あたらしい時代づくりに取り組むひとと企業──IBM|SHIFT JAPAN
あたらしい時代づくりに取り組むひとと企業──IBM
次世代電力網のプラットフォームを担う企業へ(1)
電力を効率よく使うスマーターシティ。近未来の都市のありうべき姿といわれているが、しかし早くも現実化しているとか。クラウド技術などをとおしてスマーターシティ実現に寄与しているIT企業、IBMの現地法人、日本アイ・ビー・エムでスマートエネルギーソリューションを担当する川合秀之部長にインタビュー。
文=小川フミオ写真(ポートレイト)=JAMANDFIX
日本人のエネルギー観が変わった
──エネルギーについて、日本人の考え方が大きく変わったというが。
かつて個人と企業の、多くのエネルギー消費者は、必要なエネルギーは手に入る、再生可能エネルギーはCSR(企業社会貢献活動)の一部、エネルギー消費量の見える化をしても効果はない、インセンティブがないなら節電しない、などと考えていたのではないでしょうか。しかし震災と原子力発電所の事故による電力供給への不安を背景に、いまその姿勢が大きく変わってきています。
──具体的に言うとどうなるのか。
エネルギー供給会社は、駅やテレビなど公共の場所でエネルギー供給状況を提示するようになり、エネルギー消費者はたとえば明るいうちはオフィスの電気を消したり、エネルギー消費量の見える化の重要性を認識したりと、インセンティブがなくても節電に積極的になってきています。
──エネルギー消費への考え方が変わった結果、どのような社会が考えられるか。
これまでは主にエネルギー供給側ががんばってきましたが、生活者の意識が変化した結果、生活者が積極的に参加するプロジェクトが世界各地で生まれています。そのうちのひとつがスマートグリッドです。宅内機器を外部と接続し、情報のやりとりをすることで、電力消費の抑制や家電の利用時間をずらしたりするという、受給間の協調です。ウェブで家庭や地域全体での電力消費量を確認できるために必要なのが電子制御された配電盤、いわゆるスマートメーターです。電力消費量に応じて電気料金を細かく調整する「ダイナミックプライシング」も、スマートメーターの設置を前提とした課金システムです。
IBMはなにをやっているか
──世の中の流れはどのようにスマートグリッドを備えたスマーターシティへと向かうのか。
日本の経産省は、スマートメーターの全戸展開の最終目標を2020年代に設定しています。海外では、それより早い動きを見せているところがいくつもあります。イタリア、米国、ドイツではスマートメーターが設置されている都市があります。またドイツや中国では、太陽光パネルによる発電が、通常の電気代と同等かそれ以下になる「グリッドパリティ」、いわゆる電気代の逆転現象も、2015年には見られるようになるのではと言われています。
──そこにあって、IBMはなにをしているのか。
世界全体では150カ所以上でスマートグリッドのプロジェクトを支援しています。内容は個々のケースで異なりますが、多くの場合、スマートグリッド化のための情報のやりとりのプラットフォームづくりです。エネルギー供給側と消費者の2つの情報を統合して、最適な電力供給量や料金体系を策定する。そのための情報分析・活用の支援です。
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次世代電力網のプラットフォームを担う企業へ(2)
北九州市での実証実験にも参加
──それには何が必要なのか。
住宅やオフィスをスマート化するにあたって、スマートメーターとは別に、電力消費をモニターしながら消費量を適宜調整するホームゲートウェイと呼ばれるコンピューターと供給側とをつなぐことが必要となります。地域の電力消費量が多いときは、不要不急の家電への電力供給をカットするなど、家庭の電力消費をコントロールすることができます。そのさいに、供給側と消費者の情報を管理してセキュリティや認証などをおこなう第三者と、データを仲介するサーバーが必要になります。IBMは「サービスデリバリプラットフォーム」として、その開発や実証をおこなってきています。
──日本でもやっているのか?
日本IBMは、北九州市八幡東区で2010年から5年間にわたって展開される九州スマートコミュニティ創造事業という実証実験において、サービスデリバリプラットフォームのサービス提供をおこなっています。くわえて、家庭や企業で自家発電した電力を蓄えるための蓄電池利用を前提とした管理サービス環境の構築もしています。
なぜいまやらなくてはいけないのか。
──これからの社会にあってエネルギービジネスの動向はどのようになるか。
IBMの調査では、エネルギー業界に影響を与える要因は2つ。ひとつは技術進展で、もうひとつは消費者の自主性です。2017年をめどに、あらたな技術がエネルギー会社と消費者の双方に利用され、多種多様なエネルギー利用ニーズに対応するためのあらたな商品やサービスが開発されるでしょう。
──そのなかには、あたらしく参入する企業もふくまれるか。
従来はエネルギー業界に直接かかわりをもっていなかったひと/企業が、エネルギー会社と消費者とのあいだに入ってくることも考えられます。スマートグリッドにおけるクラウド化とサービスプロバイダーもそのひとつです。売電もおこなうであろう消費者もふくめて、それらをエネルギーバリューチェーンと呼んでいます。従来はなかったものです。
──通信技術も重要な役割を果たすのでは?
携帯電話でアプリ(ケーション)が大事なように、電力消費の見える化が進んだスマートハウスにとっては、さきに述べたように、電力の供給状況や価格情報を提供したり、その情報に基づいて使用料を調整したりしてくれるサービスプロバイダーが必要です。その情報管理を誰がおこなうか。大きなビジネスチャンスだと思います。海外にいても、日本の電力状況がリアルタイムで把握できるわけですから、海外企業が参入することだってありうるわけです。
──自然エネルギーの将来性は?
太陽光パネルの大規模な設置について言われていますが、大事なことは、エネルギーを賢く使うためのスマートハウスやスマートグリッドが実現したらいいな、と消費者に期待感やわくわく感をもっていただくことだと思います。そのためには、消費者の皆さんに実証実験の成果や将来像を伝えていくことにくわえ、その期待に応えられるようなサービスと、それを支える社会インフラや制度の整備がとても重要です。
川井秀之|KAWAI Hideyuki
日本アイ・ビー・エム クラウド&スマーター・シティ事業 社会インフラ事業開発 スマートエネルギーソリューション部長。企業間取引(EDI)システム開発やB2B、ECなど電子商取引のソリューション開発のリーダーを経て、2005年より電力ガスIUNソリューション・リーダー、2009年より未来価値創造事業にて新エネルギーもふくめたエネルギー・ソリューションを担当。