連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第4回『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
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2018年10月16日

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ 第4回『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』

連載|牧口じゅんのシネマフル・ライフ

第4回 従うべきは自分の心のみ。
そんな恋愛スタイルを貫く者たちへ
『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』

愛とは思いがけないものだ。探しているときには見つからず、探していないときに見つけてしまう。そんな恋愛模様を描いているのが、フランス映画『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』だ。

Text by MAKIGUCHI June

フランス映画の巨匠が贈る大人のためのラブストーリー

監督は名作『男と女』で知られる巨匠クロード・ルルーシュ。75歳で初めて訪れたインドに魅了され、オールインドロケで本作を完成させた。『男と女』では、パートナーを失った者同士の愛が描かれていたが、今回は最愛の相手がいて何不自由なく満たされた者たちが、それでも思いがけず出会ってしまった新たなる愛を通して、予測不可能な人生や、その中にある驚き、とまどい、悲しみ、そして喜びが、インドの美しい風景の中でロード―ムービー風に表現されていくのだ。

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女は、在インド・フランス大使夫人のアンナ。男は映画音楽の作曲家アントワーヌ。出会わなければ、2人はそれぞれのパートナトーとの人生を心穏やかに送ったはず。でも、そうはならないのが人生だ。監督もこう話している。

「もし、自分は何でも手に入れたと思っている人でも、恋愛はそれを覆し、疑問を感じる可能性があることを示したかった」

情報に溢れ、多くの不確かなものに囲まれている私たちが、何かに確信を抱くのはとても難しい。本能を働かせることなしに暮らすことに慣れているだけに、予期せぬ出来事に直面した時、本能的に自分が望むものを選び取ることが著しく困難になっているのかもしれない。それが人生を左右する選択であればあるほど決断は難しくなるし、いくら考えたところで、永遠に答えなどでないこともある。

特に恋愛の場合、ときに打算や駆け引きを横に置き、自分の心に従うことでしか出せない答えがあるものだ。その答えは、“相手が自分の気持ちに応えてくれるか”“永遠に愛してくれるか”といった保証を求めるのではなく、自分が何を望むかという自分軸を貫くことでしか得られない。例えそれが、自らの退路を断ち、自分を不利な立場に追いやることとイコールだとしても、自分の心に従いたい。そんな恋愛スタイルを貫く者にとって、ルルーシュ監督が用意してくれたエンディングは、最高にロマンティックなものだろう。

監督が全編にわたりインドで撮影をするのだとひらめき、そこに従い、素敵な恋愛劇を完成させたところにも、ロマンを感じずにはいられない。70歳を超えた監督が、自国を離れて映画を撮るのは、一種の賭けだったことだろう。リスクを知りつつも、本能に従うことでしか得られないものがあるのだと、本作は全編を通して訴えかけてくるのだ。ルルーシュ監督が本作で体現してみせた心意気は、まさに本気の恋愛そのものなのである。

★★★★☆
これぞフランス映画。大人の恋愛劇の醍醐味がここにある。

『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)』
監督・原案・脚本: クロード・ルルーシュ『男と女』『愛と哀しみのボレロ』『レ・ミゼラブル』
出演:ジャン・デュジャルダン『アーティスト』、エルザ・ジルベルスタイン『モディリアーニ 真実の愛』、クリストファー・ランバート『サブウェイ』、アリス・ポル『バツイチは恋のはじまり』
9月3日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開
© 2015 Les Films 13 - Davis Films - JD Prod - France 2 Cinéma

牧口じゅん|MAKIGUCHI June
共同通信社、映画祭事務局、雑誌編集を経て独立。スクリーン中のファッションや食、音楽など、 ライフスタイルにまつわる話題を盛り込んだ映画コラム、インタビュー記事を女性誌、男性誌にて執筆中。

           
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