特集|BLUE NOTE NOW!|第3章「ブルーノートはどこへ行く?」
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2015年4月7日

特集|BLUE NOTE NOW!|第3章「ブルーノートはどこへ行く?」

特集|BLUE NOTE NOW!
創立75周年を控えた老舗レーベル「ブルーノート」の魅力に迫る
第3章|“ミスター・ブルーノート”と考える

「ブルーノートはどこへ行く?」(1)

1939年、ニューヨークで誕生したジャズレーベル「ブルーノート」。来年75周年を迎えるこの老舗レーベルが、いまあらたに注目を浴びている。なにがブルーノートを特別な存在にしているのか? その答えを探るべく、OPENERSでは今回、日本にジャズを浸透させた立役者、“Mr. Blue Note”こと行方均(なめかた・ひとし)さんに協力を依頼。若さと伝統が息づくレーベルの魅力に迫ろうとおもう。

特集の最後を飾るのは、昨年ブルーノートの社長に就任したドン・ウォズさん、そしてあたらしく仲間入りしたミュージシャン、ホセ・ジェイムズさんと行方さんのトークショー。75周年を控えたいま、ブルーノートはどこへ向かっているのか?

Photographs by Ryota MoriText by TANAKA Junko (OPENERS)

行方均、ブルーノートの歴史を振り返る

来年75周年を控えたブルーノート。1939年の創立以来、ニューヨークを拠点としてきました。モダンジャズの先端を走りつづけ、1970年にはロサンゼルスにオフィスを移転。「フュージョン(※)」の幕開け、これに参加します。そして1985年、再びニューヨークに戻ります。そこで「ジャズ・ルネサンス(=ジャズの復興)」、「ブルーノート・ルネサンス」とも言いますが、ニューヨークで生まれたあたらしい動き「アコースティック・ジャズ」復興の先頭を切ります。時代は進んで1992年、クラブ・ジャズシーンから生まれたアススリー(Us3)の「カンタループ(フリップ・ファンタジア)」が世界的に大ヒット。ブルーノートを舞台に「ヒップホップ・ジャズ」が顕在化します。

1998年には創立60周年を記念して、ルディ・ヴァン・ゲルダーというエンジニア(ブルーノートとの関わりは、第1章「ブルーノートが30分でわかるQ&A」のQ7を参照)が、過去の名作をリマスターするという一大プロジェクトを立ち上げました。このリマスター・シリーズ「RVG Edition」が世界的に非常に好評で、いまも継続しています。そして2002年、ノラ・ジョーンズの登場とともに21世紀のブルーノートが幕を開けました。

改めてその歴史を振り返ってみると、ブルーノートというのは、創立してから今日に至るまで、一貫してジャズの明日を作ってきたレーベルだとおもいます。そうしたなか、EMIがユニバーサル ミュージックに合流するという形で、2012年にあらたな「ユニバーサル ミュージック」が誕生、ここ日本でも今年4月に手続きが完了しました。EMIの傘下にあったブルーノートも、いまひとつのあたらしい時代を迎えつつあります。

その新生ブルーノートの時代を率いる人物、それがドン・ウォズです。ドンさんのことは、デヴィッド・ワイズと結成したバンド、ウォズ(・ノット・ウォズ)や、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディランのプロデューサーとして、みなさんよくご存知だとおもいます。2012年には、あらたに「ブルーノートの社長」という肩書きが増えました。

じつはドンさん、わたしとほぼ同世代なんですね。我々の世代というのは、1960年代に多感な時期を過ごしまして、ジャズとロックが判然とせずにごっちゃになっているところがあるんです。人には「本籍地:ビートルズ、現住所:ジャズ」なんて説明していますけど(笑)。聞いたところによると、ドンさんが最初に度肝を抜かれたアルバムは、ジョー・ヘンダーソンのブルーノート盤『モード・フォー・ジョー』だとか。そのあと友達(ザ・ナックのダグ・ファイガー)が教えてくれるまで、ジミ・ヘンドリックスやクイーンのことは知らなかったそうです。

そういう彼の感性が、これからのブルーノートを形作っていくのではないかとおもいます。ここからはドンさんにも登場いただいて、そのあたりの話を聞いてみることにしましょう。

※フュージョン=ジャズ、ロック、ラテン音楽など、ジャンルの異なる音楽を融合した音楽。(出典:小学館「大辞泉」)

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「ブルーノートはどこへ行く?」(2)

新社長ドン・ウォズの最初の仕事は?

