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2024年12月6日
フラワーアーティスト・東 信がグレンモーレンジィと造り上げた「森羅万象」を描くウイスキーを試す
GLENMORANGIE|グレンモーレンジィ
2021年9月、グレンモーレンジィがフラワーアーティスト東 信(あずま まこと)さんとのコラボレーションでリリースした「グレンモーレンジィ18年 LIMITED EDITION BY AZUMA MAKOTO」。しかしそれは始まりに過ぎなかった。2024年9月に登場した「グレンモーレンジィ23年by Azuma Makoto」は単なるコラボレーション第2弾ではないという。東 信さんが”本当のコラボレーション”と表現する意味とは? そしてその味わいとは? 東 信さんと飲んで確かめた。
Text by SUZUKI Fumihiko
ふたりのアーティストの合作
花のブーケを期待しながらテイスティンググラスの蓋をあけたら、落ち葉を踏んで秋の森の中を歩いているような感覚になった。近くに海があるのだろうか。少し肌寒い潮風がすーっと吹いてきている。驚いた。これは新しいグレンモーレンジィだ! ビル・ラムズデン博士、またスゴいことをやったな? と次の一口……ああ、なんと上質な液体か。そんなことをしていたら、このウイスキー「グレンモーレンジィ23年by Azuma Makoto」の希望小売価格が200,200円(税込)ということを聞いて、もっと大事に飲むべきだっただろうか? と自問する。
「僕もおいそれと飲めないですね」
東 信さんはそう言って微笑む。
お話をうかがうと、東さんは、単にこのウイスキーのパッケージやビジュアルに関わっただけではない。このウイスキーそのものがグレンモーレンジィ蒸留所の最高蒸留・製造責任者ビル・ラムズデン博士と東 信さんの合作だったのだ。
「ビル博士は、本当に……アーティスト? そう、アーティストですね。 仲良くしていただいていますし、すごく尊敬しているんですよ」
イギリスでも日本でも一緒に楽しく飲みに行った、という話をしてから東さんはそう言った。
アーティストとアーティストの合作によって生まれたウイスキー。つまり、これは芸術作品だ。
奇妙な共同作業
ふたりの馴れ初めは2021年に発売された「グレンモーレンジィ18年 LIMITED EDITION BY AZUMA MAKOTO」。
「ビル博士がもともとグレンモーレンジィの生まれる土地、自然をとても尊重する方だということ、そして、ウイスキーのイメージを堅苦しいものじゃなくしてもっと間口を広げたい、ということで僕に白羽の矢が立った。それがきっかけです。でもそのときは、コロナ真っ最中でしたから、リモートでお話するのが中心でしたし、ウイスキーもグレンモーレンジィのラインナップにすでに存在する「グレンモーレンジィ18年」を僕がどう解釈するか、という話でした」
この時のコラボレーションは、東さんが「グレンモーレンジィ 18年」をイメージした作品を作り、それがラベルやパッケージのイメージに反映される、というものだった。そして、その作品は評判がとても良いものだった、と東さんは振り返る。これをビル・ラムズデン博士が大いに気に入ったことで、二人の交流は本格的に始まり、東さんが実際にスコットランドでビル・ラムズデン博士に会うと
「ウイスキーの造り手のイメージを覆されました」
それが、冒頭のエピソードにつながる。その気持ちはよく分かる。ビル・ラムズデン博士はバイオケミストリーの博士でありかつウイスキーの造り手という、付き合いづらそうな肩書を持ちながら、平素は非常にユーモラスでおちゃめなおじさんなのだ。
それを東さんは
「大御所だし、硬い人だとおもっていたんです。でも、自由な人だった」
と表現する。ふたりでウイスキーを造ってみようというのはビル・ラムズデン博士からのオファーだったそうだ。実験・挑戦が大好きな博士だから、おそらく最初からそのつもりで東さんに再度のコンタクトをとったのだろう。
「ビル博士は、ウイスキーってカッコつけて飲むだけじゃなくて、ワイワイガヤガヤした中でじゃんじゃん飲むのもあり。伝統は大事にしているし厳しい人だけれど、それだけじゃない。大胆で、常識にとらわれないものづくりの姿勢が、純粋に、アーティストだと感じて尊敬しました。それからは僕が蒸留所にあるビル博士のラボみたいな部屋を訪れたり、ウイスキーを送ってもらったりといったやりとりをしながら、一緒に造っていったんです」
