連載・TOKYO PREMIUM BAKERIES|第19回 マールツァイト
LOUNGE / EAT
2015年4月16日

連載・TOKYO PREMIUM BAKERIES|第19回 マールツァイト

第19回 MAHL ZEIT|マールツァイト

100%自家培養 「ミルク酵母のパン」 を掲げる、小さな名店

東京でほんとうに「上質でおいしいパン」を提供しているパン屋さんを紹介する連載第19回は、文京区茗荷谷の『マールツァイト』。こちらのパンはすべて、農薬がかけられていない野草を食べて育った健康な牛のミルクでつくった、100パーセント自家培養の「ミルク酵母」で焼かれています。

取材・文=戸川フユキ写真=高田みづほ

大きく丸くまとめたら、あとは「ミルク酵母」の力にまかせる

お茶の水女子大学のキャンパスのほど近く、春日通りから斜めに分かれた道を下ると左手に赤いテントの『マールツァイト』が見えてくる。店頭には「ミルク酵母のパン」ののぼりが揺れ、手描きのポスターなどもにぎやかに貼られている。いったいどんな方がパンを焼いているのかと、恐る恐るドアを開けると、オーナーの白井幸子さんのとびきりの笑顔に迎えられた。

白井さんは以前からパン教室で教えていたが、パンと酵母の研究会で「ミルク酵母」と出合い、その酵母で焼いたパンのおいしさに驚き、すっかり魅了されてしまったのだそうだ。「このミルク酵母に出合ったことが、パン屋を開く大きなきっかけになりました。家族やまわりのひとに、少しでもからだによいものを食べてもらって健康になってほしいんです。せっかくよいものに出合ったんですから、それを広めなくっちゃ」と白井さん。その後、研究に研究を重ね2000年に『マールツァイト』をオープンした。

マールツァイト|茗荷谷|ミルク酵母 02

マールツァイト|茗荷谷|ミルク酵母 03

白井さんのパンは、一にも二にも東毛酪農の「みんなの牛乳」がないとはじまらない。この牛乳は、「本物の安心な牛乳を子どもたちに飲ませたい」という母親たちの消費者グループと、組合、生産者が共同でつくった、「搾りたての生乳にもっとも近い味」といわれる。自然の野草を食べて育った健康な牛のミルクを使い、低温殺菌・ノンホモジライズド(乳中の脂肪球を均一化せずに自然に近い状態を保つ)製法でつくられるこだわりの牛乳は、濃厚な飲み口でもあと味はすっきり、殺菌臭もなく、なんといっても牛乳本来の自然な甘みがある。

その「みんなの牛乳」から自家培養する「ミルク酵母」と国産小麦、南アルプス山系の白州の天然水、ミネラルがたっぷりの内モンゴル産の塩と、できるかぎりからだによい材料を使い、油脂をなるべく入れず、また添加物はいっさい使わずに焼かれるのが、『マールツァイト』のパンだ。

マールツァイト|茗荷谷|ミルク酵母 05

マールツァイト|茗荷谷|ミルク酵母 07

トップ写真は看板商品の「ライ麦のカンパーニュ」。ライ麦20パーセントで酸味はほとんどなく、噛めば噛むほど「ミルク酵母」の風味とライ麦の香ばしさが口中に広がる。薄切りにして、ハムやチーズを載せていただきたい。また「戸隠」は、国産小麦に長野の「とのしろ豊穣館」のそば粉20パーセントと、オーガニックのくるみを使って焼き上げる。ビタミンやミネラルのほかルチンも豊富で、じつはヤギのチーズと相性がよいそうだ。

店内ではパンのほかにも自家製のタルト類や、牛乳、塩、砂糖、はちみつなどオーガニックの食材、また「フランスチーズ鑑評騎士」でもある白井さんお薦めのナチュラルチーズも販売している。

お店では、白井さんもスタッフも毎日酵母に「どうぞよろしく」と挨拶をしてから仕事をはじめるそうだ。「気持ちよく仕事したほうが、パンもよりおいしくなると思うんです」と白井さん。店の奥できびきびと働くスタッフの表情も、明るく真剣そのものだ。

『マールツァイト』のパンは、「ミルク酵母」の味わい深さもさることながら、パンそのものからとても真摯な印象を受ける。「自由と自然とひとのためになること」──白井さんの掲げるモットーのとおり「よいことをしよう」というパッションが、パンにも宿っているようだ。

マールツァイト|茗荷谷|ミルク酵母 10

MAHL ZEIT
『マールツァイト』

東京都文京区大塚3-15-7
Tel. 03-5976-9886
営業時間|11:00~19:00
日曜・祝日休
東京メトロ丸ノ内線、茗荷谷駅下車徒歩10分
http://www.mahlzeit.jp/

           
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