ドン・ウォズ(以下、ウォズ) ご紹介ありがとうございます。正直なところ、先ほどのように「ブルーノートの社長です」と紹介されると、こそばゆいというか、まだ自分のこととはおもえないんですが(笑)。ナメ(注・行方さんのこと)の話にあったように、故郷デトロイトで過ごした1960年代というのは、ぼくにとって青春そのもの。ビートルズやローリング・ストーンズ、ボブ・ディランは大好きで、よく聴いていたんですが、ぼくと周りの友達は、同時にブルーノートのレコードにも惹かれていきました。

音楽はもちろん、クールなアートワーク、ジャケットに写ったタバコ、サックス、黒い壁……すべてに憧れましたよ。ブルーノートのミュージシャンみたいになりたい──そんな想いで青春時代を過ごしてきました。ですから、それから45年後、よもや自分がブルーノートを引っ張ることになるとは、夢にもおもいませんでした。

行方均(以下、行方) ブルーノートにいらっしゃったのは、ちょうど1年ぐらい前ですよね?

ウォズ そうですね。2012年1月のことですから、1年半ほど経ちました。ブルーノートで仕事をするようになって、まず最初に考えを巡らせたのは、ぼく自身も夢中になったあのレコードの素晴らしさを、どうやって守りつづけていけるかということ。そのためには、ただ1960年代のジャズをリメイクするだけではダメ。そういった再発盤のカタログは、ナメをはじめ、すでに先代の方がたが素晴らしいものを残してくれていますから。

創立当時から変わらないもの

じゃあ2013年のいま、できることってなんだろう? それを突き詰めると、創立当時から変わらない、変化しつづけるラディカルな姿勢。伝統に根ざしながらも、常に境界線を取っ払おうとしてきたレコードやミュージシャンのあり方を、これからも打ち出していくことだとおもったんです。そのいい例がウェイン・ショーター(※)であり、社長としての最初の仕事は、彼をブルーノートに再び迎え入れることでした。

※ウェイン・ショーター=1933年ー。ニュージャージー州ニューアーク生まれ。テナー・サックス奏者、作曲家。1960年代以降のジャズ・シーンを牽引してきた現代最大のカリスマ。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、マイルス・デイビス・クインテットで活躍した後、1971年にウェザー・リポートを結成。1970年代を代表するジャズ・フュージョン・グループとして一世を風靡した。2013年2月、43年ぶりにブルーノートからアルバム『ウィズアウト・ア・ネット』をリリース。

第3章「ブルーノートはどこへ行く?」 03

ドン・ウォズさん(左)と行方均さん

行方 42年ぶりの復帰ということで、話題になりましたよね。

ウォズ ウェインの場合、伝統に根ざしているというよりは、彼自身が“伝統”なんです。今年80歳を迎える超ベテランですが、決して後ろを振り返ることはありません。彼の演奏というのは、毎晩のように変わっていきます。しかも直感に基づいて。安定することなく、常にあたらしいものを目指していく。彼こそまさにブルーノートのあり方そのものなんです。2013年以降のレコードを作っていくのに、そんな彼の存在は不可欠でした。

それから、あとでご紹介しますが、ホセ・ジェイムズのような、勢いのある若手ミュージシャンをあらたに迎え入れる。それも最初に取り組んだことのひとつです。彼はビリー・エクスタイン、ビル・ウィザーズ、マーヴィン・ゲイといったミュージシャンを聴いて育った人物。伝統にルーツを持ちながらも、そこにヒップホップやジャズのエッセンスをくわえて、独自の音楽を生み出しています。それが彼にしか作りえない、まったくあたらしい、素晴らしい音楽ばかりなんです。

行方 ホセ・ジェイムズは、今後を牽引していくジャズマンでしょうね。本当に素晴らしいアーティストが仲間入りしてくれました。ちなみに来年の75周年に向けて、なにか特別なことは考えていますか?