造ったというのは、フラワーアートではなくて、ウイスキーの方。その造り方は独特で
「最初はビル博士が紫の花とかイメージをぽんと投げるところからスタートするんです。なんだかよくわからないんですよ。僕はグレンモーレンジィなんだからオレンジじゃないの? とかおもって。それで試してみて、僕がこれだったら風が欲しいとか言うと、風ねわかったって、どの樽にどんなウイスキーが入っていて、どうすればいいかわかっているんでしょうね。ブレンドを変えて、だんだん落とし込んでいったんです」
森羅万象のグレンモーレンジィ
「グレンモーレンジィってオレンジもそうですけれど、フローラルな香りが口の中で踊るような印象だったんです。実際、前回はそういうイメージを表現していました。でも今回、ベースを23年にすることにして、花のイメージからもっと外側に広げていって、土の香り、苔、木の皮、キノコ、蜂の巣……と自然全体を表現するように発展させていったんです」
それは、ビル・ラムズデン博士とともに、グレンモーレンジィ蒸留所の周囲に広がる豊かな自然を体験したことも影響しているようだが
「とはいえ、スコットランドであるとか、特定の土地を表現するという意図はあえてないんです。そういうアカデミックなアプローチはやめよう、という話になって。第1弾みたいに世界中の花っていうイメージは残しています」
コンセプトは「森羅万象」。東さんはこのウイスキーをイメージした全高150cmほどのフラワーアートを作り、それはパッケージアートなどに反映されている。また、ボトルの台座や筒状のパッケージの天板が木製なのは東さんのアイデアだそうだ。
「だから今回は、本当のコラボレーションなんです」
時間の芸術
2024年7月、ロンドン「サーチ・ギャラリー」でグローバルローンチを飾った「グレンモーレンジィ23年by Azuma Makoto」。このとき、東さんはオリジナルを超える全高3 mほどの作品を制作した。
「時間の芸術だなっておもったんです。僕の作品は、準備期間を別とすれば、長くても10日程度のいのちです。でもウイスキーは10年、20年、あるいはもっと。それが一緒になっているんです」
この話をそれ以上東さんが深く語ることはなかったけれど、一般的に時間の芸術という言葉を、ウイスキーについて使うならば、それは熟成年月であり、熟成年月が長いほどより高級なウイスキーである、という意味がほとんどだろう。それは、時間が芸術家となって、ウイスキーに価値を与えるとも言えるとおもう。しかし東さんの言い方は違う。
作品を生み出した人間がいた場所、そのときの息づかい、動き、考え。二度と起こり得ぬことを作品に刻む。今回であれば、東さんとビル・ラムズデン博士との共同制作の時間もまた、芸術なのではないだろうか。
再び造られることはないであろう、あるいは3回目があればまた、違ったものを生み出すであろう、ふたりのアーティストによる合作「グレンモーレンジィ23年by Azuma Makoto」の販売本数はかなり少ないようだ。
グレンモーレンジィ23年by Azuma Makoto
容量|700ml
アルコール度数|46度(ノンチルフィルタード)
熟成樽|バーボン樽8年、白ワイン樽(ブルゴーニュ・ムルソー地区シャルドネ)15年
希望小売価格|20万200円
容量|700ml
アルコール度数|46度(ノンチルフィルタード)
熟成樽|バーボン樽8年、白ワイン樽(ブルゴーニュ・ムルソー地区シャルドネ)15年
希望小売価格|20万200円
問い合わせ先
MHD モエヘネシーディアジオ モエヘネシーマーケティング部
Tel.03-5217-9777
https://www.moet.com/ja-jp/contact-us
フラワーアーティスト。2002年にオートクチュールのフラワーショップを立ち上げ、フラワーアートを開始。植物彫刻の世界を探求し世界中から注目を集める。ニューヨークでの個展を皮切りに、パリやデュッセルドルフで作品を発表し、2009年には実験的なクリエイティブ集団「東信, 花樹研究所(AMKK)」を立ち上げ、世界的に活動を展開。フラワーアートを海底1,000メートル以上に沈めたり、成層圏に打ち上げるなど、自然界では不可能な場所に花を活けるプロジェクトも行っている