INTERVIEW|坂本龍一氏インタビュー 教授、kizunaworldを語る
INTERVIEW|坂本龍一氏インタビュー
教授、kizunaworldを語る(1)
坂本龍一氏が、メディアクリエイター 平野友康氏とともに立ち上げた、東日本大震災の被災地復旧・復興を支援するためのプロジェクト「kizunaworld.org」。坂本氏とゆかりのあるさまざまなアーティストから作品提供を受け得られた収益や寄付を、長期的に被災地の復興に充てていくというものだ。医療、子ども、食料、住宅、エネルギーという5つのテーマをもうけ、それぞれのテーマに取り組んでいる5つの団体に寄付するというスキームが特徴である。すでに16人のアーティストによる12の作品が展開されている同プロジェクトについて、立ち上げるにいた経緯から参加アーティスト、そしてこれからについて聞いた。
Text by OPENERS
Photo by JAMANDFIX
奈良美智さんの作品も登場
──震災から約2カ月後の5月にkizunaworld.orgを立ち上げられるわけですが、そこにいたる経緯、心境をお聞かせ下さい。
坂本 震災直後からどういうことができるか、つねに考えていました。4月にはニューヨークでチャリティコンサートに出演したり……。でもそういう一過性のものではなくて、長期的に持続的に取り組んでいくことが必要だなと思っていました。このkizunaworldと、7月に発表した、被災地の子どもたちの楽器を修復する「School Music Revival」プロジェクト。このふたつは、自分が音楽家として、音楽にかんすることで援助できないかと思ってスタートさせたものです。kizunaworldのほうはアート全般にかかわることですが、この二本柱で取り組んでいこうと思います。
──代表を務められている森林保全団体 more treesでも、被災地支援プロジェクトを立ち上げられましたね。
坂本 東北の森から切り出された木材を使って木造仮設住宅をつくる、「ライフ311」というプロジェクトですね。すでに100棟近くが完成し、被災地の方が入居済みです。1棟のコストが300万円で目標額は3億円とずいぶん高いですけれど、これも継続していかなければならないと思っています。
──kizunaworldには5つの寄付先がありますね。
坂本 たとえば、日本赤十字など大きな団体に寄付して終わり、というやり方も悪くはないんだけれど、やはり歯がゆくてね。実際に被災地に入って具体的に活動しているNPOに寄付したいと思ったんです。ただ、ひとつのNPOが生活全般について支援するのは無理なので、規模が小さくてもそれぞれの分野に特化した団体に寄付することにしました。
──アーティストのセレクトについてお聞かせいただけますか?
坂本 思いつくままにというか、声かけやすいままに(笑)。(クリスチャン・)フェネスや、(デヴィッド・)シルヴィアン、カールステン・ニコライなど、以前から友達で共演したこともあるアーティストもいれば、アイスランド人アーティストのオラファー(・アーナルズ)のように今回がはじめてのひともいます。アトム・ハートも、すごく前から知り合いではあるけれど、一緒になにかするのははじめてですね。
2003年のイラク戦争のさいに試みた「CHAIN-MUSIC」というプロジェクトのときもそうだったんですけど、友達が友達を呼んで、輪が拡がっていって、まったく知らないアーティストたちと知り合うことができる。今回も、「CHAIN-MUSIC」の経験が役に立っていますね。
──自然なかたちで友達の輪が広がっていくわけですね。
坂本 じつは、今度は奈良美智さんが作品を提供してくださることになったんです。それも偶然というか、8月2日の二期倶楽部でのコンサートを観に来てくれたのがきっかけで。彼が那須に住んでいるので遊びに来て下さいって誘ってくれて、うかがったときにkizunaworldの話になったんです。こんなふうに計画性はなくて、思いつくままに声をかけてというかんじですね。
──奈良さんとは初対面だったんですか?
坂本 面識は何年か前からあります。でも、アーティストには気むずかしいタイプもいて、こういうチャリティに声をかけていいかわからないひともいますから、人選はそれなりに気をつけています。欧米のひとはチャリティに慣れていて、むしろ社会のためになにかいいことをしたいとつねに思っているひとが多いのであまり問題はないんですけど、日本人の方に声をかけるさいはちょっと気を遣いますね。
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教授、kizunaworldを語る(2)
被災者の方々が取り残されるようなことがあってはならない
──いままで発表された作品にたいしてコメントをいただけますか。
坂本 もともと震災前にイタリア人アーティストのヴァレリオ・ベッルーティと僕が曲を提供して『kizuna』というアニメーション作品を共作したんですけれど、それがちょっと暗示的だったというか……。少女がテーマなんですが、日本の子どもたちを描くために、彼はわざわざ日本に2ヵ月間滞在して、小学校に通ったりしていたんです。それもちょっと暗示的だし、たまたま『kizuna』というタイトルをつけたのも暗示的ですね。そもそも今回のプロジェクトは、彼が作品の使用を許可してくれことからスタートしているわけで、それはうれしかったですね。
──4作目のデヴィッド・シルヴィアンさんとは、旧知の仲ですね。
坂本 シルヴィアンは気むずかしいひとなんですけど、本当に早い時点で快くオーケーしてくれて、それもうれしかったです。6作目の大友良英さんと僕の作品は、最初は大友さんの「プロジェクトFUKUSHIMA」に僕のほうから作品を提供したんですが、今度は大友さんがギターをダビングして、kizunaworldのために送ってきてくれた曲で、いわば、ふたつのプロジェクトのキャッチボールから生まれた作品なんです。
──今回のプロジェクトならではですね。
坂本 7作品目のテイラー・デュプリーは、ニューヨークで12Kというエレクトロニカのレーベルをやっているアーティストなんですが、彼がスティーブン・ヴィティエロというひとを誘ってくれて、僕と3人でコラボレーションをしたんです。そうしたらテイラーのほうから、せっかく3人で共作して結果がすごくよかったから、また3人で集まってコラボレーションを深めたい、という逆リクエストがあって……。
──こちらでも、あたらしい展開がはじまったわけですね。
坂本 ええ。それから10作品目のオラファーとアーノアー・ダン・アーナーソン。もともと彼らの曲は聴いていたんですけど二人とも会ったことがなくて、たまたまツイッターで知り合って、声をかけたらすごく賛同してくれました。これもすごく珍しい、現代ならではの関係ですね。
──二人ともまだ若いアーティストですね。もともと注目されていたんですか?
坂本 そうですね。とくにオラファーはここ何年かいいなって思っていたアーティストです。彼もピアノ中心の楽曲をつくっているので、親近感を抱くというか。そもそもアイスランドのアーティストは好きなんですよ。とにかく、これまで協力してくれた彼らの善意は、それぞれ本当にうれしく思っています。
──今後の展開についてお聞かせください。
坂本 チャリティってだいたい3ヵ月くらいでしぼんでしまうことが多いんです。でも今度の震災はやっぱり復興までとても時間がかかると思うので、僕たちも肝を据えて長期的に取り組んでいきたいと思っています。だいたい毎月11日、月供養じゃないですけど、少しずつ作品を追加して持続的にやっていきたいので。
──記憶をちゃんとよみがえらせるために?
坂本 ええ。みなさんもこの震災を忘れることはないでしょうけれども、やはり一人ひとりの生活もあるし、仕事もあるし、どうしても関心が薄れてくるのは自然だと思うんです。だけど、被災者の方々が取り残されるようなことがあってはならない。kizunaworldについては、継続しているあいだにまたあたらしいアーティストと知り合うかもしれないし、本当にゆっくり、しかし確実に取り組んでいきたいですね。
──ありがとうございました。