彼はそうやって野菜を食べていたんですね。それを見て、『あぁ、これだな』って−−。美味しい野菜がどうやって育つのか、どんな景色のなかで野菜は美味しくなるのか、知ってもらいたいと思ったんです。
小さいうちから、ゴミから美味しい野菜や美しい花が育つということを知っていれば、いまのような環境問題は起こりえないでしょう」
一杯のジュースの向こうに広がる世界は広くて、深い。
コウノリ サンシャインジュース代表 
アメリカ、日本、台湾での生活を経て2014年に日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」をオープン。使う素材にこだわり、全国各地の生産者を訪ねて太陽と土のエネルギーが詰まった野菜を仕入れ、サンシャインジュースを展開する。自身の日常生活にスポーツは欠かさず、趣味は持久スポーツ。フルマラソンは毎年サブスリーを達成。
Instagram:@nori_kooo
問い合わせ先

サンシャインジュース
https://sunshinejuice.jp

                      
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