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2020年5月8日
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「番外編」
第21回「コロナ禍に思うこと」
ひたすら肉体の安全無事を主張して、魂や精神の生死を問わないのは違う(三島由紀夫)」――日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」のボードメンバーの伊地知泰威氏の連載では、究極に健康なサンシャインジュースと対極にある、街の様々な人間臭いコンテンツを掘り起こしては、その歴史、変遷、風習、文化を探る。第21回は、新型コロナウイルスによる外出自粛を受け、番外編をお送りする。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
刺激を適度に取り入れつつ、静かで単調な暮らしを慈しむ
イギリスの哲学者ラッセルは、『幸福論』の中でこう述べている——。
「退屈に耐える力をある程度持っていることは、幸福な生活にとって不可欠である」
人智を越えた天災コロナ禍によって、僕たちは今かつてないほどの静かな暮らしを強いられることになった。緊急事態宣言の発令と共に施設や店舗の休業が要請され、人々は外出自粛が求められることになった。そんな今思うのは、僕たちが単調だと思っていたこれまでの平時の生活は、実は常に「刺激」や「興奮」「快楽」に満ち溢れていたということ。
「退屈に耐える力をある程度持っていることは、幸福な生活にとって不可欠である」
人智を越えた天災コロナ禍によって、僕たちは今かつてないほどの静かな暮らしを強いられることになった。緊急事態宣言の発令と共に施設や店舗の休業が要請され、人々は外出自粛が求められることになった。そんな今思うのは、僕たちが単調だと思っていたこれまでの平時の生活は、実は常に「刺激」や「興奮」「快楽」に満ち溢れていたということ。
例えば、日ごろから余計な塩分や糖分を避けた食事をしている人は、ナチュラルな素材やダシの味わいを楽しむことができるし、たまに食べるジャンクフードも刺激的に楽しめる。けれど、ジャンクな食事に慣れた人は、味覚が鈍って素材やダシの味わいを感じにくく、より塩分や糖分が強いジャンクな食事を欲するようになる。それは、やればやるほどより強いドラッグを欲する麻薬依存者の様と同じである。
美味いメシ、美味い酒、パーティ、ライブ、フェス、お笑い、セックス、ギャンブル、様々なショー。僕らの日常は、常に新しい何事かを求め、新しい出逢いを渇望し、新しい刺激に塗れていた。だから、一過性の消耗品と化したコンテンツが次から次へと生み出され、消費サイクルは加速度的に早くなっていた。それに伴って、人々の感覚は自ずと麻痺していった。無論、かく言う僕もそのひとりであることは言うまでもない。
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上海小吃
ただ僕は、こうした「刺激」「興奮」「快楽」の類が必ずしも悪だとは思っていない。むしろこれらは健康的な生活に不可欠な要素だと思っている。「ある種の良いものは、ある程度の単調さのあるところでなければ可能ではない」とラッセルも言っているように、要は、「量」が問題だということだ。
静かで、地道で、単調な生活の中に、「刺激」は適度に入れていきたい。その刺激は、屋外なら様々な人に会うことで得られるだろうし、家に籠るなら屋内で得られる違った刺激もある。自分が置かれた状況に応じて得分ければ良いわけで、刺激の「類」や「質」は問題ではない。
逆を言えば、刺激の「質」には、自分なりにとことんこだわりを持ったほうがいい。
家に籠る必要性または必然性があるならば、本を読むなり、映画を見るなり、ゲームをするなり、気晴らしはいくらでもあるから、それらを存分に楽しめばいいし、屋外なら、静寂であれば喧騒であれ、その場の空気感や雰囲気を味わいながら、刹那の集積を刺激的に謳歌すればいい。
家に籠る必要性または必然性があるならば、本を読むなり、映画を見るなり、ゲームをするなり、気晴らしはいくらでもあるから、それらを存分に楽しめばいいし、屋外なら、静寂であれば喧騒であれ、その場の空気感や雰囲気を味わいながら、刹那の集積を刺激的に謳歌すればいい。
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金楽
だから僕も多くの人々と同じように、この事態が収束したら、屋外ならではの「刺激」「興奮」「快楽」が得られる場所に行きたいと思っている。
歌舞伎町で「上海小吃」でカオスに飲んで、「そっくり館キサラ」のものまねショーで腹の底から笑いたいし、浅草の「金楽」で気の置けない友人らと喧しく肉を食って、「ロック座」で艶やかな舞台も堪能したい。行きたい場所はいろいろあるけれど、週末の府中「東京競馬場」で見知らぬ若造たちと熱狂して、「大定」で見知らぬオヤジたちとの一期一会を満喫したい。
歌舞伎町で「上海小吃」でカオスに飲んで、「そっくり館キサラ」のものまねショーで腹の底から笑いたいし、浅草の「金楽」で気の置けない友人らと喧しく肉を食って、「ロック座」で艶やかな舞台も堪能したい。行きたい場所はいろいろあるけれど、週末の府中「東京競馬場」で見知らぬ若造たちと熱狂して、「大定」で見知らぬオヤジたちとの一期一会を満喫したい。
いまや言うまでもなく、競馬はコロナ禍で楽しめる唯一とも言えるスポーツであり娯楽である。その理由は、売上の一部が国庫納付金として国に納められ、国の財源として畜産振興と社会福祉に活用されているからに他ならない。平成30年度は約3,000億円が納められているという。また外出が難しくストレスをため込む人が多い今、唯一の気晴らしという点でも、その社会的意義が着目されているが、とはいえ、現在は無観客開催である。やはり競馬場で観戦することこそが競馬の醍醐味、僕はそう思っている。
