谷川じゅんじ|新連載 第1回「Power People by Leslie Kee」
LOUNGE / ART
2015年3月2日

谷川じゅんじ|新連載 第1回「Power People by Leslie Kee」

第1回「Power People by Leslie Kee」

急ぎ足の雑踏。イエローキャブの重なるクラクション。吹き上げる蒸気。ファッション、カルチャー、エンタテインメント。時代の発信地としていまなお多くの人びとを魅了して止まない街、ニューヨーク。そんな街のポテンシャルを生み出し時代をつくりつづけている人がいる。“Power People”――フォトグラファー、レスリー・キーは彼らをこう呼び、彼らを被写体として作品に刻み込んだ。その作品を一同に集めはじめて展示する写真展が、去る2月16日から27日まで西武渋谷店で開催された。その空間構成を通じて感じたいまの気分をここに記そうとおもう。

Text by TANIGAWA JunjiPhotographs by JAMANDFIX

レスリーとの初仕事は2006年。表参道ヒルズで開催された『Super Stars』という写真展だった。“ASIA IS ONE(アジアはひとつ)”というサブテーマを掲げたこの写真展はスマトラ沖地震のチャリティーとして制作された写真集の出版記念展覧会で、僕は空間をデザインした。はじめて会った時の会話をいまでもよく覚えてる。「会いたかった~、やっと会えたね」。なんだかずっと前から知っていたかようなデジャヴな感覚。妙な心地よさにあの人懐っこい笑顔と熱いマシンガントークが重なり、気づけば怒濤の勢いで写真展はカタチになった。

そして2012年、かかってきたある日の電話。「Hi, スペースコンポーザー、元気?」相手はレスリーだった。「西武渋谷で写真展をやる。その写真集をいまつくってる。会場のデザインしてくれないか」。たぶんそんな会話だったように記憶している。西武とレスリーとニューヨーク。その写真集をつくるという。その写真を飾りたいのだと。レスリー・キー写真展、『POWER PEOPLE @ New York』と題されたこのイベントは西武渋谷店全館で開催されるという。被写体はニューヨークで活躍する各界のプロフェッショナルたち。

そのジャンルは幅広くスタイリスト、カメラマン、モデル、ダンサー、シンガー、デザイナーからブロガー、パティシエまで総勢15組。普段であれば決して表舞台に立つことのない人びとを被写体とした写真群。最先端で走りつづける彼らのポジティブなエネルギーとレスリーの感性が響き合うコラボレーションをどのように空間化するか。そんな気持ちではじめてスチールをレスリーから見せられた第一印象は意外にも「この人は誰?」だった。そう、僕はその被写体のほとんどの人が誰なのか分からなかったのだ。そんな僕にレスリーはひとりひとりのプロフィールを説明してくれた。どれほどすばらしい仕事をし、人として魅力ある人物なのかを熱心に話してくれた。彼らとの撮影がどれほど充実し豊かなコラボレーションであったかを、人間味溢れる視点でたっぷりと教えてくれたのである。

レスリーらしいシンプルな言葉で紡がれる愛すべき人たちの内面。静と動のコントラストで写し出した作品。いままでにないカタチで空間化したいという彼のリクエストに、今回降りてきたアイデアは“体感する展覧会”だった。見るだけでなく聴いたり撮られたりする参加型写真展。写真集の世界に入り込んだような没入感。百貨店の空間がまるで真空管アンプのようにエネルギーを増幅していく感じ。ウィンドウから始まり会場へ向かう店内動線のあちらこちらに、見え隠れするPower Peopleたち。モノクロームのスチールとPOPなアメリカンコミックのようなコントラストで彩られたコミュニケーショングラフィック。まるで80年代のPop Artのようなグラフィックワールドはグラフィックデザイナーの千原徹也君が実現してくれた。

Visual Direction YU MARUNO (GLMV)
Sound Direction TAKEO YATABE (HiGH CONCEPT)

展示会場の空間デザインテーマは“Photo Studio(写真スタジオ)”。ことさらシンプルに、普段の撮影機材を展示資材として使用。無駄なつくり物をいっさい排除し、人物だけが浮かび上がる空間にしたかった。レスリーが撮影しているスタジオに紛れ込んだような感じ。ヘンゼルとグレーテルの森を彷徨い、パン屑を確かめながらレスリーの記憶のかけらをたどり見つかるお菓子の家。そんな気分がつぎからつぎへと湧いてくる。音はレスリーの撮影スタジオで音声収録、それをサンプリングして会場に流そう。撮影スタジオに立ち会った経験のある人はわかるであろう、カメラマンの後ろからホリゾント前に立つモデルたちの表情を覗き、妄想のファインダーで自分もシャッターを切る、あの感じ。会場全体をレスリーの撮影風景そのものに近づけたい。徐々に空間構成がカタチになっていった。

谷川じゅんじ|Power People by Leslie Kee 05

最後にくわえたのはレスリー自身。iPadでレスリーのインタビュー映像を流した。15組の被写体に15台のiPad。15組ひとりひとりに捧げるレスリーの愛。真剣なまなざしで2時間の間ひとときも休まずレスリーは話しつづけた。土曜午後のオフィスで撮影したこの映像はとても暖かく新鮮で、時間を切り取った写真と云う物質に命を吹き込んでくれた。こんな風に西武渋谷の空間は生まれ人びとを迎え入れたのである。

訪れる来場者にも参加してもらいたい。そんな想いから会場にコーナーをつくった。『Power People Studio @西武渋谷』。誰もが今回のフォトセッションに参加できる、この写真展に参加したことを記憶として刻み込めるプログラムをつくってみた。フェイスブックと連動したPhotoジェネレーター、まさに“大人のプリクラ”ともいえるこのプログラムの開発はチームラボ。会場で撮った写真は直後にアップロード、フェイスブックのレスリーファンページにアルバム化されるという企画。“あなたもPower Peopleになろう”というメッセージとともに、瞬時にみんなの笑顔が世界を席巻するのだ。傍観者から当事者へ。ソーシャルの時代は従来の垣根を取り払い、訪れる誰もを自由でオープンな世界へ誘ってくれた。

当初は戸惑いがちな来場者のポーズも数日後にはすっかりさま変わり。日に日に洗練されるみんなのポーズ。写真のクオリティがどんどんあがっていく様子は、みんな繋がっているのだ、という事実をリアルにみせてくれた。レスリーというカメラマンの“写真を撮る”という実にシンプルな行為の向こう側に生まれる、人びとの気持ちの変化と環。この変化こそが明日という日を前向きに迎えられるきっかけなのだと今回のプロジェクトは教えてくれた気がしてる。

           
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