過去があっての明日

ウォズ 新作のリリースをたくさん控えています。ちょっと読み上げますね。把握しているだけでも、ウェイン・ショーター(発売中)、ジョー・ロヴァーノ(発売中)、テリ・リン・キャリントン(7月発売予定)、テレンス・ブランチャード(8月発売予定)、デレック・ホッジ(8月発売予定)、グレゴリー・ポーター(9月発売予定)、アンブローズ・アキンムシーレ(時期未定)、ジェイソン・モラン(時期未定)、クリス・デイヴ(時期未定)。

それからセレモニアス・モンクのパリ公演の様子を収めた未公開DVD、ロバート・グラスパーのニューアルバムも出ますし、彼はチャカ・カーンの新作にも、プロデューサーとして携わっているんですよ。2014年には、ワシントンD.C.の「ジョン・F・ケネディ・センター」で75周年の記念コンサートを開く予定もあります。あと再発盤もいろいろと考えているので、そのときには、ぜひナメをはじめとするみなさんの力をお借りしたいですね。

行方 それは素晴らしいですね。ブルーノートは常に明日に向かってきたけれども、それは過去の財産があっての明日。その財産を掘り起こすことで、明日がより過去をリスペクトするようになるという関係があるとおもうんです。そういう意味でも、発掘盤や再発盤についてはいろいろ考えていらっしゃるとおもうんですけど。

ウォズ 日本のブルーノートの発掘盤や再発盤は、ずば抜けたレベルにあります。アメリカも含めたほかの地域を、いま少しでもそのレベルに近づけようとしているところです。

行方 じつはいまちょうど、日本で「BNLA」という1970年代の作品を集めたシリーズを作っているんです。それがブルーノートのロサンゼルス時代に当たるんですね。ドンさんはロサンゼルスを拠点にされているということで、まさに第2のロサンゼルス時代がやって来たんだなと。どんなブルーノートを見せていってくれるのか、これから期待しています。

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「ブルーノートはどこへ行く?」(3)

ブルーノートとのあたらしい関係

ウォズ ここでモダン・ミュージックの天才、ホセ・ジェイムズを紹介したいとおもいます。

ホセ・ジェイムズ(以下、ジェイムズ) ここに来られて光栄です。日本は自分にとって心の故郷というか、拠り所のような存在だと感じています。ご存知の方もいるかもしれませんが、日本に来るとよくお寺や神社に行くんですね。そうすると自分も日本の一部になったような気がして。2006年に初来日して以来、ずっと応援してくださっている方もたくさんいて、本当にありがたくおもっています。いまは友人も知人もたくさんいますし、ここに来るととても心が落ち着きます。

行方 まずひとつお聞きしたいんですけど、「トラブル」はラジオ・チャートでナンバーワンを記録しましたし、日本ではすごく好意的に受け入れられているのですが、ほかの国での反応はいかがですか?

ジェイムズ ありがたいことに、いろんなジャンルをミックスした自分のスタイルを、ほかの国のみなさんも好意的に受け入れてくれています。そしてなにより、ブルーノートと自分のあたらしい関係を喜んでくれているみたいです。

行方 じつは去年、ロンドンの「iTunes Festival」でホセさんのライブを観てきました。やっぱりものすごく刺激的でしたね。グルーブで歌うという感じで。ホセさんは歌だけじゃなくて曲も書くんですよね?