そもそも競馬は、勝ち馬を予想するというギャンブル的側面においては、思考力を伴う至高のゲームだと僕は正当化し続けている。数学の「場合の数」や「因数分解」の概念を使うし、ビジネスの「予算配分」「損益分岐点」の考え方も活用する必要がある。大人が生きていく上で十分な論理的思考力を養うのにはちょうどいい。
そしてそこに、「放たれる動物的な匂い」「磨き上げられた優美な肉体」「時速60㎞で目前を駆け抜ける迫力」といったエンターテインメント的側面が掛け合わされる。有馬記念や日本ダービーのような国民的レースともなれば、たかだか3分足らずのレースに10万人以上が集まる。スタートのファンファーレが鳴ればその10万人が一同に熱狂しては、一喜一憂する。プロ野球は5万人、サッカーも8万人。日本で10万人以上が集まるスポーツエンターテインメントは競馬しかないから、現地で声を張り上げて観戦したい。
そしてそこに、「放たれる動物的な匂い」「磨き上げられた優美な肉体」「時速60㎞で目前を駆け抜ける迫力」といったエンターテインメント的側面が掛け合わされる。有馬記念や日本ダービーのような国民的レースともなれば、たかだか3分足らずのレースに10万人以上が集まる。スタートのファンファーレが鳴ればその10万人が一同に熱狂しては、一喜一憂する。プロ野球は5万人、サッカーも8万人。日本で10万人以上が集まるスポーツエンターテインメントは競馬しかないから、現地で声を張り上げて観戦したい。
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そして、馬を楽しんだ後は余韻に浸りたい。府中駅国際通りの大定に行けば、各テーブルでその日の反省会が行われている。おでんをつまみに、とんちゃん焼きをつまみにし、酒をあおっては、反省と後悔の弁を述べるのだ。そして、歯切れと愛想がいいスタッフたちに慰められると、気づけば隣客と思い出の名場面や名レースの振り返りに花が咲き、泥酔する。そして、反省と後悔は忘れ、また翌週も同じことを繰り返す。
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大定
来る日も来る日も刺激だらけなのも、あるいは全く刺激がないのも、健やかではない。肉体だけでなく精神も健やかでありたいなら、人生には「刺激」「興奮」「快楽」を適量入れる必要がある。ただ、それよりも肝要なのは、毎日毎日の同じような静かな暮らしを大切にすることである。「刺激」「興奮」「快楽」が毎日の単調な暮らしを脅かしてはならない。
最後に。これもまたラッセルの言葉。
「幸福な生活は、おおむね静かな生活でなければならない。なぜなら、静けさの雰囲気の中でのみ、真の喜びが息づいていられるから」
最後に。これもまたラッセルの言葉。
「幸福な生活は、おおむね静かな生活でなければならない。なぜなら、静けさの雰囲気の中でのみ、真の喜びが息づいていられるから」
上海小吃
住所|東京都新宿区歌舞伎町1-3-10
TEL|03-3232-5909
そっくり館キサラ
住所|東京都新宿区新宿3-17-1 いさみやビル8F
TEL|03-3341-0213
金楽
住所|東京都台東区浅草1-15-4
TEL|03-3844-3357
浅草ロック座
住所|東京都台東区浅草2-10-2
TEL|03-3844-0693
東京競馬場
住所|東京都府中市日吉町1-1
TEL|042-363-3141
大定
住所|東京都府中市宮西町1-10
TEL|042-368-4761
住所|東京都新宿区歌舞伎町1-3-10
TEL|03-3232-5909
そっくり館キサラ
住所|東京都新宿区新宿3-17-1 いさみやビル8F
TEL|03-3341-0213
金楽
住所|東京都台東区浅草1-15-4
TEL|03-3844-3357
浅草ロック座
住所|東京都台東区浅草2-10-2
TEL|03-3844-0693
東京競馬場
住所|東京都府中市日吉町1-1
TEL|042-363-3141
大定
住所|東京都府中市宮西町1-10
TEL|042-368-4761
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
株式会社サンシャインジュース 取締役副社長
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に従事。その後PR会社に転籍し、PR領域からのマーケティング・コミュニケーション・ブランディングのプランニングと実施マネージメントに従事。30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」を立ち上げ、現職。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
株式会社サンシャインジュース 取締役副社長
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に従事。その後PR会社に転籍し、PR領域からのマーケティング・コミュニケーション・ブランディングのプランニングと実施マネージメントに従事。30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」を立ち上げ、現職。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman