BOOK|エネルギーシフトに向けて『節電・省エネの知恵123』
3・11後の暮らしを考える
エネルギーシフトに向けて『節電・省エネの知恵123』(1)
東日本大震災を契機に、エネルギーについての関心が高まっています。石油や石炭のほとんどを輸入に頼り、地震多発地帯に数多くの原子力発電所をかかえる日本。豊かさも、危うさの上に成り立ってきたのです。無駄なく、そして効率よくエネルギーを使っていく術を知ることは現代人の知恵ともいえます。本書では、節電、省エネしながらも快適に豊かに暮らすための術、そして自然の力を暮らしのなかで使っていく方法を豊富に紹介しています。
文=箕輪弥生
「節電所」になろう
私たちが暮らしのなかでできる節電、省エネは大きな発電所を建てるのと同様の大きな効果があります。節電が叫ばれていたこの7月、実際東京電力管内では平日は昨年と比べて2~3割、もっとも多い日には4割以上の節電の成果をあげています。これは、100万キロワット規模の原発15~25基分に相当するほどです。
いまだ終息しない福島第一原発の事故は、私たちが普段使っているエネルギーについて考えなおす機会をあたえてくれたように思います。本当に必要なものは何なのか、そして持続可能な暮らしをするにはどうすればいいのか。エネルギーを使うことが豊かさにつながるわけではないことを、私たちはあらためて知ることになったように思うのです。
そのような状況のなかで、本書は、快適さ、豊かさを失わずに節電、省エネできるコツを豊富に紹介しています。
液晶テレビは画面の明るさを調整するだけで半分の消費電力に、パソコンはスリープで中断、エアコンの効率をあげるすだれやサンシェードの利用、待機電力が最大の給湯器のオフなど、ここを抑えるとさらに効率よく電力を使える、無駄を抑えるといったポイントを簡潔に豊富な写真やイラストとともに紹介しています。
この本の編集者は、本で紹介している方法を試してみたところ、昨年同時期と比べて電気代が半分になったそうです。コツを覚えることで、誰もが大きく消費電力を減らす「節電所」になることが可能なのです。
3・11後の暮らしを考える
エネルギーシフトに向けて『節電・省エネの知恵123』(2)
自然の力を活用した暮らしへ
この本の特徴はもうひとつ。節電だけでなく、自然素材や自然エネルギーを上手に使う方法を豊富に紹介していることがあります。これには著者自身の実際の経験がもとになっているものも数多くあります。
たとえば、太陽熱を夏は給湯に、冬は暖房に使います。壁には調湿効果のある珪藻土を塗り、エコプラントをリビングに置いて空気清浄機能をもたせます。雨水を打ち水に使い、屋上は緑化して暑さを防ぎ、夏は窓に「緑のカーテン」を這わせます。
このようにやってみると、自然の力を使うことは、とても理にかなった節電や省エネ法だということがわかります。そしてそれらは、「我慢する節電」とちがって楽しいのです。
これを体験すると、海外から膨大な化石燃料を輸入して発電したり、危険と隣り合わせの原子力発電を推進していくことが、とても不自然なことだと感じられてきます。
身近な生活から自然エネルギーへシフトしていくことが、3・11後の暮らしを考えるうえでも、重要なのではないかと思うのです。
3・11後の暮らしを考える
エネルギーシフトに向けて『節電・省エネの知恵123』(3)
エネルギーについて考えよう
123の節電・省エネの知恵にくわえて、本書ではエネルギー事情についても考察をくわえています。日本がどのようなエネルギー政策を選んでいくか、世界も固唾をのんで見守っています。そのことを解決する鍵はやはり他国の事例にあるように思います。
1970年代のオイルショックのときに日本よりもさらに低いエネルギー自給率だったデンマークは、住宅の断熱機能の向上、省エネ技術の導入だけでなく、風力発電やバイオマスなどを中心とした自然エネルギーへシフトをおこない、いまでは他国にエネルギーを提供するほど。ドイツも経済の繁栄と自然エネルギーへのシフトの両方を実現しつつあります。
また、欧州に比べて遅れている日本の電力の仕組みや、スマートグリッドや蓄電技術など今後の日本のエネルギー政策を考えるうえで重要と思わることも簡潔にわかりやすく解説しています。
本書の印税の1パーセントは山口県 祝島の自然エネルギープロジェクトに寄付されます。
この本が読んだ方にとって使える、効果の出る「節電、省エネのハンドブック」となるとともに、日本のエネルギー事情が少しでもよい方向に向かうための一助になればと思います。