“花”を題材に、リアル、2次元、メタバースを自由自在に往来、新機軸を創出する|PLANTICA
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2022年8月3日

“花”を題材に、リアル、2次元、メタバースを自由自在に往来、新機軸を創出する|PLANTICA

PLANTICA|プランティカ

華道家 木村貴史さんインタビュー

はじめに広告代理店に就職し、さまざまな分野のクリエーターたちと出会ったことが、木村貴史さんの「コンテンツを生み出す側になりたい」という気持ちに火をつけた。そんなときに浮かんだのが、大学時代の趣味のひとつ、生け花だった。それから16年、木村さんは「花」をリアルから2次元へ、メタバースへと、自由に行き来させる存在になっている。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by KOIZUMI Yoko|Edit by TSUCHIDA Takashi

ただの“習い事”から生涯の仕事へ

そもそも“花”にハマったきっかけは、母親からの誘いだったという。
「母が草月流の華道教室に誘ってくれたんです。当時は同じ草月流出身の假屋崎省吾先生が活躍されていて、また教室にも男性が少ないこともあって、やってみたらどうか、と。最初は母と同じ教室に通っていたのですが、半年ほどして草月流の男性専科という男性だけの教室に移籍し、大学在学中の4年間通っていました」
ただし当時の木村さんに花で生計を立てていこうという気持ちはなかった。大学卒業後は広告代理店に就職、プロジェクトマネジャーとなった。そして仕事を通じてファッションやグラフィック、映像などの多くのクリエーターやアーティストと交流を深める。そうしたなかで、木村さんの心に「何かを生み出して他者を感動させるという行為自体に憧れる気持ち」が芽生えた。
「自分に何ができるかを考えたとき、花があったんです。花というモチーフをアートに昇華して見せることに対して、純粋に楽しいと感じたんですね」
その根底には、「自分が花を使ってクリエーションしているときが一番没頭できる」という自分への納得もあった。そして、2006年、華道家、フラワーデザイナーとして独立。現在、ふたつのシーンでそれぞれの“花”を見せている。

【plantica】Introduction

木村さんが参画するフラワーユニット「PLANTICA」の活動内容がムービー形式でこちらに紹介されています。

あらゆるメディアの“花”を揃える

木村さんは今春から、東京・世田谷区にある二子玉川ライズの環境装飾を担当することになった。不特定多数の人たちが往来するこの場所に、季節の花をモチーフにしたディスプレイを創るという仕事だ。
最初に目に飛び込んでくるのは、あふれんばかりの花を使った壁面アート。横にはキャッチコピーが添えられ、床には花のプリントシートが貼られ、上部は花柄のタープで覆われている。その作品は、さまざまなメディアを組み合わせてつくられていた。
「今回はシートやタープを使っていますが、ほかにも設置環境に合わせて映像や写真を使用することもあります。僕自身は媒体を選ばずに花や植物をモチーフに使うことで、どういう印象を与えられるのか、それを考えながらアウトプットするのが好きなんです」
フラワーアートというと“触るべからず”という不文律があるように思うが、この作品では子どもたちが思い思いに、木村さんが表現するさまざまな花に触れているのが印象的だった。
「家庭で花を楽しめなくても、ここを通れば季節を感じられたり、触れ合える。それが狙いです」
二子玉川ライズにおける木村さんによるアートワーク。
そして華道家・木村貴史が挑戦しているのが、新たな表現の模索である。
「華道家と名乗っている以上、600年以上続いている華道の歴史に新しいレイヤーを載せていくことが目標です。伝統とは革新の積み重ねであり、その時代ごとの人々を魅了して、興味を持たせ続け、プレーヤーを増やしてきたからこそ続いてきた。その歴史を今後も重ねていくことがいまを生きる華道家としての責務と思うんです」
だから、と木村さんは続ける。
「自分がアウトプットした作品が“華道”とか“生け花”と思われたら、それは革新ではありません。他人様から『なんでこんなことをやっているのか?』と不思議がられて、初めて新しい息吹を感じてもらえる。だから、映像も写真も、プリントも、いろんな手法を重ねていくことも、表現として『あり』と思っています」
木村さんが連作として発表しているのがノマディックシリーズだ。ノマディックとは縦横無尽という意味を持ち、そのコンセプトを「お決まりの場所や空間で美しく花を飾るのではなく、新しい世界に花を投げ込み、したたかに存在させること」とする。
「一般的な花のアートは室内で飾られることが主ですが、それを屋外に出したらどうなるのか。場所ごとに生け花を捉え直すことを主眼にしています。ストリートで生け花を作って、写真にしていく。都市の景観を花器に見立てて、道路やビルの蔦を借景にしつつ、その風景に対して花を投げ込んだらどう見えるのか、ということを考えてつくっています」
花と合わせたくなる景観でなければ意味がない。木村さんはトラックに花を載せ、ドライブをしながら面白いと感じたところで停めて、即興で花を活け、撮影する。花が映った写真もまた、彼にとっての「生け花」だ。

国境も時間も、重力も超えた表現世界へ

コロナ禍を経て、次のビジョンが明確になったという。それがメタバースへの進出である。
「僕の仕事の特徴は空間で魅せること。ですからメタバースとの相性がいいんです。むしろ物理が介在しない世界をメタバースで表現できるので、例えば常に花が舞っているというような重力のない世界をつくることも可能です。つねにアートとして、花の見方や捉え方に新しい視点を持ってくることにトライしていきたいんです」
人は花に対して、“生花”だけに魅力を感じていない。造花にも花柄のシャツにも、光でつくられた花の模様にも「カワイイ」「美しい」と感じ、心が動かされる。
「花の名前を、芸名や源氏名に使うことがありますよね。これもひとつの概念表現でしょう。花は概念的にも楽しまれているし、象徴としても存在する――メタバースはそういう花の持つ多彩さも含めて表現しやすい環境だと思っているんです。逆に花が持つ概念や象徴をどう料理できるのか、それもいまの僕自身の楽しみのひとつです」
メタバースのプロジェクトがスタートして以降、アイデアはさらに広がったと話す。
「とにかくいまは、自分の興味のあることをやっています!」と笑顔で宣言する木村貴史さんの次なる作品にはどんな“興味”が反映されているのか。彼のつくるリアルに触れ、メタバースを覗いてみようではないか。
きむら・たかしさん。青山学院大学経営学部卒業、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修了。カジノ&リゾート施設(The Venetian Macao ®)の専属フローリストとして勤務後、2008年に多様な手法を用いて花の魅力を発信するクリエイティブスタジオ「plantica」を結成。約600年続く華道の伝統や美学を意識しつつ、次世代の新たな表現方法を追求し、表現の場をパブリックスペースに求めたり、 近年では花柄ファッションのテキスタイル開発や、中国で大規模なフラワーアートの展覧会を指揮。また、星野リゾートやハウステンボスの施設演出から、コスメやファッションブランドのイベント装花、 CMや広告など多方面で装花ディクションを行ない、生け花の枠に捕われない自由な活動を行う。
https://www.instagram.com/plantica_jp/
問い合わせ先

PLANTICA
https://plantica.net

                      
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