伝統とイノベーション 老舗和菓子店 鈴懸 中岡社長に聞く奥中洲|LOUNGE
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2023年4月28日

伝統とイノベーション 老舗和菓子店 鈴懸 中岡社長に聞く奥中洲|LOUNGE

LOUNGE|奥中洲

新しくも伝統を内包するエリア“奥中洲”とは

今や、中洲というフレーズは全国区となっている。美食の宝庫であり、不夜城の如く人々が集う街というイメージを抱くのではないだろうか。中洲、中洲川端、西中洲と場所ごとに呼称だけでなく微妙な違いを見せているが、基本的には食を中心とした賑やかさと、オフィスなども点在する落ち着いた雰囲気とのミックスが魅力のエリアだ。

そんなきらびやかさに隠れてしまいがちだが、老舗が軒を連ね、九州最大の劇場 博多座が位置するなど文化的な顔も持つ。不思議なのは、そうした街並みを歩いていると、昔ながらの伝統を守りつつも、時代に即して新しい試みを始めようという息吹を感じることだ。
昔ながらの奥ゆかしさと奥深さを保ちながら、変革しようとする。そんな空気感を“奥中洲”と名付けることで、福岡の新しい魅力が発見できるのではないだろうか。本稿はそんな視点からスタートした。まだ誰も知らない奥中洲の魅力。それを様々な視点から紐解いていこうと思う。

Text by NAGASAKI Yoshitsugu|Photograph by IKEDA Seitaro

第一回目は1923年に創業し、今年で100周年を迎える老舗の和菓子店 鈴懸の代表 中岡生公(なかおか なりまさ)氏にお話をお伺いした。中岡氏は鈴懸がこれまで受け継いできた伝統を活かしつつも、現代に即したアレンジで鈴懸に新しい息吹を吹き込んだ人物だ。
鈴懸が旗艦店を構えるのは中洲川端駅の近く。印象的な五色の暖簾をくぐると左手に茶舗と呼ばれるカフェ、右手に菓子販売店舗。その奥に菓子職人たちの働く姿が垣間見える。この店をデザインしたのは福岡在住で、全国でも数多くの名店を手掛ける二俣公一氏。シャープでありながら落ち着きがあるのが特徴だ。そんな店内の家具は、ゆったりとした時間を過ごしていただくために専用にしつらえられたオリジナルのもの。こだわりは店舗のそこかしこに反映されている。菓子の販売スペースの壁面は黒漆喰で磨かれ、陳列された商品が浮かび上がる作りに。ただの菓子店ではなく、100年の伝統を継ぎ続けるブランドとしての一種の神性のようなものを醸し出している。和菓子店としては斬新に見える外観を持ちつつ、設えのもてなしの精神やディテールに埋め込まれた伝統の手法など、老舗という背景を失うことがない。そんな枠に囚われない発想が、人々を惹きつけているのだろう。
そんな守りつつも攻める感覚を持つ鈴懸四代目 中岡氏にとって、奥中洲という新しい見方はどのように映るのだろうか。
株式会社鈴懸 代表取締役 中岡生公氏
「今でこそきらびやかなイメージが強い中洲ですが、かつては映画館が立ち並んでいて、週末にかしこまって出かける街でした。また年に一度の“博多祇園山笠”では、中洲一帯が最高潮の盛り上がりを見せますが、その中心にあるのが櫛田神社です。その周辺には寺社が集まっているという歴史的な地域でもありますね。“博多旧市街”とも呼ばれるのですが、この言葉が示すように古き良き街並みが其処ここに残っているエリアです。飲食を楽しむだけではなく、徒歩で街の雰囲気を味わって欲しいですね。中洲の奥座敷のような空気感は、まさに奥中洲と言えるのではないでしょうか」

歴史を守りつつも、穏やかな進化を続ける街

「文化的な面からもう少しお話しさせていただくと、北部九州は舶来文化が真っ先に入ってくる場所でもありました。たとえばカステラや丸ぼうろは小麦粉がたっぷりと使われていて、和菓子とは明らかに異なるものです。それが都である京都に伝わるにつれて、日本に馴染むようにアレンジされていきました。博多も例外ではなく、この地が発祥となって饅頭や茶が日本へと広がっていきました。このように、元来の博多は文化を醸成する側面も持ち合わせているのではないでしょうか」
鈴懸自身もまた歴史に裏付けられた職人の手作りの良さを生かしながら、新しい潮流を生み出そうとしている。「鈴乃最中」「鈴乃〇餅(えんもち)」は鈴懸を象徴する代表作だが、毎月切り替わる季節のお菓子は歳時記や季節の花々からインスピレーションを受けてのものなど多種多彩。中には従来和菓子には使われなかった、メープルシロップなど洋の材料を取り入れたものも。そういったもの作りは和菓子という枠に囚われることはないという。
「自分たちが食べたいと思うことが大事です。だから、素材や何をどう作るかではなく、美味しいと感じたものは積極的に取り入れていきたいし、おもしろいと思うことをどんどん追求していきたいですね」
和菓子と現代の接点づくり。それが中岡氏率いる今の鈴懸なのだ。
そして、そんな中岡氏には鈴懸の代表以外の顔もある。中洲の新しい賑わいの一つとして今年で15年目を迎える<中洲ジャズ>の発起人としての顔だ。
「かつての中洲は家族で楽しみに出かける街でしたが、最近は夜のイメージの方が強くなっていたので、誰もが楽しめる街に戻したい気持ちがありました。同じ想いを持つ街の人々と会話していくうちに、音楽の力を借りるのがいいという話になりました。じゃあ、いっそのこと中洲エリアの道路を博多祇園山笠の時のように通行止めにして、そこでジャズを楽しむのはどうだろうか。そんな企画を提案してみたことから中洲ジャズが始まりました。思いつきからスタートしましたが、様々な方々に後押しいただき、大物ミュージシャンにもご出演いただきました。コロナ禍や台風でリアルな場での開催を休止することもありましたが、今年で15年目。思った以上に立派なイベントになりました」
最近は夜の街のイメージになりがちな中洲エリアを、全国から老若男女が来て楽しめる街にしたい。そんな想いが詰まった中洲ジャズは、奥中洲へと続く入口になってくれるだろう。
一方で、イベントだけに注目して欲しくないという気持ちもあると中岡氏は語る。
「中洲ジャズに限らず、イベント参加を目的に多くの方が福岡に来てくれるのは嬉しいのですが、日常の出会いも楽しんでもらいたいですね。街を歩いて見つけた店に入ってみたり、知らなかったお寺や神社を覗いてみたり。この街も小さな変化を続けているので其処が面白いかな。そもそも土地柄として新しいもの好きというのもあるんですけれど(笑)」

日常の中に潜む伝統と新しい息吹を探す、奥中洲の今

最後に改めて、中岡氏から見た奥中洲について語っていただいた。
「上質な日常でありたい。そんなふうに考えて自分の店や商品も作っているのですが、その考えの根本にあるのが、この街が持っているDNAのようなものなんです。旅行者でも居心地がいいと言われるのは、そんな日々が奥中洲に息づいているからなのかもしれません」 
上質な日常。それが奥中洲のどこに行っても感じられる穏やかな空気感の象徴なのだ。角を曲がった先に感じられる博多旧市街の奥行き。行き交う人々の穏やかな表情。こじんまりとしながらも、品の良い雑貨店。店先の博多人形。
通り過ぎるのではなく、少しゆっくりと歩き、何かを発見する。そんな時間をこの奥中洲でのひと時の目的としてみてはどうだろうか。何気ない街の空気の中に、奥中洲の魅力が詰まっているのだから。
Sponsor:株式会社ロイヤルパークホテルズアンドリゾーツ
ザ ロイヤルパーク キャンバス 福岡中洲 2023年8月4日開業予定
~九州の自然に包まれ、自然の魅力を感じ、癒されるアーバンリゾート~
https://www.royalparkhotels.co.jp/canvas/fukuokanakasu/
                      
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