とっておきのお店リストに加えたくなる「鮨 まつもと」|EAT
EAT|もう一度訪れたいと記憶に残る一軒
とっておきのお店リストに加えたくなる「鮨 まつもと」
美味しいと思える店は、日本中にひしめいている。では、その中のある1軒が、あなたにとって“特別な存在”となる理由は何だろう。筆者にとっては、またぜひ訪れたい、と感じさせてくれる店だ。実は、美味しい店は数々あれど、あのメニューをもう一度食べに行きたいと思える店は、意外と少ない。「鮨 まつもと」は、まさにそんな店の1軒だ。
Photographs by NAKAGAWA TsukasaText by MAKIGUCHI June
つまみで遊び、にぎりは伝統的に
寿司職人の松本瑞穂が店主となり、赤坂駅、赤坂見附駅にほど近い一等地にオープンしたのが2017年6月のこと。
以来、国内外の食通たちを虜にしている。
美しい無垢ヒノキのカウンターでいただけるのは、季節の素材と店主の創意工夫が存分に生かされたさしみやおつまみ、にぎり、お椀、デザートで構成されるコース(2万3000円~。季節の素材によって変動)。
おまかせコース1種のみというところに、店主の自信のほどがうかがえる。
例えば、3月のある日のメニューはこうだ。
胃袋をスープで温めた後は、広島県福山産の5㎝ほどの小魚ねぶとの揚げ物、やわらかな蒸し鮑、旬のさしみ、うにをイカで巻いた一品、一度ほぐした毛ガニの身を味噌と合わせて殻に詰めなおしたボリューミーな一皿、外はカリカリ中とろ~りを実現したボイルしたホタルイカを素揚げ、甘いたれで味わうふんわりとした白魚、クリームチーズと酒盗を混ぜたソースでいただくキスのフライ、のれそれ(アナゴの稚魚)。
一皿ごとに、調理法、味つけ、食感、温度などが多彩に異なるバリエーションに富んだおつまみが次々に繰り出されるのだ。意外な組み合わせながらも絶妙に調和し合う素材が生む美味に、新鮮な驚きを覚えつつ、日本で魚介を味わう口福を大いに感じることだろう。
それに続くのは、素材の味を最大限に生かした伝統的なにぎりだ。
「つまみで遊び、にぎりは伝統のスタイルを心がけています」と店主。とはいえ、にぎりにも松本氏の独創性が光る。違なる産地から良い素材が集まれば“食べ比べ”にしてみたり、素材を引き立てるため味付けにひねりを加えてみたり。
この店を象徴する味のひとつといえば「大トロのにぎり」だ。筋の部分のみに秘伝の塩を擦り込んだ逸品だ。シルキーなテクスチャーのマグロと、ざっくりとした感触の塩が織りなす絶妙なハーモニーを口の中で感じるのは至福のひと時。
トロの脂が持つ甘味と塩味が口の中でとろけ合い、互いに引き立て合うことで豊かな余韻をいつまでも残してくれる。
EAT|もう一度訪れたいと記憶に残る一軒
とっておきのお店リストに加えたくなる「鮨 まつもと」(2)
飽きさせず鮨屋らしい醍醐味を
店主・松本の遊び心やアイデアは、寿司職人としての豊かな経験と、飽くなき探求心に由来している。
銀座九兵衛で10年間修業した後、韓国へ渡り自らの店をオープン。日本の食文化を外から見るという経験からも、独自の創造性を育んできたのだろう。
今も様々なジャンルの料理を食べ歩き、個人的好奇心を満たしながら新メニューの発想を得るという。常に新しいものを求める気持ちは今もとどまるところを知らない。
それは、海外からの客や常連などに配慮して、飽きさせず、常に驚きを提供し、鮨屋らしい醍醐味を体験してもらいたいという気持ちゆえだという。
一度でも「鮨 まつもと」の暖簾をくぐれば、そんな店主の心意気が料理の隅々までいきわたっていることがわかるだろう。もちろん、美味しい魚介に合わせる酒も用意されている。
店主のおすすめは、広島生まれの日本酒「夜の帝王」。名前から受ける印象に反して、飲み口が優しく、さしみやつまみなどと一緒にスターターとしてもぴったり。冷でもお燗でも味わいが深い特別純米酒だ。
カウンター8席という空間も、そのプライベート感が心地良い。4名で使える個室も一室あるので、ビジネスディナーにもぴったりだ。
昼は、にぎりのみの1コース(1万円~/要予約)が楽しめる。まずは、伝統的な寿司からこの店を知るというのもおすすめだ。
大人なら誰でも持っている、とっておきのお店のリスト。そこに、新たに加えたくなる1軒だ。