ジェイムズ はい、曲も書きます。自分の場合、最終的な形はジャズになるかもしれないんですが、ビート的にはコンテンポラリーなビート、ヒップホップのようなものを使うんですね。それによって、これまでジャズを聴いてなかった人にも、受け入れてもらいやすくなるとおもっていて。実際自分もジャズを知ったのは、ヒップホップのサンプリングを通じてだったんです。自分の音楽も、そうやって若い人たちにジャズを聴いてもらうきっかけになるといいですね。

第3章「ブルーノートはどこへ行く?」 04
ホセ・ジェイムズさん(左)と行方均さん

ジャズ・シンガー新時代

行方 「トラブル」もジャンルも世代も超える力を持った、本当にいい曲ですもんね。ジャズの世界っていいシンガーはいっぱいいるんですよ。だけど、いい曲を書けるシンガーって少ないんです。

ジェイムズ ジャズのシンガーにとっても、いまあたらしい時代が来ているのかなっておもいますね。かつてナット・キング・コールやビリー・ホリデイといった素晴らしいシンガーには、素晴らしい曲を提供してくれるソングライターがいましたよね。それがいまは、シンガーが自分のパーソナルなものとして曲を書くという方向に向かっている気がしますね。

もちろんそれを書くうえで、自分はビル・ウィザースの影響を受けていたり、エミリー・キングのような、曲作りを手伝ってくれる人がいてくれたりもしますけど、総じてシンガーがあたらしい方向へ向かって行っているんじゃないかとおもいます。

行方 ホセさんがジャズにあたらしい風をもたらしてくれる気がしますね。最後にもうひとつ。プロデュースもやるんですって?

ジェイムズ じつはですね、ツアーにも参加してくれているタクヤ・クロダという、日本人トランペッターがいまして。3~4年一緒にやっているんですが。彼のレコードをいまニューヨークでレコーディングしています。

行方 どこから出るんですか?

ジェイムズ ブルーノート・レコードから。

行方 そうなの? ドンさんは了承しているんですか?

ウォズ はい。たったいま契約成立しました(笑)。

行方 というわけで、トランペッターのクロダさんのレコードも、ブルーノートから出ます(笑)。楽しみにしていてください。


ドン・ウォズ

Don Was|ドン・ウォズ
ミシガン州デトロイトに生まれ。音楽家、プロデューサー。デヴィッド・ワイズ(デヴィッド・ウォズ)と結成したグループ、ウォズ・(ノット・ウォズ)で1980年代に一世を風靡。その傍ら、プロデューサーとしてボブ・ディラン、ローリング・ストーンズなど数々の大物ミュージシャンを手がけてきた。2012年1月、「ブルーノート」の社長職に就任。快心撃をつづけている。http://www.bluenote.com/

ホセ・ジェイムズ

Jose James|ホセ・ジェイムズ
ミネアポリス生まれ、ニューヨーク在住のジャズ・シンガー。デューク・エリントンの「A列車で行こう」を聴き、ジャズにのめり込む。ボーカル・ジャズの歴史を塗り替えたとまで言われる美声は世界中で大絶賛され、国内外のジャズ/クラブ・チャートを総なめにした。2012年「ブルーノート」へ移籍。2013年1月、通算4枚目のアルバム『ノー・ビギニング・ノー・エンド』を発売した。

行方均

行方均|NAMEKATA Hitoshi
レコード・プロデューサー。「ブルーノート」および、姉妹レーベル「サムシンエルス」をつうじて、数々の作品を世界に送る。編・訳書に『21世紀版ブルーノート・ブック』(ジャズ批評ブックス)、『ブルーノート再入門』『ブルーノート・レコード』(ともに朝日文庫)ほか。来年の75周年に向けて「BLUE NOTE NOW 2013」と題したキャンペーンを展開中。http://www.emimusic.jp/jazz/bluenotenow2013/

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